IDOL MONSTER
step 1
これに出ます!!
ユキメノコがKCB151から興味を失うまでの期間限定ではあるが、オレが本気でマネージャーを務めることになってから数日が過ぎた頃、クサイハナの提案で今後の活動方針を決める会議をライモンシティのポケモンセンターですることになった。

「あんたもやっとマネージャーとしてやる気になったみたいだし、私達も1ヶ月前とは見違えるほど成長したと思うの」

クサイハナがそう言った。前半はともかく、後半はまったく意味がわからない言葉だったが、まぁとりあえずスルーしておこう。ヘタに刺激してこの間のような事件が起きたら今度こそ街から追放されるかもしれない。オレは黙ってクサイハナの話を聞くことにした。

「ユキと私の息もピッタリ合ってきたし、そろそろステージに立ってもいいころだと思うのよね」

「…そうね、私もそう思う、このブタ野郎は何の役にも立たないブタだけど、ハナと私はかなり成長出来たと思うわ」

クサイハナの言葉に、ユキメノコは笑顔で同意した。その自信はどこから来るんだ。ていうか今気づいたけど、こいつらアダ名で呼びあう仲になっていたのか、オレは名前すら呼んでくれないのに、ユキメノコにいたっては人とすら見てくれてないうえに、会議が始まってからずっとオレの太ももを楊枝で刺してきやがる。地味に痛い。そんなものどこから持ってきたんだ。この陰湿野郎が。
だがまぁステージか、この街のステージといえばおそらくポケモンミュージカルだろう。あそこは素人でも参加できるし、初心者用の演目なんて学芸会レベルだ。こいつらでもまぁ通用するだろう。よし、ここはひとつマネージャーとしてこいつらに経験を積ませてやるか。

「いいなそれ、この街のステージと言えばミュージカルだろ?その初心者用の演目に参加して経験を積むってのもイダダダダダダダ!!!!」

この陰湿野郎、楊枝から釘に持ち代えて刺しやがった。だからどこから持ってきたんだ。このサディストが。オレは何か間違えたことを言ったか?いや言ってない。断じて言ってない。それなのにこいつらの表情は何だ。クサイハナはやれやれみたいな呆れた表情してるし、ユキメノコにいたっては生ゴミを見るような目で釘を持つ手にちょっとずつ力を込めて刺してくる。凄く痛い。絶対血が出てる。

「あのねぇ、私とユキは初心者用の演目なんて眼中に無いのよ。あんなの学芸会レベルじゃない。私達が出たら他の演者が可哀想でしょ?あんた1ヶ月以上も見ておきながらそんなこともわからないわけ?」

クサイハナがため息混じりにそう言った。まさかこいつにそんなふうに説教されるとは思わなかった。だからその自信はどこから来るんだ。ユキメノコも頷いてるし、可哀想なのはお前らの頭だ。このポンコツユニットめ。

「ハナ、このブタは私達の魅力がわからない可哀想なブタなのよ。だから気にしないで、話を進めましょ」

「そうね、ユキの言う通り。はぁ、ちょっとガッカリしただけ、気にしてないわ」

「そうよ、こんなブタに気を取られるなんて、私達の貴重な時間が勿体無いわ」

「それもそうね、話を進めましょう、そこのマネージャーが言ってたミュージカルってのは半分正解、でも私が言ってるのはただのミュージカルじゃない!!ミュージカルコンテストよ!!もちろん初心者用なんかじゃ無いわ、これよ!!」

クサイハナがそう言って何かのポスターを見せつけているが、なんだか視界がボヤけて見えないな。何だろう。これは…あぁ、涙か。泣いているのか。オレは。おかしいな、チャンピオンになるために旅を始めた筈なのに、手持ちのポケモンにはブタと呼ばれ、気付けばこんな燃えないゴミ系アイドルのマネージャーになっていましたとさ。ははっ、笑えねぇ。もうこんな粗大ゴミ捨ててセイガイハシティとかで静かに暮らしたい。もうチャンピオンじゃなくていい。人として生きていければそれでいい……で、何を出したんだこいつは。
オレは目をこすり、クサイハナが掲げているポスターを見た。きらびやかな背景に、可愛いポケモンが笑顔で写っている。なかなか良い感じのポスターだ。そのタイトルは

【KCB151に続け!! シンデレラオーディション】

「KCB151はもちろん!『モーモーミルク娘。』や『アクアリング!!』も皆このミュージカルをきっかけにブレークしたわ!!毎年このオーディションを見るためだけに、全国から8000人が集まる超ビッグイベントよ!!それだけじゃないわ!!コンテストの模様は全国に生中継されるし、優勝したら大手芸能事務所とその場で契約、即デビューが約束されてる!!まさに私達のためにあるような企画ね!!もちろんいきなりこれに出られるわけじゃ無いわ。地方予選を勝ち抜いたアイドルグループだけがこれに出られるのだけれど、今の私達なら予選なんて余裕で突破できる筈よ!!むしろ顔パスでもいいくらいだわ!!ちなみに去年の覇者はKCB151ね、まぁあの娘たちもけっこう頑張ってるみたいだし、結果に不満は無いけど、もし私達が出ていたらこうはならなかったでしょうね!!」

興奮して話すクサイハナをボンヤリと眺めながら、あぁ、そういえば実家で暮らしてた頃にテレビで見たことあるわこれと思った。毎年違うテーマでさまざまなアマチュアのアイドルグループが競うコンテスト形式のミュージカルで、大手芸能事務所の社長やら大物芸能人やらが審査する。ここで優勝したグループは必ずブレークすることで有名で、アイドルの登竜門とか言われてるやつだ。で、こいつはそれに出ようってのか。
こいつが。この学芸会レベルが。

「いいわねそれ。是非とも出場して、いろいろ物色したいわ」

ユキメノコも乗り気だ。なんか目的が違う気がするが、だが残念ながらそれは無理だ。実力もそうだが、それ以前に足りてないものがある。

「でもこれ参加資格は4匹以上のグループってあるぞ、お前とユキメノコだけじゃ足りなくないか?」

「その通り!!いいことに気がつきましたマネージャー君!!誉めてあげるわ!!」

「ブタにも文字が読めるのね、感心したわ」

なんでだろう。ちょっと嬉しい。久しぶりに誉められた気がする。なんだかんだでこいつらはオレのことを好きでいてくれてるのかな。安心した。オレは心のなかでボロクソに言ってた自分を少し反省した。

「ちなみにジムバッチも5個以上必要よ!!こっちも2個足りてないわ!!」

「やはりブタはブタね、何の役にも立たない」

前言撤回だ。こいつらはやはりポンコツの公害系アイドルユニットだ。くそが。だが待て、ジムバッチ5個以上か、この条件はむしろありがたい、チャンピオンの道を諦めた訳ではないオレにとって堂々とジムリーダーに挑戦できるチャンスだ。こいつらも今まで以上に必死に戦うだろうし、戦力という意味で仲間が増えるのも悪くない。このオーディションに参加することは目の毒になるので反対だが、それを目指す過程は悪くない。

「とにかく、イッシュ地方予選まで後3ヵ月!!仲間2匹とジムバッチ2個!!何としても手にいれるわよ!!」

「楽しみだわ、どんな可愛い物があるのかしら」

こうしてオレ達はそれぞれの目標に向かって動き出した。まず最初に目指すのはライモンジム。目的は勿論4個目のジムバッチだ。そのための仲間集めもとい戦力増強をかねて、オレ達は5番道路に向かった。
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すなかけ ( 2013/07/13(土) 14:22 )