ポケモン不思議のダンジョン 正義と悪のディリュージョン






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第3章 復活する王子! 甦る古代の軍勢!
第20話 検証
 ストリームの部屋


「なるほど、意味わかんねーや」


「ああ。とりあえず黙れ」


 次の日の朝、アベルは朝一番に起き、昨夜話しあった議論(推測)の結論をフォシルに話した。内容がかなりぶっ飛んでいたからか、予想通りフォシルは首を傾げていた。
 もっとも内容が内容なため、実はアベル自信も信じていないわけだが。


「あー、それにしても腹減ったなー」


「そこらのアリから何か盗んでこい」


「虫食うのかよ……」


 が、それにしてはフォシルは思っていたより呑気だった。自分の今の状況を十分把握しているはずなのに、「腹減った」の一言。


「むにゃ……」


「ふぉおおああぁぁぁ。おは……って、アベル?」


「お前らが遅いから先に説明しておいた。……ネイト、目ヤニ付いてる」


「げっ」


 注意されたネイトは急いで目の周りをこする。実際、目ヤニなど付いてなかったのだが。


「むにゃ……アベルお早う……」


「ああ。昨日のことはきっちり話しておいた」


「そっか……むにゃ……」


 半分……いや、八割ぐらいは寝ているエキュゼに話したことを伝えると、エキュゼはそのままバタリと倒れてしまった。よっぽど眠たかったのだろう。
 それを見たフォシルが一言。


「呑気だなー、お前ら」


「お前がよく言えるな」


「んー……? んなことよりもよー」


 呑気=自分という式がフォシルの中では成り立ってないらしい。「こいつもバカの類か」とアベルが心の中で言う。
 無論そんなことには気付かず、フォシルは話を続ける。


「そんな重要だったか? さっきの話」


「当たり前だ」


 全員が話していたので聞いてきたのだろう。さっきとは違い、真剣な表情でフォシルは話を進める。


「……もう死んじまってたわけだろ? 気にするこったねーと思うけどな」


「…………。」


 適当に流していた。と、思いきや、きっちり聞いていたフォシル。
 化石というのは、太古の動植物の全体もしくはその一部分が水成岩などの岩石中に残ったものであって、フォシルの場合は骨が残っただけ。


「過去に帰れるわけじゃないんだろ? 聞いた話じゃ骨が肉をつけて戻ってきただけだろーし。……まぁ十分不思議だけどな」


「…………。」


「だからよー、もう考える必要はねぇ。『未来』の社会に馴染んで、いっぱいうまいもん食って、いっぱい遊んで……」









「いっぱい思い出作ってやろーじゃん」









「うっ…うっ……すっごい感動ぉ……」


 アベルが後ろを振り向くと、そこにはむちゃくちゃ涙を流しているネイト。


「? なんかあったのか? あいつ」


「察せ」


「ううっ……前向きにっ…生きるってっ…すっごいいいことだと思うぅ〜〜」


「??」


「はぁ……」









 やがてネイトの涙も止まり、エキュゼも目を覚まし、部屋の空気が少し落ち着いた頃、


「で、こっからオレはどうすりゃいいんだ? 行く当てとかないんだけど」


「とりあえずこの部屋で待機してろ。話はつけてくる」


「おう! あ、何度も聞くようで悪りぃけど……」


「なんだ」


「お前らの名前教えろよ」


 ネイト達は今頃軽い自己紹介をし、すぐさま朝礼へと向かっていった。









 プクリンのギルド 地下二階


「はぁ〜〜〜〜!? 親方様にぃぃぃぃいい!?」


「異論は認めない」


「認めないよ!」


「み、認めないって、いや……」


 特になにも無く終わった朝礼の後、ネイト達はすぐにクレーンのもとへ行き、すぐさま交渉。クレーンの反応は見て(読んで)の通り、拒絶反応が見てとれる。


「ま、待て! そんなことしたらワタシの立場が……」


「そこをどけ、音符」


「上手に焼いちゃうよ〜? ん〜〜〜?」


「ネイト……何気に怖い……」


 親方に報告すればクレーンの立場が危ういのは互いに承知していることだ。昨日ストリームを遺跡へ行かせたのも証拠隠滅のため。
 今それらが、簡単に崩れ去ろうとしている。


「わ、わかった! 今日受ける依頼の賞金は全部オマエ達にやる! だから―――」


 賄賂など通じない。今のストリームは正に『流れ』そのもの。


「ええーーーーい!! 強行突破じゃあーーーーーー!!」


「ああ」


「うん……アハハ……」


「やめてえぇぇぇぇぇぇ…………」



















「たああああああああああああああああああああああ!!」









 交差点


「あはははは! あー楽しかった」


「同意」


「なんかよくわかんねーけど……お前ら楽しそーだな! ははははは!」


「クレーン大丈夫かな……」


 強行突破し、チクる。完璧な作戦(?)だった。その後クレーンがどうなったかはご想像にお任せしよう。


「心配することは無いよ! エキュゼ」


「自業自得だ」


「そう……かも……」


「……あのよー」


 フォシルが少々戸惑った感じで聞いてくる。ネイトが「あの世?」とボケたが、そこにアベルのローキック(技では無い)が炸裂。
 フォシルが要件を話し出す。


「結局オレはどうすりゃいいんだよ」


「考えてない」


「僕も!」


「え……? わ、私も……」


「……話つけに行ったんだろ? 意味ねーじゃん」


 もっともすぎる反論。ネイト達はチクることを前提で「強行突破じゃあー」したので一番重要な件を忘れていた。バカだ。


「ん〜……じゃああそこの道場にでも行ったら?」


「道場?」


 珍しくネイトが提案する。アベルとエキュゼには初めてネイトのリーダーらしい姿が見れたような気がした。


「うん。多分鍛えられるとこ。……戦闘は好き?」


「おう! どちらかと言えば」


「ほいじゃあー……」


 ネイトはトレジャータウンの方を指差し、


「ここからまっすぐ行ってー、左に曲がって、また左!」


「おう! なんかよくわかんねーけど行ってみるぜ!」


「うん! 夕方には帰ってきてねーー!」


「わかったぜーーー」


 大きく返事をして、フォシルはトレジャータウンの方へと走って行く。


「……これはどういうことだ? ネイト」


「んーと、ちょっと僕達だけで行きたいところがあるんだ」


「行きたいところ……?」


 いつも以上に積極的なネイトに二匹はやや驚かされるが、この後の回答の方がもっと不可解だった。


「遺跡さ」


「は?」


「もう一度行って……検証してみよう」


 検証。それはおそらく、昨日の議論が正しいかったかどうかの検証。
 ……が、事実かどうかを確かめるとはいえ、昨日行ったところにまた行くのはやや抵抗があり、ストリームの足取りは重かった……。



















 遺跡


「つ……」


「つ………」


「着いたな」


 もったいぶる二匹に対し、つまらない反応を見せるアベル。二匹はおそらく、「着いたぁーーーー!」とかいうオーバーリアクションを期待していたのだろう。
 事実、作者もアベルがキャラ崩壊しているのを見てみたい。


「悪寒がするな……まるで作者が俺のことを話しているようだ」


 ……悪寒はともかく、
 遺跡へ来たまでは良かったのだが、何をするか、という肝心なところが聞けてない。
 不安になってきたエキュゼがネイトに尋ねる。


「ねえ……検証ってさ、何をすればいい……の?」


「んー………」


 長考、入力放棄。もう嫌な予感しかしない。


(え……ひょっとして考えてない感じ!?)


(切断安定切断安定)


 脳内でアベルが嫌な四字熟語を使用しているが、決してwi-fiとかの話ではない。
 が、


「んー……とりあえず昨日と同じことしてみよう」


「何をするつもりだ」


「出ぬならば 何か探そう ほととぎす」


「うまいこと言ったつもりか」


「あ、あはは……」


 エキュゼ、苦笑い。アベル、呆れ。
 結局のところは笑いも有効手段もない。









 遺跡 最深部


 なぜだかポケモンがいない最深部。ほとんどは昨日来たので今日はすっからかんなのだろう。


「宝……宝……宝……!」


 そんな静かな最深部にはネイト達より先に来ているポケモンが。
 そのポケモンは不器用な手つきで地面を掘っており、何か……というかセリフで何を探しているかわかってしまうのだが。
 おそらく、「宝石が出た」という噂を頼りに遺跡を漁っているのだろう。


「おい、泥棒」


「ひっ!?」


 低音で声をかけたのはアベル。声をかけられたのは…


「あーーーー! あの時のセントラルぅぅぅうう!!」


「お、お前らは昨日の!」


 滝壺の洞窟で初めて会い(13話参照)、昨日にも会った最弱ドンカラス、セントラル竹田だった。


「ななななんだコラ! 別に俺様は宝石探してるとかそういうのじゃないぞ!」


「モロ言ってるじゃん」


「一人で俺様キャラやって悲しくないのかしら……」


「お前は必要ない存在だということを自覚しろ」


 ストリームの容赦ない言葉の暴力がセントラルの胸に「グサリ!」と刺さる。
 ……が、ここで悪タイプとして悪口に負けるわけにはいかないと思ったセントラルはなんとか堪える。


「うぐぐ……こんなところで俺様は」


「よっと」


「ふぎゃ!」


 アベルの跳び蹴り(技ではない)がセントラルの顔面に炸裂。……もうどちらが悪役だかわからないようなカオスな状況になりつつあるが。
 無論、ナイトヘッドで痛くも痒くもないようなやつが攻撃を耐えられるわけなく、そのまま倒れた。









「……クソッ……俺様にも…力があれば……」


「力はあるはずだ。ドンカラスという種族上、攻撃面では優秀だからな」


「な……そうなのか!」


「ああ」


 アベルの口から出た言葉は意外なものだった。普通なら毒を吐いたりと……まあ酷いことを繰り返すであろう彼がセントラルを励ましたのだ。
 ネイトとエキュゼはすでに観客モード。微笑みながらその光景を見ている。


「強くなりたいんだろう? 俺が鍛えてやる。着いてこい」


「は、はい! わかりましたぁー!」


 アベルがセントラルを誘導し、二匹はそのまま、出口から差し込んでいる光の中へと消えていった。
 ネイトとエキュゼはすでに観客モード。微笑みながらその光景を見ている。


「…………。」ニコッ


「…………。」ニコッ









 ネイトとエキュゼは……


「だああああああ!! 逃☆げ☆ら☆れ☆たぁぁぁぁぁああ!!」


「え…えーーー! なによソレーーー!!」


 巧みな作戦にまんまと引っ掛かった二匹。『誘導』と称し、実はただの逃走。
 アベルのことだから理由はすごくわかりやすい。









『めんどうくさい』









「…………。」


「…………。」


 二匹の頭の中には「めんどうくさい」と発言しているアベルの嫌そうな顔が思い浮かんだ。
 おそらく、いや、確実にアベルが戻ってこないのは目に見えている。いずれにしてもこの二匹で化石っぽい物を探すしかない。


「……やろっか」


「うん………」


 孤独ではないが、孤独な雰囲気の化石探しがスタートした。









 三十分後……


「………はぁ……」


「………ん! なんかある!」


 ネイトの声に返事もせず、すぐさま駆けつけてくるエキュゼ。見つかったことがよっぽど嬉しかったのだろう。


「うひゃあぁぁぁぁああ! これで!」


「……飴の……ふ…くろ……」


「え」


 エキュゼの言うとおり、銀色に輝くそれは飴の袋。確かに『何かあった』わけだが。
 二匹のテンションが5下がった!









 さらに一時間後……


「……………。」


「あり? これって化石じゃない?」


「え………ただの石ころだと思うけれど」


 エキュゼの言うとおり、ネイトの拾ったものは何の変哲もないただの石ころ。こう言うと何かありそうだが、これは本当にただの石ころ。


「ねえ、ネイト……」


「何………」


 ただの会話に対してもまったく力の入らない二匹。電池切れかけのおもちゃみたいになっている。


「少し……休まない……?」


「……だね」









 二十分休憩―――


 エキュゼは横になって眠り、ネイトは仰向けになって寝転がっている。


(……見つかるのかなぁ、こんな調子で)


 そもそも提案したのはお前だろうが、と、アベルがいたならツッコミを入れられていただろう。
 ネイトはゆっくりと目をあけると、









「あああああああああああ!!」


「!? な、何!? 突然!?」


 飛び上がって起きたエキュゼは急いで周りを確認。そこには仰向けのまま驚いた表情で天井を指差しているネイトが。
 エキュゼも天井を見上げてみると、


「あ……あんなところに……」


 岩に隠れていて見えにくかったが、天井にあったのは「皿」。最近の物とはさすがに考えられない。つまりは大当たり。
 しかし……


「………どうやって取る?」


「え……私に聞かれても……」


 故に高さは軽く十メートルはある。ジャンプや技ではもちろん、道具を投げてもやや微妙なところ。


「こりゃまた何か探す必要があるかもね」


「うん……」


 届かないのならば届くようにすればいい。希望なら目の前にあるのだから。


「確か今日は……」


「何も持ってきてないんだっけ……うーん」


 石を投げようかと思ったが、当たったとしても落ちてくるとは限らない。ただ割れて終わり、なんてことも考えられる。


「うん、やっぱり探そう」


 エキュゼは何も言わなかったが、黙って小さくうなずいた。









「エキュゼ……もう遺跡には無いんじゃないかな」


「うん……」


「ちょっと外に出てみよっか」


「うん……」


 テンションがいつも以上に低くなってるエキュゼを見て、やや不安になるネイトであった。









 遺跡 入口


「ひゃあー、眩しっ」


 遺跡の暗がりにいたネイト達の目に夕日が入ってくる。目が痛くなるほど眩しさは、自分達がどれだけ長い時間遺跡の中にいたかを教えてくれる。


「ねえ、ネイト。フォシルは大丈夫なの?」


「あ゛……まずいかも」


 化石探しに夢中ですっかりフォシルのことを忘れていたネイト。無理もないことだが。


「まあいいや」


 今はあの届かない皿の方が大事。一瞬だけフォシルのことをどうでもいいと思った。


「さーて、探索探索」


「うん………ん…? あれ……」


 探索を始めると同時に、エキュゼが不意に何かを発見する。
 そこには…




 夕日を浴びながらすやすや寝ているアベル。


 その近くの木に張り巡らされてる蔓。


 明らかにエキュゼの口元が緩んだ瞬間だった。



















 どこかの公園。真中には公園の象徴であると思われる噴水が。


 その片隅に一つのベンチ。アベルはその上で寝ていた。


『い〜しや〜きいも〜〜』


 不意に焼き芋の例の声が聞こえ、アベルはゆっくりと目をあける。


 ―――と思ったら、突然空中から灰色の巨大な物体が。


「――――!?!?」


 巨大なこんにゃくはアベル目がけて落ちていき……



















 side:アベル


 !? な、なんつー夢だ……。まさに食べ物の逆襲と言ったところか……。


「ん………?」


 周りの景色が違う……? おかしい、遺跡の入口で寝ていたはずなんだが……なぜ中にいる。


「あ、起きた」


「アベル……おはよう」


 俺の左で声が……なんだ、エキュゼとネイトか。
 ネイトは相変わらずニコニコしているんだが……エキュゼは今までに見たことがないような恐ろしい形相でこちらを見ている。
 しかも口から炎が漏れてるし。


「……何があった」


「何があった? ……アベルは寝てたからわからないよね? 私達すっごい大変だったの」


「…………。」


「だから………」


 エキュゼがニヤリと笑……わない。どちらかといえば狂気に満ち溢れているような……。




「だから、少し『お仕置き』が必要だと思ったの」


 あ、今頃ですまない。本当にすまないが……









 なんか蔓で縛られてるし……?


「ネイト、頑張ってね」


「ん、やってみる!」


 お、お仕置きって、ま、まさか―――♂♂♂




 ガシッ


 ……ネイトになぜか足を掴まれた。そのまま持ちあげ……


「あ、思ったより軽い」


「……何をするつも……おわぁっ!?」


 俺が発言しようとした瞬間、突然視界が回り始める。……ああ、ネイトが俺の足を掴んで振り回しているのか……ってオイッ!?


「そい! あ〜〜目〜が〜ま〜わ〜る〜」


 「そい」じゃねぇ。目が回ってんのはこっちだ。
 というかこれ、エキュゼが命令したんだよな? 遂に俺、嫌われてしまったか。


「……ネイト、ある程度勢いがついたらでいいから……ね?」


「あいっさ!」


「く……お…お……」


 間違いない、首謀はエキュゼだ。「ある程度勢いがついたら」ってなんだ。
 ……というか俺、体も意識も飛びそうなのだが。









 ……ん? 飛びそう?


「うりゃあ! いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!」


「……!! …………。」


 もう何も言わない。というよりも、言えない。
 まぁ、俺が最初に予想していた♂よりかはマシ……じゃねぇよ(泣)









 あ…今頃気付いた。









 俺、空を飛んでいるんだ。


 ガッ









 side:out


 ネイトがジャイアントスイングで投げ飛ばしたアベルは天井に半分埋まっている皿……の、傍の岩に激突。
 飛んでいったアベルは岩を粉砕(粉ってほどでもない)し、目的の皿も落ちてきた。
 ちなみに、アベルの体を縛った蔓は、アベルの傍にある木についていたものを使った。草タイプが蔓によってひどい目に遭うというエキュゼの考えから。


「わっほい! 思ったよりうまくいったthey!」


「フフ……いい様ね…アベル……」


 エキュゼが小声で何か呟いているが、それより彼女は大事なことを忘れていた。それは……


 落ちてくる皿の回収。


 バリッ……


「あ………!」


 エキュゼが小さく声を漏らす。彼女の表情には「やってしまった」感が出ている。
 エキュゼはアベルに少し痛い思いをさせたかったというだけで、それ以外のことはあまり考えてなかった。
 無論、『それ以外』が一番重要だったことも。


「あー、問題ないよ、エキュゼ」


「え………?」


「ここはこの、『ネイト先生』におまかせあれぃ!」


 検証を考えた本人、ネイト先生によると、


 ・何かしらの古いもの(六千五百五十万年前の)を探し、

 ・泉に投げ入れ、

 ・時間が巻き戻った『古いもの』が出てくればエキュゼの論が正しい。

 ・何も出てこなかった場合、何か別の論が考えられる。もう一度議論しなくてはならない。


「というわけなのです。エヘン」


「……ということは、この皿を投げ入れて……」


「もとの形に戻れば実証できるってこと。……まぁホントはフォシルの戻る手段みたいなのがほしかったんだけどね……ハハハ」


 そんなネイトの話を聞き、エキュゼは朝のフォシルの話……それにネイトが感動していたのを思い出す。


「さて、破片回収回収〜。ご自宅で不要になった皿の破片は〜」


 そんなことを言いながらバラバラになった皿の破片を集めるネイトに、エキュゼは聞こえないように「仲間思いだなぁ」などと呟いてたのであった。









 それより彼らは大事なことを忘れていた。それは……


 落ちてくるアベルの回収。


 ―――が、今それを思い出したところでもう遅い。結局アベルは泉の傍でうつぶせで倒れ、気絶していたのであった。









「ふう……よし、これで全部かな?」


「多分……」


 割れた皿の破片を集め、二匹は泉のところへと向かう。
 

 もし、時間をさかのぼった皿が出てくれば、エキュゼの論が正しくなると同時にフォシルの過去に帰る手段も見つからなくなる。


 それ以外の結果であれば、帰る手段が見つかる可能性が出るとともに、この泉が何なのかわからなくなる。


 どちらの結果も受け止める覚悟をし、ネイトは皿の破片を一気に全部投げ込んだ。


 一秒……二秒……三秒……四秒……。


 投げ込んでから十一秒後。


 パァン!


 遂に泉から割れていない皿が飛び出した。飛び出したまではよかったが……


「うあああーーー!! やばいやばい!」


「アベルぅーー! 起きてーー! お願いーー!!」


 皿の飛び出した方向が悪かった。ちょうど倒れているアベルの方向へ。


 あのままじゃ割れる――――二匹でそう思った。


 が、


 サクッ


「え」


「あっ」


 とても小さな音だったが、アベルの頭に皿が刺さる音。正確には……





 挟まった。


「…………。」


「…………。」


 予想もしてなかった光景に唖然、沈黙、固まる二匹。結果として皿は割れなかったが、


「…………。」


「………プッ


 そのシュールな光景に思わず噴き出してしまう。
 そして遂に、


「あっはははははは!」


「わっひゃひゃひゃひゃひゃ!! ひょひょひょ……」


 もう我慢ならんとでもいったかのように笑いだす。
 あの寡黙なエキュゼでさえもこれにはさすがに堪えられなかったらしい。
 ちなみに、アベルの頭の形をわかりやすく字にすると、









 









 もうお分かりの方もいらっしゃるだろう。皿は今、『凹』の真ん中の窪みに挟まっている。
 これはアベル、いや―――キモリという種族だからこそ出来た芸当―――。


「あはははは……アベル……」


「ひゃっ……うひょひょひょ……」


 未だに笑いが収まらない二匹。
 ああ、なんて幸せなのだろう。これを見れば世界中のポケモンが笑顔になるのは間違いない。
 と、ネイトが考えていたその時、


「………何を笑っているんだ」


「のわああああああああああ!!」


 突然喋ったアベルにネイトがオーバーリアクションとも見て取れる驚き方をする。無論、エキュゼもそれなりに驚いていたのだが。
 予想外の展開にエキュゼがやや落ち着いて対処。


「あ……あはは…。アベル、起きてたのね……」


「今な。……それよりこの蔓をどうにかしてくれ」


「あーーー、じゃあ僕がやるね! ゛炎のパンチ゛!」


「ちょ…ま、待て! うがああぁぁぁあ!!」


 否定の意見も聞かず、問答無用で炎のパンチを使うネイト。モチのロンでアベルは炎には弱いわけで。


「あつつつつ! 何してるんだ!! うがあああ……」


 燃える蔓に苦しみ、転げまわるアベル。そんなアベルを見たネイトとエキュゼは…


「あっはははははは……」


「うっひょひょひょ! ぬひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 はたから見れば狂人。仲間の苦しむ姿を見て笑っているのだ。
 が、実は彼ら、苦しんでいるアベルを見て笑っているわけではない。


 先ほどの件で笑い足りなかった分を無理やり笑っているのだ。


 ネイトとエキュゼの笑い声が遺跡内で響き渡った。









「……お前ら、少し聞かせろ」


「え……何……?」


「ん? なんじゃい」


 アベルの蔓も燃えて無くなり、なんとか平静を取り戻したストリーム。遺跡内は天井から垂れる滴の音だけが響く。
 寝っころがりながらアベルが聞く。


「……俺に何か恨みでもあるのか? さっきから色々と」


「だってさぁ、アベルあのときいい感じに逃げてったじゃん?」


「ああ」


「そいでエキュゼさんがお怒りってわけ」


「なるほど」


 ネイトの説明でようやく自分の状況が理解できたアベル。が、アベルは重いため息をつき、反省の様子がまったくうかがえない。
 そんなアベルを見て、エキュゼがムッとしながら言う。


「……何か言うことは」


 エキュゼは「ごめんなさい」とでも言わせようとしたのだろう。母親がよく言いそうな定番のセリフ。
 が、アベルの答えは、









「……ここまでする必要があるか? 俺を殺す気か」


「…………。」


 エキュゼは片手を振り上げ、









 バチィン!!









 肉球でこれほどの音が出るのか、というほどの勢いでビンタしたのだった。
 そんなさなか、


(うを、まるで鬼嫁)


 ネイトは心無いことを考えていたのであった。









「……何か言うことは」


「……すみませんでした」


 テイクツー。今度はちゃんと素直に謝るアベル。無論、アベルの左頬は赤く腫れている。


「……もう用は済んだのか?」


「え? あ、うん……。検証も終わったし」


 検証の結果としては、『エキュゼの考えた論、泉に投げ込んだものは時間を遡って戻ってくる』という結論に落ち着いた。
 ネイトにとっては嬉しいのか嬉しくないのかよくわからない結果だったが。


「さっさと帰らせろ」


「え? ああ、そか」


「………そうね」


 陽は完全に落ち、外は真っ暗。泉から出る光が唯一ストリームを安心させてくれるもの。


 が、この時は思っても無かった。









 この後すぐ、ストリーム最大のピンチが訪れることを。


 それはアベルが立った時だった。


「さて、と」


「「!?」」


 アベルを除く二匹はアベルを見て…あら、ビックリ。









 アベルの頭に、皿が挟まったままだったから。


(なななななな!? なんでまだ挟まってるし!?)


(嘘でしょ!? アベル気付いてないよ!)


(うをあああ!! しかも落ちないッ!)


 二匹の心の中で色々な「やばい!」が生まれてくる。
 しかも、エキュゼが思った通り、アベルは皿が自分の頭に挟まっていることはおろか、皿の存在にさえ気付いていない。


 そんなやばい状況の二匹の行きつく先は、


「…………プッ……フフ」


「う………くく……く」


 笑い(笑)。なんとか笑わないように堪えるが、やはり堪えるには限度があるらしく、どうしても息や声が漏れてしまう。
 なんせ、これほどインパクトの強い光景を二匹とも見たこと無かったから。


「さっきから何がおかしい」


「い、いやなんでも……ぶわっはっはっは!


「わ、私達だけの話だから! あっ、アベル? 先頭歩いてもらっていい?」


 アベルは納得いかなさそうな顔をしながらも先頭を歩く。時折、「顔に何かついてるのか」などと一人で言いながら顔を触っているが、特に異常はない。あくまで顔だけだったから。
 そんな光景を見る度、ネイトとエキュゼは、


((やっぱり気付いてないっ!!))


 と、思わされ、さらなる笑いを誘われてしまうのであった。



















 遺跡 最深部


 ネイト達が去った後の遺跡。


 泉の水面は静かに佇んでいる。









 ぴきっ……









 遺跡に何かがひび割れる音がした。


■筆者メッセージ
 ああ……ポケモンYやってたら遅くなってしまいました。すみません……。
 アマルルガ強いよアマルルガ。
アマヨシ ( 2014/03/25(火) 18:58 )