第10話「挑戦! キキョウジム後編」
「出番だ、ビードル!」
ダルマの2匹目であるビードルは、柱沿いに出てきた。その上空では、ピジョンが輪を描くように飛びながら獲物を狙っている。
「ビードルだと?あえて苦手なタイプで挑むつもりか」
「いや、単にポケモンが2匹しかいないだけだ」
なにやら感心しているハヤトに、ダルマは即座に突っ込んだ。その間ビードルは少しずつ柱を登っていく。ビードルには強力な吸盤が備わっており、どんな所でも登れるのだ。
「おっと危ない、翼で打ち落とせ!」
ビードルの前進に気付いたピジョンは、翼を広げて急降下した。
「こっちは糸を吐く攻撃!」
対するビードルは口からたっぷりの糸を撃った。だが、ピジョンは軽く身体を傾け避けた。
「今だ、一気に駆け上がれ!」
ビードルは急いで柱を登り、足場にたどり着いた。
「よし、いいぞビードル!……とは言うものの」
ダルマは辺りを見回してみた。ピジョンは相変わらず悠々と飛び回り、ビードルを狙っている。
「これからどうしようかな?」
「……おい、まさか何も考えずに動いたのか?」
ダルマの言葉に拍子抜けしたハヤトは、これ以上言葉が出なかった。
「うーん、ピジョンは速くて技が当たらないからな。……そうだ!」
一方、さっきまで頭を抱えていたダルマは、突然手を叩いた。そしてビードルにこう指示を出した。
「ビードル、他の足場に糸を垂らせ!」
ビードルは別の足場に向けて糸を吐くと、上手い具合に引っ掛かった。そして、口から垂れている糸を自分の足場の角に巻いた。
「よし、これを繰り返せ!」
ビードルは糸を垂らすという単純作業を延々と繰り返した。
「嫌な予感がするな。ピジョン、翼で打て!」
もちろんピジョンもただ傍観するだけではなく、ビードルを止めようと試みた。しかし、ビードルの毒針に妨害され、中々近づくことができない。
「よし、ビードルそろそろ良いぞ」
そうこうするうちに、ビードルは糸吐きをストップした。糸は1つの面を作るほど密に展開され、ビードル程度の重量なら伝うこともできそうだ。
「こんなに撒き散らすとは。これで何も無かったら、ただじゃおかないぞ」
「その心配は無いさ。ビードル、一端下りろ!」
苛立つハヤトをよそに、ビードルはなぜか柱を下り始めた。特に何かを仕掛けようといった様子ではない。
「バカにしやがって。ピジョン、電光石火だ!」
上空で様子を伺っていたピジョンは、今度こそと急降下した。しかし、それが裏目に出た。ハヤトが特に指示を出さなかったため、ピジョンは糸の網をもろにかぶるはめになった。
「し、しまった!」
「ようやく隙ができたな。ビードル、毒針を決めろ!」
ビードルは、糸がもつれてうまく動けないピジョンに近づいた。その距離は徐々に縮まり、ついにビードルの毒針がピジョンに刺さった。ピジョンはみるみるうちに顔が青くなっていった。
「いいぞビードル、その調子だ!」
「まだまだこれから!翼で打て!」
一発を食らったが、ピジョンはしぶとかった。その足でビードルに接近して、翼を無理矢理叩きつけた。虫タイプのビードルには効果抜群である。
「よし、これで俺の勝ちだ!」
ハヤトが今にもガッツポーズを取りそうになった、その時であった。瞬く間のうちにピジョンの身体中に糸が巻き付いた。体重と同じくらいありそうな量の糸である。
「な、何が起こったんだ!ビードルはやられたはず……」
「へへ、これこそが俺の狙いだったのさ」
「何だと?どういうことだ!」
何やら落ち着きがなくなってきたハヤトに、ダルマは話しだした。
「ワニノコが倒されたあの時……フェザーダンスを使ったのはまずかったな」
「フェザーダンス……ま、まさか!」
みるみるうちにハヤトの顔が凍り付いていった。一方ダルマは、勝ち誇ったかのように不敵な笑みを浮かべている。
「本来、フェザーダンスは攻撃力を下げる技。だけど素早さを下げるのにも役立ちそうに見える。なら糸でも同じことができるんじゃないのか?というわけさ」
「な、なんてことだ…」
「これで終わりだ!ビードル、毒針!」
ダルマの言葉で、ビードルは自慢の毒針をピジョンに一刺しした。針はピジョンの胸の下を突き刺した。これが決定打になったのか、ピジョンは抵抗することなく床に倒れこんだ。
「……勝ったぞ!ジム戦勝利だ!」
決着がつくとすぐに、ダルマはビードルの方へ駆け寄った。そこにハヤトもゆっくりと近づいた。
「まさかあの状況であんな戦いをするとは、君はとんでもないやつだな」
ハヤトは苦笑いしながらピジョンをボールに戻すと、懐から何やら取り出した。その形は、さながら鳥ポケモンの広げた翼といったところである。
「これがポケモンリーグ公認のウイングバッジだ。持っていってくれ」
「ありがとうございます」
「……君にはまだまだ成長の余地がある。頑張れよ」
「はい!」
二人はバッジの受け渡しの際、がっちり握手を交わした。それはダルマが一回り大きくなった瞬間であった。