16 探検隊ならではの事情
結局、滝壺の洞窟の洞窟は未開のダンジョンではないということがわかった。というのも、プクリン本人が若い時に既に踏破済みだということだったらしい。(プクリンは今でも若いように見えるのだが)
あの夢に見えたシルエットはプクリンだったのだ。にしても、俺と違ってノーヒントで滝に突っ込み、宝石を押して仕掛けを作動させるなど、プクリンは並大抵の知識と勘ではないということが、今回の探検でわかった。
「いや〜しかし…最近暑いですな〜…」
「うん…私体毛多い種族だから余計に…」
季節は夏である。商店でも少しお冷や氷が10Pの安値で売られている。これが良く売れているらしいのだ。
上空雲一片もない、正に快晴。正直今日一日ぐらい休みたいという思いがあった。しかも今日の依頼の場所が『トゲトゲ山』で、まともに涼しい場所がない地獄の場所へ行こうとしてるのであった。
「…依頼場所変えない?今日はさすがにしんどいぞ…」
「トゲトゲ山以外のダンジョン、敵弱いんだもん。滝壺の洞窟に行くにしても、毎回あの滝に突っ込んでいくのはそれはそれでしんどいんだよ?」
「…そりゃそうだけどさ…」
言い返す言葉がなかなか見当たらない。ぐちぐち言い合っていると、キマワリの『サフラ』がやってきた。
「あら!これから探検ですの?」
「あ、サフラ先輩。ちょっと依頼場所で揉めてましてね…」
サフラは見た目と性格に反し、ギルドの弟子の中でもずば抜けた戦闘能力を持つ。あのルナでも「あの人は別格」というぐらいなのだから、並の探検家とは違うということがわかる。それで、俺たちはサフラ先輩にはしっかり敬語を使おうということにしている。
「まあ〜。私は日差しを味方に付けれる特性だからそこまで気になりませんけど、やはり暑さはダンジョンによっては敵になりますからね〜。まあ、そのうち慣れるでしょう!」
「お、サフラ先輩だ。ちぃーっす」
「お!グランたちじゃないのー!」
グランたちもちょうどやってきた。グランもサフラ先輩には敬語である。話の内容を説明すると、グランが「むー…」と唸った。
「俺たちの今日の依頼場所は洞窟だからな。日差しも当たらないし、風が通る時もあるから、こういう天気や雨の日は洞窟の依頼をするんだ」
自分たちも洞窟に行けると言っちゃ行けるが、どこも湿気が物凄いのである。やはり行けるダンジョンが少ないとそれなりに悩むことがあるのだ。
「そういや、最近十字路に新しい店ができるという噂が流れているんですが、あれって本当なんですかね?」
「嘘ではないと思いますわよ!看板の準備とか、この前計画が書かれた紙をちらと見たんですけど、そりゃー夢とロマンに溢れる素敵な計画でしたのよ〜!!きゃー楽しみ―!!」
「…1人ではしゃぐのやめてもらえますか」
海の中の海藻のように体をくねらせるサフラ。こんな四六時中ハイテンションなやつが探検隊の実績としては【ゴールドランク】の階級に位置しているとは、誰も思わないだろうな。
「唐突なんだが、今日の依頼グランに付いて行ってもいいか…?」
「…俺は別にウェルカムなんだが、どうしたんだ?」
「いや、依頼場所がね…いやね…」
「まあいいや。とりあえず、そこまで遠くないから、もう少しおしゃべりしてから行くぞ」
「わかった」