21 ドクローズ
敵のレベルが徐々に上がっている。受ける一発のダメージが大きくなっているが、有り余るオレンの実で切り抜けている。技の不具合も、回復道具でどうにかなっている。特に問題なく、いつの間にか12階の地面を踏んでいた。
「…結構長いねこのダンジョン」
「ああ…リンゴがたくさん落ちてるとはいえ、疲労は流石に誤魔化しきれないな…」
夏の太陽で湿気もすごい。水たまりの近くの泥は水と日光で湿気と熱気を帯びている。
現在12階。そろそろ終わってくれと願いながら、部屋の隅っこに見えてきた階段を上った。
「…なんか今までの雰囲気と違うな」
「もう最奥部まで来たんじゃない?」
今まで入り組んだ地形が一変し、急に一本道となった。不思議に思いながら足を進めてみると、周りの樹よりも明らかに違う樹を一本道の突き当りの所に発見した。
「大きいな〜…」
「そのせいかは知らないけど、リンゴもとても大きいね…ん?もしかして、これってセカイイチじゃない?」
確かに、大きさは大きめのリンゴよりも大きい。見た目も色鮮やかだし、味も期待できると思う。しかも、ペルが言う通りダンジョンの最奥部。確実にセカイイチである。
「よし、これを持って帰れば任務完了だな。でも、木に登るのめんどくさいし、どうやって取ろうかな…」
「…クククっ。そんなの簡単なことさ」
聞き覚えのある声。姿は隠れていても、声の主は一発でわかった。
「…やはりな。先回りしてたか。ネブド」
樹の茂みから、ズバットの『ゼビ』、ドガースの『ルドラ』、そしてネブドが顔を出した。
チーム・ドクローズ。
俺の予想通り、ギルドの遠征を邪魔するためだけにペルやプクリンに善の顔を見せ、遠征の助っ人として数日間ギルドに滞在することとなってしまったのだ。
あの掲示板前での特大屁噴射事件で、自己紹介の時もペル以外には悪印象だった。しかも、その自己紹介で再び特大屁を噴射したため、弟子達からの印象はもう最悪である。
きっと、このセカイイチ不足事件も、99%こいつらの仕業だろうと考えている。
「ダンジョンに入る前にわずかな異臭を感じたんだ。また何か考えてるなと思っていつもより足を早めていたんだが、越されていたか」
「おいおい。俺たちはお前らの任務に協力してあげようとしているんだ。
セカイイチの取り方で悩んでいたんだろ?そぉんなの楽勝さ。見ておきな」
そう言うと、ネブドはセカイイチが実る樹へと体を向け、物凄い勢いで突進した。それを何回も繰り返し、突進するごとに樹がざわざわと大きく揺れる。そのうち、セカイイチ数個が地面にポトリと落ちてきた。
「...どぉーだ?さあ、セカイイチを取ってギルドへ戻るがいい。ククク」
「へへっ!」
「けっ!」
「...バレバレ過ぎるんだよ。俺たちが呑気に『ありがとね』言ってくれると思っているのか」
「なにっ!?」
ネブドの顔に『作戦失敗』と大きく書かれている。騙し討ちが下手すぎにも程がある。ゼビもルドラも慌てて緊急会議を始めた。
「なんだと!?こいつら全然騙されねえ!」
「なぁんだ。面白くねえなあ」
「やっぱりな」
しかし、ネブドはすぐに冷静さを取り戻し、俺たちを挑発する。
「さて、それを知ったところでどうするんだ?」
「どうするもなにも。お前らが邪魔だから、倒していくさ」
「…よし、お前ら。アレの準備だ」
ネブドがそういうと、ゼビが後ろに退き、ルドラとネブドが一歩前へ出てくる。妙な威圧感を感じ、俺もミラノもも一歩後ろへ退き、身構えた。
(…ミラノ。あいつらが何かして来ようとした瞬間に全力で鼻を塞げ)
(鼻?)
(ああ。とりあえず、鼻を死ぬ気で塞げ。気道に外気を一切吹き込むな)
「さあ、喰らうがいい。俺とルドラの、『毒ガススペシャルコンボ』ッ!!」
そう言い放ち、ネブドとルドラが同時に息を大きく吸い始めた。絶対に物凄い臭いを吹き付けてくる気だ。
「塞げッ!!」
「喰らぇぇえええ!!」
俺が叫んだ瞬間、俺とミラノとユミは両手で思いっきり鼻を塞いだ。俺の予想通り、もはや屁の一文字では表せない物凄いガスが俺たちを被いつくす。しかし、この攻撃で終わるということはないはずだ
(ミラノ。その場に倒れろ。死んだふりだ)
(え?あ、うん)
やられたフリをして、パタリとその場に倒れこんだ。目をうっすら開けてみると、ドクローズの3人が「ざまあみろ」と言いたげな顔でこちらを見ている。これはこれでムカつく画だ。
「よし、邪魔はいなくなった。さーて、セカイイチ全部拾って帰るか」
完璧に俺たちの任務失敗させるためだけに来てるじゃねえかこいつら。絶対こいつらはただでは帰さない。怒りが心の隅っこを支配していった。
「それ、ずらかるぞ!」
「「へい!兄貴!」」
「黙れ」
多くは言わず、怒りを電撃に変えて3人にぶつけた。
「「「ぎゃぁぁぁああああ!!?」」」
体の表面の一部を焦がし、プスプスという音を立てながら3人はその場に崩れるように倒れこんだ。
しかし、その一撃でうっかりネブドたちが持っていたセカイイチまで焦がしてしまった。
「…どうしようか」
冷静になり、ようやくやらかしてしまったという気がしてきた。だが倒れているゼビの横に、偶然焦げずに無事だったセカイイチが1つだけ転がっていた。
「…これだけ…まあ、ないよりかはいいよね。とりあえず帰ろうか…」
「ああ…」