第19話 復活した王子
「…………。」
「な、なにコレ? なんか飛んできたけど」
「…………?」
泉の方から叫び声とともに飛んできた『何か』は頭部(おそらく)から地面にめり込み、そのまま動かなかった。
三匹はその異様な光景にしばらく唖然としていたが、『何か』をよくよく見て見ると、後ろ足、前足、尻尾。それらが付いていたので、おそらく何らかのポケモンではないかという推測ができた。
「生きてるのか、これ」
「さあ〜……どうか」
すると、アベルとネイトの会話に答えるかのように、
ぱたぱた「あ、生きてるっぽい」
ポケモンは「助けてくれ」とでも訴えているかのように足をぱたぱたと動かした。
「未知の生物だな。動作がそれらしい」
「えーっと……引き抜いた方がいいのかしら?」
エキュゼの疑問に対し、
ぱたぱた ぱたぱた「引き抜け、ということか。帰ろう」
「ええっ!? なな、なんでさ!」
「今まさに、目の前でSОSを出しているポケモンがいるのに!?」
「めんどうくさい。早く帰らせろ」
アベルの対応は非常に冷たいものだった。アベルらしいといえばアベルらしいが、やはり度が過ぎている。
が、ここでエキュゼが言った言葉が、アベルの気持ちを一瞬で変えた。
「もし……あれが新種のポケモンだったら、私たちの手柄になるんじゃない?」
「よし、早く引き抜こう。すぐ引き抜こう」
「「気変わり早っっ!」」
そんなこんなのやりとりで、三匹は謎のポケモンを引き抜く作業を始めたのであった。
ばたばた ばたばた「「「……………。」」」
「いやー、助かったぜー! さんきゅーな! お前ら」
結局はネイト一人で尻尾を引っ張って、「ポン!」という効果音が似あうような抜け方をした。ネイトは思い切り引っ張った反動で後頭部を地面に打ち付けてしまったが。
謎のポケモンの正体は頑丈な石頭を持つポケモン、ズガイドスだった。残念ながら新種のポケモンではないため、アベルは「最悪だ」とか呟いていた。
しかも、かなりのイケメン。
「……っつーか、どこだ? ここはよ」
「んー、遺跡だけど……君さぁ、あの泉から出てきてたよね?」
「遺跡? 泉? オレは知らねーぞ」
「?」
「そのー、なんだ? あー、気付いたらここにいたんだ」
ネイトは泉からズガイドスが飛び出してくるのを見ていたのだが、本人は出てきたどころか、泉の存在さえ知らなかった。予想外の答えにネイトの頭がやや混乱した。
相手が美男子だからか、やや
嬉しそうにエキュゼが聞いた。
「えーっと、貴方は誰?」
「お? オレのこと知らねーのか? 意外だなー」
「黙れ」
赤の他人……出会って間もないズガイドスに対してもアベルは「黙れ」と言えるらしい。すごいのか、すごくないのか。
ズガイドスはフッ、と笑うと、
「オレの名はフォシル・クレテイシャス! クレテイシャス国の王子だぁっ!」
誇らしげに、自信満々に言い放った。
が、ストリームの反応は、
「「「………は?」」」
薄いというか、理解不能といった感じだった。
プクリンのギルド 地下二階
「……なんだこれは」
ズガイドス……フォシルを前にしてクレーンが嫌そうに言った。
結局あの後、フォシルと名乗ったズガイドスを「重病」と判断し、ひとまずギルドに連れて行くことにした。
そして、帰還したことを伝えるため、連れて帰ってきたフォシルとともにクレーンのもとへと向かった。
これが、現在に至るまでの出来事である。
「もう一度聞くけど……これはなんだい? ワタシは「ズガイドスを連れてきてほしい」だなんてひとことも言ってないはずだけど?」
「あ、ズガイドスってわかってたんだ」
「わかってるなら話が早い。この珍生物は自分が王子だとかなんだとか言っている重症中二病患者なんだ。勧めの精神科をすぐに探して診てもらいにいってくれ。それができなきゃ保健所に引き取ってもらうか、あるいはその辺の段ボール箱に入れて捨てておけ。それができなきゃ親方に叱られること覚悟でここに住まわせろ」
「い、一度にたくさんのことを言われても……というか、最初に王子とか言ってなかったか?」
どういうわけか、クレーンが食いついたのはクソ長い話の中の「王子」という部分だった。ストリームにとってはただの中二病台詞にしか聞こえなかったが。
「うん、言ってた。ネッチョリ国の王子だっけ」
「いや…ネッチョリってネイト……グッチョリでしょ?」
「クレテイシャス……そう言ってた」
正解はアベル。この話に関しては一番関心がなかったように見えたが、意外と覚えていたため、ネイトとエキュゼの二匹は驚いていた。が、答えを聞いたクレーンはもっと驚いていた。
「クレテイシャス……? まさかと思うけど、名前は?」
「フォシル・クレテイシャス。オレの名前だけど?」
フォシル本人から名前を聞き、どういうわけかクレーンは放心状態になってしまった。少しすると、はっ、と我に返り、すぐに親方の部屋に入って行った。
しばらくして、ほこりまみれになったクレーンがほこりだらけの本を持って戻ってきた。
「うを、こんな短時間で何があったのさ」
「ゲホッ、こ、これを読め………ガクッ」
クレーンは一冊の分厚い本をネイトに渡し、そのまままっすぐ倒れた。
あの部屋で何があったのか、という疑問は置いといて、ネイトはほこりまみれの本に目をやり、表紙に付着しているほこりをサッとはらうと
「なになに、『楽しい歴史 小学六年生』? なんか可愛らしい」
「きょ、教科書かしら……?」
ネイトは試しにパラパラとページをめくる。ページの端は色あせており、随分古いものだということがわかる。
それを見たフォシルが声をあげた。
「すっげー! 綺麗な絵だなーーー」
「黙れ。……というか、本当に何者なんだ、お前」
「むしろこっちのセリフだっつーの」
得体のしれない謎のズガイドス。言動や物に対する反応もこちらとはやや違い、アベルでさえ彼の扱いに困っているようだ。
すると、教科書を見ていたエキュゼが声をあげた。
「あっ……ネイト、少し前のページに戻れる?」
「前? うい」
「あっ、ここ!」
エキュゼが指差したページは6500万年前のページ。そこには巨大な城の復元図とそのころの偉人(偉ポケ)の顔の絵が掲載されていた。
そのページに書いてある文を小声でエキュゼが読み始めた。
「えーっと……『今から約6500万年前のこのころは、農業や家などの建築の技術、武器や防具なども豊富だったと思われ、急激に文明が栄えた時代でもあります。また、クレテイシャス国はその中でももっとも栄えており、国王のケント・クレテイシャスは『土地、人々、ともに私の宝』と言い、国民に対して非常に好意的だったことがわかります。』……ふぅ」
長い文章を読み終え、エキュゼは一息つく。ちなみに一気読みしたわけではない。
ここでフォシルが、
「ま、息子に対しては厳しかったけどな、親父」
「お前の親については何も聞いてない」
あくまで冷たく返すアベル。
「言ってたじゃんか。『ケント・クレテイシャス』って」
「ああ、そうだな」
あくまで冷たく返すアベル。
「「「はァ!?」」」 まさかの告白。この言葉の意味を理解するのにやや時間がかかったが、理解した瞬間に自然と声が出た。
「ありゃ? オレについての記述みたいなのはないのかー」
「ええ! マヂなの!? バカなの!? 死ぬの!?」
「どーしたんだよー。んな突然焦り始めやがってよ」
「いいいい、いやだってあーた」
焦りとも似つかぬ様子のネイト。対照的にきょとんとしているフォシル。だが、あの発言からしてネイトが焦るのは無理もない話。
彼が言っていることは、『自分が6500万年前の国王の息子』だということだから。
つまりは王子。
「ほ……本当なのかな……」
「いや、間違いなく嘘だ。根本的にありえない」
無論、これはアベルが正論である。『自分が子孫』ならまだ可能性はあるが、直接の息子となれば常識的にありえない。
「なんだよそれ……まるでオレが伝説のポケモンみたいな扱いになってんじゃねーか」
「いや、実在していたポケモンだ」
あくまで正論で返すアベル。
「『していた』? ここにいるっつーの」
「ここにも書いてある通り、お前は6500万年前のポケモンだ。今生きていることは考えられない」
あくまで正論で返すアベル。
「ろぉくせぇぇぇぇぇん!? ごひゃくうぅぅぅぅぅぅぅううう!?!?」「黙れ」
今度はフォシルが驚く番だった。どうやらこのことを知らなかったらしく、凄まじいショックを受けている。ダメージに換算すれば確定一発だろう。
「あり? もしかして知らなかった感じ?」
「だ…大丈夫かな……? なんか彼、すごいショック受けてるみたいだけれど……」
その辺をグルグルと走り、「あー!」とひたすら叫ぶフォシル。どう見ても発狂に近い何かの状態だ。
そんな彼に、アベルが容赦なくとどめを刺す。
「この教科書によれば、のちに隕石が落ちてくるそうだ」
「
ぐ…おおお……! いんせきぃ……」
アベルの追い打ちが炸裂。ダメージ量は乱数三発ぐらい。
この光景を見ていたエキュゼがあまりの非情さに「やめたげてよぉ!」とアベルに発言。だがどうみてもアベルは今の状況を楽しんでいるようにしか見えない。
やがて、しばらく時間が経ち、倒れてはいるがなんとか冷静さを取り戻したフォシル。毒タイプなキモリから一方的につけられた傷は深いが。
仰向けに寝っ転がり、フォシルは一言呟いた。
「マジかよ……マジなのかよ……親父もチェルノ達も……」
さすがにこれには誰もツッコミを入れようとは思わなかった。
フォシルの目が、ひどく悲しそうだったから。
「あのー……フォシル? どうしてこうなったのかはわからないかな?」
「え? ああ……わかんねーや。ただ……なんかすげー衝撃が来たのは覚えてるけどな」
「衝撃………?」
不意にネイトの頭の中にある光景が浮かぶ。
バアァァァァアン!!
『ぐああああっ!!』
「…………?」
雷が何者かに直撃する光景。なぜその光景が頭に浮かんだのはネイト本人でもわからない。
「? どーしたんだよ。不思議そうな顔して」
「え? あ、いや……その衝撃ってさぁ、雷じゃなかった?」
「雷? いや……なんか爆風に近いもんだったなー。熱風?」
ネイトはなんとなく言ってみたが、やはり予想は外れた。
(……なんだったんだろう、さっきのやつ)
ストリームの部屋
ひとまずネイト達は、フォシルを連れ、話をまとめるために自分達の部屋に戻った。話が話であったため、「周りに聞かれない方がいい」というアベルの意見でもあったが。
「さて……では話をまとめよう」
早速アベルが話を切り出す。この様子だと、アベルが中心になって話を進めるらしい。
「まず、フォシルは今から6500万年前の世界で普通に暮らしていたところ、突然熱風に襲われ、なぜだか遺跡にいた。これでいいか?」
「普通…じゃねーな。戦争中だったし」
「なるほど。他に変わったことはあったか?」
「んー」と唸り始めるフォシル。どうやら、中々思い出すのに苦戦しているらしい。
そんな中、エキュゼは一つの疑問が浮かんでいた。
(あれ……? あそこに戦争に関する記述は無かったような……)
いくら小規模だとしても、戦争の一つや二つぐらい教科書に書いてあってもおかしくない。
なのに、戦争どころか抗争のひとつも書いてなかった。
「んー……あ! 外がどうのこうのって言ってた!」
「アバウトすぎて理解不能」
「僕からすれば、アベルが言えたことじゃない気がするけど」
時間をかけて考えさせていたが、結局このザマである。
これ以上思い出させるにしても無理だと判断したアベルは次の話へと移る。
「次は俺たちの話だ。フォシルが泉から出てくる前、俺たちがしたことを言っていけ」
「きみは いま! カントーちほう への だいいっぽを ふみだした!」
「ちげぇよ」「えーっと……グレイと話してなかった?」
「……まあそれもそうだが」
ネイトの言葉は例外とし、エキュゼの言葉もどうやらアベルが求めていた答えではないらしい。
「……まあ、まず、遺跡でグレイに遭遇。エキュゼの言うとおり、そこからアイツの話でかなりの時間を使ったな。その間に何かがあった可能性も一応考えられる」
「グレイが話してる間さぁ、誰か周り見てた? 僕は寝てたんだけど」
ここはネイトの言うとおり、周りを見ていなければ誰が何をしていたかわからない。
なんとなく結果は予想出来ていたが、一応ネイトは二匹に聞いてみた。回答は…
「俺は寝てた」
「私も……」
「うああ、駄目ぢゃこりゃ」
予想通り……にはなってほしくなかったネイトだったが、結局このザマァ!
ふぅ、と一息ついて、アベルが話を戻す。
「ではいったん話を戻す。仮に俺たちが寝ていた時間は何もなかったことにして話を続ける」
「むしろそれを願いたいね」
「黙れ」
軌道修正、軌道修正、と考えながら、アベルは再び話しだす。
「その後は観客がほぼいなくなり、エキュゼが一人で泉を占拠」
「い、いや……ただ見ていただけなんだけど……」
エキュゼの反論に構わず、アベルはたんたんと話し続ける。
「そして、俺とエキュゼの賛同意見により、ネイトを的に射撃訓練」
「反論できなくて悔しいです」
「ただ、この時の゛エナジーボール゛が何かしらの反応を起こし、この事態になってしまったことも考えられる。したがってネイト、お前のせいだ」
「ヘアッ!? 僕ぅ!?」
エナジーボールを撃ったのはアベルだが、どういうわけか撃たれたネイトのせいに。理不尽だが、アベルからしてみればこれが普通である。
ここでエキュゼがフォローに入る。
「で…でもさ、フォシルが出てきたのはもっと後だったんじゃない? だから……フォシルが出てくる直前のことが原因なんじゃないかな……って、私は思う……」
「なるほど、『直前』か。一理ある」
「………って、あれ?
最初からこの話をすればよかったんじゃ……?」
「…………。」
「あ…確かにそうかもしれない……」
ネイトの思わぬセリフにアベルは言葉に詰まり、エキュゼは納得。
やや距離を置いて話を聞いていたフォシルは、
「……なんかよくわかんねーけど、馬鹿じゃねーの? お前ら」
「なによそれーーーーー!!」「駆逐してやる……!」「コロ助☆ コロ助☆」 激オコ。ちなみにセリフは上から順にエキュゼ、アベル、ネイトである。
自分の身が危険だということを本能で理解したフォシルは、
「は、わ、悪かったってーー! ちょ、あああーーー!!」
……時代の重要参考人を
なんの躊躇もなく一斉攻撃し、何事も無かったかのように、彼らはまた話に戻っていた。
「んと、どこまで話したっけ。忘れたthey!」
「泉からフォ……何かしらが出てくる前のところからだ」
フォシルの名前はストリームの記憶からログアウトし、『何かしら』という扱いになった。一種のいじめだろうか。
「えーっと……確かアベルが『帰りたい』って言ってたっけ…」
「そうだ。ではそこから話を再開する」
このようなセリフも今回だけで何回目だろうか。もっとも、その回数だけ話がそれているということに彼らは気が付いていないのだが。
「帰る気配のないエキュゼに対し、俺は『泉に石を投げて、何もなかったら帰る』という条件を提案した。そして……」
「僕が持っていた何かしらの化石をアベルが強奪、だったよね?」
「拝借し、泉に投げた。その後に『何かしら』が泉から飛び出してきた」
都合の悪い言葉は都合のよい言葉に訂正するのがアベルとかいうキモリの生き方である。
だがここでエキュゼが二匹、いや、フォ…『何かしら』でさえも気づかなかったことに気づいてしまう。
「ねぇ……ネイト。さっきさ、『何かしらの化石』って言ってたよね?」
「ん? そうだけど」
「だから……何かしらの化石なんじゃない?」
「え?」
「は?」
言ってる意味がわからないとでも言いたげな様子のネイトとアベル。そんな二匹に対し、エキュゼはわかりやすく言った。
「『何かしら』の『化石』……じゃない?」
「「あ……」」
遂に気付く。そして、三匹の頭の中では、とある式が…
化石 = y
y = 何かしら
何かしら = フォシル
A:フォシル
ストリームの脳内にフォシルさんがログインしました。
「こぉぉれだあああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」 なんとなくだが謎が解けた気がしたネイトは、その喜びで今までにないくらい叫んだ。傍から見ればただの変質者だが。
「そっか! あの化石がフォシルの化石だったなら……!」
「……だと仮定すれば、あの化石が6500万年前の姿に戻ったということか?」
「うーん……」
ここで詰まってしまうネイト。が、またしてもエキュゼがフォローを入れる。
「でもさ……第一発見者が投げた石ころが宝石になって戻ってきたってグレイが言ってたし……あの石ころは昔は宝石だったんじゃないかな?」
「……なるほど。だとすれば何も帰ってこないのも納得できる……か?」
かなり考えが現実離れしている気がするが、実はあながち間違ってはいなかった。というか、
小説だからある程度は許される。 彼らが出した結論は、
「あくまで俺たちの予想だが……あの泉に入った物は時を遡った状態で帰ってくる。もしくは消失」
「それも6500万年前限定……なるほどね〜」
「それでフォシルが泉から飛び出してきたなら納得がいくかも……」
『納得がいくかも』というよりかは、納得しなければならない。いや、むしろ『納得したい』。
すでに真夜中だから。 こんな真っ暗な状況でどうやって話のまとめができたのかはよくわからないが、強いて言うならば根性か何かだろう。ナレーターとしてはフォシルよりもこちらの方が気になるところ。
「……明日コイツに話そう。ついでに遺跡のこと、クレーンのこと、全てをルーに報告だ」
「そう…ね……」
「ん……異議なし…zzz」
ネイトのすすめ
早寝早起き