ポケモン不思議のダンジョン 正義と悪のディリュージョン






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第2章 たくさんの『初めて』
第19話 ちゅどーん

 それは比喩でもなく、まさに天然の宝物庫とでも呼ぶような空間だった。
 両側面には長く広い水路が続いており、陸地を縁取るように小ぶりな色取り取りの鉱物たちが埋まっている。奥へ進むにつれその密度は増していき、行き止まりには玉座とばかりに巨大な宝石と、それを飾るかのように無数の輝石らが夜空の星の如く散りばめられていた。
 どこからか差し込んだ光が水面を伝って伸びゆき、晶洞は光源と成す。乱反射した輝きたちが地を、壁面を、天井を、ありとあらゆるを薄く七色が照らしている。仄暗い洞窟の先に待っていたのは見るも眩い楽園だったのだ。
 が、肝心な反応はと言うと。

「……こ、これ、どうなんだろう……?」
「いや、……あからさま、だろ」

 元よりそんな美味い話があるはずがないと踏んでいたエキュゼとアベルは困惑した。思いっきり不信の目だった。いつしかロマンに夢を見ていた少年少女の、初探検にして初発見は、存外懐疑心ばかりが先行するもので。それもこれもセントラルとかいう間抜けなドンカラスさえいなければまだ純心でいられたのだ。余計なことを知ってしまったという点ではある意味で一番傷痕を残したポケモンなのかもしれない。
 ともすればこれは、罠、だろうか。そんな探りが入るのも自然な流れと言えよう。目の前の光景には『理由』があるはずだった。何が起こるかわからない、この先は努めて慎重に行動する必要が  

「うっひょひょーーーい! キラキラ〜〜〜!」

 ……あった、はずなのだが。やはりというか、多分不自然など微塵も覚えなかったのだろう、両腕をバンザイしながら真っ先にネイトが宝石たちへと飛び込んでいった。
 埋まった石に興奮してその場で転がりだす我らがリーダー。そんな彼を横目に、アベルらは部屋やその周囲、背後に至るまでを視認する。待ち伏せの姿や、何らかの仕掛けが動くような気配も特に見当たらなかった。

「ね、ねえ……もしかしたら、私たちが一番乗りって可能性も……!?」
「……そんなことがあるか?」

 エキュゼの表情が宝石に負けじと明るくなっていく。絵空事でしかないと諦めかけていた富や手柄が現実で、しかも自分のものになるのかもしれないのだ。高揚しないはずがなかった。アベルもまた胸の高鳴りを自覚していたが、しかしまだ甘美を受け入れるまでは至らない。本当に、一番乗りなのだろうか。
 最初は恐る恐るだったが、その領域に近付くにつれてエキュゼの足は早まっていった。すっかり無数の輝きに魅了された幼馴染の背を見て、一時逡巡したものの、仕方がないとでも言うようにその跡を付いていく。ここへ来るまでの間でなんとなく靄が残っている気がしたが、パッと浮かばないということはきっと大したことではないのだろうと、それを思考の隅に追いやった。
 路傍の小粒に沸き立つネイトはスルー、エキュゼが真っ直ぐ向かったのは奥に座す一際大きな濃桃の巨石だった。

「うわあすごい……! こんな大ッきいのが……ねね、持って帰れるかな?」
「まあ、バッジで転送すりゃいけるだろうが……」

 背高のアベルが見上げるほどの図体、誰かが手を加えたかのように左右対称に整った美麗な半透明のピンク色。風や水に削られた形だとはとても思えない。訳アリと考えるのが自然だった。
 しかしどうだろう、このサイズに純度、持ち帰ってギルドに……は、徴収されるので、鑑定にでも出せれば、それはもう、天地がひっくり返るような額が懐に入ってくるのではないか。そんなアベルの想像が、都合の良い解釈を溢れんばかりに組み上げていく。滝の裏の洞窟を見つけられたのは自分たちだけなのでは。宝石のカットも誰かが隠した財宝だったならば納得がいく。そう、幾多もの細い可能性をくぐり抜けて、唯一『ストリーム』だけがここへ辿り着くことができたのだ!
 一人遅れて熱を帯びるアベルをよそに、エキュゼは既に行動へ出ていた。後ろ足で立ち上がり、両の肉球で挟み込む。胸一杯にひんやりとした感触を受けながら力を加えた。体重を乗せて後ろへ引く。ビクともしない。続いて後ろに重心を乗せたまま左右に引っ張ってみた。擦れるような音の一つもしない。

「う、ん……ぐぐぐぐ…………っはあ、だ、ダメだ……」よろけながら手を離す。
「どれ、ちょっとやらせろ」

 入れ替わるは腰に手を当てて自信ありげな幼馴染。そもそもこんな仕事を四足歩行のポケモンに任せようというのが間違っているのだ。最初から呼べば良いものの、なんて思いつつ、出番か、とでも言いたげに両手をぱしぱしと叩く。肩を回し、深く深呼吸。手のひらは大、腕を広げ  掴んだ。

 …………。

 黄緑の腕がピクピクと震えている。足は落ち着かなさそうに、ざり、ざり、と位置を変える。クールを被ったアベルの横顔がたちまちに歪んでいった。終いには先主と同じように左右に振ったものの、巨石は顔色一つ変えずに白く光を反射していた。

「っく! はあ、はあ……クソッ、マジだ。なんだ、これ?」
「すごいよね……。結構深く埋まってたりするのかな」

 膝に手を当て、恨めしそうに宝石を見ながらアベルが言う。「一発なんか食らわせてやるか」攻撃的な思考に、傷付いたらダメでしょ、とエキュゼが語気強めで割って入った。アベルは八つ当たり半分のつもりだったが、後者は滅多に見ない興奮ぶりだった。富の種を前にして、あの控え目がここまで狂わされるのかと思うと少し恐ろしくなる。
 ひとまず攻撃を加えるのは最終手段として、何か解決策はないかと二匹は話し合った。バッグの中身で使えそうなものはというと、爆裂の種か場所替え玉くらいしかない。火器は断然却下、不思議玉も効力が未知数な上に取り返しのつかない事態になりそうだった。探検隊バッジの脱出機能で物を一緒に転送できないかとも意見を出したが、これもまあ何を基準として転送するのかは未知なもので。
 結局のところ、仕方なく複数匹がかりで横から押して引いての作業へ戻ることとなり、ならば妙に力だけはあるネイトを頼るのはどうかと。完全に蚊帳の外だったリーダーにようやく話が回ってきたのであった。

「おいアホ」
「待ってました!」
「うるせえさっさとやれ」
「うん!」
「……」
「……」
「……」
「……で、何すればいいの?」
「お前二度とわかったような返事すんじゃねえぞ」

 「こ、これを取ってほしいな……」何もわかっていないネイトに苦笑いで宝石を指すエキュゼ。言われると素直に向かって、立ちそびえるそれを見上げた。ううん、と何か考えるように首を傾げた後、茶色の両手がむんずと掴んだ。

「あ……!」

 ぱら、と、根元の砂が舞った瞬間、エキュゼは短く声を上げた。
 流石、ダンジョン内の多くの敵をワンパンチで倒してきただけあってパワーはチーム随一である。……それにしたって、二匹分の全力で微塵も反応すらなかったものを僅かにでも動かしてしまうのはいささか怪力が過ぎやしないか。
 ネイトの露出した目元が少しずつしかめっ面の形相に変わっていく。まだ膂力を引き出せるという事実に仲間は順調を通り越して恐ろしさすら感じたが、しかし本人は釈然としない様子で、その手応えに何か違和感を覚えていた。

(……重い、というより、なんか、引っ付いてる?)

 肩を震わせながら足下を見遣る。宝石の根っこはほんの僅かに土から剥離しているように見えた。ということは、やはりどこか引っかかっている部分があるのだ。うんぬぬぬ、とさらに足腰へ力を入れるネイト。岩肌の数センチなら砕けそうな勢いだったが、それでもなお進展が見込めないと知るや、諦めが勝った。見えないところにまで伸びた、より大きな何かを相手にしているような感触だった。

「うわああ、ちょっと無理かも……」
「役立たず」
「そっかあ……ネイトでも厳しいかあ……。なんか、いけそうな感じはしたんだけど」

 うーん、とネイトは首を捻る。実際いけそうだったかと聞かれれば、そうだったのだと思う。ただそれ以上に、あのまま続けていたらいよいよ何かを壊してしまうような気がして。壊したからなんだ、という話だが、それが宝石そのものだったとしたら笑い話では済まないだろう。彼なりに考えた上での勇退だった。
 とはいえ、ネイトが限界まで格闘していたことなぞ露知らず。アベルとエキュゼはどうにか回収せんと未だ模索を続けるつもりらしかった。

「この辺のちっこいやつじゃダメなの? こっちなら頑張ってみるけど」助け舟のつもりで妥協案を出してみる。
「…………いや! こっちにする!」
「小物は任せた」

 「んええ〜……?」ご執心な二匹に不満げな声を漏らす。いよいよ「どの技でいこうか」なんて相談まで始める始末。身を以て無理を知ったネイトとしては止めるべきと思いつつも、無駄だよ、なんて台詞は、なんというか、あまりにキャラじゃない。断言するような物言いには発言力が足りてなかった。つまり、止める言葉を持っていなかった。
 すとんと尻餅をついて、仮面の下でちょっと口先を尖らせる。珍しくもどかしさを腹の中に感じつつ、けれども一瞬過ぎて、まあいいや、と全部すっ飛ばした。とりあえずアベルの言う通り、小さいのから掘り起こそうかと、目の前の薄紫色の水晶に手を伸ばす。

 ぼんやりと、視界が霞んでいた。
 伸ばしかけた手の甲で瞼を擦る。今度は先より増して暗んだ。少し力み過ぎたとか、そんな考えが頭をチラつくより先に、明確に、不自然に、色彩豊かな宝石たちが明滅した。  あの、目眩の予兆だった。
 誰にも気付いてもらえず、誰にも助けを求められず、だけども、それで良かった気がした。薄れゆく視界に身を任せる。現実へ戻ったとき、きっと以前のような不安げな仲間の顔はない。それだけが救いだった。

 光が走り、暗転。


 闇の中に、淡い翠色が揺らめいている。黒茶のフィルターを通してもなお煌めく輝石の群れ、そして一際大きな宝石。疑いようもなく、今自分たちがいる場所だった。
 人気のない洞窟の最奥部に一つの影が歩いてくる。二足歩行に長耳のシルエット。滝へ飛び込み、ネイトたちを導いた者と同じポケモンなのだろう。今まさにエキュゼたちが苦戦している巨石を前に、少し考えるような素ぶりをしたあと、ふと一歩踏み出して、柔らかそうな曲線を描いた右手を突き出し  たったワンタッチ、晶を軽く押した。

(…………?)

 カチッ、と、無機質な音。
 岩壁に埋まったものを引くのではなく、『押す』? 行動の不可解にネイトですら疑問符が浮かぶが、その一手で微動だにしなかった宝石が未知の反応を見せたのも確かである。
 続け様に異変は起こった。低く唸るような空気の振動、響く重音が部屋そのものを細かく揺らしていく。
 影が、右を向いた。

(うわ!)

 ネイトの心臓が跳ね上がるのと同時に、映像のポケモンも身体をピンと立てて仰天した。
 水だ。天井までを埋め尽くさんという勢いの激流が、向かって右の水路から襲いかかってきたのだ。
 逃げようと背を向けた瞬間には既に全身揉みくちゃにされていて、止まることを知らぬ水流が、無慈悲に、ただ全てを洗い流していった。


 明転。
 口を半開きにしたまま言葉が出なかった。宝石を手先で突いたことと、まるで天罰のような激流との因果関係がさっぱりわからない。わからないが、たった一つ特定の行動を取って、それに連なる形で事が起きたあの幻視は、つまり、そういうことなのだろう。ああ、とネイトでも理解できた。そう、アレへ下手に触れようものなら  
 恐ろしい結末に想像を馳せていると、会話が耳に入ってくる。「ちゃんと狙ってね……?」「任せろ」どこかへ何かをするらしい。そういえば目眩の間に話はどう進んだのだろう。ネイトは座ったままで首を回した。
 アベルが地面を蹴って飛び出していた。助走を乗せた渾身の“はたく”(テールスイング)。ガキン! 宝石の腹を直撃し、謎の金属音が響き渡る!

「あ、ああ゛ーーーーーっ!? モロに当たってる! ちゃんと下の方狙ってって言ったのにぃ……!」
「無理に決まってるだろ」

 ワァーッと叫ぶ少女に、試みが失敗に終わると知るや否や一気に冷める畜生キモリ。『責任』の『せ』の字もない理不尽な掌返しっぷりだった。流石のネイトも「ええ……」と遺憾を示した。
 いや、それよりも。
 手前から奥にかけての衝撃。伴って、何か無機質な  まるで加工された窪みにぴったり凹凸が嵌まったかのような小気味良い音。

 あ、これ、まずい?

 這い上がる悪寒を追従するように遠くから鈍い振動が鼓膜を撫でてくる。ばっちりアウトだった。

「……何の音だ?」
「うわあもう変なことするから! ……いや、むしろこれが正解だった、り、する……? ひょっとしたら何か仕掛けが動いたのかも!」

 人並みに警戒するアベルと、柄にもなく狂ったようなポジティブのエキュゼは期待に瞳を輝かせていた。

 降りかかる災難を知った上でそれを避けられないとして、果たしてネイトが取れる最善の選択はなんなのだろう。予告から仲間にも覚悟を決めさせてやることか、あるいは被害を可能な限り最小限に抑える一手か。
 否、彼は動かなかった。動く必要がないと判断した。
 何故ならば、今最も『ネイト』を全うできる選択が、平等にその不運を共にすることだったから。

「南無三……」

 手のひらを合わせて言った後、片手を離して首の前で十字を切った。宗教観の欲張りセットにはバチでも当たりそうだが、もはやそんなことはどうでもいい。
   ざぱーん!
 壁の如く押し寄せたそれを「水」であると知覚することが遅れるほどに、迫り上がった超水流が、それはもう、通り轢くもの全てを押し流さんと雪崩れ込んできたのだった。

「うわ、わ、わ、わあああああ!! なんなのアレぇーーー!?」
「なるほど、どうやらこの部屋そのものが罠だったらしい。大方あのデカい宝石がスイッチになっていたと」
「正確には後ろに押すとああなるっぽい」
「知ってたの……?」「知ってたのか」
「まあ、なんとなく……えへへ」

「……」「……」「……」

「「「うわァーーーーーーーーーーッ…………!!」」」

 大質量には為されるがまま。
 どうしようもなく発した三本束の悲鳴は、情けなく(あぶく)の中へと消えていった。




 温泉。
 温泉というのは、即ち温泉のことである。ツノ山地の西に位置する『コロコロ洞窟』の麓に、こぢんまりと、たまに来る地元民や旅人などの癒しの場として存在している。規模や知名度から特にこれといった名称はなく、ただただ温泉である。
 今日も今日とて、憩いの空間にはポケモンたちが集まっている。

「ほわああ……それにしても今日は良い天気じゃのう。一昨日の嵐を見たときはどうなるかと思うたが……」

 縁の岩場、四肢を投げ出して岩盤浴中のコータス。老齢らしく、緩慢に首を動かして恍惚の細声を伸ばした。

「多少濁ってたりするかもって思ったけど全然そんなことなかったわね。昨日一番乗りで来てみたらなんともなくて逆にびっくりしちゃった。ねえ」

 湯に浸かりながらヒメグマが隣のリングマに同意を促す。「木の葉が数枚浮いてた程度だったな」リングマはそう答えて、大柄な手で湯を掬い、露出した対の肩へかけた。

「ほっほっほ。わしゃ温泉なぞ年寄りの嗜みかとばかり……それがこうして若者たちと話す機会になるのだから、わからんものだのう。余生が許す限りはこんな生活が続いてほしいものじゃ……」
「あら。私なんかがのんびりずっと続けてたらコータス長老の歳まであっという間に追いついちゃうわよ。シワシワになる前に若返ってもらわなくちゃ」
「ほほほ。その頃には、甲羅ごと干からびとるわい」

 和気藹々の団欒には世代の垣根など無く。ただの温泉という一つの共通点を元に、誰もが等しく同じ立場でいられる。
 かつて戦国の世であった東方の大陸でも、敵国の大将同士が同じ湯に浸かったとされている。
 故に温泉とは、誰かが願った平和の理想郷なのかもしれない。そうなるべくして生まれた超自然の贈り物で、ありふれた、ささやかで、しかし何物にも代え難い幸福を享受するための小さな楽園だったのかもしれない。
 無論、暖気に当てられながらそんな哲学めいたことを誰かが考えたわけでもない。彼らはただ、今この瞬間の幸せを噛みしめる。

 ふしゅう、と心地好さそうに鼻から蒸気を吹くコータス。
 背中かけよっか、と兄妹のような間柄のヒメグマとリングマ。
 怒りの本能すら鎮めて目を細めたままのマンキーとオコリザル。


 ふと、空気を震わすような微振動が足場に響いた。

「……あン? 地震か?」オコリザルが不機嫌そうに瞼を開く。
「おやおや、この辺では珍しいのう。まー考えてみれば温泉に地震なぞ何も不思議なことはありゃせんが……そのうち収まるじゃろ」

 震災に対する危機意識が炎タイプのそれではない気もするが、年の功かつ亀の甲、彼の一声が立ち込めようとした不穏を退けたのは確かだった。
 が、戻りつつある平穏に反して重低音は大きく  近付いてくる。何か様子がおかしいと、こればかりはコータスも折った足を立ち上がらせた。
 首をもたげ、振り返った瞬間、

 間欠泉から、盛大に飛沫と、ブラー効果のかかりにかかった三色の何かが、天高く打ち上げられたのだった。




 視界一杯の空色。
 浴びる外気には懐かしさすらも覚えて。
 ああ、と、アベルは、初めての探検の道程を思い返していた。

 最初に気がかりを感じたのはセントラルとの会話の中だった。会って一言目、何をしていたのかを尋ねたとき、あの男は「宝をどうやって持ち帰るか」を考えていた。噂に夢想を膨らませた戯言かとも推測できたが、アレは恐らくそのまんまの意味だったのだ。
 つまるところ、セントラルは自分たちよりも先にあの宝石部屋を見つけている。
 そしてそれが取れないと判断した上で、ヤツは一度引いて策を練るに至った。  どこぞの諦めの悪い三人衆と違って。
 もう一つは、ネイトの未来視にあった、はずだった。
 今思えば何故気付けなかったのだろう。違和感を意識したのだって奥地に辿り着いてからようやくなのだから、ただでさえ遅れた上にみすみす考慮の機を逃してしまったのは失態としか言いようがない。
 ネイトは、「『ストリーム』がもぬけの殻にしたはずの洞窟に入ったポケモンを見た」のだ。
 明らかに不自然な文脈である。何故自分たちが突入した後に入る必要があったのか。無駄足にも関わらずわざわざ立ち寄った理由とは。
 答えは簡単だった。『ストリーム』は宝を持ち帰ることが出来なかった。
 何度でも後悔しよう。アベルは違和感に気付くべきだった。

 ネイトが挑戦者を幻視した時点で、この結末は避けられぬ運命だったのだから  


 カラカラが、ロコンが、キモリが、白目を剥きながら、洞窟の天然水を透き通した太陽光に淡く、キラキラと照らされて。
 ざぼん、と、つまらない音と共に温泉のど真ん中へ落下した。


■筆者メッセージ
アマヨシ「二章完結ゥー! ふぅ、ねみぃ」
アベル「お疲れさん。さて、次の章だが……おっ、オリストか」
アマヨシ「行き詰ったら終わりだけどな。頑張るぜ、コンチクショー」
アベル「黙れ」

 2023 2.18 改稿
 手を加えたら二話分割の分量になったので二章はあと一話だけあります!
 筆者メッセージも読み返してみると感慨深いなー。ちなみに次章は約四年行き詰まってましたね。
アマヨシ ( 2013/11/09(土) 23:58 )