ポケモン不思議のダンジョン  Destiny story






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第4部 Teravolt 〜龍魂〜
52 命を吸う


 この場にいたのは、グランとヴァン。そしてそれに対する夜次郎の3人。

(冥神…歴史の書物や聞いた伝説の中にそんなものなど聞いた事ないしな…もしかしてだが、ハッタリなのか?)

 グランは知的な探検家である。どこぞの主人公みたく主人公補正という名の無鉄砲な勢いに任せるようなやつではなく、教科書という物があるなら休み時間でも読んでるような男である。

「どうやらハッタリじゃねえぞチビ。何かしてくる」
「身構えたところでもう遅い…『命吸』」

 夜次郎のその言葉を呟いたのを合図に、ヴァンとグランの身体から赤黒い光の粒が染みでるように湧いてきた。
 その光は身体を離れ、夜次郎の元へ吸い込まれるように向かっていき、やがて黒い体の中に取り込まれる。

「命を吸うから、命吸ね。おいチビ、短期決戦…ってのは言わなくてもわかってるか」
「当然。あと、見た目で戦いの経験を見限るのはやめろ」
「あちゃーバレたか」
「随分呑気ですね…。『燕返し』」

 鋭い矢はヴァンに向けられた。ヴァンは表情一つ変えず受け止めようとするが、グランが横から拳で殴り込んだ。

「『バレットパンチ』か…邪魔を。だが、そのくらいのダメージなど私にはどうってことない」
「…なるほど。やどりぎの種のような感じか」
「要領はその通りです。だが、あの技と違うのは攻撃対象の数。あなたとエルレイドの2人から体力を吸収してるのではありません。あそこでお眠りになっているあの2人も、私の戦いに貢献しているのですよ」
「む、無差別に体力を奪っていくのか…!?」

 ヴァンによって眠らされたルナとジュア。焦燥が高まり、体に力が入った。

「部屋技の領域などではありません。この洞窟内の野生ポケモンも、無意識のうちに私に身を捧げている…何人分もの命を取り込んでいく私にどう立ち向かうというのですか?」
「…」

 夜次郎の挑発にグランは何も答えず、眠る2人の元に歩き出した。そして、その2人の脇腹を蹴りあげた。

「ごふっ!?」
「ぐふん!?」
「起きろ。戦闘中だぞ」
「お、おい!?敵が増えてるぞ!?」
「エルレイドは味方になった。代わりにドンカラスが俺たちの敵だ」

 まだ状況が飲み込めない2人をよそに、グランはその場で『波動弾』を放った。

「『悪の波動』!そんなものなど私には効かない!」
「じゃあこれはどうだ!?」

 波動が打ち消し合い、そして夜次郎の背後からヴァンがすかさず夜次郎の後頭部に強烈な拳の一撃を食らわせた。

「ごはっ…」

ルナもジュアも、この状況を理解し始めた。

「『気合いパンチ』頭脳派だと思っていましたが…随分と博打な技を使いますね」
「博打じゃねえな。間合いを見切ることは得意なんだ。『さいみんじゅつ』っていう保険あるがな」

 ぐぐっと体を起こす夜次郎に赤い光が流れ込む。それは、せっかく減らした体力も、命吸により無意味だということを示している。

(一気に畳み掛けて、体力が回復する前にゼロに持っていくか…?それとも、何か弱点が…ボロを出すまで待つべきか…?)

 短期決戦に持ち込む方が可能性が高いように見える。しかし、ヴァンもグランもなかなか動き出せずにいた。やどりぎの種とは大きく違う命吸の能力が枷になっているのだ。

(吸収対象はダンジョン全域…俺たちの体力分だけじゃない。こいつのしぶとさは想像以上だな…)
「…何やら、面白い者がこちらへ向かっていますね」

 夜次郎がそういうと、今まで空間に流れていた赤く不気味なエネルギーの流れが何故か止まった。

「どうした?吸収してはいけないものまで吸収したのか?」
「特殊なエネルギーを発する者がいました。次期、此方に来ます…」

 夜次郎は仕掛けてくる素振りも見せず黙っていた。そしてグランもヴァンも、この先起こる出来事を想うが想像がつかず、こちらもまた黙っていた。
 やがて、ぺたぺたと小さな足音が聞こえてきた。

「おう、グランじゃねえか。それにルナとジュア…」
「ルシャ!?なんで此処に…今は夜のはずだ!まさか脱走して…」
「そっくりそのまま返すぞ。グランたちこそなんで此処にいるんだ?それにその2人…」

 ルシャは疑問に思った。自分は時空の叫びによってこの場所に危機が迫っている事を知ったから此処に来ている。だが、グランたちに時空の叫びのような未来を察知するような能力はない。それも、察知した自分より早く来ているのだ。単身で乗り込み、ベルディオと一騎打ち、あわよくばアグノムと共闘ということを考えていたルシャにこの出来事は予想外すぎて、これもまた黙っているばかりだった。

 そしてその沈黙を破ったのは、誰かの言葉でもなく、ましてや戦いの再開でもなく…もう1つ、聞こえてきた足音だ。

「ミラノ…じゃねえよな。あいつはギルドにいるはすだ…」
「じゃあ誰だよ?」
「知るか!俺は独りで此処に来たんだ!」

 小さかった足音も、やがて耳を澄まさずとも聞こえるまで膨れた。そして、足音の正体も、目で感じ取った_____

「…ビジョンではここまで賑やかではなかったが…。誰かが未来を変えたか?」

 ルシャとグランたちが狙う首が、向こうからやってきてくれた。

「よーベルディオさん。まさかこんな早くまた会えるとはな…!!」
「運命とは、思いたくないな」

 役者は揃った。
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■筆者メッセージ
じゅけんしーずん。
アサシオ ( 2019/06/27(木) 23:01 )