2日〜1週間前
演出の練習は翌日も行なった。ハロウィン前の共通の休日はこれが最後だったので、今日しかなかったのだ。突貫工事の挑戦で思い通りにいかない部分も多く出たが、二日も調整や加減を繰り返すとそこそこ様になってはきた。嬉しい誤算である。二宮がその日の昼食に早速ぽにぎりを買っていたのがなんだか可笑しかった。計画変更のため、もう一度タマムシシティに赴く。ガーベラの立ち位置を追加するため予定場所を大きく変更した。クチバへ戻ったあとは新しいポジションを想定して動かしてみる。
そして、日が落ちてきてから何度か通して、CMの低画質には届かないものの、なんとか最終的な形は完成した。
五日後の夜。風呂上がりの工藤に、二宮から一通の音声動画が送られてくる。その下には『ホラー聞かせつづけた』と一言。傾いた正三角形のボタンを押して再生した。
『オオ……ォオウ…………ウオオ』
まるですぐそばにまで這ってきているかのような呻き声に息遣い。素直に怖くて、タチの悪いイタズラにしては満点の出来だった。画面下にキーボードを表示させて返信する。
9D:
『ムムタ?』
一富士二宮三茄子:
『そう』
一富士二宮三茄子:
『くそこわい』
そりゃそうだろうな、と軽く笑う。
9D:
『何聞かせたの?』
一富士二宮三茄子:
『映画いっしょにみた』
一富士二宮三茄子:
『ゾンビ』
9D:
『なんの』
「ゾンビて」
訊くのとほぼ同時に送られてきた答えに工藤は苦笑した。ゴーストポケモンならもっと怨霊とかあったんじゃないか。と思ったが、冷静になるとゾンビと霊の鳴き声の相違なんてパッと思いつかない。だったらこんなものかと考えを改めた。
メッセージアプリを閉じてスマホを充電器に刺そうとしたとき、滑り込むように一件の通知が表示される。
一富士二宮三茄子@ハロウイン:
『10月31日作戦いけそう?』
10月31日作戦。やることと言ったらただ祭りで目立ちにいくだけなのに、気が付くと変てこりんな名前が付けられている。
9D:
『なんだその作戦名』
一富士二宮三茄子@ハロウイン:
『コンデションは重要だ少佐』
誰だよ少佐。
9D:
『俺もガーベラも元気であります』
一富士二宮三茄子@ハロウイン:
『よし!!!!!!!!!』
一富士二宮三茄子@ハロウイン:
『陽キャに戦うてさ』
一富士二宮三茄子@ハロウイン:
『作戦ぽくてカッコイイ』
9D:
『どんなイメージだよ』
一富士二宮三茄子@ハロウイン:
『いけてるやつ倒すのカッコイイ』
ええ。
9D:
『根本はそれかよ』
一富士二宮三茄子@ハロウイン:
『理由なんていいんだ』
一富士二宮三茄子@ハロウイン:
『やろうぜ』
一富士二宮三茄子@ハロウイン:
『俺たちの10月31日作戦』
「俺たちの、か」
たった一言付け加えただけで、二宮の言う『カッコイイ』がわかってしまった気がした。
二人と二匹で、強大な都会へ宣戦布告する。無論、そんなテロリズムは実際のところないわけだが、想像に浮かんだ構図には漫画のような夢が溢れていたのだ。
悪くない気分だった。
悪くない気分だったが、先ほどからどうしても気になっていることがあって、工藤はそれを言うか言うまいか悩んでいた。本当に些細なことなので、このままなら綺麗な気持ちでお互い寝られると思った。
けれども、今後のために。工藤はそっと指を動かす。
9D:
『やろう』
9D:
『あとさ』
9D:
『ハロウインじゃなくてハロウィンな』
一富士二宮三茄子@ハロウィン:
『うるせ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』