第4話「地下での戦い」
「あー、この一杯は身に染み渡るな」
ここはジョウト地方ヨシノシティ。一緒に旅をすることになったダルマとゴロウは、トレーナーの憩いの場であるポケモンセンターにいた。もちろんポケモン回復のためだ。ダルマは豊かな水をたたえるヨシノの海を眺めながら水を飲んでいる。その姿はまるで雑巾のようだ。
そんなダルマを拍子抜けしながら見ていたゴロウは、こう指摘した。
「いや、これくらいでくたびれるか?シロガネ山を越えてきたならまだしもさ。あと言葉が少しオヤジっぽいぞ」
「そこまで言うか」
少し小さくなったダルマが小さくつぶやくと、ゴロウは続けた。
「それより、まだ明るいしちょっとぶらぶらしようぜ」
「……先立つものはあるのか?俺は貸さないぞ」
「……さあて、ちょっと地下でトレーニングするか」
ゴロウは肩をすぼめると、地下のエレベータへと消えた。
「やれやれ、世話が焼けるな」
ダルマは一気に水を飲み干すと、モンスターボールを受け取りゴロウの後を追った。
「おいゴロウ、ちょっと待……て?」
妙に磨かれているエスカレータを下った先の光景に、ダルマは思わず息を呑んだ。なぜなら、そこは異常に広かったからである。
「何だこれは、広すぎだろ」
「おーいダルマ、早く来いよ!」
ダルマの視界の右端から、ゴロウが叫んだ。右端といっても、その距離は随分離れている。なぜなら、地下がホエルオー6匹は入るほど広いからだ。
「ここ、広いな」
「そりゃあ、なんたって街中でのバトルは禁止されたからな。こういう場所が必要なんだよ」
ダルマがゆっくり歩きながらボールを手に取った。それに応じてゴロウも準備する。2人の間に熱気が集まってきた。
「準備は良いかゴロウ?」
「いつでも良いぜ!」
2人がボールを手から放り投げようとした、まさにその時、隣のフィールドから何かが壊れる音が聞こえた。骨にヒビが入ったような音である。
「な、なんだ?今の音は」
「隣のフィールドからだけど……あ!」
ダルマとゴロウの視線の先では、バトルが行われていた。もっとも、既に終わっているようだ。フィールドに隕石のクレーターに似たくぼみがある。その近くには、クレーターを作ったと思われるポケモンが1匹いる。頭と手にはよく磨かれた骨を装備している。
「おい、あのポケモンが音の発生源か?」
「多分な。ありゃ相当パワーがあるぞ」
ゴロウとダルマはしばらくそのポケモンを見ていた。というのも、地下は広いので、声がよく聞こえたからだ。骨のポケモンは、その手に持つ太い骨で伸びをしたり、柔軟をしている。
その時、ポケモンの方向から張りのある声が飛んできた。
「おい、俺に何か用か?」
「ダルマ!こいつ、喋るぞ!」
「……トレーナーが喋ったんだろ」
ダルマのごく普通の指摘に、ゴロウからなにやら声が漏れたが、さっきの声にかき消された。
「で、俺に何か用か?」
「いや、そのポケモンの破壊力が凄くて見てたんだよ」
ダルマが声の主――枯れかけた森のような色のズボンに、黒と白の縦じまが入った半袖シャツの少年である――に説明をした。少年はしばらく聞いていると、急にこう切り出した。
「ところで、お前もトレーナーなんだろ?俺と一勝負しようぜ」
「え、悪いけど遠慮しておくよ。俺じゃかないそうもないからさ」
少年の誘いをやんわり断ったダルマに、次の瞬間予想外の言葉がやってきた。
「ふん、断るか。腰抜けめ」
「なん……だと……?」
「そうさ。そんな言い訳が通用すると思う時点で甘ったれだ。まあ、別に構わねえけどな」
少年は直立不動のダルマにこう吐いた。周囲からは音が消え、ダルマは体を小刻みに震わせている。そんなダルマを尻目に、少年は出口へ歩をすすめた。
「じゃあな、腰抜け」
「……待てよ」
「何だ?さっさと言え」
「そこまで言うなら勝負してやるぜ!俺達の強さを見せてやるよ!」
ダルマは腕を回しながら少年を睨み付けた。もちろん、少年には効いてないが。
「ふん、そう来なくてはな。久々に骨のありそうな奴だし、楽しませてもらうぜ」