第45話「技の継承」
「よし、少し休憩しようか」
夕日が人々にウインクする頃、ダルマはフスベジム周辺の湖で小休止していた。傍らにはアリゲイツとイーブイ、ヒマナッツにカモネギ、そしてスピアーが肩で息をしている。
「やっぱり走るのは疲れるなあ。けどがらん堂とポケモンリーグが控えてるわけだし、もう少し頑張るか」
「おお、まだトレーニングをしておったか。感心感心」
と、そこにあの朗らかな声が飛び込んできた。ダルマは声の方向に目を遣る。
「……父さん、どうしたの?」
「飯の時間だ。センターに戻るぞ」
「もうそんな時間か。ちょっと待って」
ダルマは自分のポケモンをそれぞれのボールに戻し、そのままポケモンセンター目指して歩きだした。走り終えたばかりである彼の足取りは重い。
「しかし、やりおったなダルマよ。お前は本当に才能があるのかもしれんな」
「どうしたんだよ一体。別に驚くことなんかしてないって」
普段お目にかかることなどまるでないドーゲンの真剣な表情に、ダルマは思わず背筋が伸びた。
「……お前は俺が旅をしていたのは知っておるな?」
「うん。海千山千越えた大冒険だったらしいね」
「そうだ。あの頃は夢中だった。だが、俺の旅はこの町で終わってしまったのだ」
「え、どういうこと?」
ダルマの口から疑問が出てきた。ドーゲンは山々の頂上を眺めながら、一言一言呟く。
「……バッジを7つ集め、遂にたどり着いたフスベジム。俺はジムリーダーと勝負をした。当時のリーダーは初老の爺さんだったが、俺はこてんぱんにやられちまった。すると、それまで持っていた『ポケモンリーグで成り上がる』という野心が吹き飛んじまったのさ。やる気がなくなった若かりし俺は、おとなしくワカバに帰って道具作りを始めたってわけよ」
「……と、父さんも色々あったんだ」
夕焼けを一身に浴び黄昏に染まる父を見て、ダルマは一瞬言葉を失った。ようやく絞りだした台詞を受け、ドーゲンはきっぱりこう言い切った。
「そうだ。今思えば、道具作りを始めたのは自分に言い訳がしたかったからかもしれないがな」
「言い訳?」
「あの時道具があれば勝てたはず。そんな言い訳にすがって道具作りに打ち込んだもんだ。もっとも、現在は道具職人の自分を誇りに思っているのは紛れもない事実よ。トレーナーの明日を左右するものを手掛けるんだ、つまらないはずがねえ」
ドーゲンは、腹の底から笑ってみせた。ダルマもそれにつられる。一息おいて、父は鋭い眼差しで息子を見つめ、あることを尋ねた。
「……ダルマよ。この旅が終わった後に道具作りをやってみる気はないか?」
「え、俺が? うーん、正直まだわかんないよ。他の地方に足を運ぶのか、あるいは旅を止めるのか。そもそもがらん堂との戦いもあるし、今は決められない」
「確かにそうだ。では今晩から少しずつでも教えてやろう、いつでも仕事を始められるようにな。異存はないな?」
「それは構わないけど、どういう風の吹き回しだよ? 家にいた頃は頼んでも教えてくれなかったじゃないか」
ダルマはいぶかしげに質問を返した。ドーゲンは腕組みしながら何度もうなずき、言葉を選ぶように答える。
「うむ。あの頃は無理に教えて嫌気が差してしまうのを警戒していたのだ。それと、中途半端な気持ちでやった挙句飽きられても困るからな。だが、お前はこの旅を経て随分成長したようだ。……子供が独り立ちできるように技術を仕込むのは親の義務だと俺は思っている。だから、旅の間に少しでも鍛えておくとしよう」
「……旅が始まる前はこんなことになるなんて思いもしなかったよ。まあどちらにせよ、がらん堂を倒さないとこれからのことは考えられない。そのための戦力を充実させるためにも、道具の力はあるに越したことはない。今日からよろしく頼むよ、父さん」
「よく言った! さあ、こんな湿気た話は終わりだ。しっかり食べて準備しとけよ!」
そうとだけ言い残すと、父は息子を残して先にポケモンセンターへ走りだした。その後ろ姿を見送りながら、ダルマも家路につくのであった。
「あ、父さん! やれやれ、これじゃあどっちが親かわからないな」
・次回予告
フスベシティを出発してくらやみの洞穴を進むセキエイ陣営。彼らは思いがけないものを発見するのであった。次回、第46話「石の宝庫」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.26
セキエイ陣営は、なぜ人手不足にもかかわらずゴロウの修行を認めたのでしょうか。ストーリー的にはキョウが才能を見出だし、戦力を増やすという観点からワタルもゴーサインを出してますが、作者的な都合もあります。あんまり人数が増えると敵も増やさないといけないし、それぞれをざっくり描くのが難しいと判断したためです。カラシも入ってきましたしね。それでもゴロウは印象に残っている……と信じたいです。皆さんは誰がお気に入りキャラですか?
あつあ通信vol.26、編者あつあつおでん