03 運命の扉は気味悪い
日も沈みかけたころ、弟子入りをするギルドへと向かっていた。さっきまではクールだったルシャが遊園地に来た子供のようにあたりをキョロキョロと見まわしていながら歩いてる。
そっか、この世界初めてなんだっけ。
「…ところで、ギルドってどこだ?」
「もうすぐ。足は疲れてない?」
「おう。大丈夫だ」
「ギルドの入口は高い丘の上にあってさ〜。階段があるだけいいけど、階段上るのがキツいんだよ。ほらっ!ここ」
ちょうど見えてきた小高い丘。その頂点にはピンクのテントがうっすらと見える。
「丘陵に窓が付いてるな。ということは、ギルドはこの丘の中に存在するのか」
「よく気が付いたね」
ここには何度も来たことはあるけど、丘に窓が付いているのはルシャが言って初めて気づいた。
〜☆〜
「気味悪いな」
それ私がここに来た時と全く同じ感想。何度も訪れるうちにこの景色を見るのが当たり前になっているが、改めて言われてみると確かに気味悪い。昼間でさえ気味が悪い。日が沈みかけている今、暗闇の中自分の等身の3倍ほどあるポケモンの顔面が目の前にあるのは非常にキモイ。
ルシャが下に視線を向けた。
「この網目状に敷かれた木はなんだ?」
「ああ、これね。私が乗ってみるよ…」
今までは恐怖でしかなかった格子。だけど、今日は何の心配もなく乗ることができた。きっとルシャが近くに居るからだろうか?いやまてそれ恋人が言うセリフ。
「ポケモン発見!ポケモン発見!」
「…ッ」
いつもなら驚いて格子から足を離していたのだが、今日は耐えることができた。ルシャは黙って私を見つめている。
「足形はイーブイ!足形はイーブイ!」
「…へえ、足形で種族を判別することができるのか。すげえな」
ルシャが感心するのも仕方ないと思う。人間はきっと、足形はみなほとんど同じだろうから。
「ん、傍にイーブイとは思えない奴が一人いるな。お前も乗れ」
(これで俺がピカチュウじゃないと診断されたら…まさかな)
怪しむこともなくルシャは格子の上に立った。自分のビビりまくっていた最初の頃と比べると、思い出して苦笑いしてしまった。
「ポケモン発見!ポケモン発見!」
(さーて…)
「足形は…あ、足形は…」
「ん?!どうした!応答せよ!見張り番ディグダ!!」
格子の下に居るのはディグダだった。そのディグダが足形を判別しているらしいのだが、あと一人の声の主がわからない。
「えーっと…たぶんピカチュウ!」
「はぁあ!?なんだたぶんってェ!?」
「だってえ、ここら辺じゃ見かけない足形だし、わからないものはわからないよ」
「そんなこと言うなよ!お前ならできる!自分を信じろ!!」
「そんなこと言ったって、わからないもんはわからないんだけど…」
暑苦しいもう一人と現実主義者のディグダ。この二人でいつもやってるのかな…タイプ全然違うけど。
「…おい、俺ピカチュウだし、ここら辺じゃ見かけないって言っても俺この町初めてだから何も怪しくないし。警備厳重なのはよくわかったけど俺たち何も企んでないから開けてくれ」
「…イーブイの相方は随分しっかりしとるな。入れ」
今まで入口を塞いでいた鉄格子が重い音とともに開いた。私もルシャも「おお…」と声を漏らした。
「あれ?見張りもお前のことわかるのに、お前はあっちのことわからねーの?」
「ハハッ」
笑ってごまかそ。
「…見張り番が何も言わなくなったな。入っていいってことか」
「あぁ緊張してきた…!」
心臓のドキドキが止まらないし、武者震いするし、緊張がすごいけど、やっと憧れのプクリンのギルドに入れる!でも、ルシャはそっけない表情だった。
入口へ入ると、地下へと続く梯子があった。ルシャの言う通り、ギルドの本部は地下だった。
「うわぁ〜…」
「おお〜…」
入口の重苦しい雰囲気から一変。ギルド内はポケモンが十数匹おり、みな笑顔でおしゃべりをしている。こんな明るい場所に来るのに私はどれだけ苦労をしていたのだろうか…有名なギルドだから厳格な雰囲気が漂っていると思っていた今まで自分が馬鹿みたいだ。でもその前に入口のデザイン変えろ。
「おい!」
「ん…」
突然後ろから小高い声が聞こえた。後ろを振り向くと、『ペラップ』がそこにいた。
「お前らか。入ってきたのは」
「おう。お前はなんだ?」
「おま…まあ、私はこのギルドで一番の情報家、『ぺル・ラート』だ。勧誘やアンケートはウチはお断りさ。帰れ帰れ」
一人称が私の癖に言葉遣いが結構悪い。というか勧誘やアンケート来てるんだ…
「ちょっと待て。俺たちはギルドに弟子入りしに来たんだ。勧誘やアンケートなんて、普通のピカチュウとイーブイがなんでやるんだよ」
「えぇっ!?」
大きく羽ばたきながら驚くというアクションデカいリアクションをした後、今度は後ろを振り向いて何やらぶつぶつと独り言を言い始めた。
(変わった子たちだよ…最近はギルドの修業が厳しいからと言って、脱走をするポケモンが後を絶たないというのに…)
「あのー…修業ってそんなにきついんですか?」
「はっ!?」(聞こえてたの!?)
(いや、驚かれても、全部盗み聞き余裕だったんだけど…)
「いやいやいや、ギルドの修業はとぉーっても楽ちん!そっかー♪探検隊なりたいのなら早く言ってくれなきゃなー♪」
流石頭音符。棒読みになりかけたところをうまく修正した。心が棒読みしてたのはルシャも私も気づいたけど。
「ささ、探検隊の登録はこっちだよ♪」
笑顔で地下2階への梯子を下って行った。手がないから相当下りづらそうだったけど。
「…俺たちも行くか」
「うん」
下った先の地下2階は、1階に比べたらポケモンはそこまで多くなかった。でも、その一人一人がオーラというか、1階に居たポケモンとは違う、何かそれぞれが鍛えられてるような、そんな雰囲気があった。
ペラップの居た場所の隣には、少し大きめの扉があった。
「ここから先は親方様の部屋だ。くれぐれも、うるさくしたり、騒がないように」
「わかった」
(…)ゴクリ
明るい口調だったペラップが、厳格な口調で話してきた。よほどうるさくしたらダメなのだろう。
「親方様。ペルです。入ります」
ガチャ…
入った先には、左右に大量の宝箱。それには収まりきらない輝く宝石や金貨が山の様。正直宝石や金が光を反射してくれるので明かりはいらないと思ったが、松明が2本、レッドカーペットの両脇に建てられていた。そのレッドカーペットの奥には、プクリンがこちらに背中を向けてデンと座っていた。
「親方様。こちらが、探検隊になりたいと申し出る2人でございます」
「…」
「…」
「…」
「…親方様?」
「…」
「…おやk「やあっ!!」
「わぁ!?」
「うおっ!?」
プクリンの挨拶はペルのセリフを見事にかき消した。ていうか突然振り向かないでほしい。
「君たち探検家になりたいんだよね?それなら探検隊のチーム名を登録しなくちゃ。登録名は考えてある?」
「え?そ、そんなの考えたことないけど…」
流れるように疑問を2つ吹っ掛けられた。1つ目は2文字で答えられるが、2つ目があまりにも難題すぎた。
(…考えてある?)
(ううん。そんなの考えてもなかったよ)
「…まあ、考えてないなら、オーソドックスな名前でもいいぞ。もし有名なったら覚えやすいし」
どうせならカッコいい名前がいい。でも、いざとなればそれが思い浮かんでこない。
「…ギャラクシーでいいんじゃね?」
「「ギャラクシー?」」
ペルとミラノが見事にハモって訊いてきたので少し笑いそうになったが、ちゃんとした理由があったので、笑う気は一瞬で失せた。
「ほら、俺たちって探検家になるんだろ?探検するんだろ?言ってたじゃん。『この世界には、まだまだ誰も知らない大陸、島…そんなのがたくさんある』って。だから、俺たちはそれを越えて銀河まで行こうぜってこと」
「…いいじゃん!」
「じゃあ、『ギャラクシー』で登録するよ。とうろくとうろく。みんなとうろく…」
「!!お前たち!耳を塞ぐんだ!!」
「え?」
「いいから早く!!」
プクリンを見てみると、体を少し反らして、大きく息を吸っていた。まさか『登録ー!』とか叫ぶのでは…そう思った瞬間、本能的に耳を思いっきり塞いだ。ルシャも思いっきり耳を塞いでいた。
「タァァァァアアアアアア!!!」
(うおおおおお!!!)
(ちがったああああ!!!)
想像以上、騒音爆音を越え、衝撃波が部屋内を襲った。窓ガラスが何故耐えれるかがよくわからない。松明の火も消えないし。
30秒ぐらいずっと爆音が耳を襲い、そして静まった。
「おめでとう!これで君たちは今日から探検隊だよ!」
いや今の雄叫びは何のためにした。何故か目を輝かせるミラノ。
「ホント!?」
「うん。それじゃ、これを受け取って」
プクリンはそういうと、座っている椅子の後ろから何やら黄色い箱を取り出し、ミラノに差し出した。開けてみると、茶色いカバンと、羽が生えたバッジが2つ。それと、随分古い地図が紐で巻かれて入っていた。
「その茶色いカバンはトレジャーバッグといって、基本的に拾った道具を入れるバッグ。君たちの活躍に応じて容量が増えていくよ」
(そんな機能のカバン人間の頃も無かった気がするぞ。結構ハイテク化してるのなこの世界)
「そして探検隊バッジ。真ん中の色はピンクだけど、これも活躍に応じて色が変わっていくよ」
(じゃあ自分たちがどれだけ活躍したかはこれで確認できるんだな。凄い探検家は金とか銀とか豪華な色なんだろうな)
「そして不思議な地図。雲に覆われてて見えない部分があるけど、そこはまだ未開の場所。そこら辺の地域を制覇したら雲が晴れて見えるようになるんだよ」
「…ん、バッグにスカーフが2つ入ってる」
「そのスカーフはそのポケモンの波導の色に応じて色が変わるんだ。後で試したらいいよ」
「波導?」
「そのポケモンが発する見えないエネルギーの事」
「言うことはこのぐらいだな♪あとは部屋を案内するから、私についてこい」
波導ってなんだろう?まあ、探検していくうちにわかるよね…
〜☆〜
案内された部屋には2つの藁が敷かれてあって、これで寝ろという感じだろう。狭くもないし、まあまあ快適かもしれない。
「明日からお前らは修業の身だからな。朝には朝礼がある。呼びに来る係はいるが、くれぐれも遅刻なんかするんじゃないぞ」
「おう」