第34話「自らのために」
「さあ着いたぞ」
果たして何時間飛び続けただろうか。謎の人物に連れられ、人気のない原っぱでポケモンから下ろされた。ダルマ達のすぐそばには巨大なビルがそびえる。
「ここは一体どこなんでしょうか?」
「わからない。けど、どうやら助かったみたいだな」
「ま、あんな怪しげな人物についてきて安全かどうかは微妙なところだろうけどね」
ボルトは笑顔で呟いた。ダルマはそれに感心して尋ねる。
「……ボルトさん、こんな時によく笑えますね」
「でしょ? だってさ、不機嫌な顔したって状況が改善するわけじゃないし、そもそも周りに悪い」
「まあ、確かにそうですね」
「だからいつも意識してるのさ、『ピンチの時ほど笑え』ってね。笑う門には福来たるというやつだよ」
ボルトは声を出して笑った。それにつられてダルマの表情からも笑顔がこぼれる。
「おーい、みんなこの中に入れだとさ」
ここでハンサムは皆に声をかけ、近くの建物を指差した。ダルマ達が振り向くと、既にあの人物が建物内に入ろうとしていた。彼らも急いで後を追った。
「……なるほど、大体わかった。しかし、名乗りもせずに連れてきて申し訳ない。僕はワタル、ポケモンリーグでチャンピオンをやっている」
建物の中にある一角で、一同はテーブルを囲んでこれまでの状況を説明しあった。マントを着用した怪しげな人物は静かに耳を傾ける。
「ちゃ、チャンピオン? じゃあ、ここはもしかして……」
「うん、セキエイ高原にあるポケモンリーグ本部だよ」
ダルマは辺りを見回した。ポケモンセンターはもちろん、フレンドリーショップや通信施設も揃っている。また、壁に「まずは1人倒そう」と書かれたポスターが張り尽くされており、目にした者を萎縮させそうだ。
「でもよ、そんな偉いやつがなんで俺達を助けたんだ?」
「ああ、それは体が勝手に動いただけだよ。困ってる人を助けるのは当然のことじゃないか」
「へえ。ファッションセンスはアレだけど、殊勝な心がけだね」
ボルトはさりげなく毒づいた。男ワタルの額から冷や汗が幾筋も流れる。
「それなら……早いとこ私達の無実を証明してもらえないだろうか。犯罪者扱いじゃ、警察と言っても信用されやしない」
「う、実はそのことなんだけど……多分無理だ」
ワタルは眉間にシワを寄せた。これだけで10歳は老けて見えるのだから驚きである。
「無理とは、何か事情でもあったのでしょうか?」
「うん。君達がさっき話してくれたがらん堂と呼ばれる集団なんだけど、現在ジョウト地方の街々を占領しつつあるようなんだ。『凶悪犯罪者の5人を探す』という名目で、独自に警察業務をやっている。それだけならまだしも、各地の議会や権力の吸収まで図る始末。その勢いはとどまるところを知らず、現在タンバシティとフスベシティを除く全ての街が勢力下に置かれているという状況だよ」
「もうそんなに? でもおかしいですね。俺達がここに来るまで1日経ってないんですよ。どうやったらそんな短期間に支配できるんでしょうか」
「そう、問題はそこなんだよ。報告によれば、彼らはなぜか必ずポケモンセンターから現れ、そこを拠点にする。抵抗しようにも回復施設を取られているわけだから不利になるとのことらしい」
「抵抗する人ってどれくらいいるんだい?」
「……なぜか皆無だそうだ。何か特別な話術を使うわけでもなく、住民を懐柔する光景も見られない。だからこそ怪しいわけだ」
ワタルは腕組みしながら首をかしげた。皆も沈黙する中、この男だけは騒がしかった。
「なあなあ、がらん堂のやつらをなんとかするつもりはないのかよ?」
「もちろん対処するよ、秩序を乱した者を野放しにするわけにはいかないからね。しかし恥ずかしいことに、人数が全然足りないんだ。今のまま勝負に出たら結果は考えるまでもない」
「だったらさ、俺達も参加するぜ!」
「ゴロウ、一体何を言いだすんだ?」
ダルマは寝耳に水といった表情でゴロウの発言に口を挟んだ。
「考えてもみろよダルマ。俺達世間的には犯罪者だぜ? まともに生きてくにはやつらを打倒するしかない。そうだろ?」
「そりゃそうだけどな……」
「それに、俺もボランティアでやるつもりはねえよ」
ゴロウはワタルの目を見ると、こう頼み込んだ。
「それでよ、ちゃんとがらん堂の撃退を手伝ったら、俺達をポケモンリーグに出場できるようにしてほしいんだ」
「ぽ、ポケモンリーグだって?」
「そうだ。こんな騒動があったからにはとてもバッジ集めなんてできるわけないし、できたとしても間に合わないかもしれない。だったら確実な手を打っておこうってわけだ。なあ、頼むよおっさん!」
「こら、おっさんはやめてくれよ。しかし、人手不足は切実だし……まあ、もう1人認めちゃったしな。うん、わかった」
そう言って、ワタルは1枚の紙を取り出し何やら走り書きをした。彼はそれを5人に見せた。
「なになに、『がらん堂鎮圧に貢献した以下の者を、ポケモンリーグへ推薦する』か。中々気前が良いね。僕は現金のほうがありがたいけど、工場の宣伝にもなるし……ま、いっか」
ボルトは手渡されたペンで署名をした。残りの4人もこれに同調する。
「うむう、私はそこまでバトルは得意ではないのだが……もらえるものはきっちりもらっておこう。警察という身分で大会に参加なんてほとんどできないしな」
「私がポケモンリーグにですか? バトルで珍しいポケモンに会えるかもしれませんし、探検家としては少し興味がありますわ」
「へへ、せっかくポケモンリーグの有力者が困ってたんだ。足元見ても罰当たらねえだろ」
「……やれやれ、こんな形で本来の目的が果たされようとするとは。複雑な気分だけど、これはチャンスだな。じゃあ、よろしくお願いしますねワタルさん」
最後にダルマがサインすると、ワタルは印鑑を押した。印鑑には「ワタル」という文字とカイリューが彫られていて、拳ほどの大きさはある。
「それではみんな、がらん堂鎮圧の件、一緒に頑張ろう! あ、出発まで数日あるし、各自準備をしといてね。では解散!」
・次回予告
出発までの時間を使って、各自バトルの腕を磨くことに。ダルマはとある場所であの人と出会うことになり、お互い驚きを隠せなかった。次回、第35話「まさかの再会」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.15
今日は久々に短かったですが、かわりにgdgd進行となりました。逆転クルーズはあれでも綿密な準備をしていたのでスムーズでしたが、この辺りは詰めが甘かった。
さて、次回から各自分かれて行動するので話数は増えますが楽になります。そして、ダルマが会うのはあの人です。覚えている人いるのかなあ。
あつあ通信vol.15、編者あつあつおでん