グレンハウス グレンマン編〜グレンマンAR編
グレンマン編 その1
ホウエンリーグ四天王であるゲンジは、とあるCM撮影の為、カントーにあるグレン島を訪れていた。
彼の友人であるカツラが、自分の所有しているポケモン屋敷を改築し、新しい居住施設、グレンマンションを建設するに辺り、おもいきって建設会社を建てる事になったのだ。
その名もグレンハウス。
ゲンジは、その会社を大々的に宣伝するCM撮影のメインキャストを頼まれたのだった。
「ふむう、立派なマンションだな。グレンハウス?」
「はい。」
カントー区域だけではなく、CM放映を全国的に展開するプロジェクトの為か、現場にも緊張が走る。
ゲンジの呼びかけに応えたのは、カントー遠征の際、共に同行していた娘のアスナだ。
久しぶりの娘との再会に、実は俳優経験のあったゲンジの演技にも、磨きがかかる。
「カーット!」
この企画の企画者兼監督のカツラの活が響き渡る!
カツラの気合の入った声からして、どうやらカットの撮影は成功のようだ。
撮影もひと段落したところで、ゲンジはカツラの用意した監督席を借り、僅かな休憩に一息付く。
「いやー、いい演技だったよゲンジ君。」
「ああ、どうも。」
かなりの高齢現役トレーナーであるゲンジを「ゲンジ君」と呼べるのも、大手トレーナーの中ではカツラぐらいのものだろう。
正確な年齢までは把握できないが、かなりの歳の差があるとみて間違いないだろう。
「次のカットの事で、ちょっと相談があるんだが。」
カツラは、おもむろにそう切り出した。妙に「察してほしい」という視線を受け、ゲンジはひとまず、カツラに連れられ、ロケバスの中に足を運んだ。
そこには全身が真っ赤な色に包まれた、まるで特撮ヒーローをさらに筋肉質にしたような、巨大なヒーロースーツがにおう立ちをしている!
ゲンジは物凄くいやな予感と共に、カツラ監督の説明を受ける。
「これは、グレェンマンだ。」
「グ……グレンマン?」
「グレンマンではない。グレェ↑ンマンだ。」
「グ……グレ……ンマン。」
この歳にもなってイントネーションの違いを指摘されるゲンジ。
だがゲンジが気になっているのはそこではない。
確か自分は建設会社のCM撮影キャスト出演目的でここに呼ばれたハズ。
一体なぜこのようなスーツが!?
「これを着てほしいんだゲンジ君。」
「……!?」
困惑するゲンジ。
だがこういった奇抜なCMを作るという試みは、俳優経験のあるゲンジにとっては、めずらしい事ではない。
世代を飛び越えて発信するキャッチーなCMとは、おそらくそういうものなのだ。おそらく!そう信じたい!
自分の身に起こりつつある事態をなんとなく察しながらも、撮影は続くのであった!
――なぜ……グレンマンなんだ!?
つづく
グレンマン編 その2
「行ってしまうのグレンマン!」
アスナの素人さながらの元気で軽快な名演技が飛ぶ中、撮影は続いていた!
「行かないで!」
「すばらしいマンションだったよ!」
それに応える、グレンマンの衣装に身を包んだ、いや包んでしまったゲンジ!
高齢のトレーナーである事を感じさせないスマートな演技に、現場もどこか安心感と充実感に包まれる!
「カーット!」
そして何故かメガホンをとる事になったカツラの、オーケーサインとも取れるカットの声が再び現場に走る!
撮影は好調のようだ。
かなり体力を使うグレンマンのスーツを気遣ってか、スーツアクター兼演技者としての演技を終えたゲンジに少しの休憩をさせる為、二人は再びロケバスに戻った。
「あつい……。」
あまりの暑さに、グレンマンスーツのメットをとるゲンジ。
彼は普段、四天王業務の際には、マグマが煮えたぎったようなフィールドで挑戦者を待ち構えている為、灼熱のグレン島での撮影などは、なんて事はないと思っていたのだが、やはりそんな彼にとってもグレンマンの巨大ヒーロースーツは暑かった!
「いやぁー、いい演技だったよゲンジ君。」
「……どうも。」
「じゃ、次のシーンいこうか。」
そう、今日の撮影はまだこれからも続くのだ!
体力的には、持つかもしれない。ゲンジも長年の実績あってか、体力面には自信があった。演技に支障が出るような事態にはならないだろう。
ふと、ゲンジは物凄く当然のように疑問になった。
建設会社のCMでこんなスーツを着る必要があるのか……!?と、至極当然の疑問である!
「カツラ監督!」
「なんだねゲンジ君。」
ゲンジは自らの全ての疑問をぶつけるかの如く、監督に言った!
「この衣装と、マンションは関係あるんでしょうか!」
だがカツラの解答は非情なものだった。
「関係?あるわけないだろゲンジ君。」
「なっ……!な……にっ……!?」
ゲンジの思いとは裏腹に、撮影は続行していく!
つづく
グレンマン編 その3
グレンハウスのCMは好評だった!
メインアクターのゲンジも、グレンマンの起用には物凄く思うところがあったが、CMがテレビのほうに導入されると、意外にも評判が良く、そしてゲンジは自分がいち俳優である事を悟ったのだ。
こまかい方針は監督に任せて、自分は自分なりの演技を演じればいいのだ、と!
ゲンジの真摯な気持ちが通じてか、グレンハウスが建設したマンションへは、早くも居住の予約が殺到していた!
そしてグレンハウスは新たな展開として、炎タイプのポケモンバトル用フィールドの建設をまかなう事になる。
当然の如く、溶岩フィールド活用に関わっているゲンジは、このCMに再びの協力の姿勢を見せた。
そして、新たな撮影の準備がはじまったのである!
再び愛機ボーマンダと共に、撮影スタジオのあるグレン島へ文字通り飛んでいくゲンジ。
スタジオに入ってからは少し身構えていたゲンジだが、いざ撮影の用意がはじまっても、どうもグレンマンの衣装を着るような素振りはカツラには見られず、少しほっとする。
カツラ監督は、これから行う撮影の方針を明らかにする為、部屋のようなセット内部でゲンジに資料を手渡すと、ゲンジをセットの席に座らせ、宣伝項目の説明をはじめた。
「ほぉーお、これがMAGMAR(マグマー)。」
「マグカルゴやヒードランのようなポケモンに見られる溶岩殻を応用した断熱素材と、ソーラービームエネルギー(SBE)とチャージビームエネルギー(TBE)を応用したソーラーチャージ(ST)発電で、光熱費を約85%。スモッグ排出量を約20%減らせるそうだ。」
「なるほど。」
ポケモンと最新科学を利用したクリーンエネルギーの利用に、フィールド構成の構造システム面にはあまり関わらないゲンジは、興味深さを示している。
現役トレーナーとはいえ、最新機器にも関心のある先輩トレーナーとの仕事は、ゲンジの年齢ながら、勉強になるものがあった。
「しかしこの、ARが読みづらいな。」
「ARに気付くとは、さすがゲンジ君!」
どうもゲンジの世代としては、マグマーを、ギギギアルのように、マグマアルと呼んでしまうのだ。
カツラもそれに関心があるのか、それには共感の態度を示している……?
いや!そうではなかった。そこにはまたしても!思惑があったのだ!
「そこで、お願いしたいのが!」
カツラはおもむろに、ポケットからダイナマイト爆破に使うボタンのようなものを取り出し、それをポチッと押す。
すると、なんとカツラの背後にあった床の一部がウィーンと引き戸扉のように開き、中から吊るされたスーツが姿を現したのだ!
吊るされているスーツは、ゲンジには酷く見覚えのあるヒーロースーツだった!
「また……グレンマン……!」
ゲンジは思わず、有利な格闘タイプのポケモンにれいとうパンチをくらっていた頃の若き自分を思い返していた。
「ただのグレンマンじゃない……グレンマンARだ!」
そう、グレンマンスーツの中央には、最近いたるところで見かける、ARマーカーが備わっている。
バージョンアップというやつだろうか!
「そう、MAGMARのARだよ!」
「グレンマン……AR……。」
物凄く自信満々に新たなスーツを紹介するカツラ!
確かに、宣伝効果としてのバージョンアップであれば、ゲンジにもいまいち取っ付きにくかったARをコンセプトに展開するのは、悪くない発想だ。
今度はむしろ、協力の姿勢をする要素があるといっていい。
やはり当然の如く、ゲンジはまたしてもこのスーツを着る事になってしまうのだろうか!
だが!それでもゲンジはこの起用に疑問があった!
「やってくれるね!?」
「ちょっと……考えさせてくれ……。」
自分の四天王としての立場、撮影の意図、必要性、イメージ、様々な思いが葛藤するゲンジが、出すべき答えとは……!
つづく
グレンマン編 その4
「グレンマン……AR……!」
「やってくれるね!?」
回をまたいでも、ゲンジはまだ悩んでいた!時間にして約10分といったところだが、灼熱の砂風呂で心身ともに鍛えた経験のあるゲンジにとっても、かなりの試練だった!
悩みの中、ゲンジはやはり、どうにも自分のような高齢トレーナーは、この役には不釣合いではないのかという疑問を膨らませていた。
「この役には!」
「なんだ。」
「もっとふさわしい男がいるのではないでしょうか。年齢的にも購買層に近くて……例えば……ワタル君とか。」
――ドォォォン!!
ゲンジがそれを告げた瞬間!撮影スタジオの外から、何か巨大ポケモンが着地したようなものスゴイ轟音が!
ドラゴントレーナー使いのゲンジには、それが何の音だか、僅かに聞いただけでわかった。
――あれはカイリューの着地音……ま、まさか!?
ガラッ!とセット兼ジムサンプルである住居のドアをあけて入ってきたのは、今さっきゲンジが唱えたばかりの名前の人物だった!
「チャンピオンのワタルです。よろしくお願いします。」
ワタルは、実力派トレーナーの小気味よい挨拶を口にすると、監督はゲンジから視線を逸らし、当然の如くそれに応えた。
「これなんだが。」
「よろこんで着させて頂きます!」
「えっ!?」
あまりの事態に置いてけぼりをくらうゲンジ!
ワタルは監督の指示にアッサリ応えると、マッハの速さでスーツを着用した!
こころなしか、サイズはピッタリだった!
そして物凄い手際よく一斉にカメラを構えるスタッフ達!
「溶岩断熱素材と!ST発電で!光熱費と!スモッグ排出量を減らす!」
スーツアクター経験のあるワタルの、アドリブとはとても思えない、ポーズつきの名演技が炸裂する!
「その名も!MAGMAR!」
決まった!と、思わず呆気にとられてそれを眺めていたゲンジもそう感じてしまっていた!
「こんな感じでどうでしょう、カツラ監督。」
「完璧だよ、ワタル君。」
全く希望してはいなかった筈であるのに、脱兎の如き速さで配役が交代したグレンハウスCM!
ゲンジの仕事は一体どうなってしまうのか!
つづく