28 『あたたかい石』
〜濃霧の森 入口〜
「道具の整理は終わったっけ?」
「あ、ごめん。忘れてた。今やろっか」
「もぅお。チームリーダーしっかりしてよ」
「悪い悪い。危ないとこだった…」
同時刻。濃霧の森の入口に置かれたガルーラ象で、ミラノとルシャが潜入前の最終確認を行っていた。
ルシャがトレジャーバッグに付けられた時計を見ると、【9時54分】と針が示していた。いつものトレジャータウンはこの時間はお日様が街を照らすのに。きっと、ここは年中霧に覆われているのだろう。そう思った。
ガルーラ像にツノ山で無駄に拾った道具を預けながら、視線を濃霧の森に繋がる道へと向けてみた。
「やっぱ…見えないな。先」
何回見ても探索しづらそうなのに変わりはない。少しでも霧が晴れればいいのに。ルシャは小さく溜息をつきながら、道具の整理を再開した。
「ちょっと、いいか?」
「ん…グランか」
丁度ダンジョンでは使わないであろう『ワープ珠』をガルーラ象にしまった時、後方からグランが何かを言いたげな顔で寄ってきた。
「提案があるんだが、俺をお前らのグループに入れてくれないか?」
「「はぃ!?」」
俺とミラノカップゲフンゲフン見事に息の合ったリアクションである。グランは少し引きながらも、息ピッタリのリアクションに少し微笑んだ。若干作り笑いだが。
「ま、まあ…知ってると思うが、霧の深い天候では電気タイプの威力が落ちる。だから、今までのダンジョンで戦線を担ったルシャが苦戦を強いられるかもしれない。だが、俺がグループに加わることでその穴を埋められると思う」
「待って。それって私じゃルシャの代わりに戦線を張ることはまだできないという意味?」
喧嘩を吹っ掛けるようにミラノが訴える。もちろんグランは否定。というのも、グランもルシャもミラノのタイプ一致攻撃がどんな状況でも猛威を振るえることを知っている。
「ま、待て。霧の時って、俺弱くなるの…?」
「「…知らなかったの(か)?」」
驚きながら聞くルシャに、それに驚きながら答えるグランとミラノ。そしてその光景に更に驚く(ビビる)ルシャ。異様なやり取りが行われる。
「待ってよ。私たちはグランの考えはウェルカムだけど、ジュアとルナはそれを許しているの?」
「ああ。というか、あいつらが俺に提案したんだ。何故か物凄い殺気出しながらな…」
さっきグランがルシャたちに話しかけたとき、少し恐縮にしていたのがなんとなく理解できた気がした。
「じゃあ、グランはとりあえず俺たちについてくれ」
「わかった。バビル先輩やトゥーヤ先輩たちもまだ行ってないし、俺たちは後から行こう」
「りょーかい」
〜10分後…〜
「…おい…いつまでぐぅたらしてる気だ」
「あ、グラン交渉ありがと!」
「…そういうことじゃなくて、早く森の探索に進まないとヤバいんじゃないか?」
現在、ベースキャンプ地に残っているメンバーはルシャたちだけである。さっきまで談話していたサフラとリンは既に準備を済ませて森の探索へと入っている。今ペルは寝ているので監視の目は厳しくないのだが、まだ探索に進んでいないことがバレると少々ヤバい。
「それもそうだな。おいルナ。いい加減に起きろ」
「わかったから!2人とも怖い目で見つめてこないでよ〜。」
「…いい加減にしろよ…早くこの森の謎を解かなくちゃならないんだ。仲間とはいえ、目の前にある謎を誰かに解かれるっていうのは一番嫌いなんだ」
あまりに怖い表情でジュアが迫るので、ルナは渋々「わかったよ」と答えて森へ繋がる道へと歩いていく。それにつられるようにルナへついていく。それを見ながらやれやれといった表情でジュアが歩き始めた。
「…俺たちも行くぞ。準備はいいか?」
「おっけーっす」
一通りの会話が終わるまで座っていたルシャにグランが声をかける。ルシャは立ち上がってうーんと伸びをし、ミラノにも準備の確認をさせる。
「おーい!グラーン!」
「だぁーもううるせえなお前はぁ!!」
ルナが道から引き返して来る。グランは何故かイライラした口調で文句を言う。だが、ルナはその怒りを気にしているようではなかった。
「ねえ、この石のこと何か知ってる?」
「なんだ…ん?」
(…あれ?なんだろあれ…)
ルナはグランに石を渡した。
それは石と呼ぶには少しもったいないような美しい石だった。
それほど晴れているわけでもないのに、赤く照らすようにして輝いていた。大きさはリンゴとほぼ同じくらいだろうか。
驚くことに、興味本位で触ってみると、とても暖かいのだ。まるで晴れた時の地面を触っているような、奥から染み出てくるような暖かさがあった。
「これよくわかんないんだけど、グランが持っといてよ」
「おっけ。珍しいものだし、とっておこう」
一行は謎を解くべく、濃霧の森へと足を踏み入れる。