第21話「リベンジマッチ! 対決ヒワダジム」
「それでは、わしが審判をやろう。お互い、準備はできとるか?」
ダルマ達はジムの中央にあるバトル場に移動していた。植物に囲まれてはいるが、それ以外は他のジムと何ら変わりはない。審判席にはガンテツ、トレーナー席にはダルマとツクシがスタンバイしている。
「僕はいつでも大丈夫ですよ。ダルマ君が始めたいときにどうぞ」
「ああ、俺も大丈夫だ、問題ない。だが……」
「だが?」
「この観客はなんだぁ!」
ダルマは自分の左側に目をやった。そこには、それほど大きくはないが常設の観客席が設けられており、町の人々やゴロウ達が陣取っていた。
「これかい?ヒワダタウンはお話の舞台になりそうなほど田舎で、娯楽も少ないんだ。だから挑戦者が現れたときはジムを開放して、皆にバトルを見てもらうんだよ」
「なんじゃダルマ、この程度でおじ気付いたのか?わしが現役だった頃は……」
「べ、べつにそんなことはないぜ、ガンテツさん。それより、さっさと始めよう」
「それもそうじゃな。それではヒワダジムリーダーと挑戦者のジム戦を始める!ルールは3対3のシングルバトル。始め!」
「いくよ、ストライク!」
「頼む、アリゲイツ!」
ダルマの2度目のジム戦の火蓋が切って落とされた。ダルマの先発はアリゲイツ、対するツクシの1番手はストライクである。
「お互い、最初から切り札を投入しやがったか。さてさて、どうなることやら」
サトウキビが両者の解説を始めた。観客席ではツクシの応援が大勢を占めている。その中でゴロウとユミ、ミツバがダルマに声援を送る。
「こっちからいくよ、とんぼ返りだ!」
先手は素早いストライクだ。ストライクは静かに移動し、アリゲイツの脇腹を両足で蹴った。その勢いと背中の羽で飛び上がり、ツクシのもとへ戻っていった。
「な、なんだこの技は?まあいいや、氷のキバ!」
アリゲイツはストライクの攻撃を耐え、口に氷を溜めた。そしてストライクに襲い掛かった。
「ふふ、そううまくいくかな?」
ツクシは不敵な笑みを浮かべた。すると、ストライクは急にモンスターボールに入り、かわりに別のポケモンが出てきた。
「ぐっ、なんだこりゃ!」
ダルマが驚く暇もなく、アリゲイツは交代したポケモンにキバをむいた。しかし、そこまで効いてはないようだ。
「あれはトランセルか。ふん、薄々ジムリーダーの戦略が見えてきたぜ」
「どういうことですかおじさま!?」
「簡単なことさ。とんぼ返りは攻撃しながら交代する技。出てきたのはトランセルだ。ここから、やつの切り札がストライクであるのがわかる。つまり、他のポケモンで相手を弱らせ、ストライクで一気にけりをつけるつもりなんだろうよ」
サトウキビの冷静な解説に、ゴロウ達のみならずヒワダの住人も驚嘆した。無理もない。ただ勝ち負けばかりに注目していたなか、突然戦略的な話をする者が現れたのだから。
「それで、ダルマ様はそのことを理解しているでしょうか?」
「……それは本人を見ればわかる」
ユミはダルマを見た。ダルマは冷や汗をたらしながら歯ぎしりをしている。ついでに言えばやや前かがみだ。
「くそ、あのタイミングで勝手に交代するなんて。あのとんぼ返りとかいう技、中々厄介だな」
「どうだい、僕の戦い方は?ちなみに、このストライクは昨日の個体とは違うからね」
ツクシとダルマ、2人の様子は実に対照的である。そのなかで次に動いたのはツクシであった。
「そっちから来ないならこっちからいくよ、むしくいだ!」
ツクシの2番手のトランセルはぴょんぴょん飛び跳ねながらアリゲイツに近づいていった。
「くっ!戻れアリゲイツ、ゆけ、コクーン!」
ダルマはアリゲイツをボールに戻し、コクーンを繰りだした。コクーンは鼻息荒く、いつでも戦える状態だ。
トランセルは交代する間も距離を詰め、コクーンが出てきたと同時に噛み付いた。だが、コクーンにはかすり傷もついてない。
「へへ、あんたと同じことをやってみたぜ」
「なるほど、想像以上に吸収が早いね」
ダルマはしてやったりの表情をとった。ツクシの目の炎は一層熱くなる。
「ならば……トランセル、体当たり連打だ!」
トランセルは強硬手段にでた。体当たり連打で畳み掛けてきたのである。
「なんのなんの。負けるなコクーン、こっちは毒針だ!」
コクーンも負けじと毒針で対抗する。お互い、どんどん体力が削られていくが、徐々にコクーンの毒が回ってきた。トランセルの顔は少しずつ青ざめていき、肩で呼吸をし、動きも鈍くなった。
「しまった、油断したか……!」
「いいぞコクーン、そのまま勝負を決めるぞ!」
コクーンの攻撃はいよいよ激しくなった。昨日までの、のんびりしたビードルの面影はなく、素早い成虫を待つサナギがそこにいた。そして……
「トランセル!」
「むぅ、なんと!」
そこにいた誰もがバトルフィールドの中央に釘付けとなった。ツクシのトランセルが倒れ、コクーンが誇らしく立っていたのである。
「……トランセル、戦闘不能!まずはダルマが一歩リードじゃ」
「やったぜ!どうだ、これが特訓の成果だ!」
ダルマは握りこぶしを高く振り上げ、ガッツポーズを見せた。コクーンも跳ねる。
「すごいよダルマ君、あの短期間にここまで成長するなんて。けど、僕は負けない!」
ツクシはトランセルをボールに戻すと、再びストライクに交代した。
「またストライクか、けど同じ手が2度も通用すると……」
「ふふ、それがするんだよ。とんぼ返り!」
ストライクは、先程と寸分変わらぬ動きでアリゲイツを攻撃した。ストライクはそのままツクシのもとに戻っていく。
「なんの、水鉄砲!」
アリゲイツは肩で息をしながらも、激流の弾丸を2、3発放った。ストライクにはまたしても当たらなかったが、交代してきたポケモンに1発当たった。
「あ、あれはコクーンか。あんたも持ってるのか」
「もちろん、僕は虫ポケモン博士だからね」
ツクシは胸を叩いた。彼は中性的な見た目だが、れっきとした男なので胸はまな板である。
「コクーンを倒せばストライクは逃げられなくなる……ここが勝負だ、水鉄砲!」
「負けるな、毒針!」
アリゲイツは、腹から出せるだけ強い力で水鉄砲を撃った。コクーンは毒を仕込んだ針をありったけ飛ばした。お互いの攻撃はほとんどがぶつかり相殺されたが、毒針1本、水鉄砲1発はそのまま相手の足元に届いた。
「どうだ……」
「……僕の勝ちだ!」
ツクシが叫んだ。アリゲイツはその場に座り込み倒れた。コクーンは、震えているもののまだ立っている。
「アリゲイツ!くそー、よりによって最後がこいつか……ええい、もうどうにでもなれ!」
ダルマはアリゲイツをボールに戻すと、半ば自棄になって3匹目のボールを投げた。ボールからは当然、今日生まれたあのポケモンが出てきた。
「これはカモネギ?にしては妙に若々しいなあ」
「うっ、まあな。ともかく、こいつで決着をつける!」
ダルマがこう言っている間にも、カモネギはそこら辺をちょこまかと動き回る。それに応じて植物の茎に結んである布も揺れる。生まれてまもないのもあるが、中々落ち着きがない。
「さて、まずは動きを止めるよ、糸を吐く攻撃!」
「させるな、トドメのつつく攻撃だ!」
コクーンはカモネギの右足を狙って糸を放った。カモネギはまんまとひっかかってしまい、そのまま転んだ。
「これで身動きはできない。勝負あった!」
「くそ!またしても負けてしまうのか……ん、あれは?」
拳を握り締めるダルマは、あることに気付いた。カモネギの体から、わずかではあるが湯気が出ているのだ。
「ふん、運の良いやつだぜ、あいつは」
「おじさま、あれは一体?」
「あれは『まけんき』という特性が発動した時に現れる湯気だ。この特性の効果は、『戦闘中相手の技で能力が下がったら、攻撃が上がる』。この特性を持つカモネギは絶滅したと聞いたが、まさか生き残りがいたとはな」
サトウキビは、僅かに興奮した口調で解説した。これを聞いて、ユミはもちろん、観客席はことの成り行きを固唾を飲んで見守った。
「なんだかよくわからないけど、いけそうだな。カモネギ、まずは糸を切るんだ!」
さて、カモネギの特性など知りもしないダルマは、いちるの希望をかけて指示した。カモネギが思い切り茎を振ると、糸の束はいとも簡単に切れた。
「なに、あんなに簡単に……!」
「もらった、つばめがえしだ!」
コクーンは口から糸を垂らしているので攻撃できない。その隙を突いて、カモネギは茎をコクーンの頭上に叩きつけた。蓄積したダメージもあり、コクーンは地に伏せた。
「よっしゃ、なんとか最後の1匹まで持ち込んだぞ!」
「これは不覚だったよ、コクーンの糸がああも簡単に破られるなんてね。じゃあ、いよいよこれで最後だ、ストライク!」
ツクシは最後のポケモンであり切り札のストライクを繰り出した。これでお互い1対1である。
「何もさせないよ、つばめがえし!」
先手はストライクだ。ストライクは一瞬にして消えたと思えば、カモネギの目の前に姿を現し右のカマで切り付けた。中々のテクニシャンであり、普通より切れ味が増している。
「ふふ、このスピードにこのテクニックを耐えるポケモンは少ない。君に勝ち目はない!」
ツクシは勝ち誇った顔で勝利宣言をした。ストライクも羽をはばたかせている。だが、いつまでたってもカモネギが倒れる気配はない。
「……ついに来たぜ、逆転の風が!アクロバットをお見舞いだ!」
カモネギはストライクの一撃を耐えていたのだ。不意の事態に虚を突かれたストライクは、カモネギのアクロバティックな茎さばきをくらった。
「い、一体どうなってるんだ!確かに当たったはず……」
「確かに当たった。まあ落ち着いてあれを見なよ」
ろうばいするツクシのために、ダルマはこの事態の答えとなるものに向けて指を差した。その先には、カモネギの茎に結んである布があった。
「気合いのタスキ。俺が作ったんだ、中々よくできてるだろ?その証拠に、カモネギは見事耐えてくれた」
「気合いのタスキだって……!」
「これで最後だ、フェイント!」
カモネギはトドメに入った。軽く茎でストライクをつつくと素早く右に動いた。ストライクは無意識のうちに反撃するが、当たらない。そして、カモネギはストライクの脇に茎を突き付けた。ストライクは観客席の前まで吹っ飛ばされ、倒れこんだ。
「むむ、そこまで!この勝負、1対0で挑戦者ダルマの勝ちじゃ!」
「……はあー、勝ったぁ!俺の勝ちだ!」
ダルマは喜びを爆発させた。カモネギのもとに近寄ると、一緒に飛び跳ねた。そこにツクシも歩み寄ってきた。
「……おめでとうダルマ君。久々に熱いバトルができたよ」
「いやいや、あんたのおかげだ。昨日ボロ負けしてなかったら、ここまで上手くいかなかっただろうし」
「はは、そう言ってもらえると助かるよ。それじゃ、これがヒワダジム勝利の証、インセクトバッジだ!」
ツクシはズボンのポケットから小さなバッジを取り出し、ダルマに託した。ダルマはそれをバッジケースに入れた。
「よーし、インセクトバッジ、ゲットだぜ!」
・次回予告:容量不足のため無し
・あつあ通信vol.2
容量ないので手短に。
タイトル決りました。「大長編ポケットモンスター『逆転編』」です。「だが断る」という方はどしどしお葉書ください。
あつあ通信vol.2、編者あつあつおでん