19 突然の食糧難に
「お前たちは今日は食料調達をしてもらう」
「…は?」
いつもの朝礼が終わった後、ペルに呼び出され、こう言われた。いや待て。食料調達なんて仕事もあるのか。てか昨日の夕食みんなおかわりバンバンしてたにも関わらず大量の食糧が置かれていたじゃねえか。
「…おほん。お前らの見た通り、このギルドの弟子の腹を満たすための食糧は腐るほどある。しかし、親方様は『セカイイチ』というリンゴを好んで食べるのだ」
解説の仕方が珍種の生物の生態を説明しているように聞こえる。そんな言い方して大丈夫なのかよ。
確かに今までの数日間を振り返ってみると、夕食時、みんなは様々な食べ物を口の中へと押し込んでいっている。もちろん、自分もミラノも目の前に出された食欲をそそる木の実たちに噛り付いている。
しかし、ふとプクリンを見たとき、プクリンはいつもリンゴしか食べていない。探検をしない立場だから体力回復の効果がある『オレンの実』を食ってもあまり効果が無いのはわかるが、何故リンゴだけを食べ続けるのか。それは疑問に思っていた。
「…要は、親方様の大好きなセカイイチが足りないってことなの?」
「なんだ。言わなくてもわかるじゃないか」
「…そのセカイイチがなくなると、親方様はどうなるんだ?」
「…」
何故か、急にペルの様子が変わり始めた。地面を俯き、うなだれている。額には少量の冷や汗が流れている。
「…何か嫌なことでも思い出したか」
「まあな…とにかく、親方様の大好物がなくなったという報告をしてみろ。大惨事だぜ。
これは普通の食料調達ではない。私からお前たちに出す特別命令だ。失敗など絶対にするな。これは大袈裟でもなくギルドの存続を懸けた依頼だからな」
「…まあ責任重大なのはわかった。『リンゴの森』だな。それじゃ、行ってくる」
軽い気持ちで依頼を受け取った。
〜十字路〜
「…やあ。これから依頼かい?」
ギルドが建つ丘のふもとにある水飲み場。そこにルナとジュアが心地よさそうにくつろいでいた。
「依頼というか…まあ、そんな感じかな。それより、グランは?」
「今日は何故かあいつ一人でどっか行っちゃったよ。依頼も何も取らずにさあ」
「…何しに?」
「さあ?あいつは私たちと考え方が違うからねえ…」
このことを俺達はどう捉えれば正解なのだろうか。この行動に何かしらの意味があるのか。それとも、実は馬鹿なのか。そんなこと考えるのがめんどくさくなってきたので、考えないことにした。
「まあいいや。とりあえず、そっちも依頼頑張れよー」
あんまり長話しているとペルに怒られそうなので、さっさと話を済ませて、リンゴの森へ向かうことにした。
このとき、誰かに後をつけられていたことを俺たちはまだ知らない。