第18話「それぞれの1日」
「坊主、中々機転がきいてたぞ。おかげでヤドンを救出できた」
「あ、ありがとうございます」
「お、ダルマが照れてるぞ!」
「お前は子供か」
カラシとの戦いを制した後、ダルマ達はおじいさんの家に移動していた。夜はとっぷり更けて、すきま風が心地よい。今、部屋にいるのは6人だ。おじいさんにダルマ、ゴロウ、ユミ、サトウキビ、そして見知らぬ少女である。部屋を見回してみると、たった一間の家ながらも、仕切りが無いため広く感じられる。畳が30畳ほど敷き詰めてあり、いぐさの独特な香りがほとばしる。部屋の左端には布団が積まれており、また、玄関から右手最奥には古ぼけたドライバーやらヤスリやらが机の上に置いてある。机の隣にある棚にあるのは、見かけない柄のモンスターボールに、色を塗ってない木製のボールだ。
「しかし!あの程度の実力ではこの先いくつ命があっても……」
ここまで言ったところで、皆が囲むちゃぶ台に湯気を立てた湯飲みが置かれた。中身は緑茶である。
「はいはい、小言は後々!みんな疲れているんだし、まずはゆっくりしようよおじいちゃん」
「おお、そういえばそうじゃな。まずは自己紹介といこうかの」
おじいさんは見知らぬ少女にに諭されると、目尻を下げてお茶をあおった。
「ワシはガンテツ、ボール職人じゃ。この娘はワシの孫娘でミツバ、仲良くしてやってくれ」
「ミツバです!よろしくね、えーと……」
「ダルマです」
「ゴロウだ!」
「ユミです」
「サトウキビだ」
皆が口々に自己紹介をした。ガンテツの孫娘、ミツバは歯を見せ笑いながら一礼した。彼女は、ユミと好対照な雰囲気を出している。まず八頭身とも言える体つきが目を引く。背中の真ん中にまで届く本格的な黒のポニーテールに、夕日を浴びた海のように輝いた瞳も印象的である。さらに、肌に吸い付いているようなジーンズと真っ赤なタンクトップが、思わず息を呑むほどの曲線美を生みだす。
「では、話を戻すぞ」
「……俺達の実力不足についてですか?」
「さよう。どんなに良い考えが出てきたところで、それを達成する能力が無ければ、宝の持ち腐れでしかない。ダルマのアリゲイツなど、進化したばかりで体が慣れておらん。これではもったいない。逆に言えば、高いパフォーマンスができれば、それだけで大半の難局は突破できる。ワシのエイパムも、お前さん達の指示はいらんかったじゃろう?」
「た、確かに」
「でもよ、カラカラにやられたじゃねえか」
ここで、気持ちよく話しているガンテツに、ゴロウが割り込んできた。
「そうなのか?ワシは見てないからよくわからんのじゃが」
「確かに、カラカラはエイパムを倒したみたいですよ。不意討ちみたいでしたけど」
「なんじゃ、それなら仕方ない。誰にだって不意討ちはある……ところで、気になったことがあるのじゃが」
「なんですか?」
「ヤドン達は確かに井戸にいたが、、肝心のロケット団どもは全くいなかった。そっちでは見なかったか?」
「そうですね、俺は見ませんでしたよ。ユミは?」
「私もです。おじさまは?」
「……裸眼で見えねえものがサングラス越しに見えるわけねえ。それと、おじさまはやめろ」
「俺も見なかったぜ!」
「ふむ、そうか。ならよい。では、そろそろ寝るとするかの。今日は疲れたわい。お前さん達も今日はここに泊まっていきなさい」
ガンテツはあくびをしながら左手で口をおさえ、後ろにあるふすまを開いた。その奥は2段に分かれた押し入れなのだが、下の段に布団が敷かれており、上の段にはホコリをかぶった扇風機と火鉢がある。ガンテツは下の段に入ると、布団の中に潜りこんだ。
「寝床は好きにしてくれ。とっとと寝ろよ、明日は早いぞ!」
こう言い残し、ガンテツはポケモンにも勝るいびきをたて、夢の世界に旅立ってしまった。ダルマはその光景を目の当たりにして、ゆっくりミツバの方を向いた。
「あの、押し入れで寝るのはむしろ俺達では?」
「いいのいいの、気にしないで。おじいちゃん、押し入れで寝るのが好きなの。こんなに広い家なのにね」
ミツバは笑いながら部屋全体を見回した。確かに、ダルマ達4人にガンテツ、それにミツバの布団を敷いても、まだ1人分のスペースは明らかにありそうな広さである。
「それにしても、押し入れで寝るなんて、どこかで聞いた話ですね?ゴロウ様」
「というより、どう考えてもド……」
「……下らねえこと言ってる暇があったら、さっさと寝な。よい子は夜更かしなんぞしないもんだ」
ここでサトウキビが話を締めた。彼は積み上げられた敷き布団を1枚広げ、枕を手に取ると、サングラスも頭の手ぬぐいも取らずに寝てしまった。
「……なんでサングラス外さねえんだろ?」
ゴロウはサトウキビの行動に首をひねったが、サングラスを取ろうとはしなかった。
「知らないよそんなこと。それより、今日は早く寝るぞ」
「はい。おやすみなさい、ダルマ様」
「おやすみ!」
「それで、今日は何をしようか?」
翌日。庭でラジオ体操をするガンテツの背後に、縁側に座るダルマ達がいた。ダルマとゴロウは大口開けてあくびをしているが、ユミとサトウキビ、ミツバは変わりない。
「そうですね、皆さんやるべきことが違いますから、自由行動というのはどうですか?」
ユミの提案に、誰も異存はなかった。皆は首を縦に振り、今日の行動を考えだした。
「俺はアリゲイツ達と特訓でもしてくるよ」
「では俺は、町の散策でもやるか」
「俺はジム戦!ダルマに先越されるわけにはいかないからな」
「では私は、おじさまと町を歩いてみます。夕方までに戻るということで、よろしいですね?」
各々うなずきながら今日の動きを確認し、荷物を手に取った。
「なんじゃお前達、もう出かけるのか」
そこに、ラジオ体操を終えたガンテツが話し掛けてきた。
「ええ、今日は別行動です。」
「そうか。……そうそう、お前達にいいものがあるんじゃが、ちょっと待っとけ」
何か思い出したのか、急にガンテツは部屋に上がり、戸棚を開いた。中には楕円形の球が2個ある。彼はその球を取出し、縁側に戻ってきた。
「これはもしかして……」
ダルマ達は球を食い入るように見つめた。しかし反応は無い。ただの球のようだ。
「さよう、ポケモンのタマゴじゃ。わしに子守りは似合わん、引き取ってくれんか?」
「とか言いつつ、おじいちゃん結構このタマゴ大事にしてたでしょ?」
ここでミツバの不意討ちにより、ガンテツの顔はにわかに茹であがった。
「ば、馬鹿言うでない!それより、もらってくれるか?」
「それは構いませんが、俺達4人ですよ?誰が……」
「ああ、俺はパスだ。俺も子守りする気はねえ」
ダルマの言葉に、すかさずサトウキビが続いた。ダルマは少し腕組みをしていたが、やがてこう言った。
「……じゃんけんだな」
「そうですね」
「よし、じゃあやるぜ!じゃんけん……」
「気を付けてなー!」
しばらくして、ダルマ達は出発した。後ろでは、ガンテツとミツバが手を振っている。一方、ダルマとユミはタマゴを抱え、ゴロウはそれを物欲しげに眺めている。
「さてみんな、今日はお互い頑張ろう!」
ダルマが叫ぶと、4人は散り散りに進んでいくのであった。
・次回予告
特訓すべくうろついていたダルマの前に、とあるトレーナーが現れる。手合わせをするが、全く歯が立たない。そこでダルマは、そのトレーナーの練習方法を実行をしてみることに。
果たしてダルマは、成長することができるのか!?
次回第19話「特訓」、乞うご期待!
・あとがき的な何か
ミツバはBWの女主人公が文中の服装をしているイメージです。ユミの時もそうですが、わかりにくかったらすみません。