第56話「3度目の正直前編」
「……そろそろ姿を現したらどうだ、サバカン」
35番道路へとつながる門の近くに、ワタルはいた。既に地上に降り、カイリューはボールの中だ。南に雨雲が発生して大雨が降っているものの、それ以外は全くの静寂である。その中で、ワタルはあの男を呼んだ。すると、物陰から当人が姿を見せた。
「……やはり気付いておったか」
「当たり前だよ、これでもチャンピオンだからね」
「残念ながら、その肩書きも今宵で外れるべし。明朝には『反逆者』として処刑されよう」
「ははは、そりゃ傑作だ。けど、僕だってそう簡単には捕まらないよ。ギャラドス!」
「ふん、もとより承知しておる。ハッサム、仕事だ」
ワタルとサバカン、3度目の戦いの火蓋が切って落とされた。ワタルの先鋒はギャラドス、サバカンの初手はハッサムだ。ハッサムは相変わらずこだわりハチマキを装備している。ギャラドスはまずハッサムを威嚇した。
「手始めに竜の舞いだ」
「ならばこちらはとんぼがえり」
ギャラドスは、ただ跳ねているとしか思えない舞いを披露した。一方ハッサムはギャラドスの懐にジャブを入れ、すぐさまサバカンの元に引く。そして、次のポケモンと交代した。出てきたのは、額と尻尾の先にある赤い玉が印象的なポケモンである。また、首には紐を通した木の実がぶらさがっている。
「デンリュウか。しかしそれだけでは対策にならないよ。地震だ!」
「……甘い」
ギャラドスは地面を叩きつけ、大地を揺らした。デンリュウは地に伏せる。ところが、デンリュウの首にある木の実が光り、地震が急に弱まった。ワタルはこのカラクリにすぐピンときた。
「な、まさかあれはシュカの実!」
「10万ボルトだ」
デンリュウは立ち上がるとギャラドスに電気の束を放った。ギャラドスは水、飛行タイプ。通常の4倍ものダメージを耐えられるはずもなく、あっけなく丸焼きになってしまった。
「ぎゃ、ギャラドス!」
「……哀れなり、チャンピオンよ。命に関わる勝負に道具すら使わないとは。平和ボケもここまでくれば、ある意味幸せなのかもしれんな」
サバカンは、ワタルがギャラドスを回収するのを鼻で笑った。ワタルは拳を握り締めながら2匹目のボールを掴む。
「くっ、ならばプテラだ!」
ワタルから飛び立った2個目のボール、そこから2番手は登場した。そのポケモンは宙を舞っており、手と翼が1つになっている。いわゆる古代のポケモン、プテラだ。これにサバカンは身構えた。
「……敢えて飛行タイプを出すのはいと怪し。戻れデンリュウ、出でよハッサム」
「地震攻撃!」
サバカンは冷静にデンリュウを戻し、再びハッサムを繰り出した。プテラは地震を発生させたが、ハッサムには大したダメージになっていない様子である。ワタルは攻め手を緩めることなく指示を出す。
「まだまだ、ストーン……」
「バレットパンチ!」
プテラが動きだすよりも先に、ハッサムが急加速した。あまりの勢いに残像ができたほどである。ハッサムは飛んでいるプテラの真下に移動すると、自慢のハサミをプテラの腹部にねじりこんだ。プテラは一瞬にして気絶し、ハッサムのハサミにかぶさった。ハッサムはそれを軽々と投げ捨てる。
「プテラ!」
「……まさかこの程度とはな。1度とはいえ、このような者に遅れをとった自分が情けない」
「ぐ、ぐう。何も言い返せない……」
ワタルは歯ぎしりをして肩を震わせた。サバカンは自信に満ちた声でワタルにこう言い放った。
「さて、チャンピオンよ。某は手持ちが3匹しかいない。対する貴殿は5匹のようだ。こちらはいくらかダメージを負ったが、ようやく公平になった。ここからが本当の勝負、せいぜいあがくことだ」
「……言われなくても、必ず君に勝つ! チャンピオンの底力、目に焼き付けろ!」
ワタルは瞳に炎を宿し、3匹目のポケモンを場に送り出すのであった。
・次回予告
華麗な立ち回りの前に、能力で勝るはずのワタルは大苦戦。このまま押し切られるのか、それともチャンピオンの意地を見せられるのか。次回、第57話「3度目の正直後編」。ワタルの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.37
結構バトルシーンを考えるのって難しいんですよ。誰がどんなポケモンを使うかもそうです。パーティバランスを考慮してみると同じタイプばかり入れられないのですが、結果としてあるタイプが足りないという事態になるのです。
今回のダメージ計算は、ギャラドス陽気攻撃素早振り、デンリュウひかえめHP特攻振り@シュカ、ハッサム意地っ張りHP攻撃振り@拘り鉢巻、プテラ陽気攻撃素早振り、レベル50、6V。竜舞ギャラドスの地震をシュカ込みで余裕で耐えたデンリュウは返しの10万でギャラドス即死。プテラの地震を軽く流したハッサムのバレットパンチでプテラは即死。ワタル交代しろよ……2度バトルしてるからいくらか読めるはずでしょ。
あつあ通信vol.37、編者あつあつおでん