第48話「キキョウシティ解放作戦後編」
「な、なにいぃぃぃぃぃ!」
ダルマの悲鳴とほぼ同じタイミングで、トゲチックは指を振った。すると指先から極寒の冷気が放たれた。狙いは滅茶苦茶だが、攻撃した直後のアリゲイツに当てるのは造作もないことだ。アリゲイツは瞬く間に氷漬けとなってしまった。
「あ、アリゲイツ!」
「どうだてめえ、これが神軍師の力よ」
「……どちらかと言うと、『運』師だけどな」
ダルマは毒づきながらアリゲイツをボールに戻した。既に次のポケモン、スピアーのスタンバイは完了している。
「スピアー、いつものあれ、頼むよ」
スピアーは勢いよく飛び立つと、両腕を上げたり踊ったりした。端から見れば滑稽でもあるが、中々馬鹿にできるものではない。その証拠に、窓という窓から照りつける日ざしが入り込み、塔はほのかに明るくなってきた。
「にほんばれだと? んなもん効くかっ。トゲチック、スピアーにしがみつけ!」
「まずい、急いで追い風だ!」
追いかけるトゲチックから逃げながらも、スピアーは唸り声をあげた。それと同時に窓から突風が吹き荒れてきた。しかし、追い風発動時に一瞬止まったのがあだとなり、トゲチックに胸ぐらを掴まれてしまった。スピアーは必死に抵抗するが、予想以上に張り切るトゲチックの力に歯が立たない。
「つのドリルだっ!」
リノムの怒号を受け、トゲチックはスピアーを拘束しながら右手の指を動かした。トゲチックの手元が光ったかと思えば、どこからともなく高速回転するドリルが出現。そのままスピアーの胸部をえぐった。たまらずスピアーは気絶して床に落下した。
「スピアー! くそっ、なんなんだよこのトゲチックは!」
「おい見たかてめえ、これが神軍師の引きなんだぜ。トゲチックの『ゆびをふる』で狙った技を使えるってのは、実に便利なもんだ。あらゆる技に最高の頭脳が加わればどうなるか? 考えるまでもねえ、完全勝利を達成できるのだっ!」
「……ふーん。じゃあいきなりだけど、その完全勝利とやらを潰させてもらうよ」
ダルマはボールからヒマナッツを出した。フスベジム戦同様、こだわり眼鏡を装着している。また、日に当たって焦げている。
「ヒマナッツ、もっとすごい一発を見せてくれ!」
ダルマはポケットから太陽の形をした石を取り出し、ヒマナッツの額に乗せた。石を当てられたヒマナッツは、目をくらますほど全身が光に包まれた。形も変わり、光が収まる頃には別のポケモンとなっていた。葉っぱの手足が生え、何枚もの花びらを持つ頭。口元の笑みと奇抜な眼鏡は強烈な印象を与えることうけあいだ。
「キマワリに……進化だ。これで勝ちを手繰り寄せてみせる」
「あぁん、何言ってんだこいつは。できるもんならやってみな!」
「……言ったな? その油断、命取りだぞ。キマワリ、ソーラービームだ」
ダルマは胸を張って指示した。キマワリは窓際の日光の当たる位置に移動すると、トゲチック目がけてソーラービームを発射した。ヒマナッツの時でさえ数々のポケモンを丸焼きにしてきた一撃だが、進化して塔全体をカバーできるほどの光線を撃てるようになったみたいだ。トゲチックはおろかリノムをも巻き込んだ光の束は、しばらくしてようやく止まった。トゲチックは炭のように黒くなり、リノムもまた片膝をついた。
「どうだ、草タイプ半減の飛行タイプだって一撃だぜ!」
「う……ばぐってんだろおおおおおおお」
リノムは苦しそうに呼吸をしながらトゲチックをボールに回収した。顔からは脂汗が噴出している。
「くっそー、健康に悪そうなビームなんて撃ちやがって。俺は神軍師なんだぞ!」
「そんなの関係ない。それなら避ければ良かっただけのことだよ」
「ぐぐ……まあいい。次でそのちんけなひまわりを止めてみせるぜ、ドククラゲ!」
リノムは2番手を送り出した。中から現れるのは大量の触手を持ったポケモンだ。ダルマは再び図鑑に目を向ける。ドククラゲはメノクラゲの進化形で、実に80本もの触手がある。防御こそ低いものの、恵まれた技、タイプ、能力を備える。物理、特殊、二刀流、耐久、どれをやらせても結果を残す優秀なポケモンだ。
「うわ、結構特防高いな。けど、立ち止まる余裕なんてない。キマワリ、もう1度ソーラービーム!」
「負けるな、ミラーコートだっ!」
キマワリは今一度、日の光を集めてドククラゲにぶちこんだ。対するドククラゲは体を鏡のようなもので覆い、キマワリの攻撃に真正面から挑んだ。2度目の攻撃はキマワリも自重したのか、幅を狭めてドククラゲに狙いを絞った。代わりにパワーが一ヶ所に集中し、先程を超える火力となった。陽炎を作り出すほどの高温と光ならではの速さ。2つを兼ね備えた一閃を弾くことなど不可能に近く、ドククラゲは何もできずに崩れ落ちた。
「よし、これで2匹!」
「や……ヤバいヤバい。ヤバいを通り越してヤバい」
「さあ、次はどんなポケモンを使いますか? 神軍師リノムさん」
ダルマが勝ち誇った表情でリノムに視線を遣った。リノムは万事休すといった様子で後ずさりを始めた。それをダルマがじわりじわりと追い詰める。
その時、どこかから「めざせポケモンマスター」のメロディが辺りを包んだ。ダルマは静かに耳を傾け、音源のありかに顔を向けた。そこでは、リノムがポケギアを耳に押しつけていた。
「はい、すみませんが今お父さんとお母さんがいないのでわかりません。……え、パウルさんっすか。……はい、はい。つまり、撤退してコガネに戻ると? わかりました、すぐに帰ります」
「あ、あのー。今のはもしかして……」
「おい、電話を盗み聞きすんなよ。それはともかく、俺は今から戦略的撤退をする。決して逃げるんじゃないからな、勘違いすんなよ! それと、俺の情報は漏らすな。ではさいならっ!」
リノムはポケギアを納めると、すたこらさっさと階段を駆け下りた。後に残されたのは、呆れて追うこともできなかったダルマとキマワリだけである。
「なんだか、最後まで忙しいやつだったなあ。……しかし、これで任務完了だ。キマワリ、みんなと合流するぞ!」
ダルマはキマワリをボールに入れると、ポケモンセンターへと急いだ。追い風とにほんばれは落ち着き、塔の内部にはそよ風と柔らかな陽光が流れるのであった。
・次回予告
無事に帰還したダルマは皆と合流し、戦況を報告する。そんな中、見当たらない人物がいる。ダルマ達はその人物を探すのだが……。次回、第49話「失踪」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.29
今日のバトルでヒマナッツが太陽神になりました。もう少し後でも良かったのですが、ドククラゲを一撃で倒すために進化させました。レベル45個体値オールVの場合、攻撃無振りアリゲイツの冷凍パンチと控えめ全振りサンパワーキマワリ@眼鏡のソーラービームで、ずぶといHP防御248特防8振りトゲチックが乱数で落ちます。また、素早全振りキマワリは無振りドククラゲを抜き去り、上記のソーラービームでHP全振りドククラゲを確定1発。ドククラゲはかなり特防が高いのですが、やはり太陽神は格が違った。皆さんも、今日からヒマナッツをお供えして太陽神を使いましょう。
あつあ通信vol.29、編者あつあつおでん