第60話「雪辱の戦い前編」
「お、ようやく見えてきた。ラジオ塔にコガネ城だ」
ダルマは前方にある建物を見上げた。何重もの白壁に囲まれた敷地にあるのは、権力を象徴する天守閣とラジオ塔である。ラジオ塔からはいまだ怪電波が垂れ流しにされている。
「そういや、発電所は止めたのに何故ラジオ塔は動いてるんだ? 自家発電でもしているのかな」
ダルマが疑問に思いながら歩いていると、突如彼の目の前に1本の骨が飛んできた。ダルマはすんでのところで回避したが、骨はUターンしていった。ダルマは辺りに呼びかける。
「だ、誰だ!」
「……俺だ」
「あ、お前はカラシじゃないか!」
ダルマの前に現れた人物、それはカラシとガラガラであった。ダルマには聞きたいことが色々あるようだが、まず1つ尋ねた。
「今までどこに行ってたんだ? 迷子になるようには見えないし、かといって1人で行動するほど無鉄砲でもない。何があったんだ?」
「……これまでの状況から考えても思いつかないとは、やはり凡人か。俺はがらん堂に雇われた身、お前達の動向を探っていた。仕事が済んだから雇い主の元に帰還しただけ、どこかおかしいところがあるか?」
「……な、な、な、なんだってええええ! お前は金を稼ぐためにセキエイに仕官したんじゃなかったのか!」
衝撃的なカミングアウトに、ダルマは思わず後ずさりした。一方カラシは、そうしたダルマをあざ笑うように話を続ける。
「ああ、あれか。つくづく馬鹿な奴め。考えてもみろ、ワタルという男が俺に提示した報酬は何だ?」
「報酬? 確か、俺達と同じでポケモンリーグの出場権だったよな。それがどうしたんだ」
「……ポケモンリーグの出場権。魅力的な条件であることに変わりはない。しかし、それが直接金になるわけではないのもまた事実。金を求めていた俺がそんなもので動くのは、端から眺めれば不自然極まりない。つまり、俺の行動は根本的に矛盾していたのだ! それに気付けなかったお前達の、なんと浅はかなことよ。ははははは」
カラシは、腹を押さえながら笑った。幸い、周囲に民家はないので市民が様子を伺うことはない。彼の発言を受け、ダルマは冷や汗を流しながらも首をかしげた。
「そ、そこまで堂々と自分の矛盾を主張するとは……。ん、待てよ。お前は以前ロケット団でも仕事してたじゃないか。そんなトレーナーをがらん堂は雇ったのか?」
「ふん、ようやくましな思考になってきたな。それについては心配いらない、ロケット団はがらん堂の下部組織だからな」
「え、ロケット団ががらん堂の一部だって!」
2度目の重大発言に、ダルマはのけぞり、そのままブリッジして1回転した。カラシは眉1つ微動だにせず説明をする。
「そうさ。がらん堂の弟子達がロケット団として悪事を働くふりをし、それをがらん堂が成敗する。がらん堂が高い支持率を誇った理由はこれだ。ロケット団がコガネを占領したというのも、がらん堂によるジョウト征服をスムーズに進めるための狂言だったのさ」
「……するとあれか、俺達はコガネに来た時から完全に利用されていたのか?」
「なんだ、今更理解したか。ま、わかったところで邪魔はさせねえけどな。今回の仕事は、コガネ市街に潜伏する反逆者を捕らえること。悪いが連行させてもらうぜ」
カラシは1歩前進した。彼の左手には手錠がぶら下がっている。ダルマは腰のボールに手をつけた。
「そ、そうはいくか。お前を倒してがらん堂を止めてみせる!」
「はっ、あくまで抵抗するか。……俺とお前は2回戦い、どちらも1勝1敗。あの時の雪辱、今果たすのも一興だ。相手してやろう」
カラシもボールを手に取った。2人はしばし睨み合うと、ほぼ同時に最初のポケモンを繰り出すのであった。
・次回予告
ダルマとカラシ、因縁の対決は熾烈なものであった。カラシの動きにかき回され、ダルマは中々得意のパターンに持ち込めない。果たしてダルマは彼に勝てるのか。次回、第61話「雪辱の戦い中編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.41
遂に60話到達。毎日投稿していたらこんなに早く進むのか……。
そういえば、この間文章の診断サイトで自分の作品をチェックしてみました。そしたら、概して硬い文章と言われました。接続詞の多用や体言止めをほとんど使わないこともよくわかりました。文体が似ているのは浅田次郎だそうです。まあ、わかりやすければそれに越したことはありませんけどね。
あつあ通信vol.41、編者あつあつおでん