ポケモン不思議のダンジョン  Destiny story






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第2部 戦いへの序章
31 お見通しさっ。
 そういえば、こんな奴いたねぇー。

 ルシャがそう思ったのは、霧が晴れた直後に「待ってました」と言わんばかりに登場した『ドクローズ』の久しぶりの再会の時だった。

「へっ。謎を解いてもらえばこっちのもんさ。それじゃ、先へ進ませてもらうぜ!」
「やっぱお前ら旨いとこだけ貰おうとしてたか。最初から気づいてはいたが、まー言うのが遅かったわ」
「クククッ。そりゃそーさ。もうお前らは用済みさ。」

 完全に相手は上から目線である。スアザはこの状況が全く飲み込めない様子だった。グランはこいつらと関わりはないはずなのだが、流石というべきか、既にドクローズの陰謀を見抜いていた様子だった。

「遠()の邪魔だ。帰ってもらうぞ」
「それはどうかな?それとも忘れたのか。ギャラクシーは以前俺たちの毒ガススペシャルコンボに敗れていることを!」
(死んだふりしていたんだけどな)

 勘違いも大概にしろ。である。どっちにしろ、戦闘は免れない。両者既に戦闘態勢に入っていた。…が。

「待てやゴル゛ァァァアアア゛ア゛」
「「「!!?」」」

 バビルが来たのかと思えば、我がギルド親方ファルヤ乱入。転がるセカイイチを追いかけ猛ダッシュ。ちょうど俺たちとドクローズの間にファルヤが入ってくる。

「…何してるんスか。」
「あれ?グランに、ギャラクシーに、そして僕のお・と・も・だ・ち・♪」
(…親方はドクローズを友達認識してるんだな…考えがあるのか、それとも単なる馬鹿なのか…ってこと言葉にしたらヤバいんでここはぐっとこらえて…)
「…親方様。何故ここへ」

 ルシャの代わりに、ネブドが訊いてくれた。しかし、ファルヤの答えは『セカイイチが手から逃げ出した』で終わった。それ以上をルシャが訊こうとしたら、ファルヤがこう言った。

「ねえ。君たちは霧の湖の捜索係でしょ?ほら。先行ってほらほら。」
「えっ。でも、私たち…」
「親方の言うことが聞けないのかなぁ?プンプン」

 笑顔の奥に謎の殺意を感じたので、とりあえず先へ進むことにした。
 そして、石像の前にはドクローズの3人とファルヤだけが残る。

「あ、あのー親方様。私たちも捜索へ向かいたいのですが…」
「そんなぁ!友達に苦労はさせきれないよぉ」

 大袈裟なくらい恐縮にするファルヤ。ここまでは極普通のファルヤだった。
 





 しかし、次の瞬間。

ゴッ

 いきなりファルヤがゼビを殴った。いや、ファルヤは軽くはたいただけなのだが、殴り飛ばすと表現できるような『はたく』を超越した威力がゼビの顔面を襲い、叩きつけられるようにゼビは石像に張り付いた。

「いっ!!」

 まずいと思ったルドラもすぐさまファルヤの『はたく』を受けた。弾かれるかのように吹っ飛ばされたルドラは石像に当たることなく、その奥の茂みへと姿を消した。
 ネブドが視線を戻したとき、青くつぶらな瞳で、物凄い形相で睨み付けてくるファルヤの姿が見えた。
 
「みんなからの報告が来るまで、おねんねしてなよ。言うことを聞かないと、おしおきするよ?」
「あ…あ…」
 
 何故だろうか。ただ、1匹のプクリンが微笑んでいるだけなのに。
 ネブドはあまりの恐怖で足がすくみ、体が震え、冷や汗が流れた。目は泳ぎ、口はパクパクした。逃げることなんてとてもできなかった。

「あれぇ?寝なさいって言ったけどなぁ。しょうがないなぁ…」

 ヤバい。殺される。ネブドは心の底からそう思った。しかし…

「い、命だけは…」
「『(めっ)!』」

 凄まじい威力の『破壊光線』がゼロ距離で放たれた。その威力と爆風は、ネブドの肉体はおろか、その周辺の土や草花まで八つ裂きにした。無事なのは、石像だけだった。

「…僕のギルドを甘くみんなよ」

 その場に突っ伏す屍を見下し、ファルヤは強いような、優しいような口調でネブドへ言った。もちろん、聞こえるはずもないのだが…




「おーい!!」

 石像を離れ、いよいよ巨大岩石の中へと侵入するための入口を探していると、遠くからルシャたちを呼ぶ声がした。

「おー。ルナじゃん。」
「おいっ。てめーいつから先輩にタメ口を…」
「そういう場合じゃねえだろルナ。ルシャ、俺たちはギルドの中で一番探索が進んでいる。先を急ぐぞ。」

 そういうジュアの後ろでは、太陽が若干西の方角へと傾き始めていた。ベースキャンプに来て、もうこんな探索が進んでいたのか。ルシャはそう思った。

「夜になると夜行性の危険なポケモンが活動を始める。なるべくそのポケモンたちが動く前に湖へと到達しないといけないんだ。」
「ああ、そのことか。さっきガルーラ象と思わしき物をちらっと見たんだ。たぶん、そこが入口だろうな。」
「…早く言えよ」
「すまん…」

 まあ善は急げでしょっ!ルナの元気なその一言でルシャたちも意を固め、グランが見つけたガルーラ象へと歩んだ。
 意外にも割と近い場所にそれはあった。探し始めて3分、ガルーラ象が置かれ、その隣にはどうぞお入りくださいとでも言うような大きな裂け目があった。おそらくこれが入口だろう。

「なるほどな。内部から頂上を目指せってことか。」
「いや、頂上じゃなくもしかしたら洞窟内に湖があるかもよ!?」
「それだったらなんで『霧』をつけたんだよ。」

 ミラノも少し興奮している。探検隊では当たり前かもしれないが、一刻も早く幻の湖を見つけたがっていた。内心言うと、ルシャも少し思いがあった。
 
(…必ず、ユクシーに会って俺自身のの正体を暴いてやる…!)
「おーい、準備はいいか。」
「うぃーっす。復活の5個装備完了。」
「倒される気満々じゃねえか。」
「備えあれば嬉しいな」
「ルシャ。そこは憂いなし、な。」

 

「うーん…緊張してきたぁー♪」
「…そうだな。行くか」

 ルシャがそう言うと、みな裂け目へと足を踏み入れた。
 裂け目の周りからは、まるで湧いているかのように熱そうな蒸気が噴き出ていた。





アサシオ ( 2016/05/23(月) 21:25 )