第22話 デンタル・バッテリー作戦! (1)
親方の部屋
「なるほどなー……地形には恵まれてんのな」
親方の部屋でそう呟くのはフォシル。そんなフォシルのとなりで一緒に地図を見ているのがクレーンとルーの二匹。
「東側がメインか……いや、裏をかいて水中に全軍入れてくるか? うーん……だとすると時間的には不可能なんだよな……やっぱり地形には恵まれてんのな」
さっきからこればっかりである。フォシルが何を考えているのかは二匹は理解できない。しかも二匹は黙りっぱなし。
先ほどから一方的にフォシルだけが喋っている……
つまり、会議になっていない。「あ゛! やべ!」 呟いていたフォシルが突然声を張り上げる。あまりにも突飛なことだったので隣にいた二匹は当然驚く。
驚かせた張本人、フォシルは、
「こっちの方の戦力ってどれくらいなんだ? 数によっちゃあまずいかもしれねー」
「戦力……ああ、トモダチ? えーと、フラとギガとリッパと……」
「紹介するんじゃなくてよー、オレは人数がしりたいんだけど」
「んーとねー」
しばらく考えるルー。「1、2、3……」と数えているため、もうすでに数は期待できない気がする。
結局、出た人数というのが、
「さんじゅう」
「………は?」
「三十人」
「…………。」
「なんだとぉぉぉぉぉぉおおお!!??」「あれ? トモダチ少なかった?」
「いや、そのトモ……他には戦えるやついねーのかよ!」
「うーん……カクレオンさんとかにも協力してもらったら……三十五人?」
「少ねーよ! 少なすぎんだろ!」
「む、無茶いうな! これでも親方様はギルド一友達が多いんだぞ!」
「聞いてねーよ! んなもん!」
後からフォシルが言うには、どうやら最低でも五百匹ほどいなければ戦えなかったらしい。今の戦力はまさかの
三十五(泣)。 数字を聞いたフォシルは「うがーーーーー!!」と叫びながら頭を抱え、地べたをゴロゴロ転がっている。つまりは発狂中。
少しだけ落ち着いてきたフォシルだが、
「三十五でルドに挑むとか……前代未聞すぎんだろ……」
「? ルドってだあれ?」
相変わらずマイペースで聞いてくるルーにやや苛立ちを感じながらも、フォシルは答える。
「……ルド・マーストリヒ……マーストリヒ国国王。あの凶悪な国の元凶だ」
「へー、国王様なんだね!」
「ああ」とやや無愛想に答える。やはり不機嫌なのだろうか。
……というか、今頃敵将の紹介とはどうかと思うが。
「三十五……三十五……ああ」
そう暗く呟き続けるフォシルを見ると、なんとなく不安になってくる。人数的に不可能だったのだろうか。
「……ここってどんなポケモンがいるんだ? 種族によっちゃ出来……るかどうかわかんねーけど。紹介できっか?」
「ホント!? んーっとねー」
わずかな希望が見えたからか、ルーは張り切って仲間の紹介をし始める。
……が、まさかの三時間後。「でー、リッパはね、いつも『ヘイヘイ!』って言っててー」
「………ちょっといいか」
「ん? 何かな?」
「紹介しろとは言ったけどよー……もうちょい簡略できねーか?」
一匹ずつ無駄に丁寧に説明するルー。こんなことに三時間も費やしていたらきりがない。
「もう少し短くするんだね! わかった!」
……と言いつつも、また三十分かけて一匹一匹の紹介をしていくのであった。
「………それで全員か?」
「うん! そうだよ!」
「おっけい……もう嫌っつー程わかったぜ……」
ようやくフォシルが全員を理解し、本題である作戦を考える。
「間に合うかなー……これ。てかもう作戦なんてもんじゃねーな」
先ほどの時のようにフォシルがまたブツブツと呟き始める。会議になっていない? それな。
「ああもう……こりゃ駄目かもしれねー……」
「諦めちゃダメだよ!」
「親方様のギルドを見捨てるというのか!!」
特に理由のない責任がフォシルを襲う。
別に口だけでそう言っているだけではない。実際にも勝機がまったくないのだ。
(どうすりゃいいんだ? 人数は少ないし、四方から襲われたら対策どころじゃねえ……)
そう考えるフォシルに、ふとある思い出が脳裏に再生される。
場所は洞窟の前。そこにはフォシルと幼い子供達が立っていた。
フォシルの数千万年前の記憶。
『フォシル隊長! モンスターハウスって何?』
『フフフ……隊員よ、よく聞いてくれた!』
フォシルが待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべる。セリフからしてどうやら探検隊ごっこをやっているらしい。
『モンスターハウスっつーのはなー、いわゆる敵の住処みたいなところだ! 入った瞬間にわーっと襲われるんだぜ!』
『わ、わーっと!?』
『おう、わーっとな!』
さすがにこれにはどよめきを隠せない子供達。そんな中でフォシルだけが真ん中で得意げに笑っている。
『たっ、隊長! もし入っちゃったらどうするの!?』
『んー、そーだなー。大地の力みたいな全体攻撃とか、十万ボルトみたいな周囲を攻撃する技で対処するしかねーな。後は―――』
「フォシル隊長」の明確な答え。が、これに対し、子供達は不満を訴える。
『えー! そんな技使えないよー』
『ボク達まだ子供だしー』
『フォシルは使えるの?』
『オレ? 使えねーけど』
フォシルがそう答えると、子供達からはブーイング。当然の結果だ。
『まーそう言うなって。実はそーゆー技が無くてもモンスターハウスを攻略できる方法があるんだぜ? 聞きたいだろ?』
「聞きたーい!」との返答。子供達全員がフォシルに注目する。
『へへっ、実は意外と簡単なもんなんだぜ? それはなー……』
(ああ、その手があったな)
過去、いや、そのまた過去の記憶を思い出し、フォシルに僅かだが希望が見えた。
(この時代まで、奴らに渡してたまるか)
勝算はほとんどないが、それでも何もしないよりかはましだ。
むしろやってみなくちゃわからない。
そう考えたフォシルは、
「おっしゃ! ルー、この周辺にいるポケモン全員集めてこい!」
「うん、わかった!」
即興で思いついた作戦を伝えるため、なるべく大人数のポケモンを集めるように指示するのであった。
「時間ねーから速くしろよなーーー!」
プクリンのギルド 地下二階
「……待て待て、三十どころか四十……いや、五十いるか?」
「いつから親方様が友達三十人と錯覚していた!」
「うるせーよ」 フォシルの言う通り、ルーの「友達三十人」発言がなかったかのように、四十、五十匹ぐらいのポケモンがざっと集まってきている。
探検隊やトレジャータウンで働くポケモン達が集まっているのは普通だが、何故か世間話をして盛り上がっているおばちゃんや、赤ん坊を抱いてあやしている夫婦までもここに来ている。馬鹿か。
「全員集めてきたよ! これでいい?」
「いい……けどよ……」
「明らかに足引っ張りそうな連中がいます」などとはとても言えず、ひとつ溜息をつく。
そんなフォシルの様子を見たルーが声をかける。
「ん? どうしたの?」
「ああいや……友達三十人っつってたのに、思ったより多いなって」
「友達じゃない人も呼んできたんだけど……ダメだった?」
「んなこたねーけど」
むしろ好都合だった。役に立たなさそうなのもいるが、今は人数が増えてくれることほど嬉しいことはない。
「そろそろ始めてもいいか? あんま時間もねーし」
「いいよ!」
フォシルは一気に息を吸い込み、
「お前らよく聞けーーーーーーーーーー!!」
「「「「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」」」」
集まったポケモン全員が大人しくなり、全ての視線がフォシルへと向けられる。が、フォシルはこういう状況に慣れているのか、全く動じない。
「早速だが単刀直入に言うぜー! このギルド……いや、この周辺全域を乗っ取ろうとしている軍がいる!」
周囲がざわめく。単刀直入すぎてわけわかんねーよバーローなので、ざわめくのも当然といえば当然だ。
「とゆーわけでだ! お前らにはそれを阻止する作戦を協力してもらうために色々とやってもらう!」
「お前ら」という言葉にディメロが舌打ちをする。気にいらなかったのだろう。
「まずはそこのダグトリオ! このギルドの東側の方に死なない程度の深さ、尚且つ、谷状のアホみたいに長い落とし穴を作れ!」
「ま、待ってくれ! まず君は何者なんだ!」
おそらく全員が疑問に思っていたであろう質問をラウドが言い放つ。
だが正しい質問である。ここへ集められた探検隊達は無論のこと、ギルドの弟子達でも知っているポケモンはいない。知っているのは仲間であるストリームと親方であるルーだけ。
「オレのことはフォシルって呼んでくれ。詳しいことは後々――」
「ヘイヘイ! そんな誰だかもわからないヤツを信用していいのかよ!」
「あのよー、今――」
フォシルとしては今話すと長くなるから後で話したかったのだが、周囲には戸惑いのざわめきが広がっていく。
「本当にアイツのこと信用していいのか?」「アイツ誰? 知ってるヤツいる?」「そもそも軍って何時代の話だし」「よくわからんがイケメンだな」「というかアイツが一番危険なんじゃねえの」「俺達に頼らずギルドだけでなんとかしろよ」「なんかここ変な匂いするし」「馬鹿馬鹿しい、もう帰ろうぜ」「あー、だりーな」「昭和のギャグかよ」「お腹減ったー」「帰ろ帰ろ」
「たああああああああああああああああああっっ!!」「……つーわけでだ、そこのダグトリオ……ラウドだったっけ? とにかく馬鹿でかい落とし穴を頼むぜ」
「…………。」
先ほどのざわめきが嘘だったかのように静かになった広場。その原因は言うまでもなく、ルーの「たあああ」である。マジおっかない。
ざわめきの元であるラウドは返事すらもできなくなってしまう始末。
「で、そこのディグダは偵察に行ってこい。ここからずっと東にある遺跡の近くに村がる。多分そこが拠点だから、敵の勢力を調査してオレに伝えてくれ」
「遺跡……あっ、村ですね。わかりました」
モルドは『遺跡』という言葉では反応しなかったが、『村』という言葉で理解したらしい。一方でクレーンは何故か『遺跡』で反応していたが。
「おし、それ以外のやつらは全員このギルドを囲むようにバリケードを作れ! 材料は何でもいい、壊されないように頑丈にな!」
「何でもいいって……まぁいいや」
(……さり気なくネイトを入れたらすぐに崩れるだろうな)
この説明にネイトは適当感を覚えたが、それ以上にアベルがとんでもないことを考えていた。
当然のこと、フォシルは気付かずに話を続ける。
「ただし、四方角中一方角にひとつ、敵軍が出入りできるぐらいの通路を作れ!」
敵を防ぐためのバリケードなのに何故通路を用意するのかが全員不可解であったが、ここでまた何か言ったら「たあああ」が来そうなので、全員何も言わなかった。
「日付が変わる頃までに終われば問題ねぇ! つーわけで全員解散!」
なんか色々と不安だが、ひとまず全員で作業を始めた。
プクリンのギルド 北側
「オーライ、オーライ」
「……なんでそんな馬鹿みたいにでかい岩を持てるんだ」
「え? 持ってないよ。転がしてるだけ」
「黙れ」
ネイトが運んでいるのは二メートルはありそうな巨大な岩。自分の身長を四倍以上上回る巨大な岩を息切れもせずに転がすネイトを見て、アベルは恐怖のようなものも感じた。
「ふう、じゃあ次行くかな」
(フォシルよりコイツの方が得体がしれない気がする)
また馬鹿でかいものを運んでくるのだろうか、なんてことを考えると、何故かアベルは頭が痛くなった。
「というか……」
手に持っていたやや大きめの石を地面に置き、一息つく。
「これ……本当に意味あるのか……?」
バリケード越しに広がるのは海。陸上のポケモンが泳いでくるなんてことは考えられにくい。
だが、考えても意味はないわけで。
「………行くか」
バリケードを少しでも強化するため、アベルは東側へと石を取りにいくのだった。
プクリンのギルド 西側
「ううー……重い……」
西側でエキュゼが運んでいるのは、中に一匹ぐらいポケモンが入れそうな大きさの白い袋。引きずる度にジャラジャラと音を鳴らしている。
そう、中身はお金。ヨマワル銀行のものだが、無論中身はレプリカである。ひとのものをとったらどろぼう! なのだが、今の状況では仕方ないはずだ。
「ひゃっ……」
口元にくわえていた袋のリボンがほどけ、その勢いでエキュゼの頭と地面がごっつんこ。「ゴッ」と鈍い音が頭の中に響く。
「う……ぎゅ…ぅ……」
「大丈夫か?」
激痛に苦しむエキュゼのもとへやってきたのは、自分よりもデカい、強い、怖い見た目のポケモン、ボーマンダのバルだった。
あまりに唐突だったので、エキュゼは一歩後退し、ぎこちない挨拶。
「
ひ……こ、こんにちは」
「種族上、この見た目はどうしようもないからな。驚かせてしまったことは詫びよう」
常に無茶苦茶威圧感を放っていたのだが、思ったより寛大だったのでエキュゼは一安心する。
バルはリボンのほどけた白い袋を見て、
「随分と重そうな袋だな。私が手伝ってやろう」
「え……あ、大丈夫です」
「そう言うな。同じ女として見過ごすわけにはいかない」
「は……はあ………?」
エキュゼには今の言葉が理解できていないみたいだったが、「手伝ってもらえる」ということは理解できたので、荷物については頼むことにした。
「あのう……お名前は……?」
「バルだ」
「バルダ…さん?」
「違う、私の名前はバル」
「あー……バルさん……」
「フフッ、稀にこのような間違いが生じるからこの名前は困る」
「あはは………たまにありますよね。こういう事故……
バルが笑顔になったことで少し場が和む。やはり笑顔は大事。
ちなみに作者も何気ないようなことで、知らない人とすぐに打ち解けたりする。現実でもたまにこういう会話があってもおかしくないはず。
「あ、私はエキュゼっていいます。えーと、ストリームっていうチームの」
「ああ、ネイトのいるチームのか」
「え……知ってるんですか?」
「……犯人騒動の時に目立っていたからな。特にネイトが連れていかれる前の会話」
「目立っ……ええー……」
「だが貴様らはなかなか良いことを言うな。あんな状況でも仲間を信頼することができるのは並大抵のことではないと思うぞ」
「そうですか……でもネイトって悪事を働きそうに見えないし……まあ」
「ポケモンは見た目によらないとはいうが、ヤツの場合は例外なのかもな」
「でもバルさんは見かけによらないですよね? その……話とか」
「フッ、それはいい方の意味で捉えても良いのか?」
「もちろんですよ!」
何気ない会話。これから先にある戦いを忘れそうな空気になるが、
この後に言ったエキュゼの言葉は、そんなほのぼのとした空気をぶち壊すのに十分なものだった。
「そういえば……さっき『同じ女として』って言ってましたけれども……」
「ああ、言ったな」
「…女って……
どこに?」
「……………。」
沈黙と同時に一瞬だけ風が止む。
「えーと、女って………」
「…………!!」
「え……? あ゛……!」
本当は一回目の発言で気付くべきだったのだが、この様子だと発言した時点でアウトだったかもしれない。
バルの口からは炎タイプであるエキュゼにも熱いと感じられるほどの熱気が出ており、「もう私キレてますよ」ということの証明となった。
エキュゼはバルと出会ったときから気付いてなかったのだ。
バルが女だということに。
「……やはり荷物は貴様一人で持っていけ。私は少しトレーニングをしてこよう……」
「あああ! ごっ、ごめんなさい!!」
……その後、ガラガラ道場から
「ハァッ!!」とか
「バキッ!!」とか聞こえてきたのだが、エキュゼは何も聞かなかったことにするのだった。
プクリンのギルド 親方の部屋
「フォシルさん! 只今戻――」
「へぶばッ!?」 親方の部屋で待機していたフォシルだったが、帰還したディグダのモルドによるアッパーにより効果抜群の大ダメージ。
「あだだ……なかなかやるじゃねーか」
「すっ、すみません! 悪気はなかったんです!」
「うー、それよりそっちの方はどーだった?」
「ハイ! ちゃんと見てきました! でも敵に見つかったかもしれないです……」
指示通り動いてくれたモルドにフォシルが「気にすんな!」と一言声をかける。
「で、どーだったんだ? どーせ戦うんだから見つかったって問題ねーよ」
「えーっと、八人いました」
「は?」
予想外の人数に驚きを隠せないフォシル。『軍』が相手なのに八人はありえないはず。
「最初に見たときは二人いて……その後また見たら六人増えてトランプやってました」
「…………?」
「僕が見た人数はそれぐらいでしたが……少なかったですか?」
「………って、オメーの見た人数聞いてるんじゃねーーーよ!!」「違うんですか!?」
「バカヤロー! オレが知りたかったのは軍全体での人数だよ! 正確な数字じゃなくていいから大体の数を見てこい!」
「でもー……僕、なんか指さされたので戻ってきたのですが……」
「バ レ て る じゃ ね え か ! !」「でも見つかっても問題ないってさっき……」
「見つかったやつが言うな! もう一度行ってこい!」
フォシルがイラつきながら言ったせいか、モルドはややビビりながら潜っていった。
「……こりゃ人選ミスだな」
人選ミスであれば悪いのはフォシルだが、先ほどのモルドの様子を思い出すと、なんか自分よりも相手の方が悪く感じてしまう。不思議だ。
「さーて……そろそ
ぶべら!」「フォシルさ……あれ?」
フォシルが部屋を出ようとしたが、またしてもモルドのアゴクラッシュが炸裂。
「がーーー! 戦の前に瀕死になったらどーすんだ!」
「すみません……」
「出てくるときよりも返事に勢いつけろよ……で、何の用だ」
「いや……親方様はいないのかなーって」
「ああ……多分外のやつらと一緒に作業してると思うぜ」
「そうですか……では行ってきます」
そう言い残し、またまた地面の中へ戻っていった。「忙しいやつだなー」と思うと同時に、「めんどくせーやつだなー」とも思える。不思議。
「さて……今度こそ行くかな」
腕につけた緑色のスカーフをきつく結び、外へと歩いていく。
「フォシル殿! 落とし穴を掘ってきましたぞ!」
「
うぼぁッッ!!」
後からやってきたラウドが再びフォシルに『不幸』を呼んだ。
その後も探検隊達はバリケードの作成、戦闘の準備を進め、『作戦』も本格的なものになっていった。
その主体となったフォシルが的確な指示を出しながら作業をし、ルーが地域の住民に協力するように呼びかけたおかげでもある。
時には協力し合い―――
時には喧嘩をし―――
だが、何よりもトラブルやハプニングが多かったのは内緒。
そして遂に、作業が開始した午後一時三十一分から九時間二十一分が経過し……
22:52
交差点
「おっしゃーーーーーーーーーー!! 準備完了だぜーーーーー!!」 フォシルの喜びの大声があたりに響く。近くにいた探検隊や子供達が便乗して「バンザーイ!」と言っているところを見ると、なんだか微笑ましい。
フォシルは近くにいたポケモン達に、
「よっしゃ、お前ら! 色んなところ回って全員をギルドに集めてこい!」
「「「「「「「「「「「「「「「おおーーーーーっ!!」」」」」」」」」」」」」」」
同時に全員が大きな返事。てか無茶苦茶ノリいい。
プクリンのギルド 地下二階
フォシルへの信頼がなかなかのものになってきたからなのか、はたまた早く終わらせたいからか、全員が集まったのはなんとたったの十五分後。
集まった沢山のポケモンの前でフォシルが話をスタートさせる。
「全員揃ったなー! それじゃあ作戦の説明……と言いたいところだが、まずは全員の配置について説明するぜーーー!」
広場がざわつく。まあ五十もいれば当然なのだろうが。
……が、ルーの表情が明らかに悪くなっていってるのが見えたので、すぐに静まっていく。恐るべし「たあああ」。
「配置は東西南北の四ヵ所! そのうち北、西、南は水タイプ系の敵と戦うかもしれねー! ただし、敵の数は少なめ!」
東以外の説明を大ざっぱにすると、再び辺りがざわめく。だが、ルーの僅かな表情の変化で全員が静まる。押しては返す、波のように。
「一方で東は陸軍が大量に襲い掛かってくる! 敵数が果てしなく多いから作戦を駆使して戦う! 無論、人数は多めに募集するぜ!」
またまた辺りがざわめくが、今度は「どうしようか」とか「俺はどこ向きかなあ」などの、いわゆる相談のようなものだったので、ルーの「たあああ」がくることはなかった。
「ちなみに戦えないやつはケガしたやつの回復を頼むぜー! 雑用みてーで悪いが、どの仕事も重要だ! 全員の力をフルに使わないと勝つのはきついからなー!」
このセリフでおどおどしていたおばちゃん達の目が煌めく。「私達だってできるじゃない!」「やつらにあっと言わせるのよ!」……色々言ってはいるものの、
別に戦うわけではないのが残念。
六分後……
辺りが静まる。つまりは「決まった」の合図。
「お前ら決まったかーーーー? 決まってなくても話始めるけどなーーー」
このセリフに一部がクスッと笑う。「始めるんかい!」と、どこぞのオオタチがツッコんでいたが。
「まずは北、西、南の海側の防衛に着くやつ! 基本的には海から出てきたやつを殴っていけ! 増えてきたら通路に誘い込んで少しずつ倒す!」
通路というのはフォシルが作るように命じた、敵軍が出入りできる隙間のようなもの。隙間とはいっても、ポケモン三匹分のスペースはある。
「次は東側の防衛に行くやつ! 東には色々仕掛けがあっから、オレが指示を出すまで動かない! 敵が多いから基本的には通路で戦うぜ!」
ここまでの説明で『通路』が重要だということをピックアップしたいのだろうか。
「おし! 最後に通路についての説明だぜ!」
おそらくこの最後の話が重要になるのだろう。フォシルも気合を入れて話し出す。
「通路では基本、三列に並んで行動だ! 列の先頭にいるやつが戦い、やばくなってきたら戻って治療してもらえ! もちろん、その場合は先頭の後ろにいるやつが戦う!」
つまりは狭い通路におびき寄せて、列になって戦うという作戦。想像するとどこかシュールな気がするが、この小説ならその程度問題ない。
「配置および作戦はこんな感じだ! 他の細かいところは戦場で話すぜー」
「なるほど」という声もあれば「行くぜオラー」という声もある。が、中には作戦を理解できていない者も。
それを見かねたフォシルが、
「あー、つまりは敵を通路におびき寄せて戦うってこった。それだけ理解しといてくれ」
長々ともう一度説明するのもアレなので、一番重要なところを簡潔に説明するフォシル。
(………そろそろ行くか)
「さて、あんまり話してる時間はねーし、そろそろ出る準備をしとけ!」
現在の時間は大体十一時半ぐらい。子供はすでにおねんねしてるような時間なので、欠伸をしているポケモンもいる。
(´Д`)「いやオメーら……まだ日付も変わってねーぜ? やつらは夜中のいつに来るかわかんねーし」
( ゚Д゚)「今頃そんな顔されてもよー。ま、ここら一帯が支配されてもいいなら構わねーけど」
\(^o^)/「おし、やる気になったか!」
フォシルはこの顔を『やる気』と捉えたが、実際は
『オワタ』である。だめだこりゃ。
が、そんな\(^o^)/もルーの不機嫌そうな顔で一気にやる気に変わる。もうこれルーの顔で脅迫とか楽勝なんじゃねえのかと思う。
そんな全員の表情を見て、フォシルが話し出す。
「今回の目的は、ギルドの防衛と敵軍の掃討! できたら軍の統率者であるトリデプスのルドも倒してくれ!」
改めて今回の目的を聞かされると同時に、いよいよ戦が本格的なものになったということを思わされる。
逆に言えば、今まで全員実感がなかったということになるが。
「今から全員配置につく! ちなみに本作戦の作戦名は『予備を用意する』という理由で……」
「作戦名は、『デンタル・バッテリー』!! 行くぞオメーら!!」
フォシルの大きな声に、ほぼ全員が反応して「おおーーーーーっ!!」と掛け声をするのであった。