04 怒鳴られ怒られ叱られて
「起きろぉぉぉおおおおお!!朝だぞぉぉおおお!!!」
突如鼓膜を襲撃した超が付く爆音。昨日の親方様に負けず劣らずだ。てか冷静になってる場合じゃねえ。
「起きろってばあああ!!」
「だーもぉ!!起きてるから叫ぶのはやめろおおお!!」
俺の叫びに反応し叫ぶのをやめた。ミラノはすでに死亡寸前。
音の正体は『ドゴーム』だった。
「…誰だよ」
「俺は『バビル・ダンテ』。弟子の一人だ。早く起きねえと、朝礼遅れちまうぞ!」
「もし遅れたらどうなるんだ?」
すると、さっきまで赤かったドゴームの顔が、一気に青ざめていった。しばらく俯き、俺の質問に答えようか迷っていた。
「お、遅れたら…親方様のあの一撃が…」
あの一撃の想像がついた。昨日の夜の一撃。確かに思い出すのは嫌かもしれない。ていうか、俺たちの行動であの一撃を喰らうかどうかが決まるのだ。大袈裟に言ったが。
「とにかくッ!お前たちが遅れて俺たちまでとばっちり喰らうのはごめんだからな!早く支度しろッ!!」
急ぎたいのは山々なのだが、ミラノが倒れこんで一向に動かない。これで起きなかったらバビルのせいだぞ。誰だ熟睡中の2人にいきなり爆音聞かせて気絶させた奴は。心の中で文句を言いながら、仕方なくミラノをおぶって朝礼へ連れて行った。
〜☆〜
朝礼の場には、俺たちを除いて8人ほど並んでいた。みな同じ方向を向いており、その先にはペル。さらに先には昨日入った親方の部屋の扉があった。
「遅いぞお前らぁ!!」
「うるせえ!誰かさんがいきなり叫んだから相方が気絶して遅れてんだよ!」
「なんだそれは!?2人ともまだ起きそうにもないから起こしたんだよ!俺が起こさなかったら2人とも遅刻してるぞ!」
「黙れ!!」
口喧嘩を止めたのはペルだった。鶴の一声ならぬインコ(?)の一声。上の立場に居るものが言うものだから、俺とバビルは何も言えなかった。
「おまえはいつも声がデカい!周りのやつも迷惑なんだよ!それにルシャも初日から物騒なことしてるんじゃないよ!!」
「「…」」
今の騒ぎでミラノもようやく目を覚ました。
「…全員そろったな。では、親方様お願いします♪」
ペルが一歩引き、扉からプクリンが登場。相変わらず何も考えてなさそうな顔だ。…昨日の行いもそうだが、ホントにこんな呑気なポケモンが親方なのかよ…
「では親方様。一言お願いします♪」
「…すぅ」
(…は?)
(えっ?)
何を言うのかと思えば、聞こえてきたのは紛れもない寝息。まさかコイツ…
「ぐー…すぴー…すー…」
(…ホント親方様すげえよな…)
隣の弟子がヒソヒソ話を始めた。
(ああ…そうだよな。起きてるように見えて、実は目を開けながら寝てるんだよな…)
(…まじか)
(…うそぉ…)
ミラノにも今のヒソヒソ話はしっかり聞こえてきた。ペルに聞こえてたら結構ヤバい気がしたが、ペルには聞こえてないようだった。聞こえててスルーしてるのかもしれないのだが。
「有り難いお言葉ありがとうございます♪」
(どこがありがたいんだ)
「さあみんな!親方様のお言葉を肝に銘じて、今日も頑張るんだよ!」
(誰が寝息を肝に銘じるんだよ!?)
初日の朝礼からツッコミっぱなしである。口にでもしたら爆音飛んできそうだが。
「最後に!朝の誓いの言葉ッ始め!!」
『ひとーつ!仕事はゼッタイさぼらなーい!!』
『ふたーつ!脱走したらお仕置きだー!!」
『みーっつ!みんな仲良く明るいギルド!!』
「それじゃみんなッ、今日も頑張るよォーー!!」
『おおーーー!!』
誓いの言葉は結構真面目だった。まあ親方が厳格な雰囲気を持たないから、ギルドも明るいだろうな。見よう見まねで言ったのだが、弟子はみんな明るい表情で誓いの言葉を言っていた。
弟子はみな散っていき、それぞれの仕事場へと向かっていった。
「お前たちはこっちに来なさい」
これからどうしようか。ということをミラノに相談しようと思った矢先にペルからの呼び出し。まあ初めてだろうからチュートリアル的なこと言われるんだろうな。と思っていたら、ペルは何も言わずに地下1階へと上って行った。
〜☆〜
地下2階へ上ってみると、何やら掲示板のような物の前にペルが待機していた。特に緊張感は無かったが、ミラノは少し落ち着きがなかった。
「早速お前らには働いてもらうぞ。といっても、お前らは初心者だからな。後ろにある掲示板。そこにはこの大陸で困っているポケモンからの救助要請などが記された依頼書が貼られている。その依頼を実行するのがこのギルドの修業だ」
掲示板に貼られた仕事をするだけでいいのか。見たところいろんなことが書いてあり、自分のやりたい仕事をこの中から選べるのか。
「その掲示板に貼られてる仕事をするのか。簡単だな」
「そうだ。…物分かりが早いなお前たち。だが、お前たちが来る前まではここの依頼はそこまで多くは無かったんだ」
掲示板を見てみると、確かに板から少しはみ出るほどに依頼の紙が貼られている。だが、ペルの表情を見る限り、決してここの親方の顔が広くなったからとかの理由ではないらしい。
「最近、この世界の時間のバランスが崩れ、その影響でポケモンの行動がおかしくなったり、自然災害が多発しているのだ」
(…?時が狂ってなんで自然災害とか発狂とかが起こるんだ?少なくともそこまで時間の流れをおかしいとは感じないんだが…)
「それが関係しているのかどうかは知らないが、最近各地で広まっているのが、『不思議のダンジョン』だ」
「…ナニソレ」
「ルシャ、昨日私たちが石を取り返したよね?あの場所も不思議のダンジョンなんだ」
「…一見普通の洞窟だったようにも感じたがな」
「そう感じるかもしれないけど、実は入るたびに地形や落ちている道具が毎回変わっているんだ。探検に失敗したら道具やお金を失うしから行くリスクは大きいけど、でも、その分行くたびに新しい発見があるから、探検するにはとてもピッタリなダンジョンなの」
「ふうん…で、俺たちが今から不思議のダンジョンに行くというわけか?」
「ああ。まあ、最初はこの依頼からやっておきな」
ペルはそう言って、俺たちの前に一枚の紙を差し出した。ポケモンの世界の文字だろうか、全く読めないぞこれ。
「『はじめまして。私はバネブーです。ある日、私の大切な真珠が盗まれたんです!』」
(…大切どころか体の一部だろ。よく死ななかったな)
「『真珠は私にとっては命。真珠がなかったら、私何もできません!』」
(…窃盗事件の依頼ってこのギルドに来るものなのか?警察いないのかここ?)
「『そんなある日、真珠が見つかったとの情報が!しかし、その場所はダンジョンの奥深くで、とても危険な場所。弱い私ではとても取れません。どうか、探検隊のみなさま、よろしくおねがいします!』…だって」
「…落とし物を代わりに拾ってくるだけじゃねえか」
「もっとないの?宝見つけて来いとか、私そういうのがやりたいけど…」
「黙れ!!」
ペルがいきなり声を荒げた。確かに1日目の新人があーだこーだ言ってたらそりゃ起こるわな。
「新入りは下積みが大切なんだ!ダンジョンを失敗した時のリスクはわかってるだろうが、もぉ一度だけ言うぞ!探検に失敗したら、所持金は半分ほど消え、持ち込んだ道具もなくなるからな!」
「はーい…」
しぶしぶ返事を返すミラノ。1日目から怒鳴られたから、気分が落ちるのも当然かね。最初に言ったのが自分だし、なんか罪悪感湧いてきたわ。
そんな感じで、俺たちは初依頼執行へと向かった。