40 縄
_____ダンジョン中___
ミラノがラクライを倒し、その場にラクライが力なく倒れこむ。そこに俺はやや強い口調で「おい」と話しかけた。
「お前ら、明らかに他のポケモンとは違う敵対心を持ってるな。何故だ?」
お前『ら』とは、ラクライという種族に対して。他のポケモンとは違う敵対心とは。
ダンジョンを進んでいるうちに薄々気になっていた。プラスルやエレキッド系統などは、俺たちに対しては『ここら辺では見かけない変わったもの』と俺たちを捉え、自分の身を護るためのような戦いだった。しかし、ラクライだけ縄張り意識というか、『ここは俺たちの場所だ。荒らすんじゃない』と、俺たちを見るなり追っ払いに来る。
何が違うのか。自分の身だけを護るために戦うポケモン。自分の身を徹してまで、ここから先へは進ませまいと、こちらを見るなり敵意を剥き出しにしてくるポケモン。
「お前はこのエレキ平原に何の用だ…!?まさか荒らしに来たんなら…がっ…悪いことは言わねぇ。ここから先へは行くんじゃねぇ…」
荒らしに来た?いやいや。そんなつもりはない。でも、荒らしに来たのかと訊いてくる奴は大抵ここら辺の縄張りを荒らされて怒っている奴のセリフだ。
ならば、ここから先へ行くんじゃないという警告は。
「俺たちのボスにやられてえのなら行くがいいさ…。俺たちラクライはこのエレキ平原を荒らされないためにダンジョンは巡査しているのさ…」
「ボスがいるの?このエレキ平原一帯を?」
「ああ…ここを縄張りとする前、俺たちは強大な敵に遭い、見事に全滅を喰らった…そのため、うちのボスは非常に警戒心が強い。やられる前にやるっていうのが俺たち一族の掟だからな…もしかしたら、お前らの侵入も既に、勘づいているかもな…」
「なんだと?」
跳んだ勢いと遠心力を利用し、尻尾ビンタでライボルトの右頬を攻撃した。10メートル程離れた岩肌にライボルトの体は叩きつけられ、大きな砂煙があがった。
「ッヤロウ!よくも」
「させないっ」
仇討ちに襲い掛かってきたラクライをミラノが援護攻撃。体当たりでラクライは吹っ飛び動かなくなる。ライボルト含め、残り10体。
奴の側近なのだから、ダンジョン内での選りすぐりの護衛隊だと思っていたが、不意打ちとはいえ体当たり一発で落ちるとは、そこまで強くはないらしい。
「がっ!」
そんな余裕がある場合ではなかった。突然右腕に走る痛み。ライボルトの咬みつき。振り払おうと咄嗟に出した攻撃は、電撃だった。当然奴には効かない。
「はなれろこのっ!」
「ふぅんッ!」
咄嗟にミラノが横から体当たり。衝撃でライボルトは離れた。しかし、咬まれた場所は赤く痛々しく染まる。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
「後ろ!」
「言われなくてもっ」
背後に忍び寄るラクライ一体を、尻尾で倒した。だが、その後ろからもう一匹ラクライが。尻尾を大きく振ったせいで立て直せない。しかしそれをミラノがまたもや横からカバーする。だがまたもやそのミラノを狙ってラクライが電気ショックを撃った。
「ぐふっ…!」
「ミラノ!」
そのラクライを今度は俺が倒す。これでラクライの連続攻撃は終わった。これで、残るは4体。しかし、さっきの電気ショックによって今回の攻撃の中心であるミラノが麻痺してしまった。
「これで散れ!愚かな侵入者め」
次の攻撃はライボルト。その口には強い光が溜まり、徐々にそれは輝きを増していく。その輝きは決して美しいと形容することはできない。むしろ、焦燥感にかられる不吉な輝き。
その視線の先には、足が麻痺したミラノ。
(まずい!止めねぇと…)
しかし、自分の電撃は特性によって無効化されてしまう。だからといって体で止めに行くか。だがそれは自分の体がもつかどうか。
いったいどうすれば_____
「喰らぇえ」
ライボルトの口の輝きが一段と増す。それに、体が勝手に反応した。気づけば光線の軌道上にいた。
“放った”電撃が吸収されるなら…
“纏わせて”攻撃なら!!
「これならどうだァ!!」
「『チャージビーム』ッ!」
自分の出せる最大出力の電圧を右拳に溜め、放たれた光線を迎え撃った。まるで消防車の放水を片手一本で止めてるようだ。そんな経験人間の頃もないが。
(なんだ…右腕の力がどんどん…!?)
押し負けているのかと思ったが、そうではなかった。無情にも、纏わせた電気すらも避雷針に吸収されていったのだ。
素手の威力だけで技の威力など止められる筈がない。右腕は弾かれ、光線はミラノへ直撃し、大きく砂煙が上がった。
「ミラノ!!」
「ハーッハッハッハ!まずは1人…!囲め野郎ども」
「へへへっ…」
砂煙からミラノは出てこなかった。俺の周りをラクライとライボルトが囲む。野郎どもは、みな口角が上がっていた。もう、勝ち気でいるのか。そりゃそうか。相手は1人で、しかも電気技を封じられていて。
俺の中で、何かが解き放たれた気がした。ただ、ムーンと戦った時とは違う。まるで、今までずっと縄で縛られてて、今やっとそれに解放されたような感じ。それと同時に体中がふっと軽くなった。
(…不思議だ。体がすげぇ軽い。重りを外したみたいだ。ムーンの時とは違う。まるで俺じゃない誰かの体を乗っ取ったかのような…)
あの時俺は、パートナーがやられていくのを、縄に縛られ見てることしかできなかった。
俺は下を向き、目を閉じた。
「ふふふ…さぁここからどうするピカチュウ。お前らはここに来る奴らの中でもなかなか強かったが…大人しくここから去るんだな。さもなくば…」
前方からバチバチと音を立てるのが聞こえた。おそらく次で決めてくる気だろう。顏を挙げると、さっきのように口に光とエネルギーを溜めていた。
「…もう怖くねぇさ。来やがれ」
「覚悟ありか。ならばッ!『チャージビーム』ッ!!」
「『10万ボルト』ッ!!」
高圧の電流を束状にまとめ、両手で押し出すように放った。その光線は、チャージビームを打ち消し、ライボルトを貫いた。
「がっは…!!貴様…!どうやって、避雷針を…!!」
そのままライボルトは力なくゆっくり膝から崩れ落ちた。
「ラ、ライボルト様…!」
ボスが倒れたのを見た残党は、どこかへ逃げていった。残るは…0。
「わりぃな。ここに用があってよ…秒で済む用だが、お前の手下から聞くにゃ、お前らはやられる前にやるっていう掟があるそうな。力ずくでいくしかなかった。わりいな」
水のフロートを取りに行こうとした、その時。
「私もちょーど、君に用があったよ」
後ろから聞き覚えのある軽快な女性の声がした。ミラノでないことはわかる。後ろを振り返るとアリスが居た。…トレジャータウンでエレキ平原に行くということをこいつには話していないが。
「おつかれさま。どうしてここがわかったのかは後で話すよ。…やはり持っていたね。資質」
「何の資質だ」
「世に珍しい『化身』の能力…その赤い目は間違いない」
「赤い目だと…?」
もう俺の目はもとに戻っているらしいが、アリスが言うには最後の俺の目は外側から赤、黄色、そして瞳が黒色の目だったらしい。
そしてその時の俺の状態を『テラボルテージ』とアリスは言った。