ポケモン不思議のダンジョン  Destiny story






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第4部 Teravolt 〜龍魂〜
50 水晶の波導と残された可能性
とりあえず俺達はギルドへ還り、今回あった出来事を話した。




 流砂の洞窟の洞窟から脱出後、北の砂漠入口に戻った俺たち。そこにはエムリットの姿もあった。当然ながら、時の歯車を盗んだジャックスという名のライチュウは既にどこかへと消え去った。
 エムリットは俺たちに何度も頭を下げた。見境なく俺たちに攻撃を仕掛けたこと、自分という番人がいながら、時の歯車が盗まれるのを見ていることしかできなかったことを。
 何度も頭を下げるエムリットをミラノは何度も慰めた。もう謝らないで欲しい。また時の歯車が盗まれないように次を考えればいい、と何度も繰り返した。
もちろん俺もエムリットを悪く思う気持ちなど微塵もなかった。

 盗まれるのはこれで4個目だとエムリットが呟いた。ユクシーの護る時の歯車を盗まれたのは、テレパシーで聞いていたらしい。だから、訪れる者に対して敏感になっていたと。
 自分が情けないと、エムリットは下を向いていた。


 まさかと思うことが1つ、思い浮かんだ。アリスも時の歯車を狙うポケモン、つまりベルディオやジャックスとグルなんじゃないか。ということだ。
 俺は未だにアリスの行動が理解できずにいた。あそこまでエムリットを痛めつける必要なんてあったのだろうか。『依頼』という口実でエムリットを倒し、時の歯車を奪うのが探検同行の真の目的だとしたら、なんとなく合点がいく。トドメを刺さなかった理由は全く見当もつかないんだが...


 もしそうだとしたら、時の歯車を巡る戦いはこちら側が圧倒的に不利だと思った。俺たちは結局ジャックスに1つのダメージも与えきれていない。アリスなんて、エムリットはヘタすれば命を落としていた。仮にエムリットじゃなくて俺が戦ったとしても、勝てる気がしない。 そして、ベルディオ。姿すら見たことないが、恐らく戦闘能力は高いことはジャックスとアリスの仲間ということ考えると大まか予想がつく。

 ざっとこのぐらいだろうか。こいつらが全員敵に回っているのが恐ろしい。

 ...本当に時の歯車を護れるのだろうか。盗まれた地域の時は止まる。奴らの目的は一体なんなんだろうか。



「ベルディオ...それがジュプトルの名前...か」

 下を向きうなだれるペル。他のみんなも、表情は暗い。
 だが、ペルや皆の表情が暗いのはそれが理由ではない。

「それに加え、ジャックスという名のライチュウもまた、時の歯車を狙っている、ということか...」
「ああ。何が目的なのかはわからねえがな...」
「それに、北の砂漠の流砂の先にまたダンジョンがあり、そこに時の歯車があった。霧の湖といい、時の歯車がある場所はかなり常識を超えたダンジョンにある...ということか」とバビル。その声に対し、イーブルが「そうです」と反応した。

「霧の湖にはユクシー、流砂の洞窟にはエムリットが守っていた。あなたたちはもう1匹、時の歯車を護る伝説のポケモンがらいるのをご存知でしょうか」
「聞いたことあります。確かユクシー、エムリットそしてもう1匹はアグノム...だと」と、リン。
「そうです。もう1匹のアグノムがいる場所に時の歯車がある可能性は非常に高いです」
「でも、俺たちがアグノムのことを知っているぐらいだから、ベルディオたちもアグノムのことを知っている可能性も高い。つまりアグノムはもう狙われてるんじゃねえか?」と俺。
「そのアグノムがいると思われる場所に既にギルドは動いているよ」

 親方ファルヤが初めて声をあげた。

「『水晶の洞窟』。昨日トゥーヤたちが調査をしたが空振りに終わった。だけど、ビダがその洞窟から綺麗な水晶を持ち帰ったんだよ」
「その水晶がどうかしたのか?」
「グランが気づいたんだ。『この水晶から異様な波導を感じた』ってね。リオルの進化後であるルカリオという種族は生き物から波導...生命の流れのようなものを感知することができる。だが、生命体でないはずの水晶から波導を感じたらしいんだ。」
「じゃあもしかして...」
「そう。今はグランたちチームフィオーレが水晶の洞窟への探索へ向かっている」


 今朝のやりとりを思い出した。北の砂漠への探索を誘った時、グランは「用事がある」と言って俺の誘いを断った。

(あれはそういう意味だったのか...)

「私から1つ提案があるんですが...」

 イーブルが声をあげた。

「ルシャさん。この水晶に触れていただけませんでしょうか。あなたの時空の叫びの能力を使えば、時の歯車について何か見えるかもしれません」
(時空の叫び...そうか。時の歯車に関係する映像...音声か)

 提案を受け入れた。だが、周りのヤツらはイーブルの言っている意味がわからなかった。

「な、なあ...時空の叫び?って、なんだよ?」
「ルシャが持ってる能力のこと。物や人に触れると、触ったものの過去や未来に関する映像を見ることができるんだよ」

 なんでお前が誇らしそうなんだ。でも、初めて聞く人からするとびっくりすることだろう。だって、そんな特性なんて存在しないし。

「ですのでビダさんの持つその水晶を貸していただけないでしょうか?」
「うー...そんなことなら、仕方ないでゲスね...」

 宝物にしていたつもりなのか、貸すことにやや抵抗を感じるビダ。俺は水晶を受け取った。
 もちろん、見た目は綺麗な水晶である。特殊なエネルギー波のようなものは何も感じない。

(好きな時に発動できるかっていえばそうでもないんだよな。でも、みんなこっち見てるし、見えなかったらデタラメだと思われ...)

 その時。視界が暗くなり意識が遠のいた。

(うっ...これ久しぶりだな...)




 青い妖精のようなポケモンが倒れている。
 緑のトカゲのようなポケモンが立っている。
 そこは水晶で創られた台地。反射した光が美しいが、どうやらそうも言っていられる状況じゃない。

「時の歯車を貰っていく。悪く思うな」
「ぐお...待て...時の歯車だけは...渡さねえ...」

 そこで映像は途切れた。





 現実に戻ると、皆が輪を描いて俺を覗き込んでいた。つまり俺は時空の叫びの発動と共に意識を失って倒れたのだ。

「どお?見えたの?」

ミラノが俺に尋ねる。

「ああ。水晶の洞窟...だっけか。確かに水晶だらけの場所だったな。それに...」
「それに?」

 思わず黙り込んだ。見えた映像はどう包み隠そうと不吉なものだったからだ。口にすれば、みんなどんな反応をするか...

(時の歯車を貰っていく)

 皆の顔色を伺った。とりあえず、伝えないことには始まらない。悪い空気になることを承知して、俺は口を開いた。

「ベルディオがアグノムと思われるポケモンを倒して時の歯車を奪おうとしていた」

どうだ。みんなの反応は。...やはり、明るくなるはずはない。でも、慌てたり絶望してる様子でもない。

「そ...それは、過去なのか?未来なのか?」
「!」

答えられなかった。俺は首を横に振った。

「そ、そっか〜...」
「す、すまねえな...」

 言われてみれば、時空の叫びの映像を見たその時に、その映像が過去か未来かを判別できるかと言われれば、それは無理だ。ムーンや滝壺の洞窟の時は状況が状況だし、過去か未来かは大体わかる。
 だが、グラードンの石像や今回のように過去か未来か判別できないものもある。

「も、もしアグノムが倒された映像が本物ならば...それはもうて、手遅れってことなのかい!?」

 ペルの一言で辺りがざわざわとなった。今更気づいたが、ギルドの弟子全員、俺の時空の叫びを信じている。「未来と過去のどちらかが見えます」なんていきなり言われても疑う奴が過半数だろうと思ってた。それほどギルドの弟子は純粋な奴らが多いのか、それとも、それほどまでに余裕がないのだろうか...。

「みなさん落ち着いてください!確かに時の歯車が盗まれた映像が過去の可能性だってあります。でも未来の映像、まだ未遂の可能性だってあるのです!」
「イ、イーブルさん...」
「ルシャさん。エムリットさんは霧の湖の時の歯車が盗まれたことを知っていたんですよね?」
「ああ。ユクシーからテレパシーで聞いてたんだと」
「テ、テレパシーですって...!?」

なんだ。そんな驚くことか?エスパータイプのポケモン、それも伝説のポケモンだし、テレパシーぐらいポケモンの世界では当然だと思っていたが...。

「ユクシーから?では、会話の中にアグノムの名は出てきましたか?」
「いや。アグノムの名はギルドに帰ってきてあなたから初めて知ったくらいだ」
「そうですか。なら、未遂の可能性はあります!みなさん、よく聞いてください。エムリットはユクシーから時の歯車が盗まれたことを聞いていた。でも...」
「アグノムの時の歯車に関する情報は聞かされていない、つまり、水晶の洞窟の時の歯車にはまだ異変がない...ということか?」

俺とイーブルの推理に一同が「おおっ!」と声をあげた。

「よし!それなら、水晶の洞窟へ!...って」
「言いたいとこなんでゲスが...」

...ぐぅ。

 そう。もう夜なのである。ひとまず、晩飯。水晶の洞窟は明日ということになった。




 ただ、その水晶の洞窟の探索に向かっているグランたちは飯が食えるほど余裕ではない。
 未知との遭遇、という表現は大袈裟すぎるが、今まさに得体の知れない者とグランたちは対峙していた。

「...『この先に進むことをやめてほしい』だ?どちらさまか知らねーが、とりあえず進んじゃいけねえ理由を教えてもらおうか」
「お前達が知って得する理由などない。こちら側の事情なのだ。すまないが、退いてもらおうか」

 ダンジョンの探索中、ふと目の前に現れた『エルレイド』。ダンジョンを縄張りとする野良ポケモンではないことはグランは理解している。

「じゃあ1つ聞きたいんだけど、この先に時の歯車はあるかしら?私達はそれを確かめに来たの」とルナ。
「ある。だが、それを一体どうしたいんだ?」
(...!やっぱりあの水晶から感じた波導は間違っていなかったのか...!)
「時の歯車を盗もうとする輩がいるのよね最近。だから、その悪者を待ち伏せして討つの」

 ルナが正義の味方ぶったふふんとした笑顔を見せる。エルレイドの落ち着いた表情は変わらない。

「時の歯車を、盗もうとする...か」


「ん?」

 エルレイドが急に黙った。言葉を考えてる様子にも見えない。

「どうした?まさか、知っているのか?時の歯車を盗み続ける奴を」
「...それは俺の事だが?」


 グランはエルレイドを思い切り殴り飛ばした。どかんと大きな音を立て、エルレイドは水晶が所々に埋まった岩壁に身体を強くうった。

「ちょ、グラン!」
「...おい、今のは戯言か?時の歯車を盗むのはジュプトルだと聞いているが」
「ってて。ジュプトルって種族名は正解だが、名前はベルディオだ」
「ベルディオ?」
「なんだ。名前も知らない奴を指名手配にしてたのか。まあ俺はベルディオとグルっていうわけだ」
「こ、こいつ...!」

 ルナとジュアも身を構えた。エルレイドはすっくと立ち上がり、ぱしぱしと体に付いた砂を払った。

「名前はなんていうんだ。そのベルディオって奴と共に指名手配にしてやる」
「『ヴァン・スタルヒン』懸賞額は多めで頼むよ」
「そんな事言ってられるのも今のうちだぜ...!!」

 寝静まったギルド。しかし、ギルドの戦いは深夜でも終わらない。


                そして、この戦いを境に、時の歯車を巡る争いの戦局が変わり始める_______

■筆者メッセージ
ルシャにcvがつくとした、朴璐美さんがいいなあ。
クールなちびキャラ的な意味で。

アサシオ ( 2019/01/28(月) 22:54 )