ポケモン不思議のダンジョン  Destiny story






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第2部 戦いへの序章
32 待ち構えてる
「失せろこのっヤロウッ!!」

 ルシャの尻尾が鞭のようにしなり、やがて強烈な威力を秘めて叩きつける。威力抜群の『叩きつける』を抹消面から受けた『コロトック』は力なくその場に倒れこむ。

「なかなかの威力じゃねえか。物理技の種類と威力に欠けるピカチュウがそれほどの攻撃力を持てば、特殊に強い敵は心配なくなるぜ。」
「…水タイプのジュアが羨ましいよ。」

 少し疲れたルシャが地面に右ひざをつけながら、見上げるようにしてジュアに言った。
 『熱水の洞窟』。入口の裂け目の周りから蒸気が溢れるように噴き出ていたことと、その洞窟内に熱湯の水たまりがたびたび見られることから、俺たちはこの洞窟をそう呼ぶことにしていた。

「…何かを感じるんだよな。さっきから。」
「なにそれ?」
「身の毛がよだつというか…嫌な予感というか、強大な何かが俺たちを待ち構えてるように思えるんだ。」

 通路から出て、少し開けた部屋の角にあった階段へと歩いていく。

 階段を上ると、いつもと違う場所に出た。赤褐色の岩石や熱湯は変わらず、だが綺麗に円を描くような地形になっており、その円の中心にはガルーラ象が置かれてあった。

「…今までのダンジョンにこんなのあったっけぇ?」
「ない。おそらく、ここが中継地点だ。昔読んだ本に書いてあったことなんだが、整った場所があるダンジョンは普通じゃないらしい。」

 普通じゃないって言われてもな。ルシャはその言葉を軽くしか受け止めていなかった。
 しかし、ルシャはそう思った数十分後にその言葉の意味を重く知ることになるのである。


 熱水の洞窟を抜けた先に存在する、『霧の湖』−−−

「…また、愚者が塔を登っていますね…そういや、侵入者なんていつ以来でしょうか…」

 そう呟いた小さなポケモンは、眼を光らせて巨大な念力の塊を目の前に創りだした。紫色の不気味な塊は、まるで心臓が動いているかのように赤や青へ姿を変えながら大きくなったり小さくなったりした。

「さあ、行きなさい…」

 そう呟くと、命令を聞き入れたかのように、それはゆっくりと前へ前へと進んでいった。



「へーい!ここだぜへいへーい!!」

 場面は再び石像前に戻る。
 スアザがそう叫ぶと、ギルドのメンバーがこの指とまれをされたかのようにスアザに集合していく。
 スアザの後方にあった石像にさっそく情報屋のペルが興味をしめした。

「これか。グラードンの石像というものは。」
「何か知ってるかい!?」

 スアザにそう問われると、ペルはうーむと唸りながら俯いた。

「…先に行けばわかる!急ぐぞ!!」

 この場で解釈はせず、ペルは霧の湖の存在を優先させた。
 ペルの行動はギルドのメンバーからしてみればそう解釈されるかもしれない。しかし、ペルには考えがあった。

 一行がしばらく走っていると、やがてルシャたちが侵入した裂け目へと到達した。

「おい!この中から上に登れるぞ!!」
「声が大きいですわバビル!言われなくてもわかっていますわ!!」


 ギルドのメンバーがそうしている間に、ルシャたちは異様な場所へと辿り着いていた。


 ルシャたちのいる場所は一見ただの横幅が広い通路。怪しい物なんて何一つない。しかし、一行は恐怖に襲われている。

「…なんだろう…なにか、物凄い殺気を感じるというか、とてつもなく、嫌な予感がする…。」

 ミラノがそう呟くと、耳を塞ぎたくなるような遠吠えが一行の耳へと突き刺さった。



「…なぁペル。走りながら聞きたいんだけどよ、グラードンについて何か知ってるのか?」
「はぁ!?私は情報屋だぞ!?なめた口きくんじゃないよ!!」

 
 その遠吠えが轟く数分前、ギルドのメンバーもまた、源泉の洞窟を急いでいた。その理由があった。それは、ほんの数分前のこと、源泉の洞窟へと侵入するときであった。

「ぐぉぉぉぉぉぉ…」

 侵入しようとした際に聞こえたこの何かが遠くで叫んでいるかのような声。それは全員が気づいていた。

「き、聞こえたました!?」
「ああ。間違いなくこの上で何かが怒っている。とにかく、急がねば!」

 このときに聞こえた声。それが、ルシャたちが聞いた遠吠えだったのだ。

「…何か、来るぞ…。」

 何かの拍子のように、どしんどしんと地面が揺れる。いや、通路全体、もしくはこの源泉の洞窟すべてが揺れている。
 自然現象ではないことはルシャたちもすぐに理解した。それと同時に、何かが迫ってくる足音ということもすぐに理解した。


「へい!そのグラードンっていうのと戦ったらさ、どうなるんだ?」
「はぁ!?戦うだなんてとんでもない!!戦ったらそのポケモンは間違いなく死ぬ!それぐらい強いのだ!グラードンは!!」
「ひ、ひえ…。」

 そのとき、まさか洞窟の最深部で自分の言ったことが本当になるとは、ペルは予想もできなかった。


「! 何か来たぞ!!」

 グランが叫んだその先に謎の黒い影が現れた。やがて、真っ黒だったそれは徐々に光を受けて自らの体色をあらわにし始める。
 そして、みな同時に理解した。

「こ…こいつが、グラードン…。」
「…帰れッ!!」

 グラードンがいきなり火の玉を噴射してくる。完全に交渉するような気配はなく、興奮状態だということはすぐに理解した。

「…この先に行きたけりゃ、こいつを倒す以外に術はないな。」
「えっ!?まさか戦うの!?」
「そりゃそーさ。全員の力を合わせて、こいつを倒すッ!!」


VS最後の関門 グラードン

 ルシャが放った電撃と共に、戦いの火蓋が、今切って落とされた。



 






アサシオ ( 2016/05/30(月) 19:41 )