09 トゲトゲ山 登山
湿った岩場で猛威を振るった俺の電撃は、この山ではそう簡単にいかなかった。タイプ相性が良いわけではない。それに、敵ポケモンの個々の攻撃の威力も、湿った岩場の奴らよりも数段上だった。
特に俺たちが苦しめられているのは、『ムックル』だった。周囲の種族と比べて攻撃力が高い。タイプ相性は良いため、電撃を当てればお釈迦だが、なんせ鳥ポケモン。すばしっこい。
「この!離れろォ!!」
電気ショックを放つが、機動性では俺たちより上のムックルはひらりと攻撃をかわす。
続いて、避わした反動で動きが鈍くなった隙を狙って、ミラノが横から思いっきり体当たりを喰らわせた。これは効き、ムックルは岩肌に体を打ち付けた。
だが、その場所と俺の場所が近かった。
「ヤバい――
俺の体が動くよりも先に、ムックルの『電光石火』の反撃のほうが早かった。何故かこの技は異常な程に威力が強いうえに遠方の相手まで一気に距離を詰めれる。無防備だった俺はまさに電光石火の一撃を諸に喰らってしまった。
俺は先ほどのムックルと同じように岩に体を打ち付けた。電光石火の威力と体を打ったダメージが襲ってきて、一気に体中にダメージが溜まった。
「ええい!これでどうにもなれ!」
ミラノが何とか体当たりでムックルを蹴散らした。この戦闘は広い場所だったが、もし通路でムックルと鉢合わせしたなら、逆に蹴散らされる可能性は大きい。この日、電光石火の威力と恐ろしさを3度目の探検で思い知った。
「…一応オレンの実は6個ぐらい持ってる。湿った岩場でたくさん拾ったし、今日商店でも1個売ってたから」
「た、助かる…」
オレンの実は決しておいしいとは言える味ではなかったが、不味くもなかった。でも、ダメージが取り除かれていくように引いていくので、それで満足だった。
「あと、状態異常の回復の種もいくつか2個ぐらい持ってるし、よっぽどなことがない限り長期戦で倒れることはないかな」
「ああ。要注意の敵は、ニドリーノとムックルぐらいか」
二ドリーノ。体が少し大きく、そのためか技の威力も高い。それにニドリーノによく似ているニドリーナもしかり。そして、この2匹は特性と技で、毒状態にしてくることがある。毒になっても、回復することはできるが、現在地が4階だということを考えると、なるべくその回復道具は使いたくない。
ミラノの特性は『適応力』。ノーマル技の体当たりの威力が大きく上昇する。その破壊力と呼ぶに相応しい攻撃でイトマルやらドードーやらを玉砕していく。倒すたびに見せる『見た目によらず怪力でごめん』と言いたげな少し照れる表情が少し可愛かった。
女に、しかも年下に負けてられない。単発技の威力こそミラノにやや劣るが、自分には手がある。尻尾で叩ける。電気で相手できなくても殴ったり叩いたりで何とか通していける。
警戒していた二ドリーノも、毒を浴びながらミラノと俺のタッグで倒すことができた。
「…これで階段4つ目。次が5階…結構長いもんだな」
「道具はまだ余裕あり。なるべく切らさぬよう、常に万全の状態で移動、戦闘をするほうがいい。でも、無理をする必要はなく、体力やPPが減ったら道具を使うこと…かな?」
「…ミラノの分析はいつも的確で助かる」
俺たちの力とミラノの分析力のおかげで、そこから先は特にピンチな状況を招くことなく、順調に進んでいた。
そして―――
〜トゲトゲ山 頂上〜
「…あれ?行き止まり…」
落とし物がここにあるはずないということを知らずに無邪気に歩いていたリルは、山の頂上でこの山が行き止まりになっているということを知り、急に白けた表情で立ち止まっていた。
「ねえムーンさん。落とし物はどこにあるの?」
「…悪ぃな。落とし物はここにはねぇんだよ」
「えっ?」
ムーンの口調が明らかに変わった。ここにきて、本性を暴き出した。仮面を取れば、幼い子供にすら容赦ない立派なお尋ね者だ。
「それよりよ。てめぇの後ろに小さな穴があるだろ?」
リルが後ろを向いてみると、確かに小さな穴が行き止まりの壁に空いていた。ちょうど自分が通れるぐらいの大きさの。
「実はな…あの穴の奥にはな、昔盗賊が宝を隠したのではないかといううわさがあるんだ。だが、俺のような大きい体では入れねえ。だから、体の小さいお前をここに連れてきたというわけさ」
「ええっ!?」
「…さあッ!穴に入ってきて宝を取ってこいッ!!」
強い口調で、脅すようにリルに言い放った。その口調の強さに、リルは泣き出し、逃げ出した。
「あっ、こらァ!!」
しかし、逃げられる筈もなく、リルはあっさりと捕らえられた。
「ったく、いうことを聞けばすぐ解放してやるのに」
「言うことを聞かねえと、痛い目にあわすぞ!!」
「た たすけてッ!!」
ルシャはその光景をすべて目に入れていた。