第66話「最後の決戦中編」
「まずはスピアーか。相性はこちらが有利だな」
「えーっと、あれはフォレトスだっけ? 珍しいポケモンだからよくわからないぞ」
ダルマの先発はお馴染みスピアー、サトウキビの1番手は殻のようなものを装備したポケモン、フォレトスである。ダルマは早速図鑑を開いた。フォレトスはクヌギダマの進化形で、非常に高い物理耐久を持つ。タイプや特性も中々優秀で、主に場を整えるために使われる。
ダルマは深呼吸をすると、スピアーに指示を出した。
「まずはこちらから、おいかぜ!」
「フォレトス、ステルスロックだ」
スピアーは手慣れた手つきで踊った。ラジオ塔の上空で、にわかに風が吹き始める。一方フォレトスは尖った岩を数個、スピアーの近くに飛ばした。岩は空中に浮遊し、スピアーの飛行を妨げる。
「い、岩が浮いてる。暗いのもあるけど、見にくいな」
「……さてさて、次はどうする。まさか、風吹かしただけじゃねえよな?」
「勿論。スピアー、とんぼがえり!」
スピアーはフォレトスに接近し、右腕の針で突ついた。それと同時にダルマの元に逃げ帰る。
「とんぼがえりたあ良い技持ってやがる。フォレトス、重力を強くしろ」
サトウキビが手を上げた。フォレトスは軽くジャンプして床を叩く。すると、明らかにおかしなことが起こった。ダルマはスピアーの代わりのポケモンのボールを投げたのだが、そのボールの軌道が下に押し曲げられたのだ。おかげでロコンはダルマの付近から飛び出した。なお、ロコンにはステルスロックが刺さってダメージを受けている。ダルマ自身も体を支えられず、地べたを這いながら叫ぶ。
「うぐぐ、一体何が起こってるんだ!」
「……これこそ昔俺が流行らせ、そして今では俺しか使えない戦術、重力パーティだ。トレーナーすら巻き込む重力で技の命中を上げ、飛ぶ者すら逃がさない。これが何を意味するかわかれば大したものだが」
「は、はあ。いまいちぴんとこないな。まあいいか、ロコン、これを使え!」
重力が強まったにもかかわらず平然としているサトウキビに驚きながら、ダルマは赤い石をロコンに投げつけた。石がロコンに当たると、急にロコンの体が光に包まれる。しばらくして光が収まると、そこには9本の尻尾を持つポケモンがいた。サトウキビはこれに対し、淡々と分析を進める。
「このタイミングで進化か。この天気、さてはひでりキュウコンだな。そんなポケモンまで用意してたとは、心意気が伝わってくるぜ」
「当然ですよ。キュウコン、だいもんじ!」
ダルマはひざまずきながら威勢を上げた。それに応えるかの如くキュウコンは辺りを晴れさせ、大の字の炎を撃った。重力下ではサトウキビのポケモンとて動きが鈍る。フォレトスは直撃を食らい、黒焦げになってしまった。サトウキビは顔色1つ変えずにフォレトスをボールに戻す。
「ふっ、やってくれる。この間までただの原石だと思ったが」
「頑丈はとんぼがえりで無効化し、だいもんじの命中は重力で補う。俺も成長したということですよ」
「そのようだな。まあ、それでも俺の足元にも及ばないだろうが。さあ行くぜスターミー、久々に本気で戦えるぞ」
サトウキビは笑いながら2匹目のポケモンを繰り出した。出てきたのは、2つの星を重ねたようなポケモンである。後ろの星は回転し、前の星にあるコアが点滅している。
「スターミーか、かなり速いポケモンだよな」
ダルマは図鑑を眺めた。スターミーはヒトデマンの進化形で、水タイプでは最も速い。その技と能力の都合上、何年経っても昔の型が通用する。それゆえ生きた化石と言われることも。勿論、耐久型やサポートもこなせる。いれば頼れるポケモンであることは確かだ。
「スターミーとはいえ、おいかぜが吹いてる今ならどうってことはないさ。キュウコン、ソーラービーム!」
「んなもの効くか、ハイドロポンプだ」
キュウコンは周りの光を集め、スターミーに発射した。それに差し違える形でスターミーも大量の水を噴射する。ハイドロポンプは天気の影響か、やや効き目が悪い。お互いまともに当たり、肩で息をしている。ここで、スターミーは懐からオボンの実を取り出して食べた。
そんな中、ダルマに吹いていたおいかぜがそよ風になり、やがて無風状態になった。ダルマの額からは冷や冷や汗が流れてくる。
「やば、おいかぜが……」
「どうやら、手品のネタが切れたみたいだな。重力はまだ強い、雷でとどめだ」
おいかぜがなくなったことで素早さが逆転、スターミーが先手を取った。スターミーは雲もないのに雷を降らした。晴れているとはいえ、重力下なら高い命中である。キュウコンは避けきれず帯電し、そのまま力尽きた。
「キュウコン!」
「……おいかぜは止み、ひでり持ちのポケモンもやられた。これで天気を変えられたらどうなることやら」
「ま、まさか!」
「さあ、どうだかな。それより早く次のポケモンを出せ」
「む、むう。カモネギ、仕留めるぞ!」
ダルマは顔を強ばらせながら3匹目のポケモンを投入した。現れたカモネギは岩が食い込むのもお構い無く、茎を軽く研いだ。ダルマはスターミーを指差し、腹から声を出す。
「フェイント攻撃!」
「やれやれ、随分安直な動きだ。戻れスターミー、逃がすなソーナンス」
サトウキビは呆れた様子でスターミーを回収、後続を送り出した。そのポケモンは黒い尻尾を隠すのに必死である。カモネギのフェイントはこのポケモンの頭をはたく程度で終わった。
「ソーナンス……げぇっ、しまった!」
ダルマの顔色がモスグリーンになった。彼は恐る恐る図鑑に目を通す。ソーナンスはソーナノの進化形で、かなり特殊な戦い方を強いられる。特性の影踏みは相手のポケモン交換ができないという極悪性能で、苦手な相手に繰り出し強引に倒すことができる。その他、サポートとしても非常に優秀である。
「どうした、攻撃しないのか?」
「く、くそー。こうなりゃ自棄だ、アクロバット!」
サトウキビの挑発に、ダルマは渋々乗った。カモネギは回転しながらソーナンスに迫る。サトウキビは余裕綽々な表情でソーナンスに声をかけた。
「来たぜソーナンス、カウンターだ」
カモネギは回転の力を利用して軽やかに茎で叩いた。ソーナンスは攻撃を受けてから頭を後ろに反らし、反動でカモネギを弾いた。カモネギは重力を無視して吹き飛ばされ、ダルマの目の前で倒れた。ダルマは眉をへの字に曲げてカモネギをボールに収める。ちょうどこの時、重力が弱まりダルマは立ち上がった。
「うう、やはり駄目だったか」
「……そうなんだよ、俺に勝てる奴なんざこのジョウトにはいない。何故なら俺は……いや、これは言わないでおこう。さっさと次のポケモンを見せてくれよ」
「な、なんだ、あの含みのある一言は。……考えても仕方ない、今は勝利にのみ集中だ。いくぞ、こいつが俺のエースだ!」
ダルマはサトウキビの発言に首をかしげながら、4匹目のポケモンに次を託すのであった。最後の決戦はまだまだ終わらない。
・次回予告
サトウキビが操る重力パーティの前に、ダルマは劣勢に立たされる。このピンチを救ったのはやはりあのポケモンであった。そして、決着は如何に。次回、第67話「最後の決戦後編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.47
サトウキビさんのイラストを描いてみたのですが、現在ツイッターのアイコンに使用しています。興味のある方は見ておくと良いかも。
ダメージ計算はレベル50、6V、フォレトス腕白HP防御振り、スピアー陽気攻撃素早振り、キュウコン臆病特攻素早振り、スターミー臆病特攻素早振り、カモネギ陽気攻撃素早振り、ソーナンス穏やか特防素早振り。キュウコンの大文字でフォレトス確定1発。頑丈もとんぼ返りで潰せます。キュウコンのソーラービームをスターミーは乱数で耐え、スターミーの晴れハイドロポンプをキュウコンはステルスロック込みで確定で耐えます。このターンで追い風が切れ、スターミーの雷でキュウコン瀕死。カモネギのフェイントとアクロバットをソーナンスは余裕で耐え、返しのカウンターで一撃。
あつあ通信vol.47、編者あつあつおでん