僕らの隣には、いつも君たちがいてくれた。 - ファースト・コンタクト
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01
正直言ってこの仕事は辛い。と俺は一人、埃っぽい部屋で思う。

絶え間ない権力争い、終わりの見えない研究作業、次から次へと舞い込む不確実なデ-タ、おべっか買い、妙な誤解、それを巡る果てしない論争・・・・よほどのバカか物好きでない限り、この職業は勧められないと俺はいつも思う。
じゃあもし、俺が俺に仕事を勧める機会があったとして、俺は自分にこの仕事を勧められたか、と聞かれると、答えは『ノ-』になる。正直言って、何故今もここにいるのか俺自身が一番良くわかってない。
・・・・惰性?それを言っちゃ何もかもおしまいだろう。

実の所、その「答え」は出ているのかもしれない。

ドアの向こうから誰かが走ってくる音がする。
その音はだんだんこちらに近づいてきて、バン、と部屋の扉が乱暴に開かれて止まった。
「カイドウ室長!こちらにいらっしゃったんですか!」
「あ-なんだようるせいな・・・・もうちょっと静かにこれないのかよ」
両手一杯に資料を抱え込んだ部下は、俺の机にカッカッと歩み寄ってきた。明らかに機嫌が悪いが、おおかた俺を捜して小一時間歩き回ってたんだろう。俺が部屋に居るなんて普段なら考えにくいことだろうから。
「静かに、ってこの状況でどう静かに開けろっていうんですか」
「言葉のアヤだ」
「アヤ過ぎます」堅物に定評のある部下は、器用に眼鏡を直した。それくらい器用ならドアだって開けられただろうにと思うが、心内にとどめておく。
「あ-もうそこはどうでもいいよ…それより何だ本題は。お前だってヒマじゃないだろ?」
不機嫌そうに俺を見下ろしていた部下の顔が、ワンテンポおいてにやりと笑った。そして、抱えた紙の束からガサガサと一枚の紙を俺の前に差し出した。
「今日はどうしても室長に見せたいものがありまして」紙にはずらずらとした外国語の文章と、一枚の写真が載っていた。
「・・・・なんだこれは?」俺は答えを知りながらそれを聞く。

「今日付けで出された新個体の情報です。今度のはかなり面白そうですよ」

俺の口が、にやりと曲がったのが分かった。
「場所は?」
「ten.イッシュです」ten.― tentative、つまり仮称。
「・・・・要するに新しいポケモンって訳か」
「まだ学内では確定的な意見は出されていませんが、研究者間での非公式見解では十中八九そうだろうと」
「・・・・よしわかった」
俺は勢いよく机から立ち上がった。
「カシワギ!」「はい!」「今ある資料はこれだけか?」
俺は部下から資料を全てひったくる。ざっと目を通していくが、まだしっかりとした根拠は出揃っていないらしい。
「はい。資料科から取れるだけもってきました」
「もっかい行って探してこい。まだρ-DNA関連のデ-タがあるはずだ」
「それは僕も探しましたが、まだ出てないようで・・・・」
部下の視線が少し泳ぐ。そこに俺は紙の束を叩きつけた。
「そんならうちで出すしかないだろ?遺伝子解析室の割り当て見てこい。あとこの公開試料」さらに資料を部下に押し付ける。
「こいつの個体デ-タも。この辺りだと・・・・イカリ辺りが専門か?」俺は普段おぼろ気な研究員のリストを脳内で引っ張りだす。
「じゃあρ-DNAについては僕とイカリでまとめておきます」
そう言って部下は机から離れた。
「おう、そうしてくれ」俺は資料を漁りながら片手を上げた。部下のいう通り『取れるだけもってきた』らしく、信憑性の高いデ-タから関係ないジャンクまでよりどりみどり。これをより分けて裏付けするのだけでも一週はかかりそうだ、と何となく見当をつけてみる。まぁ学内のレジギガスとまで揶揄される俺のカンだから、果たして当たっているのかどうかはわからないが。
「・・・・あとカイドウさん」扉の方から、部下の声が聞こえた。
「なんだ?」俺は手を休めず答えた。
「・・・・こちらのサポ-ト人員も集めてきます。デ-タの裏付けだけなら外の人間でも平気ですよね?信頼できるツテがあるので辿ってみます」
俺は首だけなんとか扉に向けた。
「・・・・悪いな、カシワギ。いつもいつも」
部屋から出ようとしていた部下も、首だけでこちらを振り返った。
「だって室長が本気で動くのを見られるのは、こんなとき位ですから。こちらだって数少ないチャンスを無駄にはできませんよ」
では、失礼します。そう笑いながら、部下は扉の向こうに小走りで消えた。


「・・・・ったく、よく出来た奴だよ」
また一人になった部屋で、俺は紙の山から一枚をつまみ上げた。
蛍光灯の安い光に透けて映るのは、見たこともないポケモンの姿。これから俺達が出会う、まだ見ぬ誰かの"仲間"の一匹だ。
「・・・・へへっ」
俺はその輪郭を指でなぞる。
果たしてこいつは本当に新しいポケモンなのか、それを調べるのが俺達研究者の一番の仕事だと、この世界の片隅に居る俺は少なくともそう思っている。
こいつを、こいつの仲間たちを、生涯一緒に過ごせるパ-トナ-に出会わせるための仕事。
星の数ほどの出会いのいくつかが俺の手から、汗から、涙から、生まれる。それだけで、その喜びだけでこの世界にいるだけの価値があるってもんだ。
・・・・誇大妄想?それを言っちゃ何もかもおしまいだろう。

「・・・・・・・・さて、と」
俺は紙を山の上に戻す。これからこの部屋も忙しくなってくる。多分この手柄を狙って、全ての研究室が動きだすだろう。こういう競争主義な所が俺は一番嫌いだが、まぁこの世界に身を置く以上仕方ない。
案ずるより生むが易し。

「・・・・さぁ旅立つとしますかね」

俺は紙の山をかき分けた。

****

「・・・・ん」
珍しく新聞を読んでいたら、珍しく友人の名前を見つけた。
『カント―学会カイドウ博士・新個体を発見か』『「ファ-ストコンタクタ-」またもや快挙』
地方紙にも関わらず四分の一の紙面を割かれたその記事には、友人が見つけたらしいポケモンの詳細と、友人の研究がすこし誇張された文体で書かれていた。
「"ファ-ストコンタクタ-"、か」
まぁ確かにポケモン図鑑はポケモンとの出会いのきっかけにはなるけれど、それにしても凄いあだ名だと少し笑ったとき、後ろからヨノワ-ルが覗き込んできた。
「?」
「あぁ、これか?俺の昔の友達だよ。大学で一緒だったんだ」

窓の向こうには広い空。今日もどこかで、あいつの作ったファ-ストコンタクトが生まれてるんだろう。

"Contacter" THE END!

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■筆者メッセージ
初めましての方は初めまして。
また読んで下さった方、ありがとうございます。aotokiと申すものです。

何が相棒との出会い?こっちゃ先に会ってるんだよ!!というポケモン学者のお話。作中の単語は全て創作です。スイマセン。
現代のポケモン図鑑はきっとたくさんの研究者さんが関わってできていくのかな〜とか思っています。安全なポケモン・危険なポケモン・生態・能力・習性・・・・それが分かって初めて素敵な出会いが成り立つ。
縁の下は大事。そんな妄想なのでした。

・・・・というか「ポケモンとの日常」がテーマなのに、二本目でポケモンが出なくなるのはどうなのだろうと思いますが、これもまた日常ということで。7
aotoki ( 2012/10/26(金) 21:07 )