ゲーム
ある小学校の、ある教室。ワイワイガヤガヤ騒がしいのは、給食後の休み時間だからだろう。
「おい!!サッカーしたいやつ、下駄箱集合な!!」
「行く行くっ!!」
「昨日のバラエティー見た?あれ、スッゴク笑ったんだけど!!」
「うそぉ〜!録画したけどそのままだった!!…内容言っちゃダメー!!」
たくさんの声がとびかう。楽しげな教室の一角でも、四人組の女子のグループのひとつから笑い声が上がった。
「…誕生日にポケモンのソフト買ってもらったんだ♪結構、ううん、とっても楽しい!!」
「真理亜も持ってるよ!!」
「あたしもー!パートナー、フォッコにした!!」
「真理亜はねぇ…ケロマツ」
「あー!!私もー!可愛いよね!!……イチゴちゃんは?」
一人がまだ口を開いていない少女、イチゴに話題をふる。
彼女は少し控えめに答え出した。
「ごめん…私、ゲーム機持ってなくて。」
とたんに三人は『悪い事を言ってしまった』という、気まずそうな顔をしてイチゴにあやまる。
「そっか、そうだったね。こっちこそごめん!!イチゴ!!」
「いいんだよ気にしなくて。いつもの事だし!!」
そう言って彼女はほほえんだ。
イチゴは、ゲーム機を持っていない。今では子どもなら一台は持っているだろうそれを、何ひとつ手にしていなかった。折り畳みの携帯式機種も、TVにつないで専用のリモコンで遊ぶ機種も、校庭のトラック型のあの機種も。ついでにいえば、あのたまご型生物育成ゲームまで。周りで流行り出してきたころから親にアタックするも、ことごとく禁止され、今ではもう欲しいとも言わなくなった。
しかしさすがに、会話でゲームの話になるとつらい。一生懸命合わせようと頑張っても限界がある。無理に笑顔をつくろうとしても、どうしてもひきつった。『自分は仲間外れなんだ』『話についていけない』『ノリが悪いと思われる』といった黒い気持ちがうずまき、苦しかった。友達に気を使われるのもいやだったし、くよくよしている自分も嫌いだった。
しかし、それはポケモン以外ならだ。
「私もポケモン大好き!!はじめの三匹なら…ハリマロン派かなぁ」
ポカン、というオノマトペがぴったり合いそうな表情を浮かべた三人。それもつかの間、たちまち満面の笑みに変わる。
「うんうんうんうんうん〜〜!!!!!!!!!私もフォッコとまよった!!」
「真理亜は、ポッチャマもいいと思う★」
「ポッチャマ、昔のだけど一番好きかも♪」
いままでにない位に盛り上がったあと、パートナーにフォッコを選んだ春日ちゃんが不思議そうに問う。
「イチゴちゃんて、ポケモン詳しいんだね。……ゲームないのに、すごい!!」
イチゴは照れたようにはにかむ。
「アニメ、好きで小さい頃から見てたから。ポケモンの本もたくさん読んだ!!…攻略本持っているけど……今度ウチに来ない?」
『行きたい!!』
ゲーム機が無くたって、無理しなくていい。興味さえあれば、どうにだってなる。いや、自分で変えられる。
ポケモンはそれを教えてくれた。