ポケモン不思議のダンジョン  Destiny story






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第1部 予知夢
10 VS最悪の偽善者ムーン T
「おい」

 叫ぶことはなかった。静かに語りかけるように。
 しかし、ムーンにはそれがはっきりと聞こえた。ムーンは、後ろに立つピカチュウに殺気を感じた。

「…解放(はな)せよ。そいつを」
「…ぐっ…」

 ムーンの額から冷や汗が次々に流れてきた。リルにもその恐怖に近い威圧感のようなが伝わってきた。ミラノは、このルシャを見るのは二度目だ。
 

「…ど、どうしてここが…」
「教えてくれたよ。お前の兄ちゃんが」
「え、マリナ兄ちゃんが…?」
「俺たちまだ新米探検家で何をどうしたらいいかもわからないような2人だけどさ」

 新米探検家。その言葉を聞いて、ムーンは冷や汗をかきながらも無理やり口角をあげて強がって見せた。

「…へっ新米が強がるな!俺は何人の探検家からも追いかけられ、逃げてきたんだ。お前ら如きに捕まるはずがねえ!」
「黙れェ!!」

「…俺たちは、くさく言ったら『正義の心』ってゆーもの持っててな。お前みたいなやつ見てたら腹立ってくるんだよ」
「…それがどうした?」
「気持ち悪い顔と性格だな。ってこと」


 
 ムーンは何も言わず、ルシャに劣らない殺気で襲い掛かってくる。それと同時に光る右手の爪。それを察知し、右へと避ける。

「…リル、今のうちに逃げて」
「う、うん…」
「大丈夫、あの兄ちゃんが今戦っているからさ、あの兄ちゃんは絶対負けないから、心配しないで見てて」
「うん」

 そういって、ミラノはリルを安全な場所へ避難させた。

「それじゃ、行ってくるね!」
「え!?姉ちゃ――」

 返事を聞かず、ミラノは走り出した。。



 ルシャとムーンの一騎打ちは互角だ。体格差はある。しかし、パワーもスピードもルシャはムーンに劣っていない。
 やがてムーンの『はたく』がルシャの顔へヒットした。隙を突かれ、背が勢いよく地面にぶつかる。
 畳みかけに来たムーンがこちらに走ってくる。だが、ルシャしか視界に入っていなかったムーンに対してミラノが横から体当たりをしかける。

「ぐあっ!?」

 突然の不意打ちに横転するムーン。ミラノはすぐにルシャへ駆け寄った。

「…ありがと」
「どうも!無理しすぎだよルシャ。私もいるんだから、2人であいつを倒そうよ」
「…ああ。じゃいつも通り、的確なアドバイスを頼むよ」
「りょーかい!じゃあ、こうしようか…」

 作戦を立て、互いに希望を持たせている間に、ムーンはよろめきながら起き上がった。

「このくそ餓鬼共がァ…!」
「来るよ!」
「任せとけ!!」

 ムーンとルシャが正面から激突する。拳、蹴り、そして技。あらゆる角度から相手を攻め続けていた。
 やはり、ムーンは一撃一撃が重く、はたいたり引っ掻かれる威力が自分とは大違いだった。
 それに、ムーンの特性は『予知夢』だとミラノは言う。ルシャの攻撃は当たる寸前で大概避わされた。しかし、ルシャはめげることなくムーンへと仕掛けていった。

「何をやってもッ無駄だということがッわからんのかッ!!」
「わからねえよッ!!やって無駄だということは絶対にないからなッ!!」

 ついにルシャはムーンの顔面を殴り飛ばした。ムーンは突風に吹かれた葉のように吹き飛び、地面に体を擦った。
 だが、この男も頑丈だ。すぐさま立ち上がり、一度血を吐いた後、ルシャを睨み付けた。

「なかなかの腕っぷしじゃねえか。並のピカチュウとは違うな」
「余裕あるな。まだ血は吐けるか?」
「吐かせられるかなあ?お前に」
「望むところさ」

 ルシャはムーンに突っ込んでいく。ダッシュの勢いを利用して電光石火でムーンの懐へと突撃する。
 ムーンがルシャを払いのけようと右手を引く。すると、ルシャはムーンの体の寸前で突っ込むのをピタリと止めた。ムーンはそのまま突っ込んでくることを想定していたため、不意を突かれ、体が一瞬止まった。
 

 見逃すもんか。一瞬の隙。

「がっ…!?」

 ムーンの腹へ強い電気ショックを与える。ルシャは息を荒くしながら、次は拳をムーンの左胸へ狙いを定めた。しかし、パンチの軌道上に見えない何かがルシャの右腕を弾いた。

(なんだッ…!?今のは…)

 予想できなかった防御に体のバランスが崩れ、よろめくルシャの隙を逃さず、お返しだと言わんばかりに偽善者は強烈なパンチをルシャに喰らわせた。パワーは劣らないといったが、防御力は別の話しだ。

「ぐっ…!」

 ムーンがルシャへ走り、今度は鋭い爪を光らせて、ルシャをめがけた。
 
 しかし、ミラノがそうはさせまいと横からムーンへ再び体当たりする。
 今度はムーンが大勢を崩す。
 体制を立て直したルシャが、今度は横に突き倒されたムーンの頭を尻尾で叩きようとしたが、これは予知夢で避けられた。
 
 だが、ミラノがすかさず体当たり。これは予測できずに突き飛ばされた。隙を見つけたルシャが畳みかけるように電撃で追い打ちをかける。しかし、その土煙によってムーンの姿が隠れ、その中から大きめの石が飛んで来て、ルシャの肩をかすめ、そこから血が少量流れる。

(ぐ…2つ先の行動は予測することはできないのか。十分に体力を減らしたらあの作戦が使えるな…)
「ミラノ。こっからは俺とミラノで畳みかけるようにしていくぞ」
「らじゃ。何か考えがあるんでしょ」


 土煙が晴れ、ムーンのシルエットがうっすら浮かび上がる。反撃を喰らう前に仕留める。ルシャは容赦なく電撃をムーンへ放ち、ルシャの言う通りにミラノがムーンへ突っ込んだ。
 しかし、ムーンはミラノの体当たりを受けながらも、腕力で強引にミラノを殴り飛ばし、ミラノがパチンコで弾かれたように宙へ飛ばされた。

「ミラノ!!」
「余所見してる場合か?」
「ッ!」

 ルシャの気づいたころには正面にムーンが構える。しまったと思った時にはもう遅い。
 そして、今度はムーンが追い打ちをかけるように足元に転がっていた野球ボールと同じくらいの石をルシャへ投げつけ、これが脇腹へクリーンヒットし、2つの衝撃で大きな
土煙が舞い上がった。

 とどめを刺しにムーンが走り出すも、三度ミラノが邪魔に入った。しかし、このことは予測済みで、ムーンはミラノが跳ねたと同時に振り向き、そのままムーンの右拳がミラノにクリーンヒットし、ミラノは岩面に体を打ちつけた。

「…しつこいヤロウだ」

 ミラノは動かない。
 その様子を見たルシャの中で、何かがキレた。






アサシオ ( 2016/03/14(月) 20:53 )