ポケモン不思議のダンジョン  Destiny story






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第2部 戦いへの序章
27 我らギルド進むのみ
「誰が遅刻を勝手に許したんだコラァァア!!」
「す、すいません!すいません!」

 モルフォンの銀色の嵐に何度も巻き込まれながらも、命からがらツノ山を脱した。ダンジョンに潜るまでは余分かなと思うぐらいに入っていたオレンの実に心から感謝した。

 息を切らしながらベースキャンプにたどり着くと、激怒しているバビルが出迎え、俺たちに会うなりいきなり怒鳴ってきた。
 必死に謝るミラノ。血の気が引き、立ち尽くすビダ。そして真顔の俺氏。

「ちょっ、バビルやめ」
「てめぇらのせいで遠征のプランが大きく遅れてるんだ!入ったばかりのボンクラが調子こいてんじゃねえぞコラァ!!」

 スアザがバビルの背から必死に押さえつけるも、バビルは止まらなかった。
 目の前で見たら結構怖い。口がでかく、近くで見ると口臭が半端じゃなゲフンゲフン迫力が半端じゃないのだ。
 一通り口臭を吐き散らゴホンゴホン文句を吐き散らした後、スアザに無理やり止められた。

「すいませんでした。勝手して」
「…わかりゃーいーんだよ」

 俺が潔く謝ると、バビルは納得して後ろを向いて歩いて行った。小さくなっていくバビルの横に見えたペルの表情は険しく、それだけで少し罪悪感が湧いてきた。今更だが。
 
 俺たちが何をしたからこんな怒鳴られてるんだ。その理由を説明すると、沿岸の岩場を楽々踏破した後、そのままツノ山へと繋がるルートへと繋がっているのだが、その途中で全員の腹が鳴ったことから、夕飯を入れた休息を摂ることにし、そのまままさかの睡眠となってしまったのだ。
 そのことで、俺たち以外のグループは皆1日中ベースキャンプに待たされるはめになってしまっていたのだ。

「はぁ〜…怖かったぁ…」

 大きく息を吐きながらミラノがその場にへたりこんだ。首元の毛が、冷や汗でところどころベタベタになっているのがちょっと見えた。

「殴られなかっただけで幸運と思えよ。あの人が本気で怒ったら、俺たち立ててねーよ」

 自分なりにミラノたちを励ました。うんと小さく頷くミラノ。彼女はすっくと立ち上がり、膝についた土を取り払った。あまり女の子っぽい仕草を見せないミラノだが、少しの土を丁寧に取り払うあたり、やっぱりデリケートなんだなと思った。
 自分がさっきバビルに怒鳴られても真顔でいられたのには、理由があった。恐怖心を超えた不思議な感覚が自分の体と心を侵していたからだ。

 
 自分はここに来たことがある。
 

 記憶喪失であるはずの自分が本能的にそう思った。もちろん、自分が『ルシャ・バークス』を名乗り始めてこんな遠くに来たのはこれが初めてだ。現在地と同じような気候にでくわしたこともなかった。
 もしかしたら、記憶を失う前の自分は一度ここに来たことがあるのではないのだろうか。記憶を取り戻すためのカギが、ここに…

「ルシャ!!」
「っ!」
「…どうしたの?らしくないなー。ほら、みんなあっち集合してるから、行こうよ」
「あ、ああ。ごめん」


 自分たちの少し離れたところには木々円を象るようにして立ち並ぶ。しかし、深い霧がここら一帯を包み込んでいるため、立ち並ぶ木々もうっすらとしており、目視するのも難しい。さっきも言ったが、こんな気候に出会うのはこれが初めてである。

「…16、17…全員いるな。よし、これからミーティングを行う」

 ペルが集合人数を確認し、これから霧の湖の捜索にあたる全体ミーティングが始まる。
 今までお喋りで和やかだった雰囲気が、ペルの少し力が入った一言で一変し、緊張した空気へと変わった。

「さて、これから本格的に『霧の湖』の探索へと入っていくのだが、みんなも見てわかるように霧が非常に深い。なので、湖の発見はおろか、探索まで大きな支障が出る」

 ペルがそういうと、弟子の数名はちらと後ろや横を見て、改めて霧の深さというのを確認した。
 ペルの後ろにはガルーラ象が置かれており、その先に在る道から異様な雰囲気を感じた。

「あのー…」

 ペルが話を続けようとすると、リンが振り絞ったかのように声を出した。いつも輪の外側にいるリンがアドレスに入る珍しい事が起きたためか、みなリンの方向を向いた。

「ここに来る間、霧の湖の伝説を聞いたんですけど…」
「…伝説…?なにそれ?」

 サフラがオウム返しの様にリンの言葉を繰り返す。リンは一呼吸置き、そして話し始めた。

「霧の湖には『ユクシー』というポケモンがいるらしいです。そのユクシーは、目を合わせた者の記憶を消す力があるそうです」
「なっ…!?」

 思わず声を出してしまった。ぱっと口を手で塞ぐが、みんなが自分を見つめてきたので、恥ずかしくなった。

「…珍しいな。ルシャが驚いた声を出すなんて」
「あ、ああーすいません。続けてください」
(ああー恥ずかしかった。でも、記憶を消すだぁ!?そんな冗談みたいなことをする奴がいるのか!?)

 あくまで伝説だ。そう自分に言い聞かせたが、なかなか驚きが消えることはなかった。

「そうやって湖に訪れる者の記憶を消すことによって、ユクシーはこの湖の存在を世へ広めることを封じている…そんな話を聞きました」
「そ、そんなポケモンが…」
「ホントに大丈夫なのかこれ…」

 みなざわざわとし始めた。中には、遠征の成功まで疑う者までいた。
 このとき、どうするのだろう。そう思い、俺はちらとグランやルナを見た。しかし、グランたちの表情に驚きというのは全く見えず、横目で睨み付けるようにして声を漏らす弟子を見ていた。

「みんな静粛に!こういう未知の場所には大抵こんな伝説や言い伝えが残されているのだ。しかし、これを乗り切るのが我らファルヤ親方が率いるプクリンのギルドなのだッ!!」
「おう!!」
「わしたちは何があろうと引き返すわけにはいかないんだ!!」
「その通りですわー!!」

 さっきまで不穏とした空気が、ペルの一喝で一気に変わった。嫌味を言うこともあるのだが、やはり上に立つ者は言葉一つで団の士気を上げる力を持っているのだ。
 やがて俺たちは立ち塞がる驚異の壁の前で、声の大きいバビルを中心に円陣を組んだ。

「…覚悟はできてるかッ」
『おうっ!!』
「…伝説を超える準備はできたかッ」
『おうっ!!』
「涙や血を流しても、光り輝く大地に立つためッ!!」
『我らギルド進むのみ!!』

「行くぞぉーー!!」
『おおーーッ!!』







■筆者メッセージ
アサシオ「部活やってるから、かっこいい円陣とか真似したくなるんだよね」
ルシャ「じゃあ、今回やった円陣はアサシオが部活で見た円陣なんだな」
アサシオ「いや、アニメで見た」
ルシャ「」
アサシオ ( 2016/04/24(日) 18:47 )