11 VS最悪の偽善者ムーン U
今までの戦況を固唾をのんで見守っていたリルにも、その変化はわかった。
自分とそれほど変わらない背丈のポケモン。その背中から感じる覇気。
「…次はお前だ」
ムーンもそれははっきりわかっていた。だが、無理やり強がって見せた。
「…よくもやったな。許さねえ…」
ルシャの目つきはさっきまでと変わらない。変わったのは、口調。お前を倒す、という執念に加えた、憎しみ、復讐の心。
ルシャは地面に右ひざをつき、忍者のようなポーズをとり、その場で俯いた。
「ははっ。『許さねえ』だと?戦いを仕掛けたのはお前らだ。目的の達成のために誰かが犠牲になるのはよくあることさ。その犠牲があのイーブイだ。犠牲がなく全員が助かった勝利なんて、そんな都合の良いものがあるのか?
そんなことで動揺してんな。新米探検家」
ムーンの文句はルシャに届いていなかった。
ルシャは集中し、自分の筋肉に電流を流し、刺激した。ルシャの筋肉は更に殺意を噴き、体中でムーンを睨み付けた。
「…これで終わりだああ!!」
ムーンが拳を掲げながら、ルシャへ突進する。だが、ルシャはそれでも俯いたまま見ようとはせず、体で睨み付けた。
「ルシャさぁぁぁああん!!」
リルがそう叫んだそのとき、ルシャの拳がムーンの鳩尾を突き刺した。腹はスポンジのように凹み、拳には怒りで煮えたぎるルシャのパワーが一点に集中され、そのパワーはムーンの体全体へ渡った。
ムーンは倒れ、意識はあるが動けない。今の一撃はムーンの体力を大きく削いでいた。
「…ホントはさ、ミラノがお前の不意を突いて、お前を横倒しにして、俺が電撃でお前のここに止めを刺すつもりだったけどよ」
ルシャは自分の左胸を指差しながらそう言った。そして、ムーンのうなじに踵を落とした。
「…さっきの腹パンは、俺が1人で2人分の作戦を決行しなければならなくなったいら立ちの八つ当たりで、今のがミラノがお前に喰らわせたかった一撃の分だ。して、最後に…」
ルシャは静かに人差し指でムーンのうなじに触れた。
「そ、それだけは…」
「マリナがリルの心配をした時間の分だ」
そして、ルシャは強く電撃を撃ち込んだ。ムーンは泡を吹き、動かなくなった。