ポケモン不思議のダンジョン 正義と悪のディリュージョン






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第3章 復活する王子! 甦る古代の軍勢!
第24話 デンタル・バッテリー作戦! (3)
 ギルド防衛線 東側


 デンタル・バッテリー作戦の発動から二十分が経過。東側での戦闘は本格的なものになってきており、怪我人も多数出ている。
 が、この男、フォシルだけは一度も下がることなく敵軍と戦い続けていた。


「こんにゃろーー! まだまだだぁーーー!!」


 突撃してくる敵をかわし……ではなく、頭突きで迎撃。特殊技で攻めてこられた場合は避けてからの原始の力。隙あらば足払いをかけてから攻撃する。さらには敵を突き飛ばして別の敵に当てる、などなど。
 フォシルの戦い方は大体こんな感じだった。技を技で相殺する力押しのスタイルで攻めたと思えば、今度は攻撃をかわしながら反撃したり……
 とにかく、全部言えばきりがないほどフォシルには戦法があった。これなら未だ残って戦い続けられるのも納得がいくが、ここまでできるとフォシル一匹で十分なのではないかと思ってしまう。


「大人数でかかれ! 一カ所だけでも突破すれば後は―――」


させねーよ! ゙アイアンヘッド゙!」


 しかも敵に指示をさせる暇も与えないほどに迅速。
 「近づいたやつらから倒す」的な勢いで敵をバッサバッサと倒していくフォシル。その光景は特に意識をしていなくても、相手に自然と威圧感を与えていた。
 さらに、


「おらおら! まだ八十九人だぜ? もっとかかってこーい!!」


 厄介なことに、倒した敵の数を正確に把握しているらしく、フォシルからすれば挑発のつもりが、相手にはただひたすら恐怖を与えているという状況になっている。
 したがって、フォシルにかかってくるのは闘争心丸出しの強者達。だがそれでも難なく返り討ちにしていく。
 フォシルのおかげで東側は今のところは優勢である。怪我人の回復も余裕を持てるほどに間に合っており、敵軍の数も少しずつではあるが、順調に減ってきている。




「くっ……このままではまずい!」


 敵軍の一匹、アーマルドが゙穴を掘る゙でどこかへ逃げて行った。









 ギルド防衛線 西側


「……さすがにおかしくないか?」


 他の防衛線では戦闘が始まってる最中、西側では敵の来る気配すらも感じない。
 おかしいと感じたセバスが小さな声で呟く。


「んー……だって来ないもんね」


「だよな……そろそろ敵の一人や二人出てきてもおかしくないと思うが……」


 砂浜に寝っ転がっているネイトが同意する。安心するどころか、むしろ疑問が深まってくるところだが、本当に敵が来ないのだ。これがおかしくないはずがない。


「確かに変だよねぇ……そいじゃあ」


 むくりとネイトが起き上がり、欠伸混じりの声で言った。


「僕がちょっと……別のところでも見てこようか?」


 心の中では「じゃあお願いしよう」という言葉よりも先に、「コイツ絶対やる気無いだろ」という呆れた感情が出てきてしまったセバス。が、セバス自身も正直なところやる気なんてほとんどなかったので、ネイトに対しては一言かけて頼むことにした。


「ああ……気を付けてな」


「ほいほーい」


 ネイトの姿が見えなくなったところで、セバスは誰にも気づかれないような小さな溜息をついた。


(……また幸せが逃げたな)









 ギルド防衛線 北側


 地面から出てきたアーマルドを最初に、他にも海や空からも敵軍が出現するようになった。
 特に多かったのがプテラやオムスター。上空からの燕返し、海中からのハイドロポンプなどの奇襲攻撃で、北側のポケモン達はかなり押され気味だった。
 特に、どこから出てくるかわからないというのが一番厄介なところだった。防衛線の裏から出てきて背後から攻撃、他にも真上からの頭突きや、馬鹿正直に真正面からぶつかってくることもあった。とにかく、敵の出現位置がまるで予測できなかった。


「出てこいや!! ぶっ殺してやる!!」


 そんな不利な状況であったが、東側にいた誰かさんと似た血気盛んなヤツが一匹残り、作戦の配置を完全無視しながら暴れまくっている。どこにでもこーゆーやつは一人いるのかよくわからんが、とにかくこいつはディメロ。


「そこか! うらぁあああああ!!」


「ギャッ」


 海から出てきて冷凍ビームを打ち込もうとしたオムスターだったが、口が開く前に顔面に雷パンチが直撃。防御の高いオムスターだが、それは自らを守る殻に当たった場合である。柔らかい顔面に直撃すればひとたまりもない。
 さらにディメロの特性である『ちからずく』により、技の追加効果はでないが、一撃一撃の威力が上がっている。恐らくこの特性が戦いで一番役に立っているのだろう。


「…………!!」


「ぁあ!? 突っ立ってんじゃねぇよ!!」


 ディメロの背後から゙穴を掘る゙で飛び出してきたカブトプス……だったが、ディメロに攻撃する前に超至近距離での゙気合玉゙で倒されてしまう。
 ディメロの二つ目の特性は『さめはだ』。直接触れる攻撃を使用するとダメージを受けてしまうというもの。先ほど倒されたカブトプスはこれを見て攻撃を躊躇してしまい、その間に気合玉を食らったのだろう。


 攻撃的な特性、『ちからずく』と『さめはだ』。


 つまり―――




「ぶっ潰す!! ぶっ殺す!!」


 今のディメロは、『兵器』そのもの。


 出てきた敵は全員倒していき、決して有利ではないものの、なんとか敵襲に対応していく北側防衛線。




 だが、ここで一気に戦況が変わることになる。


「…………あ?」


「………?」


 裏で治療を受けていたアベルもその異変に気付く。


 敵が、一瞬にして出てこなくなった。
 全滅させたのだろうか、と一瞬思ってしまうのだが、その答えはすぐに返ってきた。




 ズドッ
               ズドッ   ズドッ
      ズドッ


 次々に敵軍が地面から出現し、しかもそれは北側防衛線で戦うポケモンを囲むようにして現れたのだ。
 あまりに不利な状況にさすがのディメロも舌打ちする。今まではもぐら叩きでもするかのように一体一体倒してきたのだが、集団でかかってこられるとなれば話は別。同時に多数の相手を倒すのはかなり難しいだろう。


「突撃!」


 その中のリーダー格であろうアバゴーラが部下に命令を出す。それと同時に周りの部下が一斉に攻撃


「クッッッッッソがあぁぁぁぁああああああ!!」


 する前にディメロが腕を薙ぎ払い、後ろで攻撃しようとしていたアノプス達をブッ飛ばした。
 ディメロはブチ切れていた。相手が有利な状況を作り出したからなのだろうが、それにしては怒り過ぎていて、なんか別の気に入らない理由があるような気もする。
 ディメロの思わぬ不意打ちにに少し怯んだのか、一瞬だけオムナイトの攻撃のタイミングがずれる。……が、大した意味は無かった。

 おっと、これを見てるみんな。隙を見て攻撃すると思った? ねえ思った? あれ、思ってない? 興味も無い? そう……。


「゙冷凍ビーム゙!」


 やや遅れながらもオムナイトがディメロに冷凍ビームを発射する。プンスカしているディメロは周りが見えておらず、横から来た冷凍ビームをもろに受け、首や胴体が凍り付いた。
 もとよりクリムガンという種族は体温が下がると動けなくなるため、鱗を裂くようなドラゴンタイプの技よりも氷タイプの技の方が致命傷に近いのである(相性的には同じダメージだが)。


 だが、これが敵にとっても味方にとっても地獄のような光景を見せることになるとは思わなかっただろう。


 効果抜群の技を受け、ディメロの動きが止まった。相手は戦闘不能だと思ったのか、他のポケモンにも攻撃を仕掛けようとする。が、


「……あ゛ ァ゛ あ゛ ?」


「!?」


 首元に張り付いた氷をピキピキと音を立てて割りながらディメロがオムナイトの方をゆっくりと振り向く。
 もはや怒ってるかどうかも確認できないような表情をしているが、とにかくやべえということはわかった。
 とどめを刺すためにオムナイトは再び冷凍ビームを撃とうとするが、


「…………!?」


 その瞬間、体が動かなくなった。
 この時彼らは知る由もなかったのだが、実はディメロが振り向いた際に゙蛇睨み゙食らっており、体が麻痺していた。もっとも、ディメロが意図的に技を使ったのかどうかは不明だが。
 痺れて動けないうちに、遠方から撃たれだエナジーボール゙がオムナイトに直撃した。









 ギルド防衛線 南側


 ゙火炎放射゙などによる直接的な方の『戦火』が舞う一方で、相対する゙水の波動゙や゙冷凍ビーム゙など特殊技も飛び交っており、普段は静かな浜辺である南側防衛線はかなり激しい戦場へと化していた。
 あーしろこーしろという色んな命令が出続けた結果、遠距離での攻撃をするポケモン達が『壁』そのものとなり、フォシルから出されていた作戦は完全無視する形となっていた。
 だが、その一方で……


「おい! お前もさっさと攻撃しろ! 火炎放射とかあるだろ!?」


「わわ……は、ハイッ!!」


 エキュゼはただ一人攻撃できないでいた。実際に使える技に火炎放射が無いというのも理由だが、メインウエポンである゙火の粉゙が届かないというのが大きな理由である。
 さらに致命的だったのは、


(嘘……どうして……? あの時使ったはず……なのに)


 ネイトがいなかった間に゙大文字゙の技マシンを使い、きっちりと技を覚えたはずだったのだが、今ではなぜか使うことができない。


 と、その時だった。


「ぐ……うう……う」


 前線で戦ってたバルが二度目の冷凍ビームを食らったらしく、遂にダウンした。


「え……あ、ああ! バルさん!」


 エキュゼはすぐにバルの顔の近くに寄り、声をかけた。特に意味があるわけではないが、何かやらなければならない使命感みたいなものがあり、とりあえずは心配の声をかけてみたのだ。


「だだ、だ、大丈夫ですか!? 早く戻らないと……」


 バルの顔は苦痛で歪んでおり、普段の勇ましい姿と今の状況を見比べればもう戦えない状態、つまりは『瀕死』であることは誰でもわかるだろう。それくらいにバルは大きなダメージを受けていた。


「………ろ」


「ろ?」


 バルの口元から何か小さな声が聞こえたが、聞き取れなかったのでそのまんまエキュゼも聞き返してみた。
 すると、今度はしっかりとエキュゼの目を見て、


「私と交代しろ」


「え」


 そうはっきりと言われた。後ろには誰もいない……というかそもそも目を見てはっきりきっぱり言っているわけだからエキュゼ以外ありえない。これで「お前じゃない!」なんて言われたらなんかシュール。


「私ですか!? で、でも今は技が……」


「逃げるな……ここに来た時点で戦いの覚悟などとっくに出来ているはずだろう……」


 そう言って、バルは目を閉じてしまった。死んでるわけではないと思うが、多分限界だったのだろう。
 確かにバルの言っていたことは正論だ。だが、役に立つことのできない今、ただ攻撃を受け続けるくらいなら、いっそこの場から逃げ出してしまいたい、というのが本心だった。


「と、とにかくバルさんを安全な場所へ……」


 倒れているバルを退かせるため、重い胴体を前の方からズリズリと押していく。


 が、その時、


「゙マッドショッド!」


「!」


 突然背後からオムナイトのマッドショットが飛んできて、エキュゼに直撃した。
 足元に飛んできたのならまだしも、効果抜群の技が直撃したならただでは済まない。 悲鳴を上げる間もなく、エキュゼは後ろへ吹き飛んだ。


「う、うう……う……」


 呻き声を出しながらエキュゼが薄目を開いたその先には―――









 なんと オムナイトが れいきをため

 れいとうビームを うちたそうに バルをみている!


           ▼









 げいげき しますか?

 →はい  いいえ  おやし゛を なく゛る









「やめてぇーーーーーーーーーー!!」


 バルに向かって飛んできた冷凍ビームに対し、エキュゼはありったけの炎エネルギーを口元に溜め込み、それを思い切り吐き出した。
 エキュゼの吐き出した炎は球体となり、回転しながら冷凍ビームを溶かし、オムナイトへと向かってゆく。
 エキュゼは口には出さなかったが(もっとも、口に出す暇など無かったのだが)、今放った炎ば大文字゙だと直感していた。『直感』なので根拠はないが。
 炎の球体はオムナイトに直撃し、一つの文字を作る―――









 Δ









「ええええーーー!? 『大』じゃなくてなんか変な形になってるーーーーー」


 今度は口に出した。己の悲痛なツッコミを。
 本来、゙大文字゙は、『大(だい)』の字の炎なのだが、エキュゼが放ったのは『Δ(さんかく)』の字の炎である。どうしてこうなった。

 ただでさえ相性が悪いのに不完全ときたら与えられるダメージなどミジンコの涙程度である。しかし、当たり所が悪かったのか、はたまた技の特性か。オムナイトは顔に大きな火傷をし、捨て台詞を吐いてから水の中へと逃げ込んだ。


「き゛ゃー ひとこ゛ろしーー」


「えええ!? 死んでないでしょ!?」


 結果としてバルは守れたものの、技の出来といい捨て台詞といい、なんとも後味の悪い思いをしたエキュゼだった。









 マーストリヒ軍本拠地・壊滅した村


 家々は燃え、血溜まりの上にはポケモンの死骸が転がっている。生き残っている者がいないからか、悲鳴や泣き叫ぶ声さえもない。村は正に壊滅状態にあった。
 代わりに村を制圧した兵士達のぶつぶつと話す声や、何か怒鳴るような声に近い命令する声などがどんよりと広がっていた。
 そんな中、マーストリヒ国国王のルド・マーストリヒは村の家を二匹の警護兵と共に物色中だった。


「けっ、シケた村じゃのう! 目を引く物の一つも見当たらんわい」


「ホントそうっすね。リンゴもシケってるし」


「まったくじゃい」


 『リンゴが湿気っている』というのは警護兵のささやかなボケだったのだが、ルドはそれに気付かずに物色を続ける。もう一匹の警護兵はそのボケには笑わなかったが、ボケをスルーしているルドに対して気付かれないように笑った。
 これらの様子から警護兵と国王の距離が近く、『私達ほんわかしています。国王様大好き!』という捉え方も出来るが、見方を変えると『とんでもねえ、忠誠心なんかありゃしねえっすよ(笑)』とも見受けられる。ちなみに作者的には前者でも後者でもどっちでもいい。
 だが、そんな妙な空気をドアを乱暴に開ける音がぶち破った。


「る、ルド様! 只今戦況がよろしくない状況です!」


「なんじゃと?」


 家の中に焦りながら入ってきたのは、東側防衛線で゙穴を掘る゙を使い戦線離脱してきたアーマルドだった。









「で、なんじゃ? まさかワシらの軍があんな小規模な相手に対して不利な戦をしているとでも?」


 ルドの言葉に対し、微妙な表情を浮かべるアーマルド。言いたいけど言いにくい、そうとでも言いたそうな顔だ。


「それが……ですね……




 私はフロントライン担当ですので他は分かりませんが、フロントラインが今、不利な状況にあるのは間違いないです。この目で見ましたから。最初はルド様の言う通りに待機してタイミングを見計らっていました。フロントラインの軍は訳の分からないところに突然出てきて一部混乱している者もいましたが、戦に出ると聞いてすぐにやる気になってくれましたよ。全員健康でした。しかし、相手の方も準備していたらしく、夜中だというのに灯りが付いていました。いくら待っても相手が引く気配がしないので仕方なく適当なタイミングで突撃しました。ですがこの判断は間違っていなかったと思います。ただ、敵の本拠地までの距離はそこそこあったので、やはりそれなりの時間が掛かりましたね。突撃したまではよかったのですが、相手まで後もう少し、というところで地面に穴が開きましてね。何人もの兵士が穴に落ちていきました。落とし穴です。こちらの兵の大半が落とし穴に落とされたのを確認してからか、相手はその時を狙ってこちらへ攻撃を仕掛けてきたのです。その時私は気付きました。これは相手側が仕組んだ罠だと。私は後ろの方にいたので穴に落とされずに済みましたが、落ちた者は大半が気絶していて這い上がることすら困難な状況でした。その落とし穴、とてつもなく深かったんですよ。おかしいですよ、あんな巨大なものを作るだなんて。ですがまだこちらにはかなりの兵が残っていましたので負けるはずが―――」


「長い! 簡潔に言え!」


 聞いてもいないような部分まで長ったらしく話すアーマルド。ルドが怒る理由も納得がいくが、「簡潔に言え」とめっちゃ簡潔にツッコんだルドに対し、つい警護兵が吹いてしまう。


「う、えーと……」


 一から説明しないとダメなタイプなのか分からないが、簡単に説明することが出来ず、考え込んでしまう。流石にこれに対してはルドも溜息がでたが、少しすると


「お……王子が一人で無双中ですっっ!!


「なんじゃとっ!?」


 本日二度目の「なんじゃと」。だが、最初にルドがアーマルドに言った時とは明らかに違う口調で反応した。「これはまずい」というサインだということは後ろの警護兵もわかっており、僅かにだが表情に焦りを見せる。
 ルドは少しの間目を瞑り唸っていたが、何か決断したのか、目を開いてこう言った。


「……フロントラインの連中を一旦退かせろ。後はワシの出撃準備」


「ひ、退かせる!? 退かせるっていや……あ、『アレ』ですか!?」


「そうじゃ。『合唱団』で全員潰す」


「りゃっ、了解です!」


 ちょっと噛んでいたがはっきりと返事をして、アーマルドは民家の外へと走っていった。
 アーマルドが民家を出ていったのを見届けた警護兵が、ひそひそと話す。


(あんだけ数で有利だったのに今不利とかどんな状況だよ)


(ああ……やっぱクレテイシャスの王子ってすげえな)


 聞かれたりでもすればヤバいじゃすまないくらいの発言だが、トリデプスの特性の一つ、『防音』のおかげでそれらの発言が聞かれることはなかった。


「ん? なんか言ったか?」


「え、あ、いや……」


「何か話してる暇があるくらいならワシの装備を準備しろ!」


 言及してこないのは部下への信頼か。はたまたただのバカなのか。それらは彼らはおろか、本人さえも知る由はないが、知ったところで「ああそうですか」となるのがオチだろう。









(……調子に乗るなよ? 若造の王子風情が)









 ギルド防衛線 東側


 北側や西側で苦戦を強いられる戦闘が続いている中、ここ東側では主にフォシルの活躍もあり、迫りくる敵を順調に倒していった。
 傷ついたポケモン達の回復も間に合っており、もはや一種の作業のようになりつつあった。
 ところが、敵の一人が出した指示で事態は一転することになった。


「てったーーい!! フロントライン、一時撤退!」


 どういうわけか突然出された撤退命令により、あれだけ勢いのあった敵軍がぞろぞろと帰ってゆく。


「………勝った、か?」


 口ではそう言ったフォシルも、さすがに何かおかしいと思っていた。
 確かに戦況ではこちら側が有利だったが、いくら不利でもあれだけの数がいるならば作戦を変えて戦えばいいはず。しかし、それを『撤退』という形で実行したと考えると不安で仕方がなかった。


 そして、その不安は最悪な形となって現実になった。









「……ん? 今空に何か見えたような」


「空?」


 クレーンに言われてフォシルは空を見てみるが、見えるのは漆黒の宵闇と大きな雲だけである。



「なんも見えねーなー……ただでさえ暗いし」


 だが、そう言った直後に、うっすらとだが何かがせわしく動いているのがフォシルにも確認できた。後ろで控えているポケモン達も気付いたらしく、辺りが少しざわめく。
 飛んでいるのはそこそこ大きめの鳥型のポケモン―――オンバーンだった。それもなんと三匹。


「あれは確かオンバーン……。だがこの辺りでは生息してなかったはずだが……」


「つーことは敵軍か? おいおい、何してくるんだ? あれ」


「オンバーンは―――」


 クレーンがオンバーンについての説明をしようとしたが、すぐにその必要はなくなった。なぜなら、









「「「キィィィイイイイイイイ!!」」」


 オンバーンの得意技である゙爆音波゙を相手から使ってきたからだ。
 とてつもない音の衝撃波に思わず全員耳を塞ぐ。が、耳を塞いだ程度では音をカットできず、鼓膜が痛み続ける。
 とてつもない音波のダメージはそれだけではなく、衝撃波で全身に痺れるような痛みが走り、骨はズキズキと痛み、さらには頭痛もひどく、立っているのも困難だった。


「ぐぎぎ……聞いてねーぞ……オイッ!」


「お、オンバーンは音を使った戦いが得意……」


「なんつったー! 聞こえねー!!」


 クレーンが必死に呻き声混じりで説明するがフォシルの耳には届かず、結果としては怒られてしまう羽目になってしまった。
 その後も音波は止まず、東側のポケモン達が意識を失うのも時間の問題だった。
 すると、ずっと攻撃を受け続けていたことに嫌気がさしたのか、フォシルがオンバーンに対して大声で罵倒の言葉を投げかけた。


「うっせーんだよ! こんちくしょーーーーーーーーーーー!!」


「オマエの方がうるさいよ! こ、こんな中になってまで叫ぶな!」


「じゃあオメーも叫べーーーーーーーー!!」


 もはや何が何だかわからない状況。遂にフォシルの頭がおかしくなったかとクレーンは思ったが、「もしかしたら」と思い、フォシルに聞いてみた。


「フォシルー! 何か策はあるのかー!?」


「音波を声で相殺するんだぁーーーーーーーーーー!!」


 確かに、フォシルが叫び始めてから僅かにだが周りの声の通りがよくなっている気がした。少なくとも効果はあると実感したクレーンは後ろのポケモン達に命令を下す。


「オマエ達ーーーーー! アイツらに負けないぐらいの大きな声で迎え撃つんだよ!! キイィィィィィィィィィイイイイェエェエエエエエエエエエェェェェァアアアアアアアアアア!!


 クレーンも本気を出し、普段のお説教とは比にならないほどの大音量、大迫力、大迷惑の三拍子揃った『ハイパーボイス』を放つ。


「クレェェェェェエエエエエエン!! うっっっるせえええぞオメー!!」


「オマエがやれっていったんだろおおおおおがああああああああ!!」


 鼓膜より先に対人関係に披裂が入りそうなやり取りだが、皮肉にもそのおかげで音量に困ることはなさそうだ。
 一見、そんな二匹が先導して声量に貢献しているように見えるが、実は一番頑張っていたのは、


「たああああああああああああああああああああああああ!!」


 ギルド内で「声出し選手権」なんて催し物をすれば間違いなくトップに立てるであろうこの人、そう、親方様である。
 二匹とも「うるさい」と言うべきはルーなのだが


「おいうるせーよ!(ルーに言ったらまずいかもしれねーな) クレーン!」


「な、なんだと! うるさいのはオマエだ(親方様に言いたいけど)フォシル!」


 という葛藤があったので、「言いたいことがあるけどそうは言えねーぜ!」状態、もしくは「言いたいことも言えないこんな世の(ry」状態に陥っていたのであった。




 そんな戦闘とは程遠いやり取りをしながらも、東側のポケモン達の声は徐々に大きくなってゆき、


「ギ、キィィ……」


 東側の一番近くで飛んでいたオンバーンの一匹が、弱弱しい声を出して落ちていった。


「お! 一人落ちたぜー!!」


 状況報告さえも大きな声でしているところを見ると容赦ないというか板についてるというか。


「ギィイッ……!」


 音波を出していたオンバーンの一匹が欠けたことにより、連鎖的にさらにもう一匹が落ちる。


「キキッ……!?」


 「これはもう勝ち目がない」とでも悟ったのか、残りの一匹はよろけながらもこちらに背を向けて逃げて―――


「ギャアッ」


 ―――ゆくはずだったのだが、どこからか飛んできた空気の刃で翼を切られ、オンバーンは血を流しながら重力に従って落ちていった。









「……ワタシのかわいい弟子達を痛めつけた罰だよ」


「にしてもよくあの距離で当てたなー。オレのとこの軍に入れるぜ、あれは」


 空気の刃、゙エアスラッシュ゙を放ったポケモン、クレーンは安堵の溜息をつく。


「はあ……まさか人生でこんなに声を出すことになるとは……」


「アイツら仲良かったなー。あんな大声出しても周りは愚痴の一つもこぼさなかったぜー?」


「ああ、それはオンバーンの特性『テレパシー』だ……」


「……それ今のオレ達に一番必要なもんだったんじゃねーか」


「ワタシも原理とかイマイチ知らないし……あったらあったで気持ち悪そうだからいらないよ……別に」


 ハハハ、と笑い、フォシルは「そうだなー」と同意した。









「さてと……オメーら戦闘準備だー! さっき退いたヤツらの処理に掛かるぜー」


(((((((ま だ や る の か よ)))))))


 「もうなんか終わりでいいじゃん」みたいな空気になっていた彼らのテンションは深海より深くまで沈んでいった。


■筆者メッセージ
 さぼってない。さぼってないです。ちょくちょくやってたけど描写とか訳分かんなくなってスランプだったんです。許してください何でもしますから
 大まかなストーリーは決まってますが、また描写などの関係で次回も遅くなるかもしれません。ちくしょう、文系選んでいれば……

 (そもそもこの小説覚えている人いなさそうだけど)次回も気長にお待ち頂ければ幸いです。
アマヨシ ( 2015/05/03(日) 17:29 )