大長編ポケットモンスター「逆転編」

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大長編ポケットモンスター「逆転編」
第50話「名誉の帰還」
「……というわけです」

「なんと、では俺達6人でコガネに乗り込むのか」

「むう、こんな時に警察の応援を呼べれば……」

「ワタルさん、さすがにそれは無謀すぎる。僕達8人の時でもほうほうの体だったんだよ?」

 ポケモンセンターに戻ったダルマ達は、ドーゲン、ハンサム、ボルトに事情を説明していた。初めこそ機嫌の良かったドーゲン達だが、話を聞くと言葉に詰まってしまった。

「確かに、今のままではかなり厳しいでしょう。ですからコガネへの進路と作戦を変更します」

 ワタルはポケットから地図を取り出し、テーブルの上に広げた。ジョウト地方全体の地図である。

「本来、僕達はキキョウから36番道路と35番道路を経由してコガネに突入する予定でした。しかし戦力の欠如が明確な今、こうした真面目からの戦いを挑むのは得策ではありません」

「では、どのように進むつもりだ?」

 ドーゲンの問いに、ワタルは地図のある地点を指差して答えた。そこは、キキョウとコガネの間にある場所だ。

「キキョウの隣にあるアルフの遺跡の西側は、人が入りこまない森林地帯です。普段は道路があるので通ることはまずありませんが、現在は非常事態。ここから直接コガネに侵入します」

「ほう、そりゃまたワイルドだな。では作戦はどうする?」

「もちろん作戦は集団戦法です。数人で1人を囲い込み、反撃を受けないうちに倒します。いくら個々が優秀とはいえ、人数で勝れば恐るるに足りません」

 ワタルは胸を叩いた。いまだ各々の表情から晴れ間は見えないが、少しは落ち着いたようだ。

「……そうだ、たまには情報収集しないと。セキエイ出発してもう10日くらい経つ、何か変化があったかも」

 ふと、ダルマはポケギアのラジオの電源を入れた。図鑑を兼ねる紐で綴じた昔の本のようなポケギアも、大分しっくりしてきた。やがて、スピーカーから音声が流れてくる。

「……皆さん、がらん堂から本日のお知らせです。この時間はパウルがお送りします。まず、凶悪犯罪者を擁する暴徒が各地で暴れています。集団はフスベとキキョウを襲撃し、現在占領中。フスベの発電所が止められ、大規模な停電が発生しております。ろうそくを灯りに使う場合は火事に注意しましょう」

「……どうやら、相当悪く言われてるみたいだね。今に始まったことじゃないけどさ」

 ボルトは笑いながら手元に置いてある飴を舐めた。ラジオ放送はまだまだ続く。

「では、続いてのニュースです。皆さんに朗報です。私達のサトウキビ先生が、本日夕方帰還しました! 間もなく会見が開かれる模様です」

 ニュースを読み上げるパウルの言葉に、一同は凍り付いた。ダルマは少し飛び上がり、ユミはお茶で舌を火傷。ワタルはむせこみ、ボルトは冷や汗を滴らせ、ハンサムは声にならない叫びを放つ。ただ1人、ドーゲンだけは事の次第を把握しきれないのか、皆の顔を見回している。

「それでは皆さんお待たせしました。サトウキビ先生の会見です」

 パウルの一言の後、何かが切り替わる音がした。6人は耳を傾けて、一字一句洩らすまいとしている。

「……親愛なるコガネの諸君。いや、今ではジョウトの諸君と言った方が良いな。俺はサトウキビ本人だ。濡れ衣を着せられ、海に沈められるという屈辱を受けたが、今こうして諸君に話しかけることができている。それもこれも、諸君が俺の帰還を信じて待っていてくれたからだ。まずはそのことに深く感謝する」

 サトウキビの声が聞こえてきた。最後に話したのはもう2週間以上も前になるから、懐かしささえ感じられる。ラジオの向こうからは歓声とスタンディングオベーションの嵐が巻き起こる。サトウキビはそれらが静まるのを待ち、また口を開いた。

「……それから、がらん堂の弟子達。コガネにまたしても現れたロケット団を成敗し、市民の平和を守った。それだけでなく、動揺の走る他の町を指導し、正しい方向に導いている。彼らには最大級の敬意を払いたい」

「良く言うよ、洗脳電波で無理やり従わせてるってのにさ」

 ボルトは口の中の飴を噛み砕き、まとめて飲み込んだ。

「……だが。このジョウト地方にはいまだ、平和を乱す悪の枢軸がいるそうだな。報告によれば、俺に濡れ衣を着せた奴らやポケモンリーグ、一般人を寄せ集めただけの暴漢に過ぎないらしいが、現にフスベシティとキキョウシティを占拠しているそうじゃねえか。それにより、なんの罪もない市民の生活に大きな支障が出ている。電気は止まり、物流量は減少。占領地域では暴行まで行われる始末。実に嘆かわしい事態だ。……多くを与えられる者は多くを求められる。我々は今まで、実に多くのものを与えられてきた。ならば今こそ、多くを求められる時なのだっ!」

 サトウキビの怒号と共に、机を叩く音もやってくる。いよいよボルテージも最高潮に迫ってきた。

「悪の枢軸は、我々の手で倒さねばならない! 賢く気高きジョウト地方の諸君よ、立ち上がるのだ! 今虐げられている友の犠牲を無駄にしないためにも、我々はあらゆる手段をもってして奴らに対抗する! なに、恐れることはない。抵抗の方法などいくらでもある。奴らと商売をしない、嘘の情報を教える、奴らの現在地をがらん堂に伝える……戦わなくても良い。自らにできる形で奴らに一矢報いるのだ。たとえ1人の力は微弱でも、ジョウト地方の全ての市民が力を合わせれば、未来を変えることなど造作もない。未来を変えるのは明日、明日を変えるのは今日。明日を変えるためにも、今日から変わるのだ。戦え、市民よ!」

「……ここまで、サトウキビ先生の会見の冒頭でした。それではここで……」

 パウルが全て言い切らないうちに、ダルマはラジオのスイッチを切った。皆一様に黙りこくっているが、ワタルは弱々しく呟いた。

「……なんてことだ。あんなに早く帰ってくるとは」

「ワタル様、おじさまのことをご存知なのですか?」

「う、うん。以前からその存在は掴んでいたけど、四天王以上の力を持つともっぱらの評判だったようだ。僕がすぐにがらん堂退治を決断したのも彼が行方知らずだったからで、まさかこうもすぐに現れるとは……正直、思いもしなかった」

 ワタルはうつむきながら返答した。彼の顔色は徐々にモスグリーンに染まっていく。それを阻止せんとばかりに、ダルマが発言をした。

「な、なら一刻も早くサトウキビさんに匹敵する力を身につけましょう!」

「……また特訓かい? 駄目だ、彼がいたら交換システムがなくても3日ともたない。かといって今更撤退するわけには……」

「なら1日で十分です」

「な、なんだって?」

 ダルマの予想外の言葉に、ワタルは拍子抜けした。思わず顔から暗さが逃げていく。

「ここで逃げたら、がらん堂に勢いがつきます。今でさえ苦戦するのに流れを持っていかれたら、勝利は絶望的でしょう。それどころかセキエイ高原にまで攻め込まれて、誰も抵抗できなくなるかもしれない。それなら、今あがけるだけあがくしかないじゃないですか。」

「ダルマ君……」

「まだ時間はあります。進路は森を進む。直接対決は避けられます。だから1日だけ、最後の訓練をしましょう!」

「……君を見てると、古い友人を思い出すよ。常に全力で挑むその姿、そっくりだ」

 ワタルの顔から自然と笑みがこぼれた。肩の力が抜けたのか、呼吸も穏やかである。彼は全員に向けてこう指示を下すのであった。

「皆さん、明日は1日ポケモンを鍛える日とします。移動はしません。がらん堂との勝負は近いです、各人最大限の力を出せるように準備してください。では本日はこれにて任務完了、ゆっくり寝てください!」



・次回予告

コガネシティへの決戦に向け、ジョバンニとカラシの穴を埋めようと懸命に訓練しようとするダルマ。そんな彼に、あるトレーナーが勝負をしかけてきた。次回、第51話「ライバルバトル」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.31

遂にこの連載も50話に到達しました。ここまで来れたのもひとえに読者の感想やコメントのおかげです。
さて、このシリーズの終わりはまだまだ先になると思いますが、がらん堂の話は80話までには完了すると想定しています。チャットで60話くらいで終わるとか言いましたが、無理でした。自分でもどこまで長引くかは未知数です。ストーリーは決まってるんですけどね。


あつあ通信vol.31、編者あつあつおでん



あつあつおでん ( 2011/11/04(金) 10:57 )