ポケモン不思議のダンジョン  Destiny story






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運命
05 救世主は必要ない
「えっと…そういえばこのスカーフ付けてなかったな」
「そういえばそうだね。夜も移動中も見ることなかったし」

 依頼が書かれてある紙の裏側にダンジョン名が記載されていたのだが、『しめったいわば』という場所の地下7階に例の真珠が放置されているらしい。
 名前の通り、湿った岩がたくさんあるダンジョンだった。苔ばっかり。ところどころに深い水たまりができており、そこを突っ切って移動するということは難しそうだった。

「…地下に行くのには、前の洞窟と同じように階段を下ればいいんだな?」
「うん。ダンジョンの階は基本階段で移動するから」

 中の仕組みが行くたびに違うとか言っていたな。なのに階段は毎回のように存在するのか。よくわからないなこの世界。
 心の中でツッコんいると、急に俺の後頭部にやや強めの衝撃が走った。

「ご…はッ…!?」
「ルシャ!?」

 後方からの奇襲だったため、ミラノも気付かなかった。足音すら聞こえなかった。岩面に体をたたきつけられ、体を起こした先に見えたのは、何やら触手を何本も備えた気持ち悪いポケモンだった。

「誰だ…!?」
「『リリーラ』。こういう環境を好むポケモン。動きは遅いから倒しやすいかもしれないけど、動かない分視点がぶれない。うかつに近づいたら反撃喰らうよ」
「…よく知ってるな、お前」
「う、うん…探検隊なりたかったからさ、ダンジョンの地形でどんなポケモンが居て、そのポケモンにはどのような対処をすればいいのか、ある程度勉強していたんだ」

 まじめな奴だな。そう思った。

「私はあまり戦うこと得意じゃないから、ルシャが代わりに戦ってよ。私はできる限りの知識をルシャに教えるからさ」
「…わかった」

 両者の実力が上がれば、これは俺たちの必勝パターンになるかもしれない。そう思った。弱点などがあったら後々修正すればいい。

「…動きが遅いとか言ってたな。遠方からの攻撃が有効か?」
「うん。でも、私物理技しか持ってないから、お願い!」
「わかった」

 電気ショックを放つ。海岸の洞窟で使っていたときより精度も威力も上がっている。だが、威力はまだまだかな…
 打開策があまりにも単純だったため、3発程度でリリーラは倒れた。

「…結構弱かったね」
「ああ。不意打ちのダメージがデカかったから強いと思っていたが、拍子抜けだな」

 こいつが特別弱いわけでもなく、ほかのフロアに居た敵もほとんどはこんな感じで電気ショック数発で沈んだ。ミラノが攻略法を教えてくれたおかげでもあるが、初依頼はあまりにも順調に進んでいた。



〜湿った岩場 地下7階(ダンジョン最深部)〜



「…急に静かになったな」
「そうだね…なんか地下6階まではなわばりをはるポケモンでうるさかったのに」

 今まで聞こえなかった風の音や水のはねる音など、自然が奏でる響きが雑音に邪魔されず、聞こえるようになった。ポケモンはこの階にはいない。それだけは明確だった。

「…あ、あれが例の真珠?」

 ミラノが指差した方向には、桃色に輝くきれいな球体があった。噴水のような地形の手前にちょこんと置かれるようにして存在していた。

「…真珠ってこういう色だっけ?」
「バネブーの真珠はピンク色。稀少だから盗まれるのもなんかわかる気がするけどね…」

 ふーん、と適当な返事を返し、そのまま真珠を右手で拾おうとした。が――

「…!?ヤバ―――」

 右から何かが近づいたのを感じた時には、もう遅かった。またしても俺は奇襲を喰らってしまった。
 岩のような何かが俺の首に直撃した。威力は強く、衝撃でそのまま岩壁に体を打ち付けた。
 
「誰だ…!?」

 視線の先には『ニョロゾ』がいた。岩のような何かとは言ったが、奴が右手を前に突き出しているあたり、奇襲の正体はニョロゾの右ストレートだ。
 今の一撃でさっきまでの緩やかだった自分の糸がピンと張り詰めた。緊張が張り詰める中、俺はやっと目を覚まし、周囲を見回した。
 何故か気が付かなかったが、噴水のような地形の両脇には宝石やら宝が少量保管されていた。

「…理解したぜ。お前が真珠を盗んだ犯人だな」
「当然さ。お前もこぉんな簡単な策にかかるとは、やっぱここら辺の探検家はちょろいな」

 お前『も』。やはりすべて俺の予想通りだった。

「…真珠はすべて探検家の餌にするため。知らずにやってきた探検家はお前の奇襲で秒殺され、その探検家の所持していた貴重品が、その宝の山だということか」






〜ギルド 地下1階 依頼掲示板前〜

 
「…!ヤバいぞこれは!!」

 ペラップが突然叫んだ。何を見たのかというと、先ほどルシャとミラノに差し出した依頼の詳細が詳しく書かれた紙。

「ペ、ペルさんどうしたんですか?」

 近くにいた『チリーン』が心配そうにペルに声をかけた。ペルは俯き、目を閉じたまま苦しそうに話し出した。

「…ギャラクシーに出した依頼のことだが、最初はEランクの容易な依頼を出したつもりだった。だが、この依頼の詳細を探ってみると、あそこの最深部にはBランクのお尋ね者が居たのだ…」
「ええっ!?誰かを援護に出したほうが…!」
「だが、ルサノも今日は遠出で帰ってこれない…バビルとトゥーヤは実力はあるがそれじゃ掲示板と見張りに付く者が居なくなってしまう…」

 会話を聞く限り、このチリーンはギルドの弟子の1匹のようだ。ペルよりも冷静になり、援護に行ける弟子を探していた。

「…!グランとルナはどうですか?」
「…あの2人も不安要素はあるが…仕方ない。あいつらは今商店に居るはずだ。急いで呼んで湿った岩場へ急がせるんだ!!」
「はい!!」


 



「ぐっ…!」
「ちっ…なかなか骨のある野郎じゃねえか」

 …ルシャってこんなに戦うの上手だったっけ?ニョロゾも力が強くて私が相手したら瞬殺されそうなのに、ルシャはなんていうのかな…柔らかいというか、身のこなしが軽いというか、とにかく、とてもあの技を使い始めて2日のポケモンにはとても見えなかった。

 ルシャの戦い方には、強引にダメージを与えていっているように見えたが、実はよく見るとそうではなかった。
 電気ショックを両肩に撃ち、肩の神経を麻痺させる。中枢神経や頭部を麻痺させると生死に関わるので、探検隊としてそれは危ないので、直接攻撃してくる部分の神経を確実に停止させていく。その証拠として、ニョロゾのパンチは段々とスピードが落ち、ルシャもいとも簡単にかわすのだ。

「くそ…!俺がこんな奴に…!?」
「俺たちを甘く見た結果さ。さあ、依頼遂行完了と一緒に、お前を逮捕してやるぜ。【電気…」

 しかし、ニョロゾは口と思われる部位から大量の泡を勢いよく吐いた。だ泡の一つ一つに威力があり、ルシャは大きく吹っ飛ばされ、さっきよりも強く岩面に体を打ち付けた。

「ぐっ…!すっかり忘れてたぜ…!」
「ちっ…この技を使ったのは久しぶりだな…」

 思った以上にルシャへのダメージは大きい。直接攻撃は完全に封じ込めたが、それが裏目に出て強力な技を引っ張り出すことになってしまった。
 …ルシャがピンチになっているのに、私は一体何して―――





「ミラノ!?」

 しまった。ぼーっとしていた――――


 ニョロゾが放った【バブル光線】は油断していたミラノに直撃した。体が反り返り、そのまま土煙をあげてミラノは地面に突っ伏した。
 
 この瞬間、ルシャの中で何かがキレた。

「…おまえぇぇぇええ!!」
「今度はお前のば―――

 言い切る前に殴り飛ばした。腹のど真ん中に電撃が撃ち込まれ、猛スピードでニョロゾが岩面に直撃した。手を緩めず、ニョロゾへと突っ込む。
 電撃や殴打を繰り返し、怒りというか、勢いに任せてとにかく殴り続ける。さっきまで電撃を手加減していた時とは大違いだ。

「ル、ルシャ?」

 どこからかミラノの声が聞こえた。それと同時にルシャの怒りは静まっていった。ルシャとニョロゾは、その場所だけ時が止まったかのように動かない。
 
「大丈夫?ルシャ」
 
 恐る恐る話しかけた。気持ちは収まっているだろうが、やっぱりあれだけ狂っていたから心配ではあった。

「ああ。それより、大丈夫か?」
「え?」

 大丈夫?と聞くのはこっちだよ。と言おうとした時、誰かが後ろから叫んでいるのが聞こえた。

「おい!大丈夫か!?」

 こちらに向かってきたのは『リオル』と『ポッチャマ』と『ロコン』の3匹。俺たちが戦闘中だったということに気付いたのだろうか。

「…ダレ?」
「ダレって…」
「ああ、名前。俺は『グラン・シャウェイ』」

 はきはきとし、自信に満ち溢れた口調で話すリオルはそう名乗った。俺と年は同じくらいだろう。

「私は『ルナ・ダデビオ』。ルナって呼んで」
「僕は『ジュア・アンボワ』。ジュアでいい」

 ルナがロコン。ジュアがキモリ

 ご丁寧な3人だ。おそらくこの3人は探検隊だろう。だとしたらリオルがリーダーだろうか。3人はそこまで変わった特徴は無く、一見どこにでもいる種族だ。

「俺はルシャ・バークス」
「私はミラノ・ロイナス。よろしくね!」
「おうよろしく。…そういえば、ギルド居たっけ?」
「うん。今日が2日目で初依頼に来たんだけど…」
「やっぱりね!」
「へ?」

 どうやらこの人たちは私たちがここに居ることを知っていたようだった。ギルド居た?って聞くことは、もしかして…

「もしかして、ギルド所属ですか?」
「うん。今日朝礼一応いたけど、僕たちは君たちと反対側に居たから気づかなかったかもねー」
「それで、初依頼のギャラクシーがピンチと聞いて俺たちが駆け付けたわけよね」
「…へ?なんで私たちがピンチってこと…」


 グランの説明によると、もともと受けた依頼そのものはEランクで難易度が低い依頼だったらしいが、最深部には連続強盗犯で指名手配されていたBランクのお尋ね者が居たらしい。それをペルから聞いて3人が至急駆け付けたわけだが、ニョロゾがルシャの逆鱗に触れてぼこぼこにされていたから、あーよかったーっていう会話をしていたらしい。

「とにかく、依頼は完了だ。報告をして、ギルドへ戻るぞ」

 そういうと、グランは探検隊バッジを取り出し、それに向かって『依頼完了です』と喋りかけた。すると、俺たちの真上から光が差し、俺たちはダンジョンの外へと強制送還された。





アサシオ ( 2016/03/01(火) 21:04 )