ポケモン不思議のダンジョン 正義と悪のディリュージョン






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第3章 復活する王子! 甦る古代の軍勢!
第21話 作戦会議
 ギルドへの帰り道


 side:エキュゼ


 今、私達はとんでもないピンチの中にいる。


「………くっ…」


「うっ………」


 戦闘中とかじゃない。何かに苦しんでるとかじゃない。あ……でも、苦しんでるには意外とあってるかもしれない。


 ……笑いを堪えるのに、ね。


「くふふ……新型モヒカン……


ブッ……! ね、ネイト! 変なこと言わないでよ!


「………? 本当にさっきからお前ら変だな」


「そそ、そんなことないよ! ねっ、エキュゼ?」


「う、うん!」


 共同戦線。それが私達の生きるための道。……なんか暗い話に聞こえるけど……。ただ単に笑いを堪えてるだけだからね?
 それでその……まだアベルの頭には皿が挟まってるんだけど……。


「なんか頭が重いな……疲れているのか」


「あーーー、そうじゃないかなーーー」


「そうよねーー」


 いや、アベル……さっきまで寝てたでしょ? ちょっとイラッときたのはナイショ。
 だけど……いつも以上に疲れたのは事実かも……。


「ふう……ズルズキン亜種」


ブッ!


「なんか言ったか?」


「ん? なんでもないよ」


「そ、そうね」


 ふう……ネイトが突然さりげなく変なこと言いだすから噴いちゃったよ。私らしくない……。
 そんなこんなでギルドに戻っていくけど……。


「あ、なんとなく土星の輪っか思い出した」


ブッ!


 大丈夫かなぁ……。









 side:out


 交差点


「やっと着いたな」


「そだね。……ふーっ」


「う、うん」


 なんとかギルドの前まで戻ってこれたストリーム。
 空はすでに夜空となっており、普通なら部屋で寝る準備をしている頃だ。
 が、そんな真っ暗な交差点に一匹のポケモンが現れる。


「ふぁーっ、おー、ねみーぜー」


「「「まだいたのかいっ!!」」」


 現れたのは青色のハゲが印象的……ではなく、堅い頭骨を持つポケモン、ズガイドスのフォシル。
 「夕方には帰ってきてね」とネイト達が遺跡に行く前に言っておいたのだが、まさかまだ待ってるとはとても思っていなかったので、当然驚く。


「遅かったなーお前ら……ん?」


 フォシルがアベルの頭を見て何かに気が付く。……むしろ気がつかないほうがおかしいのだが。
 なんの事情も知らないフォシルは、どストレートに指摘。


「……本当になんなんだ、どいつもこいつも俺を変な目で見やがって」









「いや……なんでオレん家の皿頭に挟んでいるんだ?」


「は………?」


「「え………?」」


 今の発言を聞いたネイトとエキュゼは唖然。というか、ビックリ。
 一つはストレートにフォシルが指摘してしまったこと。もう一つはこの皿がフォシルの物だということ。
 言われてからやっと気づいたアベルは自分の頭を調べる。


「なん…だ……これは……!」


「んー、好きで挟んでんならやめろとは言わねーけど……そーゆー趣味はちょと……なぁ?


 ネイトとエキュゼの本日一番の大笑いポイントだった。









 結局のところ、遅れてきたことはネイトが素直に謝った。
 フォシルは、


「故意に遅れてきたわけじゃねーんだろ? こんな夜中までごくろーさん」


「……ごめん」


「なーに、謝る必要はねーって! ほいじゃ、とっとと帰ろうぜ」


 ネイトは「うん!」と大きく返事し、階段を上り、ギルドに戻ろうとした。
 が、


「お、そーだ、一つ忘れてた」


 何かを思い出し、階段を駆け下りていくフォシル。転びそうな気がしたが、二本の足で随分と器用に下りていった。
 そして、木の裏で何やらゴソゴソと探し……取りだしたのはやや大きめの木の板。


「これこれ、道場で貰ってきたんだ」


 木の板には足形文字が書いてあり、ネイトには読めなかったが、そこには……









 ゛ガラガラどうじょう゛









「わはは! なんかさー、ガラガラとかいうポケモンに『オラの道場の看板貰っていってだ〜』って泣きながら言われてよー、ハハハ!」


 一瞬だけ、一瞬だけだったが、背筋がゾッとしたストリームだった。









 プクリンのギルド 入口


「…………。」


「…………。」


「…………。」


「何してんだ? お前ら」


 先頭でネイトが穴の上に立ち、後ろにエキュゼ、アベル、フォシルの順で並んでいる。ここのシステムを知らないフォシルは三匹が何をしているのか理解できていない。


「…………。」


「…………。」


「……開かない……ね……」


 最初に声を出したのはエキュゼ。開かないのはわかるが、下から声がしないとなるとなんとなく不安になる。
 すると、ネイトが閉まっている扉に手をかけた。


「………あり?」


「どうしたネイト」


「開くぢゃん、これ」


 シャッター式の扉を上にあげ、いとも簡単に扉を開けてしまった。


「なるほど、ハリボテというわけか」


「曲がれぇーーーーーー!!」


「えーっと、ネイト。そのネタわかる人いないと思う」


「なんかよくわかんねーけどおもしれー」


 ネタはともかく、扉を開けることに成功したストリームはギルドに入って行く。決して不法侵入とかではない。


「あ、フォシル」


「おう、なんだ?」


「扉は閉めていってね」


「あいよ」









 プクリンのギルド 地下二階 ストリームの部屋


「俺はもう寝る。異論は認めない」


「私も寝たいな……」


「僕もー」


「オレもー」


 疲れ切ったストリーム(フォシルもおそらくは疲れてる)は、特に何の会話もなく寝ることにした。
 が、一応チームのリーダーであるネイトはというと


(ああ、明日どんな顔してクレーンに会おうか)


 なんてことを考えていた。









 ちなみに、アベルの頭に挟まっていた皿は……部屋の片隅に置かれていた。ついでに道場の看板も。



















 次の日……


「オーーーーーーーキドーーーーーーー!! アーーーサナンだぞぉーーーーー!!」


うがぁぁああ!! うっせーんだよ! このアゴ野郎!」


「んな、なんだとぉぉぉおおお!! てかお前誰だーーーー!!」


 朝から大喧嘩。……喧嘩に至るまでの経緯がしょぼい気がするが、そもそものこと、初対面で喧嘩ができるのがなぜかすごい気がする。
 あまりの騒音にさすがのストリームも起きる。


「んーっ、お早うフォシル。何やらにぎやかなようで……」


「よく見ろネイト、ただの馬鹿合戦だ」


「ふ……ぁ…あ…お早う……」


 エキュゼのみまだうつらうつらとしているが、そんな彼女を尻目に喧嘩……もとい、馬鹿合戦はヒートアップ。


「オメーな! 大声出さねーと俺らが起きねーとでも思ってんのか? このタコォ!!


「起きねぇからこうやって毎日起こしにきてんだよ! 中年ハゲ!!


「オメーに起こされた記憶なんか微塵もねーよ! 変異体!!


「やかましい! だったら一生寝てろ! 青ハゲ!!


「んだとぉーーーー!!」


 お互い言ってはいけないことを言い合う二匹。一言一言相手を傷つける言葉を入れている姿はなんとも……。
 いい加減うるさいと感じたのか、アベルが止めに入る。


 冷たい言葉で。


「黙れ一頭身、爬虫類


「「なんだとぉぉぉぉぉおおお!!」」


 喧嘩自体は止まったものの、怒りを買ったアベルがボコボコにされるハメに。


「ありがとうアベル! さよならアベル! 君の活躍は忘れないよ!」


「ネイトーーー! 縁起でもないからやめてぇ!」


 ……結局、昨日と同じくフォシルは部屋に置いていき、朝礼に向かうネイトとエキュゼだった。
 ちなみにアベルは永み……睡眠中。









 プクリンのギルド 地下二階


「……えー、今日の連絡事項は……風がいつもより強いから飛行タイプは気をつけてください、とのこと」


 昨日、ルーの「たああああ」を食らったクレーンだったが、その割には意外と普通に喋っていた。流石は一番弟子。


「……後、チーム『ストリーム』は残るように」


「あり?」


「え……?」


「さあみんな、仕事にかかるよ♪」


「「「「「「「「おおーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」


 何事も無く始まる一日のスタートの合図。何事も無いはずだった。呼び出しを食らうまでは。
 だが、ネイトはなんとなくこのような展開を予想していた。……あくまで予想していただけだったが。
 全員が解散した後、ネイトとエキュゼはクレーンのもとへと向かう。


「で、用事は何? なんとなく予想はついてるけど」


「ああ……ちょっとフォシルの件でな……ワタシじゃなくて親方様に聞いてみてくれ」


「ふーん………?」


 ネイトはてっきり、昨日帰ってくるのが遅かったことについての説教かと思っていたのだが、予想外な件に疑問符を浮かべる。
 別にフォシルのことを聞かれるのが不思議というわけではないが、ネイトにとっては何故か『今頃』な気がした。
 ネイトは親方の部屋をノックし、


「えーっと、ストリームです。いいかな? ルー」


 ネイトが呼びかけると、ルーは「いいよ〜♪」と返す。こだまでしょうか。


「うーい、失礼します、と」


「失礼します……」









 親方の部屋


「やあ! よく来てくれたね!」


「うん、よくってほどでもないけど」


 なんやかんやでネイトとルーが話すのは久々な感じがする。が、案外友好。
 ルーは相変わらず踊りながら笑っている。「不可解だね……」と、陰でエキュゼが呟く。


「さて、早速本題に入ろうか!」


「うん」


 こう見ると不思議なほどにネイトが大人しく見える。まあ、ルーと比較したらの話だが。
 ルーは踊るのをやめ、先ほどとは違う真剣な雰囲気で話し始める。


「クレーンからも聞いているとは思うけれども……今から話すのはフォシルの話。彼は過去からやってきたって聞いてるけれども、これは本当なの?」


「うん、エキュゼが言うには」


「わ、私!? …え、えーっと、そうだと思います……検証もしたので……」


 自信なさげな回答。でも確証のようなものはあった。部屋に飾ってある皿という重要な証拠が。
 エキュゼの回答を聞き、しばらく「うーん……」と、唸るルー。そして、


「……うん、わかった! だとしたらフォシル本人のためにもこのことは秘密にしなきゃね! 君達も公にしないように!」


 ルーがフォシルのことを最優先にしようとするところを見て二匹は、


(やっぱり『親方様』なんだなぁ〜。へー)


(あ……意外としっかりしてる……)


 とかいう、ルーが地味に傷つきそうなことを思った。無論、本人が気付くことはなかったが。


「あっ、あともう一つあるんだけ「強行突破だァーーーーーー!!」


 突然、ネイトとエキュゼの後ろから大声が。それとともに「ピン!」という金具の外れるような音。そして何故か二匹の視界がブラックアウト。


 扉が前へ思い切り倒れたのであった。
 扉に潰された二匹は黙り込む。というよりも喋れない。


「あれ、ネイトとかいねーのか?」


 扉をぶっ壊した張本人、フォシルは相変わらずマイペースだった。









「なんだよー。昨日ネイトがやってたってアベルが教えてくれたのに」


「俺は悪くない。決して」


 幸い、扉の金具は外れただけだったので、その場ですぐに直すことが出来た。扉の下敷きとなったネイトとエキュゼも、扉自体さほど重くなかったため何の問題もなかった。
 フォシルに昨日のネイトの「強行突破」を教えた本人、アベルは知らん顔をしているが、


「アベル! 謀ったなアベル!」


「うう……痛かったぁ………」


「知るか。俺はただこいつに昨日のことを教えてやっただけだ」


「ん? ありゃ『やれ』っつー意図じゃなかったのか?」


「…………。」


「「「図星かよ!!」」」


 アベルのことだからやることも考えることもほぼワンパターン。だが、それでもやはり驚いてしまうものだ。
 他の人と考えがずれているって恐ろしい。


「うん! これでみんな集まったね♪」


(突っ込まないんだ……ある意味すごい)


(わ、私達……どうでもいいって思われてるのかな……)


(すばらしいスルースキルだな)


(うおお! 現代のポケモンってすげーーー!!)


 それぞれ考えることは別だが、どれも共通してルーのこと。
 しかしルーの言うとおり、ストリーム(フォシルは除く)が集まったのは事実。というかそもそものこと、これはチーム『ストリーム』への話だったため、彼らがいなくてはならなかったのだが。
 ルーが話を続ける。


「ガラガラ道場から報告があって……フォシルがほとんどの場所を制圧しちゃったんだって!」


「「えええええ!?」」


 ネイトとエキュゼが漫画のような驚き方をする。ちなみにこれは小説だ。
 確かにネイト達は、フォシルが看板を持ってきたあたりから「こいつヤベェ」的なことは考えていたのだが、まさかこれほどとは思っていなかったらしい。
 フォシルとアベルは驚いていなかったが……









 アベルがニヤリと笑みを浮かべる―――









「それでフォシルは実力を認められて……別大陸のギルドから『引き取りたい』っていう要請がきたんだけど」


「「「マジ!?」」」


 今度はフォシルも驚く。突然復活し、突然別の場所に送られるとかわけわかんねぇマジふざけんじゃねぇだが、


「クレーンが言うには『ストリームはフォシルを引き取る気がない』みたいなんだけど……そうなの?」


「あ………」


 ネイトは一昨日のアベルとクレーンの会話を思い出す。



















『わかってるなら話が早い。この珍生物は自分が王子だとかなんだとか言っている重症中二病患者なんだ。勧めの精神科をすぐに探して診てもらいにいってくれ。それができなきゃ保健所に引き取ってもらうか、あるいはその辺の段ボール箱に入れて捨てておけ。それができなきゃ親方に叱られること覚悟でここに住まわせろ』


『い、一度にたくさんのことを言われても……というか、最初に王子とか言ってなかったか?』



















(うあああー! あの時の会話だーーー!)(第18話参照)


 このことを思い出し、ネイトはルーのセリフを理解することができたが……


 これは紛れもなく、クレーンの復讐。


「いいや」


「?」


 突然の否定。声の主はアベル。ネイト達は「まさか……」と小声で言った。









「そいつの所有権は俺達が持っている。俺達がフォシルを引き取る」


 まさかの手の平返しッッッ!!


 おそらくアベルは、フォシルがむちゃくちゃ強いと聞き、戦力増強のためにチームに入れようと考えたのだろう。


(さすがアベル! 仲間ながら正に外道! 最低!)


(アベルぅーーーー! それはダメだって!)


 ネイトとエキュゼが心の中で叫ぶ。無論届かない。いや、届いてはいけないのだが、気持ちだけは届けなくてはいけない。


「そうなの? うーん……でもあっちはあっちで熱意がすごいし……」


「よく考えろ。フォシルがこちらにつけば活躍間違いなしだ」


 平気で親方であるルーの意見を断ち切るアベル。すべては戦力のため。


「うー……だけど僕のトモダチからの期待と熱意を裏切るわけには……」


「ほう? 親方は熱意だけで俺達とフォシルとの絆を断ち切るというのか? とんだ幻滅だな


((やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ…………))


 アベルの最低な発言に心をえぐられるような思いをするネイトとエキュゼ。二匹の悲痛な心の叫びはアベルの耳に入らない。
 そして遂に、


「うん……そうだよね! わかった! フォシルをチーム『ストリーム』に参加させるね!」


「ああ、それでいい」


「よっしゃ! これからよろしくな!」


 遂に折れたルー。しかし一番心が折られたのは真実を知っているネイトとエキュゼである。
 最高にして、最低な形でフォシルが仲間に加わった。


 追記:


 ストリームとフォシルに絆は無い。



















 ストリームの部屋


「さっさとスカーフ選べ」


「おいアベル……なんかさっきより冷たくねーか?」


「黙れ」


 「おいおい……」と言いながらフォシルは緑色のスカーフを取り、腕に巻きつけた。
 それに気付いたエキュゼがフォシルに声をかける。


「あの……首に巻かないの……?」


「ん? だって首に巻いたら締められて終わりだろ? それに……」


 フォシルは巻いたスカーフを素早くほどき、


「うおっ!?」


 スカーフの先端だけを持ち、ムチを打つようにアベルの足に飛ばす。


「武器にだってなるんだぜ?」


 アベルの足にスカーフが巻きつき、フォシルが引っ張り、アベルはスッテンコロリン。思わぬ使い方を見たネイトとエキュゼは当然驚く。
 無論、転ばされた張本人、アベルも。


「チッ……なんのつもりだ」


「ん? いや、なんか冷たすぎてムカついたし」


「もっと、熱くなれよぉぉおお!!」


「ネイトは黙ってろ」


 「うーい」と、気のない返事をするネイト。フォシルは腕にスカーフを巻きなおす。
 と、その時だった。


「頼む! 誰か開けておくれーー!!」


 わずかに聞こえた、おそらく外からの声。


「お! なんだ今の声! 俺達出動じゃね?」


「えっ? い、いや別に―――」


「わはははは! 探検隊出動だぜーーー!!」


 ネイトの制止も聞かず、フォシルは走っていってしまった。


「ああー……だいじょぶかなぁ……」


「行ってこい、保護者」


「リーダーとして行った方がいい……じゃないかな?」


「え、エキュゼまで……わかったよ」


 なんか理不尽な気もするが、フォシルが心配なのは事実なので仕方なく行くことにしたネイトであった。



















 この後、大変なことが起きるのも知らずに。



















 一方フォシルは……


 梯子を登り、また梯子。入口までの道は覚えているようで、スイスイと上へ向かっていくフォシル。


(探検隊……ギルド……すっげー懐かしいぜ!)


 その考えが何を意味するのか。ネイト達が知るのはまだ後の話。
 入口まで着いたフォシルはすぐにハリボテな扉をあける。


「ういしょっ……と。ん? 誰だオメー」


 入口に立っていたのは、毛並みがボサボサなピジョット。
 体にはいくつも擦り傷があり、飛んでいる途中にどこかにこすったのかぶつかったのか。
 強風で木の葉が吹き飛んでいる中、謎のピジョットは早口で喋り始めた。


「た、助けてくれ! わしの村が……襲撃されたんじゃ!!」


「襲撃!? 詳しく聞かせろ!!」


 『襲撃』と聞き、真剣になるフォシル。「わしの村」ということから、このピジョットは村長なのではないかと推測する。


「近くの遺跡が崩れたと思ったら……突然見たことも無いポケモンが大量に出てきて……」


「遺跡!? まさか……」


「わしは命からがら逃げてきたのじゃが……早くしないと……」









 ピジョットの言葉が途切れる。


 空を舞う木の葉。


 フォシルの顔に飛び散る血しぶき。


 目の前のポケモンの胸から飛び出す鎌。


 ゆっくりと、ゆっくりと。倒れていく。









「な…………」


 永遠にも感じる一瞬。


 倒れたピジョットの後ろにいたのは、自らの鎌を真っ赤に染めたカブトプス。


「ここにいたか、王子」


「オメー……は………」


 カブトプスは後ろを向き、素早くジャンプしながら逃げていった。


 後ろを向いた際に見えたカブトプスの装着している鎧……その真中には、





 盾の紋章が。









 一番見覚えのある、そして一番嫌っている模様。
 かつて、自分の国に奇襲をかけ、滅ぼそうとした国の紋章。
 自分の親である国王を、目の前で殺した悪人の国。



















 無音になっていた『一瞬』が過ぎていく。
 胸を突き刺されたピジョットは担架で運ばれ、
 階段の近くには多くの野次馬。
 自分に何か喋りかけているネイト。
 フォシルが『今』に戻ってきて、最初に言った言葉は、









「ルドォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオ!!!!」


 敵国への、猛烈な怒りだった。



















 プクリンのギルド 地下二階


「ワタシ達でやれることはやったが……どうにもダメだった……」


 その後、ピジョットに応急処置を総力尽くしてやったが、完全に心臓を貫かれており、すでに死亡していたらしい。
 うつむきながら、それでもしっかりとクレーンは話し続ける。


「……今日は全員ギルドの中で待機。先ほどみたいに誰かがやられたりしたら向ける目もない……今日は全員仕事しなくていい」


 被害者を増やさないための無難な判断だろう。反対する者はいなかった。


「ではこれにて……解散」


 「解散」の合図を聞き、ギルドの弟子達は自分の部屋へと戻っていく。
 が、フォシルは戻ろうとしなかった。


「フォシル……戻らないの?」


「…………。」


 ネイトが声をかけても戻ろうとしない。明らかに様子がおかしかった。


「………先、戻ってるよ」


「……ああ」


 フォシルのことを察したのか、ネイトは一人で戻って行く。









「……おい、そこの鳥」


「ワタシはクレーンっていうんだよッ! で、何の用だい?」


 フォシルが一人になってから十分が経過し、ようやくフォシルが動き始める。
 突然話しかけたのにも関わらず、クレーンは意外と冷静だった。


「ここの親方……ルーっつったか? そいつにちょっと用がある」


「親方様を『そいつ』呼ばわりするな!」


「いいからどけ!」


 声を荒げるフォシルの気迫に押され、クレーンは道をあける。
 いったい何に対して怒っているのか。クレーンは知る由もない。


「……やっぱりお前も来い」


「だ、だからお前呼ばわりするんじゃ―――」


「うるせぇっ!」


 先ほどまで呑気だったフォシルでは考えられないような言動。
 フォシルの目的とは……









「作戦会議だ」









 親方の部屋


「ルー、早速だが作戦会議だ」


「え? 作戦? なんの?」


 ルーの頭の上には複数の疑問符。無論、なんの事情も知らないので仕方のないことだが。
 そんなルーに、フォシルは単刀直入に言った。









「早いうち……このギルドは『やつら』に支配されるぜ」


「な……何を言って……」


「いやクレーン、聞いてみようよ。フォシルがピジョットの第一発見者だったんだし」


「むむむ……」


 フォシルは考えのいきさつを話し始める。









 かなり長かったので、話をまとめると……


 ・ピジョットの言っていた「遺跡が崩れた」という言葉から……大量の化石が泉の中に落ちたと推測し、

 ・復活した化石ポケモンが村を襲撃。

 ・そして村のポケモン、ピジョットがギルドまで飛んできて、

 ・それを追いかけてカブトプスがピジョットを殺害。おそらく余計なことを伝えさせないため。









「……あの鳥は随分と傷だらけだった……そりゃああんな風の強い日に飛んだら木とかにぶつかんだろーな」


 「あの鳥」というのはピジョットのことだろう。フォシルは話すのにやや疲れたのか、ふう、と、一息つく。


「……なんとなく経緯は理解できた。だが……それがどうしてギルドの支配につながるのかがワタシには理解できないね」


 クレーンの言うことはもっとも。だが、フォシルもしっかりと答えを用意していた。


「あのカブトプスは鎧を着ていた。で、そこにはある国の紋章があった」


「ある国?」


 『国』という聞きなれない言葉を聞き、クレーンは首を傾げる。
 ちなみに現在は国ではなく、大陸でこの世界は分けられている。


「『マーストリヒ国』っつってな……オレらの生きてた時代では凶悪な国として有名だった」


「まーす……とりひ?」


「おうよ。宣戦布告も無しに突然村人を襲ったり、人質取ったり……まー汚さじゃダントツだったけどよー。ありゃ尊敬できねーぜ」


 昔のことをしみじみと思い出し、口調が少しだけもとに戻るフォシル。おかげで少しだけやわらかい雰囲気ができる。
 そこに、今まで黙って話を聞いていたルーが口を開く。


「……で、その国がこのギルドを襲うってこと?」


「だと思うぜ。見たところ、ここは高台にあるし……知ってるか? 高台は周りを見渡せるし、上からの攻撃にも秀でてて……これ以上に無いってぐらい戦闘では便利なんだぜ?」


「なるほどね」


「ふむぅ……」


 戦争などにはあまり詳しくない二匹だったが、フォシルのわかりやすい説明にふむふむと頷く。


「そんな便利なところをヤツらが狙わねーわけがねーだろ? ま、結構ヤツらとは戦ってるしな。考えはお見通しってわけよ」


 フォシルは過去からやってきたポケモン。目には目、歯には歯、そして、過去には過去である。
 もしここが襲われるとなれば……フォシルがいなければ対策できないだろう。


「さーて、そうとなりゃ作戦会議だ! 地図持ってこい!」


「うん!」


「わかった……オマエを頼ろう」


 反対意見が出るはずもなく、フォシルによる作戦会議が始まった。


■筆者メッセージ
エキュゼ「そういえば……作者ってネイトより一つ年下なんだよね」
アマヨシ「ネイト先輩チィーーーーーッスwwwwwwwwww」
ネイト「作者チィーーーーーッスwwwwwwwwww」
アベル「俺とエキュゼは二つ年上だがな」
アマヨシ「あ……アベル先輩チス……」
ネイト「チス……」
アベル「仲いいなお前ら」
アマヨシ ( 2014/03/29(土) 15:02 )