43 北の砂漠へ
「じゃあ、ルシャとミラノ。それからグラン、ルナ、ジュアは『北の砂漠』の調査を頼む」
そう言ったのはペル。
日が明け、現在朝礼中。イーブルの知識をもとに、時の歯車がありそうな場所に目星をつけ、弟子たちが分かれて調査をするという形をとる。
北の砂漠。その他に『水晶の洞窟』と『東の森』の探索が他班に任された。
「きたの…さばく?」
「そうだ。ちょいと地図を貸してくれ」
ペルは地図の北西の部分を指した。砂漠らしき黄土色の部分があるが、その上に雲が覆い隠し、ほぼ見えない。霧の湖と同じく、まだ未開拓の場所なのか。
「ここは危険すぎるが故に立ち入る者が少なく、全貌が明らかになっていない…そのため、このように雲で隠れているのだ」
「予想的中か…未開の場所を俺たち新人に探索しろと」
「そこまでの信頼があるってことだ」
乗せるのがうまいなあと思ったが、ミラノに「信頼されてるのはグランたちよ」とこそりと言われたので、ああ、そういうことかと納得した。
とりあえず、危険な場所に変わりはないので、トレジャータウンでみっちりと準備を済ませていくことにした。
_____トレジャータウン 中央広場_____
「おう。今日は頼むぜ」
「砂漠だから相性悪いもんな。まぁ頑張るわ」
俺たち班は2チーム合同の探索のため、トレジャーバッグは2つ。普段ぎゅうぎゅうで入らなかったものも普通に入る。
「今日は…すいません『あめ玉』と『てきしばり玉』を2つ」
「飴なんてあるんだな」
「『雨玉』だバカめ。不思議玉知らないのか?」
「…使ったことはない」
そういうとグランたちは呆気にとられた顔をした。不思議玉とは、その名の通り玉の種類に応じて不思議な現象を起こすことができるらしい。『雨玉』はそのフロアに強制的に雨を降らすことができる。『敵縛り玉』は、同じ部屋にいる敵のポケモンを一時的に全く身動きがとれなくする。
「攻撃に触れた敵は縛りが解けるから、一体ずつ倒すこと。複数の敵を同時に攻撃して、一気に硬直を解いたら惨事になるからな。全員一撃で倒すのならそれでいいが」
「使わずにエレキ平原突破したわけ?運がいいわねぇ」
言い返す言葉ない。だって今までモンスターハウスなんて遭わなかったし。グラードン倒したし。関係ないけど。
「北の砂漠はモンスターハウスの発生は十分ありえる。自身の戦闘能力ももちろんだが、まずは対策するための道具だ。個々の実力じゃあ簡単に踏破できないダンジョンになってくる」
タイプ相性は悪い。だからこそ、使う道具を万全に、大切に。
「ここが入口ね…こんな自然もないとこに時の歯車なんてあるのかしら?」
「砂漠も十分自然の1つだ」
どこを向いても視界に緑色が入らない。あるのは広大な砂地と岩のみ。ルナが不安の声をこぼしたが、みんな同じことを思っている。
砂漠と聞いて連想する強い日差しはここにはないことは幸いだ。普通に雲もあり、乾燥した空気の為、影は非常に涼しい。
砂漠に出現するのは、主に岩・地面・鋼タイプ。ただ、俺とルナは地面タイプが苦手、ルナは岩タイプも苦手である。ルナの炎技は一応通じる相手もいるが、俺の場合電気は地面タイプに一切通らない。岩と鋼には一応等倍だが、岩と鋼は地面を複合してる敵も多い。岩と鋼はグラン、地面はジュアに始末してもらう。PP切れも考えてピーピーマックスも多めに持参した。
タイプ相性がカギとなっている今回の探索だが、ノーマルタイプのミラノの影が薄くなっていると思えばそうではない。種族上、ミラノは俺たちの中で一番耳が良い(大きい)ため、危険の察知は非常に早い。
「ミラノが敵を見つけ、それを俺たちが片付ける。行くぞ」
(電気タイプの俺一番出番なくないか…?)
あくまで今回の目的は『レベルアップ』ではなく『最深部へ到達すること』。無駄な力試しはする必要ない。安全第一。
その策は上手くいった。というより3人が強い。グランとジュアはタイプ相性的に言うまでもない。一番驚いたのはルナだ。岩・鋼タイプのコドラを炎技一撃で倒したのだ。4分の1にまで軽減されるにも関わらず。
モンスターハウスも発生せず、特に大きな危険もなく順調に探索は進んでいった。
無事、ダンジョンも抜けた。しかし、そこにあったのは。
「うおお…」
目の前に現れたのは超巨大な四角錘の建造物。だが、自分の身長と同じくらいの高さの直方体をした岩が煉瓦状に並べられてできている。
「こんな建物…みたことねぇ」
「いや、俺はあるな。あるんだけどよ…」
「えっ?」
人間の記憶があった。間違いなく『ピラミッド』。どういう目的で建てられたのかは忘れたが、少なくともポケモンの世界でピラミッドが建つ意味はない。人間の世界に存在するはずのピラミッドが、一体何のためにポケモンの世界に…
「ねぇ!あっちに入口があるよ!入ってみよう!」
「よし、行くぞ!」
俺たちは探検家だ。どういう場所かわからなければ、行ってこの目で確かめるのが俺たちの使命。そして、時の歯車はあの四角錘の中にあるのだろうか。
俺たちはピラミッドの中へと足を踏み入れた_______