ポケモン不思議のダンジョン  Destiny story






小説トップ
第3部 新たな世界
44 親方よりも強い弟子
 
場は変わり、ギルド_____


「ちっ…くそったれめ…!」
 
 いつも難しい顔をしているペルがいつも以上に顔をしかめ、椅子に座っている。そして机をバンと叩き、怒りをあらわにした。まぁ、翼なんだから、ふぁさっと優しい羽音が鳴っただけ。それに反応したのは見張り番のバビル。

「…いったい何をそんなに」
「やっぱ金が入らないとやっていけねェだろう!!」
「今の世間で起こっていることを見直してもう一度そのセリフを言ってみな」
「ぐ…」

 バビルはペルの怒りなどそっちのけ。そもそも今は昼。掲示板の用で出入りするポケモンは朝でみな出ていった。別に特別な来客がある気配も無いので、バビルは仕事中とはいえ非常に暇だ。それと対称的に金しか考えてないクソ鳥。

(こんなやつがうちの経営者でいいのか…?)

 バビルだけでなく、他の弟子もうすうす思っていることである。しかし、知識と傲慢さが働いたリーダーシップは本物なので、ギルドの副総長として成り立っているわけだ。

「まぁ、金はいいとして…まずジュプトルの件を早急に解決せねばならん。探索班がうまくやってくれればいいが…」
「そうカンタンにいくかぁ?いっそのこと親方様が出た方がいいんじゃねーの?」
「親方様もああみえてやることはあるのだ!」
(ああみえてって…お前も軽く見下してるじゃねえか)

 ファルヤがギルド総長としての仕事がなんなのかはペルを含めギルド内のポケモン全員わからない。『ポケモン探検隊連盟』やらの仕事があったりなかったりだとか。

「グへへへへ。そりゃあうちの戦力の問題じゃぁないですかぁい?」
「それを言ったらおしまいだろうよ…ゲルガ」

 ゲルガ。種族、グレッグル。ギルド地下2階にある『グレッグルのトレード店』を店長兼ギルドの弟子。バビルと同じく客が来ないため非常に退屈そうである。

「…他のギルドに比べて、小粒だからな…ウチは」
「サフラとファルヤさんだけじゃないですかぃ?グへへへへ」
「わしを忘れてはほしくないな」

 ファルヤがあまりにも強すぎるため、このギルドはそこそこ名が知れ渡っているらしいのだが、逆を言えばファルヤ以外の戦力はサフラとグランチームぐらいしかいないらしい。仮にギルド同士の抗争になれば、頭一つだけのギルドは簡単にやられてしまう…そもそも、うちの近辺にギルドがないから助かっている。と、ペルは話す。


「…『ヴァン』がいればな。ジュプトルの件なぞ簡単に片付きそうなんだがな」

 ペルがそう呟いた。それと同時に、今までのイライラも治まってきた様子だ。ペルの口から出た名前に、ゲルガとバビルは疑問符を浮かべた。

「ヴァン?誰だそいつは。グへへ」
「なんだ。知らないのか。うちのギルドの弟子のひとりだが」
「へっ…?聞いたことないぞ」
「…ヴァンは私たちが寝ている深夜にいつも帰ってきているらしい。朝の朝礼に姿を見せないが、それはもう依頼に出かけているのだ。それは親方様も承諾済みだ」
「なんでアリなんだ?それが」

 バビルがそう聞くと、ペルは目を瞑り、俯いた。どうやら言葉に迷っているようだが、やがて顔をあげた。

「…“強すぎる”んだ。ヴァンは」
「へっ…?」

 強すぎる、という理由。バビルもゲルガも同じ反応をした。

「親方様よりも強いのだ。だからヴァンだけは個人行動を許されてるのだ」
「お、親方様より強いだと…!?そんなデタラメな話が…」
「実際に一度、戦ってるのだ。そして親方様は負けた。だが、ヴァンは『人の上に立つべき者は実力じゃなく、器で決まる』と言って、そのまま弟子の立場にある。…だが」
「だが?」

 ペルがまたうーんと黙った。さっき俯いた時より顔をしかめている。そして、顔を上げる。が、その顔は少し困った顔にも見える。

「…私も見たことないのだ。ヴァンという弟子を」
「はあ?じゃあ、今までの話しはなんだったんだ?」
「すべて親方様から聞いた話だ。さっきも言ったが、私たちが寝ている深夜に、しかも稀にしか帰ってこないらしい。…すべて聞いた話だから信ぴょう性に自信はないんだがな…」

 ゲルガはふーんとした表情は変わらない。だが、他の事に興味を持たないゲルガがここまで他人の話に聞き入るのも珍しい。バビルは驚いた表情が変わらない。

「…親方様より強いだなんて…一度会ってみてぇもんだ…」
「奴が表に顔を出せば、ジュプトルの件もすぐに終わりそうなんだがな…会ったこともない者の意思など、こちらがわかるはずもないが…」

 ヴァンという名前は、バビルとゲルガの頭にしっかりと刻み込まれた。





















______北の砂漠 調査班___

 どうやら侵入時の警戒は杞憂だったようだ。ピラミッドの内部はダンジョンではなく、ただの通路だった。ただ、ポケモンが誰も居ないのに、壁に掛けられた松明に火が灯っているということが、不気味に思う気持ちを無くしてくれない。

「だいたいよー。なんの目的で建てられたんだこれ?」
「さぁな。深く探索すれば重要な何かが見つかるはずだ」
「壁のボロさ具合を見る限り、最近建てられたものではなさそうね。何か昔の祭りや儀式の跡地だとか…くぅー!わくわくするわねーこういうの!」
「ルナもうちょい声抑えろ。通路は響くんだ」

 確か、昔の王様のお墓だという記憶があるのだが、それを口にしたところでじゃあ誰のお墓なのかと返されると、そこで話は終わる。そもそも、この世界に死者を崇める概念なんてあるんだろうか…
 もしかしたら、人間の世界と建てられた目的が違うのかもしれない。例えば、大切な何かを護るためのものだったり…時の歯車だとか。

 ダンジョンでもなければ、分かれ道もないただの一本道。霧の湖と違って、意外とすんなり時の歯車が発見できれば…そんなことはただの甘い考え。
 一人の敵とも遭遇することなく、一行はついに最深部らしきところまできた。
 
 そこに広がるのは、かなり広い空間。その先に道はなく、行き止まり。石で敷き詰められた道は終わり、その部屋だけなぜか流砂がいくつもあった。そして俺たちは、行き止まりのの壁に刻まれた文字に釘付けになった。

「この文字は…見たことないわ」

 この世界で使われてるのは『足形文字』。だが、その壁にはこの世界には存在しないはずの『アルファベット』がしっかりと刻み込まれていた。

UJNF BOU TQBDF . DROOFDUJPO IPMF

 その文字列がが何を意味しているのかは、グランたちはもちろん、元人間のルシャですら全く理解できなかった。

「…とにかく、ここで行き止まりらしいな。時の歯車の確認はできなかったんだ。あの文字を解くには時間がかかるだろうし、いったんここで引き揚げよう」

 壁に刻まれた文字に謎を抱きつつも、俺たちは報告をしなければならないため、ギルドへ戻ることになった。


 ギルドに帰ってみると、他の班も時の歯車の確認は未達成に終わっていた。手がかりすらも…

「そうこうしてるうちによォ。ジュプトルがまた現れちまうぜヘイヘイ!」
「でも、手掛かりすら掴めなかったんですわ。今日はもう遅いですし…また明日、ということですわ。切り替えていきましょ」

 サフラの一言で、みんな少しだけ前を向けた。手がかりすら見つけられなかったというのは事実だが、また明日、という希望をもって…



























アサシオ ( 2018/09/15(土) 20:01 )