第58話「避けられぬ戦い前編」
「……ようやく見つけたよ、ユミちゃん」
「パウル様」
ユミとパウルは、コガネ港にて対峙していた。打ちつける波の音だけが響く、静かな時間である。
「しかし、なんとも惜しいね。才能ある美人を葬るのはさ」
「か、からかわないでください。私もパウルさんとは戦いたくなかったです」
「そう言ってもらえるだけでもありがたいね。……さて、最後にもう1度確認しておこう。がらん堂に来ないか? 君のように真面目で観察力のある人は大歓迎さ」
「……申し訳ありませんが、それはできません」
ユミは軽く頭を下げた。それを受けてパウルは首を捻る。
「どうして? 君にとって良い環境は揃ってるんだよ。ただ各地を回るだけじゃ得られないものが、がらん堂にはあるんだ」
「確かにそうかもしれません。ですが、私は他人に迷惑をかける人間になるつもりはありません。私はあなた方とではなく、旅で知り合った方々と道を共にします」
ユミの声は凛としており、力強さがあった。これを聞いたパウルは、右手にボールを持った。彼の瞳には炎が宿り、臨戦態勢と表現して差し支えない。
「……そうかい。ならばもう何も聞くまい。もったいないけどここで捕まってもらうよ。エテボース!」
「そうはいきません、ベイリーフ!」
パウルはボールを投げた。すかさずユミも繰り出す。ユミの先発はベイリーフ、パウルの1匹目は2本の尻尾を持つポケモンだ。
「あのポケモンは……」
ユミは図鑑を開いた。エテボースはエイパムの進化形であり、高い素早さと攻撃を持つ。特性のテクニシャンにより様々な技で大ダメージを与えてくる。特にねこだましは、ポケモンによっては体力の半分以上持っていかれることもある。
「まずは手堅くねこだましといこうか」
先手はエテボースだ。エテボースはベイリーフに接近して1回拍手をした。そしてベイリーフが怯んだ隙に尻尾で叩きつけた。怯んだおかげでベイリーフは技を使えなかった。
「ベイリーフ、しっかりしてください!」
「さらにそこからとっておきでとどめだ」
エテボースの攻撃はこれだけでは止まらない。エテボースは両手首を合わせ、手のひらからエネルギーを放った。この攻撃を直撃で受けたベイリーフは、なんとバトル開始から1分も経たずにやられてしまった。
「ベイリーフ!」
「ふふっ、どうだい、先生とまともに勝負できる俺の腕は。もう命乞いしても助けてあげないからね」
「命乞いなんかしません! ヌオー、出番です!」
ユミはベイリーフをボールに戻すと、次のポケモンを投入した。ずんぐりした体形のヌオーの登場である。パウルは冷静に指示を出した。
「今度はヌオーか。エテボース、とっておきだ」
「カウンター!」
エテボースは再度手のひらからエネルギーを放出した。これに対し、ヌオーは腕で払いのけ、反射した。エネルギーはエテボースの顔面に衝突し、エテボースは伸びてしまった。パウルは思わず身構える。
「おっと、こりゃびっくり。良い技覚えてるね。じゃあ俺の次のポケモンはこいつだ、ウソッキー!」
パウルはエテボースを回収すると、2番手のポケモンを送り出した。胴は樹木のようだが、腕は緑色をしている。
「あれはもしかして……」
ユミは図鑑に目を通す。ウソッキーはウソハチの進化形で、見た目に反して岩タイプである。無駄のない能力を備え技も優秀なので、活躍が期待できる。ただし遅いのでその点は注意する必要がある。
「なるほど、素早さは低いのですね。では先制しますよ。ヌオー、じし……」
「遅い、ウッドハンマーだ!」
驚くべきことに、ウソッキーはヌオーの倍近いスピードで走った。そしてヌオーが技を使う前にタックルをかました。ウッドハンマーは草タイプの攻撃技、ヌオーには効果抜群である。たまらずヌオーは地に伏せるのであった。
「ヌオー!」
「ははっ、戦況は俺に有利か。どこまで戦えるかな? ユミちゃん」
「……まだまだ私とポケモンは戦えます! いきますよ、ガバイト!」
・次回予告
余裕綽々で戦うパウルに対し、苦戦を強いられるユミ。彼女にチャンスはいつ来るのだろうか。次回、第59話「避けられぬ戦い後編」。ユミの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.39
今更ですが、パウルの名前は海外でよくある名前が由来です。パウロというのがあまりにもメジャーなのでパウルにしたのですが、こちらも使う人が割に多いだと……。
ダメージ計算はレベル50、6V、ベイリーフ穏やかHP特防振り、エテボース陽気攻撃素早振り、ヌオー意地っ張りHP攻撃振り、ウソッキー陽気攻撃素早振り。エテボースのテクニシャンねこだましととっておきでベイリーフを確定で倒します。ヌオーのカウンターでエテボースは軽く一撃。ウソッキーのウッドハンマーでヌオーはどうあがいても一撃。
あつあ通信vol.39、編者あつあつおでん