38 手紙にまでも語尾
セカイイチの入荷予定が無いと聞いて、ペルはかなりがっかりした様子だった。結局、セカイイチが足りなくなったらリンゴの森まで採りに行かなければならないということは変わらないらしい。
あまりに悲しそうだったので、ミラノが自分たちが採ってこようかと提案したが、「まった前みたいな失敗、私はもうこりごりだよ!」と、優しさを怒りで返すクズっぷりを見せた。
なんならドクローズにでも頼んで来いクソ鳥が。
「まぁ、そう怒らずに…」
顔に出てたらしい。作り笑いでなだめてくるミラノ。
悪い機嫌のまま依頼を選び、ギルドを出る。特に大きな準備はしなくていい内容の依頼だったので、トレジャータウンには向かわず、そのままダンジョンへ向かう予定だった。
しかしギルドの入口を出た先、珍客と会った。
「あ、リルに、マリナ…だっけ?」
「はい!こんにちは!」
笑顔で挨拶するマリナ。隣には少しおどおどするリル。
リルの表情は、年上の俺たちを少し怖がってる…ような目ではない。『焦り』?
「どうしたの2人とも?弟子入り?」
「違うと思うぞ」
「いや…さっき話した水のフロートのことなんですけど」
そういえばそんなこと言っていたっけ。特に印象にも残っていなかったな。ついさっき話していたことだったのに。近くにイーブルがいたってことぐらいしか…。海岸?だったっけその水のフロートが落ちていた場所。
「海岸に行ったんですけど、フロートの代わりにこの手紙が…」
そういって手紙を取り出し、ミラノに手渡した。そういえばこの世界の文字が全く読めない。手紙の内容もわからない。
「『お前らの宝物はエレキ平原に放り込んだ。どうせよわっちーお前らにはとれねぇさ。どこかの強い探検家にでも頼んだらどうだ? クククッ』…だって…ってこれ、脅迫じゃないの?危ないよこれ!」
「俺らが行こう」
犯人わかるわこんなの。語尾を手紙に書くとはどれだけ頭の悪い奴らだ…。これはドクローズが出した俺たちへの挑戦状と受け取った。
「あ、ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「お姉ちゃんたちに任せておいて!必ずとってくるから!」
やる気に満ちる俺ら2人。遠征明け早々忙しいところだ。俺も「待ってろよ」とだけ言い残して足早に階段を駆け、十字路へ向かう。
その、十字路にいたのは。
「やぁ。奇遇だね」
「…え、あなた…」
『アリス・ルファウナ・デルタ』
俺より先にまず反応をしたのはミラノだった。まるで俺たちを待っていたかのように十字路の真ん中に座っている。ミラノは全く知らない反応だが思い返せばそりゃそうだ。
そういえばあの時アリスとまともにしゃべったのは俺だけだ。ミラノは一瞬目にかけただけ。
「…奇遇だと?俺を待っていたかのように立っている女の言い草か」
「せいかーい。よくわかってるじゃない」
笑顔で不気味なことを言いやがる。正解って、俺たちが来るのを待っていたというわけか。
「聞きたいことがいろいろあるが…まず、なんでここに来たのかを答えてもらおう」
「君の監視…かな」
俺の監視だと。俺は危険人物に特定されるような事をしたことはない。物に触ると稀にめまいを起こすというのはある意味おかしいかもしれないが。もしかしたら俺は記憶を失くす前に危険な行動をしたのか?
「まぁ、私は君を敵視する気など全くない。次からそういう喧嘩腰の口調はやめてくれないかね?」
「お前が俺の信頼を得られればの話しだがな!」
「…まだまだ時間がかかりそうだね」
「ねぇルシャ」
話の腰を折るように、今まで黙ってたミラノが話に割って入った。はっとし、自分が置かれている状況を思い出す。…水のフロート。
「行こうよ…今は水のフロートが優先だよ。後で話し合えばいいし…とりあえず、今はエレキ平原に向かおう!」
「そうだな…。今の話しがなんなのか私にはさっぱりだけど…話は、俺たちが依頼を完了させてから、だ。俺もお前を敵とはみなさない。だが、また話すときに妙なことでも企んでやがったら…」
「はいはい。まぁ、行ってらっしゃいな」
そういうとアリスはトレジャータウン側へと去っていった。その後ろ姿をじっと見つめていたが、やがて視線を変え、俺たちはエレキ平原へと足を進めていった。