ポケモン不思議のダンジョン  Destiny story






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第3部 新たな世界
45 GENKIN
「さて…またこのピラミッドとやらに来たが…」
「何かありそうで…ないよね」
「いや、ないはずはない。昨日は見つけきれなかっただけであって。…でなけりゃこの文字を刻む意味はない」

 昨日来た北の砂漠のピラミッド。そしてその最奥部の部屋が今の俺たちの現在地。ルシャもミラノも昨日見た壁に刻まれた文字に顔をしかめる。
 今日もルシャとミラノの2人に加え、グランとジュア、ルナの3人…ではなく。

「これが例の文字だ。なんかわかるかー?」

 ルシャが後ろを振り向き、そう問いかけた。問いかけた相手は。

「んー。この文字自体には見覚えがあるわ。でも、私は解読はできないわよ」
「そうか…お前でも無理か」

 お嬢様のように喋るアリス。今までどちらかといえば敵視していたアリスが今回はパーティに加わることになった。
 それは今日の朝に遡る。



「今日もジュプトル捕獲に全力を尽くせ!…と、言いたいところだが…」

 弟子の皆を活気づけさせるために行っている朝礼だが、今日は少し元気がない。元気、というよりは戸惑いだろうか。声のボリュームが落ちていくとともに、ペルの顔に戸惑いの色が滲み出た。それを見て、弟子のみんなも顔を見合わせた。

(まぁ…昨日の作戦、見事にカラぶったもんなぁ)

 時の歯車があるだろうとイーブルが推測したダンジョンは、調査の結果見事に全て無かった。ジュプトル逮捕に一歩前進…と意気込んでいたギルドは意気消沈だ。

「ま、今日はフリーとする。時の歯車について調べるのもいいし、依頼をこなすことも任せる。今日は以上だ」


 この言葉で、みな散っていった。時の歯車についての収穫もなかったし、今日はみんな依頼をこなしながら情報を待つという形をとるだろう。
 だが、俺たちは違う。

「ミラノー。今日も砂漠行くぞ」
「…ふぇ?」
(こいつも依頼する気だったのかよ…昨日のアレ気にかかってねーのか?)

 昨日のアレ。とは、未解読に終わった北の砂漠のピラミッドの最奥部にあった、文字の事だ。根拠は全くないが、あれを時の歯車と無関係に終わらせることはできない。

「なーにが『ふぇ?』だ。北の砂漠の調査終わってねーぞ」
「あー、うん、ピラミッド…ね」
「…起きろ」
「ふわぁ!?」

 ほっぺに超微弱電流を流してみると、ミラノはビクンと体を震わせた。どうやら起きた様だ。慌てた様子で「ピラミッドね」と「うん」を繰り返すミラノ。どうやら話を聞いてないようで。

「おーいグラン。お願いがあるんだが、今日も北の砂漠の調査に…」
「すまん。こちらにも用事があるんだ。同行はまた別の日に」
「…用事って、時の歯車?」
「ああ」

なるほど。時の歯車について調べて抜け駆けしようとしているのは俺たちだけではないらしい。確かにグランたちはやりかねない。対抗心のようなものが湧き出始めた。

「...あの。そんなにグランを睨んでどうしたの」
「よっし。負けてらんねえぞミラノ!行くぞぉ!」
「ちょ!?待っ...じゃ、じゃーねールナたち!」 

やる気と勢いで我ながら元気よくハシゴを登ろうとしたその時、耳を貫き脳に響くほどの大きな声で呼び止められた。

「うぉおいルシャとミラノ!!!!今から出るのか!!?お前らに客だ!!!入口で待ってるとよォ!!!!」
「だーもううるさぁぁい!!!室内ぐらいせめて声を抑えんか!!」
「す、すまねぇペル...」



「...俺たちに、客...?」

そういえばこの前も客が来た気がするマリナたちだったか。またあの兄弟が何かしでかしたのか、しょうがないなと思いながらハシゴを登っていく。
 しかし、予想だにしない者が入口で俺たちを待っていた。

「ア...アリス!?」
「やっほ。朝からコワい顔するねぇ。昨日は寝付けなかったかしら?」
「関係ねーだろ...って、なんでお前がここにいる!?」
「ねールシャ。この人ダレ?」

何故ミラノは少し好奇心を持った目をしてるんだ。...そうか、そういえばエーフィはイーブイの進化系だったな。
 そういえばミラノはアリスと関わりがない。熱水の洞窟で一瞬目にしただけだが、どうやら一瞬すぎて記憶にはないようだ。


「ああ...俺もよくわかんねえんだ。悪いやつかもしれねえ」
「ちょっと。あんたたちに危害加えた記憶もないし、むしろ命の恩人なんですけど。...まあそれを言いに来たんじゃないや。ヴァンいる?」
「...誰だよ?」

ヴァン。またこいつの口から訳の分からん単語が飛び出た。会う度妙なこと言ってるような記憶がある。所在を訊いてるのだから、おそらくヴァンはポケモンなのだろう。

「あれ?そっちのギルドの弟子だよ?まだ帰ってきてないの?」
「は?ウチのギルドにそんな名前はいないぞ。それに帰ってきてないって、皆今から仕事に出かけていく時間だぞ」
「まー、いっか。よし、ルシャ!一緒に時の歯車でも探しに行くわよ!」
「すげーな。堂々の無視かよ。しかもなんで時の歯車なんてこと...」
「あれ?君たちのギルドは今時の歯車を探すなんてことをしてるんじゃないの?」

ヴァンという野郎についての問いはガン無視。続いて俺たちのギルドの近況を何故アリスが知っているのか。こいつの得体が知れなさすぎてますます頭がおかしくなりそうだ。

「...ふぇぇ?」

...隣の相方が既に頭がおかしくなってる。おいてけぼり、か。

「ま、まあそんなとこだ。これから北の砂漠に向かうんだが…」
「あーそこ?そこなら時の歯車あるよ。なんで知ってるの?」
「「...は!!?」」

ちょっと待て。こいつ今なんつった。時の歯車がある?
ということはこいつは北の砂漠の時の歯車を実際に目にしたのか?
ピラミッドの謎も解いたのか?あの壁文字も解読済みか?
第一なんで時の歯車についてこんな放浪者のようなやつが知ってるんだ?

「なんでそんなに慌てるのさ...あ、もしかして今から時の歯車を見つけるからネタバレは余計なお世話だったかしら?」
「「そういう問題じゃない(わよ)!!!」」
「こ、怖いなァこのカップル。付いて行ってもいいわよ。北の砂漠に」
「カ、カップルだぁ!?」

隣で何かがぼしゅんと音を立てた気がするが空耳としておこう。

「危害は加えないと約束するわ。貴方達のためでもあるし、何より時の歯車の情報は貴方達だけでなくギルドが欲しがることでしょ?」
「...探検の同行の依頼として受け取るが?」
「あらァGENKINな子。わかったわ報酬は5000ポケでどうかしら?」
「はっ。話がわかるなお前。俺達はトレジャータウンで準備をしておく。先に行っておいてくれ」
「わかったわ」
「カ、カップル...」

隣で沸騰する音も聞こえるが空耳としておこう。
俺たちはトレジャータウンに、アリスは北の砂漠へひと足早く向かった。気がかりな言葉が幾つか会話の中にあったが、それは北の砂漠で聞くことにしよう。





「...ヴァン?」

そう呟いたのは、見張り穴から2人の会話を聞いていた見張り番のディグダ______ジーラ____だった。










 そんなこんなで、現在北の砂漠のピラミッドまでたどり着いた。
やはり2度来ても謎は解けぬままだ。

「でも、この先への進み方なら知ってるわよ」
「え?この先に続きがあるの?」

目の前を見ても此処が行き止まりだということを示す一面の壁と、複数の流砂しか見当たらない。まさかとは思うが。ミラノが俺の気持ちを代弁するように、不安そうに口を開いた。

「まさかアリスさん...あの流砂に突っ込むとか言わないですよね?」
「勘がいいねー。その通りよ」

そういうとアリスは念力で俺達の体を宙に浮かせた。もちろん、逃げることなんてできない。
そしてアリス自ら流砂の中に入り、それに引っ張られるように俺たちは流砂の中に連れ込まれた。

「なっ...ちょっと待てこのバうぉぉぉあああああ」
「きぃゃああああぁぁぁ」
「あーっはっはっは!たーのしたのしーぃ!」
「てめえーだけ余裕持ちやがってこのぼぼばはぁぼっ」

砂が口の中に入って言葉がかき消される。てか口の中がめちゃくちゃ気持ち悪い。
ガキの頃にずっこけてうっかり砂を口の中に入れるなんてのは、ある人にはあるだろうが、ここでは「入る」より「流れ込む」という表現が正しいだろう。

20秒ほど流されていると、どすんと腰に何かをぶつけた感触が走った。

「いったぁ...体毛に砂が絡んで気持ちワル...って、ルシャとアリスさんは?」
「おー。俺ならここだ。俺たち流砂の中に入って、そして...」
「落ちた先がここよ。言ったでしょ?時の歯車はここにある。あんな大事なものを普通のダンジョンに隠さないでしょ普通」
「普通のダンジョン...?じゃあここから先はなんなの...?」
「そんな怖気づかないでよーミラノちゃーん。別に此処に入ったからって祟りにあうわけじゃないわ。でも、気をつけなさい。ここから先は時の歯車に近付けまいとポケモン達が襲ってくる。...ルシャなら大丈夫よね?」

何故俺に振ったし。別に北の砂漠の探索から見てアリスも弱くない。いや、かなり強い部類に入る。俺に頼らなくたっていいだろ。タイプ相性も悪いし。

...まー。一応答えておくか。

「大丈夫に決まってるだろ。馬鹿にしてんのか」
「...それが聞けて安心したわ」
「このやりとりベタすぎね?」
「危機を乗り越えたわけでもないのに、かっこいいセリフあるのかしら?」
「......ねえな」

俺達は流砂の洞窟へと足を踏み入れた。

■筆者メッセージ
最近、少年マ○ジンの看板と言われてる漫画(完結)を読んでるですが、ジュアと被ってるキャラがいますね。水といい名前といい。でも似せる気はなかったんです。許してぴょん。
アサシオ ( 2018/11/23(金) 21:27 )