20 『リンゴの森』 探索
「…ほお…」
ミラノが、溜息をつく。
現時刻、7時38分。トレジャーバッグの外ポケットに収まっている小さめの時計の針はその数字を指す。
現在地、『リンゴの森』の入口。少し開けた場所に出ており、敵の気配も無く特に入り組んだ地形も周りにはまだない。あと少し足を進めれば、森のダンジョンへと入るだろう。
「えーと、セカイイチはこのダンジョンの最奥部にあるらしいです。大きなリンゴよりも一回り大きめのセカイイチが実る樹」
「敵が強くなければいいけどな…」
周りを見渡してみると、リンゴの森という名の割には、リンゴに限らず様々な果実が四方八方に実っている。オレンの実やモモンの実など、ダンジョン内で重宝される木の実も少なくない。
「…ミラノ。よだれ」
「んっ?あ、ごめん…」
と言いつつも、俺も口の端からよだれが垂そうになっている
「…ん」
「どうしたの?」
「…いや、なんでもない」
何か少し臭いがした。明らかに果物が腐ったとかそんなものではない。ただ、単に臭い。
まさかな。俺はそう思いながら、少しの疑問を持つミラノつれて足を進めた。
ダンジョン内の敵は、それほど強くない。中型のポケモンの技の威力はまあまあ威力があるが、小型のポケモンは体力がそこまで高くないので飛び道具と軽い攻撃で倒すことができた。
このダンジョンには、2つの強敵が居る。
1つは、『スピア―』。耐久こそそこまで高くないものの、『乱れ突き』を正面から喰らうと、かなりの痛手を負う。それ以外は特に警戒することもないが、現在オレンのみが3個しかない状況なので、大ダメージを喰らうのは思った以上に致命傷なのである。ということをついさっき知った。
「…来たよ」
そしてもう1つが、今俺たちの目の前に居る『バタフリー』。飛行タイプのため、俺の一撃を当てればすぐに倒せるし技の威力も驚くほど高いわけでもないのだが、厄介なのが『粉』系の技。
「…とにかく、距離をとろう。至近距離は危ない」
粉を吸った者の動きを確実に停止させる『痺れ粉』と『眠り粉』。前の階で俺とミラノが眠ったためかなりの窮地に追い込まれた。
「とりま、爆裂」
しかし、バタフリーが猛威をふるうのは接近戦のみ。こんなふうに遠距離から『爆裂の種』や飛び道具を打ち付ければ倒せることができる。パターンにはまると厄介なだけで、速攻で仕掛ければ特に怖くない相手である。
「…思ったけどさ、結構道具使ってるよね?」
「ん?ああ、前にグランがお尋ね者を捕まえた時のテクニックというかさ、見習ったというか」
「さっきの階も、何故か逃げようとした敵を『縛られの種』で硬直して仕留めたよね?」
「別に恨みがあるわけでもないけど、この動き重要になるんじゃないかなあって」
グランは先日の依頼で、お尋ね者を1人捕まえるのに、トラブルも合わせて2つの道具を使った。コツとかそういうものは聞いてないが、使おうとする姿勢はいいんじゃないかと思い、道具を駆使しながらダンジョンを進めるようにしている。
「確かにさっきも『探知の珠』を使って敵となるべく合わないようにしてたよね。やっぱ道具使ったら結構変わるね」
「それは俺も感じた。探索しながら。特に珠系の道具はホントに役立つな。今度から百貨店も見るようにするか」
「…今まで見てなかったの?」
「いや、いつも商店しか見てなかったから」
「ダメだな〜!私はいつも百貨店に並ぶ技マシンに見とれてて…ああ〜!私もいつか技マシン使って強くなりたいな〜♪」
論点が数センチずれている気がする。そう思った俺。それに気づかないミラノ。
2人は階段を上った。