41 空の異変
「今日は遅かったな」
「まあな。いろいろあって」
ギルドの前の十字路で、グランたちとばったり会った。普段は空が赤い頃に帰ってくるが、今日はもうすっかり暗い空。エレキ平原は全部で20階とこれまでのダンジョンで最長だった。プラス対ライボルト一族。あっという間にすぎた日中だが、これだけいろいろやれば帰る時間も遅くなる。
ライボルトは最後の一撃を受けたあと再び立ち上がり、最後の力を振り絞ってこちらにフルパワーの攻撃を放った。不意をつかれた俺だが、イーブルが飛び入り乱入し、その攻撃を受け止めた。そのあとイーブルはライボルトを説得し、俺たちは一時的に縄張りへの侵入を許可された。その時にはもうミラノは起き上がっていたが、それと入れかわるようにアリスはもうこの場にはいなかった。
やはり犯人はドクローズ。当然というか、やっぱりなという気持ちだった。決着をつけるべきだと思い身構えたが、激しい戦闘の後だったので、もう戦う気も起きなかった。というかあいつらがイーブルを前に逃げた。今回も無事に収束したが、ドクローズが絡むのはこれが最後ではない…と、俺は思う。
「やっほールナ!」
「やっほ!体ボロボロだよ?しっかり休んでよねー遠征明けだからやる気があがるとはいえ」
「そういえば、あの兄弟が…」
ジュアによると明日の朝、カクレオン商店前で、水のフロートを渡してほしいと言い渡されたらしい。もう今日は遅いし、また明日ということだ。
朝礼を終え、言われた通り、カクレオン商店の前に来ると、マリナとリルがもう待っていた。そのわきにはイーブルもいた。
「ほらよ。もう無くしたりしないようにな」
「本当にありがとうございます。この前のリルがさらわれた時も…本当に、本当にありがとうございます!」
せいいっぱいの言葉で感謝の気持ちを伝えるマリナ。ムーンのことを言われて思い出したが、たった2週間経ってるか経ってないか前の出来事である。もうそんな昔のようなことに感じるようになった。
「まーたまたまよ…この前も犯人わかったのも夢を見て…」
「夢?なんでしょうかそれは」
夢、という言葉に反応したのはイーブル。
「あ!もしかしたらイーブルさんならわかるかな?何かに触れるとそれに関する未来や過去が見えるっていうものなんだけど」
「そっ、それは!!『時空の叫び』では!」
紳士的で冷静沈着なイーブルが初めて慌てる様子を見せた。声と腕を振るわせ、言葉を続ける。
「もしかして知ってるの!?じゃあ、聞いてみようよ!」
「へ?」
聞いてみるって…と、思ったがすぐにわかった。記憶を失くす前の、自分のこと。何かに触ることで過去や未来が見える能力を知ってるのも、イーブルだけだ。
俺たちはイーブルとともに海岸へ向かった。
「…なるほど。ここに倒れていたわけですか。そして、本人はここに辿り着くまでの記憶は一切ない…と」
海岸で俺が倒れている場所を見つめながら、イーブルはそう呟いた。
「うん。まぁもともとポケモンじゃなくてニンゲンだったらしいんだけどね」
「えっ!?人間!?」
やはりイーブルでも人間という生物を見たことはなさそうだ。時空の叫びのことを聞いたときと同じくらいの驚き方をした。
「でも、どこからどうみてもピカチュウですよ?」
「ポケモンになった理由はわかってないのよね…イーブルさんでもわかんないかぁ」
「…お名前は?」
「ルシャ・バークス、だ」
「何かわかるイーブルさん?」
イーブルは視線をそらした。海の方へ視線を向け、しばらく考え込んだあと、こう言った。
「…いや、残念ながらなにも…」
(…笑った?)
ヨノワールの種族は目と口がわかりづらい。見た目で感情を判断するのは難しいが、今のは確実にわかる。笑ったぞ今。
「でも、ルシャさんの夢の見る能力については存じています。『時空の叫び』と呼ばれるん能力。触れた物や人物の過去や未来が見えるという…何万のうちの1ほどの確率で持って生まれる能力だと…聞いたことがあります」
『時空の叫び』という能力の名前と、その能力を持つ俺が実はとても珍しい存在だということを初めて知った。能力の内容は俺とミラノの予想通りではあったが。
話はこれで終わり、ありがとうと言おうとした時、俺たちはある異変に気付いた。それは、空の異変。
「ん…何やらペリッパーが多く飛んでいますね。珍しい」
「ほんとだ…何かあったのかな」
さらに不思議なことに、そのペリッパーたちは皆、何やらバッグを持っているのだ。トレジャーバッグではない。ペリッパーたちは真上の空だけでなく、遠くの空にも確認できる。
その奇怪に思う気持ちを更に加速させるように、ビダが汗だくでこちらに駆け込んできた。
「おーい!ここにいたんでゲスね…ハァハァ…」
「どうしたの?そんなに慌てて。息もきらして…」
「プクリンのギルドの弟子全員に召集がかかっているでゲス!弟子は全員、ギルドに集まるようにと!」
「なに!?」
ビダはこれ以上は何も言わず、早足で戻っていった。それに付いて行くように、俺たちもギルドへ向かった。
やはり何か大変なことが起きたんだ。俺は走りながら前方に広がる空を飛ぶペリッパーを見ながらそう思った。