第6話「初の捕獲」
「おーいダルマ、待ってくれ〜」
ここは30番道路。ヨシノシティから北に伸びるこの道では、トレーナー達が互いに切磋琢磨し、野生のポケモンがあちこちで見られる。もう昼なのか、太陽も高く登っている。
そんな場所で、ダルマはただひたすらに草むらを掻き分けていた。目は少し血走り、手には切り傷がある。彼はゴロウの呼び掛けにもほとんど反応が無い。
「こんなことになるなら、あんなこと言わなければ良かったよ」
ゴロウは愚痴をこぼすと、ダルマの方へ走っていった。
時は数時間前、朝のポケモンセンターである。カラシに完敗して一夜、ダルマは腕を組んでなにやら考え事をしていた。
「なあ、俺はなぜあんなにてひどくやられたんだ?」
「え!うーん、そうだなあ」
ゴロウの目が泳いでいるのも気付かずにダルマは思索にふけっている。彼はベンチに座っているのだが、足を開き、両肘を膝に乗せ、手を絡ませ、前のめりにな状態だ。
「それにしても、あのパワーは凄かったな。ポケモンも見た目によらないんだな」
ゴロウがこう讃えると、ダルマは拳に力を入れた。
「で、結局俺には何が足りないんだ?」
「足りないものねえ……うーん、ポケモンの数じゃないか?1匹じゃ相手が強い時に不利だしなあ」
ゴロウは明後日の方向を見ながら呟いた。その姿はいかにもおどおどしい。
「なるほど、確かにそうだ!もっと数がいれば必ず勝てるな」
ダルマはゴロウの言葉を注意深く聞くと、こう言いだした。
「そうと決まれば、早速ポケモンを捕まえに行くぞ!」
「お、おい、準備がまだ……行っちまったよ」
ダルマは既に準備していた自分の荷物を背負ってポケモンセンターを出ていった。ゴロウはそんなダルマにため息をすると、自分の準備を始めたのであった。
「しかしまあ、今日は怪しいほど野生ポケモンがいないな」
炎天下の中、ゴロウはあきれたようにつぶやいた。彼が言う通り、水の中はともかく、地上にはポケモン1匹いない。ただ、鳴き声だけは振動が伝わってくるくらい聞こえてくる。
「はあはあ……どこにもいないな。今日は厄日か?何も出てこないぞ」
息を切らしながら草むらを進んでいたダルマであったが、近くにあった若木にもたれかかった。彼の額の汗が露のように頬を伝わり、その頬にそよ風が当たっている。木漏れ日は決して弱々しいものではなく、木陰を突き刺す。また一部に変わった形の影ができている。
「ふう……ゴロウが来るまで待つか」
ダルマは小さく見えるゴロウを見ながらリュックから水を取り出して飲もうとした。その時、どこかから声が響いた。
「ダルマー!上、上!」
叫んでいるのはゴロウだ。息を切らせ足元がふらつきながらも、ダルマの頭上を指差した。
「何だ?上を指差してるぞ。一体何が……あ」
ゴロウの指差す方向に目をやったダルマは、途中で言葉が止まった。彼の目線の先には、巨大な数珠が連なったようなポケモンがいた。ポケモンは木の枝にしがみつきながらダルマを見ている。まるで木に擬態しているようだ。
「このポケモンは、確かビードルだったかな?何にしても、ようやくポケモンを見つけたぞ!」
ダルマは腰からモンスターボールを取ると、枝にしがみつくポケモン、ビードルに向けて放り投げた。
「行け、ワニノコ!」
モンスターボールから出てきたワニノコは、枝につかまってビードルをにらみつけた。ビードルも負けずに頭のトゲをワニノコに向ける。
「ワニノコ、枝を揺らすんだ!」
ダルマの指示のもと、ワニノコは体重を使って枝を揺らした。枝はムチのようにしなり、木の葉がひらひらと舞い落ちる。だが、ビードルはこの程度ではまるで落ちなかった。
「くそぅ、これじゃ駄目か。なら水鉄砲だ!」
ワニノコは揺らすのをやめ、枝の動きが止まったところで水鉄砲を撃った。至近距離だったので、弾丸はビードルに直撃した。ビードルは目を白黒させながら、地面に落下した。
「よし今だ!モンスターボール!」
ダルマは勢いよく空のモンスターボールを投げつけた。ビードルは紅白の弧を避けることもできず、ボールの中に吸い込まれた。1、2、3、とボールが揺れる。ダルマが固唾を飲んで見守る中、ボールの揺れは止まった。
「よし、ビードルゲットだ!」
初のポケモンゲットに、ダルマは喜び勇んだ。顔に滴る汗が輝いている。
「お!ゲットできたみたいだな」
「ああ、これで奴にも勝てるぞ」
ここで遅れてきたゴロウが合流した。祝福の言葉をかけたが、ダルマの反応に言葉が詰まった。
「じ、じゃあそろそろ行こうぜ。次の街にはポケモンジムもあるしな」
「そうだな。よし、行こう!」
ダルマはワニノコをボールに戻すと、鼻歌混じりに歩きだすのであった。