大長編ポケットモンスター「逆転編」

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大長編ポケットモンスター「逆転編」
第23話「栄華の街、コガネシティ」
「着いたぜ。ここがコガネシティだ」

「こ、これは……!」

 太陽が海に沈み、紺色の夜がやってきた頃、ダルマ達は新たな街の入り口にいた。既にヒワダを出発して3日が過ぎようとしている。まず目立つものとして、入り口に瓦を葺いた白壁の門がそびえている。門の上には物見やぐらが、脇には詰所がある。詰所には2人の見張りがあちこちに目をやっている。驚いたことに、2人とも小袖に肩衣、袴を着ている。

「ちょっと待ってな、話をつけてこよう」

 サトウキビはそう言うと、単身詰所に向かっていった。初めこそ門番は警戒していたようだが、突然サトウキビに頭を下げだした。しばらくしてサトウキビがダルマ達のもとに戻ると、大きな門の脇にある扉が開いた。

「開いたぜ。さあ、行こうか」

「すげーなおっさん、一体どうやったら触らずに扉を開けられるんだ?」

「はいはい、無駄口叩かずに行くぞ」

 ダルマはゴロウの襟を掴みながら、中に入るサトウキビの後に続いた。










「……見るもの全てが聞いた話とまるで違う」

「ま、そーゆーこともあるんじゃねーの?ダルマは特に」

「『百聞は一見に如かず』というやつですわね」

 ダルマ達は現在、夜のコガネ市街を歩いている。コガネシティはジョウト地方最大の都市として全国各地にその名をとどろかせているのだが、妙なことに4階以上の建物が全く見当たらない。あると言えば、街の中心部にある城と塔が1つ。夜といえど、ちょうちんがあちこちに吊されているおかげで、他の大都市に劣らず明るい。ただ、街の人々は他の街のそれとは雰囲気が異なっている。

「サトウキビさん、ちょっといいですか?」

「なんだ?金なら他をあたりな」

「この街……着物を着た人が多すぎないですか?」

「失礼なやつめ、何でもかんでも着物でくくるな」

 サトウキビは、やれやれと言わんばかりに首を横に振り、手を肩まで上げた。彼は続ける。

「いいか、一概に着物と言えど、様々な種類があるんだ」

「例えばどんなだ?」

「そうだな、例えば……さっきの門番が着ていた服は、内側は小袖、外側の短いのは肩衣という。小袖は袖口の狭い、足まである着物で、その上から袴を穿くんだ」

「では、普通の人達が着ているものは?」

「あれは着流しだ。ちなみに、腹の弱いやつは腹にさらしを巻いたりすることもある。まあ、これは現代でもたまにやるやつがいるみたいだが」

「では、あそこにいる商人らしき人が着ているのは?」

「あれは羽織だ。夜は冷えるからな、金持ちは上に1枚羽織るわけだ、文字通りにな」

「へえ、着物と言っても、色々あるもんですね」

「勉強になりますわ」

 ダルマとユミはサトウキビの話に感心しながら、目を左右にやった。ユミは写真も撮っている。

「さてお前さん達、そろそろ俺の家に着くが、時間があるならあがっていきな」

「え、サトウキビさんこの街に住んでるんですか?」

「おっさんの家ってどんな感じなんだ?」

「私は大丈夫ですが、よろしいのですか?」

 突然のサトウキビの提案に、ダルマは意表を突かれ、ゴロウは尋ね、ユミは気を遣った。

「大丈夫だ、問題ない。3人くらい造作もないことだ、ゆっくりしていきな」

 こう言うと、サトウキビはより速く歩を進めた。他にあてもないダルマ達はただただついていくのであった。









 街の外れに、サトウキビの家はあった。といっても、普通の人では家と言われても、どこに気付かないだろう。なぜなら、これは「家」というより「屋敷」といった方が似付かわしいほど広いからである。まず、1キロメートル四方もの敷地を漆喰と瓦の壁が覆っている。入り口の表札には「私塾がらん堂」と書かれており、門の奥に建物が見える。

 中も中ですさまじい。敷地内には並木道が通り、大小様々な平屋が立ち並ぶ。バトル用のスペースがあるかと思えば畑もあり、池と一緒に鹿威し、枯山水まである。良く言えば多様な、悪く言えば節操がない。しかし、あまりに広いのでそれぞれが同居することなく独立しており、不自然さは感じられない。

「ようやく帰ってきた。おーい、今帰ったぞ」

 ダルマ達は、最も大きな家屋の前にいた。サトウキビが引き戸を開けて中に入ると、皆も入った。玄関は一般的な家の倍はあり、四角い和風の電灯が照らしだしている。

 しばらくすると、大慌ての若者が続々とやってきた。例によって、彼らも

「おかえりなさいませ、先生!」

「出迎えご苦労。今日は客人を連れてきたのだが、もてなしてもらえるか?」

「はっ、すぐに!」

 若者達はサトウキビに敬礼すると、また大急ぎで屋敷の奥に消えていった。

「あのーサトウキビさん」

「なんだ?」

 サトウキビは履き物を脱ぎ、廊下を歩きだした。手を着流しの袖に入れながら腕を組んでいる。

「先生って言われてましたけど、もしかして……」

「……ああ、その通り。俺は『私塾がらん堂』の塾長だ。もっとも、普段は機械整備や鍛冶なんかをやっているわけだが」

「塾長!俺の予想の斜め上をいくとは……おっさんスゲーな」

「まあ、あれだけ大勢かけつけるくらいだし、変じゃないかな」

「さあ、わかったらあがれ。大方、若いのに足が棒になっちまったようだしな」

 サトウキビの正体を知ったダルマ達は、靴を脱いで廊下を歩いた。途中、何箇所かの曲がり角を通り抜け、ある部屋の前で止まった。サトウキビがふすまを開けると、目の前に畳が広がった。その部屋は30畳ほどの広さがあり、真ん中には座卓が、部屋の隅には文机とあんどんが置かれている。文机は右側に引き出しがあるタイプで、顔が映りそうなほど磨かれている。

 サトウキビは部屋に入ると、押し入れから座布団を4枚取出し、自分はそのうちの1枚にあぐらをかいた。

「楽にしてな。じきに茶が来る」

「え、お茶ですか?またナゾノカブ茶じゃないでしょうね」

「心配無用、ここは俺の家だ。最高に上手いナゾノ茶がたっぷりある」

 ダルマ達が怪訝な表情を浮かべていると、誰かが入ってきた。着物の上に白衣を着た怪しい男である。手には4つの湯飲みを乗せたお盆を持っている。

「お待たせしました、どうぞごゆっくり」

「あ、どうも。……あれ、あなたはもしかして」

 ダルマは思わず男の顔を凝視した。そしてアッと声を上げた。

「あなたはパウルさんじゃないですか!」

「お、誰かと思えばアルフの遺跡で会った少年達ではないか。先生の客人だってね?」

 白衣を着た男はパウルであった。パウルは湯飲みを置きながら白い歯を見せな
がら思わぬ再開を喜んだ。

「パウル、知り合いなのか?」

「はい。遺跡での仕事が終わる数日前にたまたま。いろいろ話していたのです
が、特に彼女には貴重な発想をしてもらいまして」

「ほう、なるほど。お前がそう言うとは……なかなかできるみたいだな」

 パウルの話を聞き、サトウキビは心なしか頬を緩ませた。そこには旅の間感じられなかった雰囲気があふれている。

「おじさまとパウルさんはどういう関係なのですか?」

 お茶を飲みながら、ユミが尋ねた。よほどうまいのだろうか、熱々にもかかわらず一気飲みをしている。

「見りゃわかるだろ、パウルは俺の弟子の1人だ。その中でも最初の1人であ
り、また最も優秀だ」

「へえ、じゃあバトルは強いのか?」

 舌を出しつつゴロウも尋ねる。どうやらゴロウには少々熱かったようだ。

「もちろんバトルも強い。俺とまともに勝負できる奴は、弟子の中では多分こいつくらいだ。……しかしパウルの専門は歴史や考古学。この分野では弟子の中でまず1番だ」

「サトウキビさんは歴史はやらないのですか?」

「少しはやるが、道楽みたいなもんだ。俺の専門は科学でね、歴史や哲学は教養としてやる程度なんだよ」

「か、科学者でも歴史なんてやるんですか?」

「まあな。新しい発見をするのに様々な知識や感性がものを言うというわけだ。それに、俺がやってるのはまだまだ少ないほうだ。実際、俺の弟子の中には歴史や哲学のみならず、美術に音楽、他の言語までやる奴もいるぜ」

「ふーん……俺もやってみようかな、何か」

「ゴロウの場合、寝る前に勉強した方が良さそうだな。便利な睡眠薬になりそうだし」

 ダルマは皮肉っぽくゴロウに言った。それを聞いて、皆は声をあげて笑うのであった。






・次回予告

ダルマ達はコガネシティの実情を知り、ただただ驚くばかり。そんな彼らに、とある誘いがやってくる。次回第24話「海の誘い」。ダルマの明日はどっちだ!?


・あつあ通信vol4.

前回のタイトル「深緑ティータイム」は、けいおん!の「放課後ティータイム」をもじったものなんですよね。けいおん!は1話しか見てないのであまり詳しくは知りませんが、たしかグループの名前でしたよね?これに反応してニヤリとしてもらえれば幸いです。

さて、遂に来ましたコガネシティ。サトウキビの素性もはっきりし、パウルさんが再登場と、やっと「大長編」の名前に恥じないストーリーになってきたと思います。以前も触れましたが、もう一息で物語も後半です。毎回拍手及び閲覧してくださる皆様、これからもよろしくお願いします!また、知恵を授けてくださったチャットの皆様、ありがとうございます。

ちなみに、この連載でのコガネシティのイメージは「江戸時代の大阪」です。江戸時代なんて描写したら興ざめなので、ここで補足しておきます。まあ、一番上に地図を載せているので、そちらを参考にしてください。


あつあ通信vol.4、編者あつあつおでん


あつあつおでん ( 2011/11/01(火) 12:50 )