ポケモン不思議のダンジョン 正義と悪のディリュージョン






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第1章 探検隊結成
第2話 出会い

 遠目ではよくわからなかったが、二匹が近づいていくにつれて呻き声の正体が見えてくる。
 頭部は白くて固そうな外殻に覆われていて、首から下は全体的に明るめの茶色、ゴツゴツと骨ばった背中とちょこんとした尻尾。これが『カラカラ』というポケモンだと気付くと、白い頭は外殻ではなく骨のヘルメットなのだろうと推測できる。

「珍しいな……カラカラか。しかもよりによってこんな水場で」
「死んでる? ま、まさか……」

 うう、と呻き声は出続けていたものの、手足を動かして四つん這いになれたところを見ると致命的な重症というわけではなさそうだ。全身を見ても外傷らしきものは一つも見当たらなかった。

「うう……あえ? 前がよく見えない……」
「もしかして目が……!?」
「いや、ヘルメットの位置がずれているだけだ。よっと」

 アベルは下水のバルブを回すようにヘルメットを両手で掴み、思い切り腕に力を入れて回すと「あいでででで!」とカラカラはいきなり大声を上げ、砂浜にボスボスと何度も手を叩きつけて「ギブアップ」の意思表示をする。驚いたアベルは手を離して一歩後ろに下がり、傍らで見ていたエキュゼは「ひっ……」と細い声を上げた。
 その後なんとかさっきとは逆に回すことで事なきを得た……とは言い切れないが、カラカラの視界は取り戻せたようだ。

「あー助かったあ……180度首回して死ぬ最期じゃなくてよかった」

 骨ヘルメットの目の窪みからは黄緑色に輝く瞳が姿を現した。こころなしか、その目は微かに光を放っているように見えた。
 意思疎通が可能な状態と捉えたアベルは、カラカラに事情を聞くことにした。

「全く、何をどうしたらこんなアホなことになるのか」
「どうしたらってそりゃあ…………アレ?」

 そこまで言ってカラカラの口の動きが止まった(といっても骨で口元は隠れてて見えないわけだが)。今に至る経緯はおろか、思い出そうにもこの海岸で目を覚ます以前の記憶が残っていなかった。

「……口に出したら不味いようなことでもしたの?」
「えええ!? いやいやそうじゃなくて! もしやするとそうじゃないのかもだけどえーと!」

 必死さを訴えるためのオーバーリアクションがかえって怪しい印象を深めることになってしまい、カラカラは身振りも脳内も混乱していた。
 この数秒という短い時間で考えついた結論は、

「わかんない」

 という曖昧ではあるが一番的を射ている答えだった。なんせ彼からすればこれ以外、これ以上の答えは無かったのだ。
 だがそんな心情は知らん、とでも言うかのようにエキュゼとアベルはカラカラに詰め寄ってくる。

「探検家か何かか? それともお尋ね者か?」
「わかんない」
「えーっと……あなたの名前は? それくらいなら……」
「名前? あ……わかんない……」
「『犬のお巡りさん』やってるつもりか。なんとか言え」
「わんわん♪」
「黙れ。沈められたいか」

 カラカラがいらんことを言ったせいで、犬のお巡りさん役のアベルが『困ってしまってワンワン』しそうになってしまったが、善良な一般市民のエキュゼが制止し、カラカラはなんとか海の藻屑にならずに済んだ。
 一同がある程度落ち着きを取り戻したところで、カラカラはなるべく誤解を生まないように、自分の非を詫びながらわかりやすく現状を説明しようとした。

「気がついたらここにいて、それより前のことは何も覚えてなくて」
「いや、いい。こんなバカなことに本気になる俺が悪かった」
「何も覚えてないって……もしかして記憶喪失……?」
「本当にごめん! 迷子になってるのは猫だから、そこは『にゃんにゃん♪』だったよね」

 今度は善良な一般市民までもが暴行に加わったため、誰一人としてそれを制止する者はいなかった。実際に歌の中の犬のお巡りさんが迷子の子猫ちゃんに暴力を働いたかどうかは不明だが、この流れを見れば困っている側にも最低限の感受性と常識を兼ね備えていなければならないと誰もが思うだろう。
 伝えた事実に誤解こそなかったものの、カラカラ自身が自分の非の認識に大きな誤解を持っていたと気付いたのは、彼らの気晴らしが一通り済んでからのことだった。




「時間の無駄だったな。帰るぞ」
(あっ……これヤヴァいパターンだ)
「ちょっ……ちょっと待ってよ! この人そのままほっといたらまずいでしょ!?」

 帰ろうとしたアベルをエキュゼが必死になって止めに入る。記憶喪失で何者かも不明な上「にゃんにゃん♪」とくれば、流石に放置してはおけないだろう。カラカラ自身も置いていかれるとまずいと思っていたので、エキュゼのこの行動に内心ほっとしていた。
 アベルとしては心底面倒で仕方がなかったが、置いていったところでトレジャータウンをうろうろされる方がさらに面倒だと思い、嫌々仕方なく、といった様子で振り返る。

 瞬間、アベルは背中に強めの衝撃を受け、まるで高い所から突き落とされたかのような速度で、視界は砂浜一色と化した。




 後ろから下卑た笑い声が響き、何が起きたかを確認する前に「自分は突き飛ばされた」のだとアベルは理解し、疑問よりも先に憤りを感じた。
 砂に埋まった顔を持ち上げると、どうやらエキュゼも同様に突き飛ばされていたらしく、アベルの隣には砂まみれで転がっているエキュゼの姿があった。
 さらに後ろを振り返れば、背後から攻撃してきたであろうドガースとズバットが倒れている二匹を上から嘲笑っていた。

「ケケケ……兄チャンにお嬢さんよお。砂浜でロマンチックにおデートかぁ?」
「ヒヒ……お。面白そうな物持ってんじゃねえか! ちと貸してくれよぉ」

 普段は超音波を使って会話するズバットという種族には似合わない、ヒヒヒ、と下品な笑い方をしながら、先ほどの衝撃でエキュゼが落としたと思われる不思議な模様の石ころを噛み付いて奪った。

(あれ……あの石、なんか見たことあるような……)
「イタタ……あ! か、返して!」

 体勢を立て直したエキュゼは自分の宝物を奪われたことに気付き、とっさに叫ぶように抗議した。が、こんな状況にも関わらず、カラカラはズバットの咥えた石の不思議な模様に注目し続けていた。
 ドガースとズバットはエキュゼのその反応を、待っていました、といった様子で、先ほどと同じく下卑た笑いをエキュゼに向けると、

「『返して』、だあ? ケケ、いいぜ。返してやるよ」
「おふぇふぁひひふぁふぉふへふぁっふぁふははあ!(俺たちにバトルで勝ったらな!)」
「そうだ。返して欲しければ俺たちとバトルするんだな」
「ええっ!? そんな……ひどいよ……」

 ズバットがエキュゼの石を咥えていたせいで、うまく発音出来ないという不慮の事故が発生したが、なんとかしてズバットのセリフを聞き取り、ドガースが便乗するという形でうまくフォローすることが出来た。
 しかし問題はそこではなく、バトルに勝利しなければ不思議な模様の石を返さないという誠に勝手で理不尽な条件を付けられたというところにあった。
 言葉による和解交渉など彼らには通用しないであろうと考えると、残された選択肢はこの条件を呑むこと以外にない。

「ヘッ……まあ草タイプのお前と臆病者のロコンじゃ俺たちには勝てないと思うがな……」
「……ハッ、なるほど。確実に勝てると踏んでわざわざ俺たちを狙ったわけだ。ご苦労なこった」
「ああ? そういうことは無様に負けてから言うんだな。ケッ!」
(うう……私とアベルじゃ勝てない……。…………?)

 ドガースはタイプ相性等で勝機があると見てアベルとエキュゼに因縁を吹っ掛けたようだが、実際のところ、戦闘経験に関してもエキュゼはおろか、一見頼り甲斐がありそうなアベルでさえも皆無に等しかった。
 だがここでエキュゼはふと思った。草タイプのアベル、臆病者の自分。自分たちのことを指して言ったのだろうが、その中にカラカラだけカウントされていないのだ。
 確かにタイプ相性的には有利。記憶のない彼がどれだけの実力を持っているのかは未知数だが、もしかしたら  

  彼の協力があれば、この二人にも勝てる?


「あふぁお! ひょふぁふふぃふん!(あばよ! 弱虫くん!)」

 と、エキュゼが色々考えているうちに、ズバットが締まらない捨て台詞を吐き、二匹は『海岸の洞窟』へ去っていった。
 残された三匹には若干の気まずい空気が流れたが、上の空だったカラカラがはっとし、気まずい空気をぶち破った。

「そうだ……思い出したよ!」
「そうか、そりゃよかったな」
「名前だけ!」
「そうか」

 カラカラが嬉しそうに語るが、アベルからすればそんなことどうでもよかった。もとより縁や関わりがなかったとはいえ、異常なほどにそっけなかった。
 今のアベルにとって重要なことは、石を奪われたエキュゼに対して何を言えばいいか。アベルはカラカラを半ば無視する形でエキュゼの元へ駆け寄った。「あうー」とか声を漏らしていたが、それも無視した。

「……どうする? 諦めて帰るか?」
「……アベルは?」
「え、俺は……そうだな」

 あまりにも不意に質問を質問で返されたため、アベルは回答を渋ってしまった。
 正直なところ、アベルはこれを機にエキュゼにギルドへの弟子入りを諦めてほしいと思っていた。あの臆病で比較的ポケモンとのコミュニケーションが苦手なエキュゼが弟子入りしたいと聞いた時、最初こそ喜んだが、門すら通過出来ないときたら話は別。むしろきっかけとなった宝物を奪われて、アベルはどことなくほっとしていたのだ。

「俺は……諦めるべきだと思う。さっきも言ったが俺たちじゃヤツらに勝てない。それに時間ももう遅い」
「……そっか」

 そうは言ったものの、エキュゼの目線は洞窟を確実に捉えており、未練もあってか中々帰る気配はない。諦めるまで待つか、とアベルにしては珍しい選択した直後、エキュゼが顔も向けずに呟いた。

「じゃあ、勝てるならあの二人を追うべき?」
「まあそうだな…………ん?」

  今、「勝てるなら」と言ったのか?

 どういうつもりだ、とアベルが聞く前に、エキュゼは振り返ってカラカラの方へと向かっていた。決意が揺らぐ前に行動しようという彼女なりの努力だったのだろうが、アベルからすれば厄介ごとの前兆にしか見えなかった。

「ね、ねえ!」
「うひょ!? な、なに?」

 突然のコンタクトに驚いたからか、素っ頓狂な声でカラカラは返事をした。何をどうすればそんな自然に変な反応が出来るのかは疑問だが、エキュゼはそんな声にも驚かずに話を続けた。

「あの、ね? お願いがあるの……嫌なら無理にとは言わないけど、その、えっと……」
「うん、うん、え? うん、うん」

 あまりにも緊迫した口調でエキュゼが訴えるので、カラカラもいちいち「うんうん」と相槌を打つ。
 そしてエキュゼは深呼吸も兼ねて大きく息を吸い、アベルでさえも滅多に聞かないような大きな声をカラカラにぶつけた。

「私の宝物、取り返すの手伝ってっ!!」
「あ、いいよ」

 前者エキュゼの声量に対して誰もがツッコミを入れたくなるような軽すぎる承諾の後者カラカラ。拍子抜けしたエキュゼだったが、同時に断られなかった分ほっとしていた。
 ところが、問題はここからだった。

「それでー……宝物ってどんなやつ?」
「え゛……見てなかったの?」

 予想外すぎてショックを受けるエキュゼに、カラカラは「ごめん、ボーっとしてた」と頭を掻いてエヘヘと笑う。本来、この期待の裏切り方は「エヘヘ」どころでは済まされないが、希望を捨てずにエキュゼは奪われた石を一から説明しようと試みる。

「えーっとね……変わった模様が描いてある石なんだけど。これくらいのサイズの……」

 エキュゼはわざわざ前足で砂浜に石の大きさの丸を書き、形もある程度図解した。丸とは言い切れないような微妙な楕円形……ここまで再現し、カラカラにも伝わっただろう。
 と思いきや、

「模様って……どんな?」

 ここまでくると、いくら臆病なエキュゼとはいえケンカ売ってるのかと疑いたくなるが、当の本人が至って真面目そうに聞いてくるので、エキュゼはこみ上げてくるため息を押し殺し、砂を掻き分ける。
 ところがいざ描こうとすると、模様の細かい部分が思い出せず、丸い円にミミズでも乗せたかのような図になってしまった。
 とうとうエキュゼはヤケになり、

「とにかく! 私たちと協力してさっきの二人組から石を取り返せばいいのっ!!」

 と言い放ってしまった。後悔はなかった。ただ、最初からこう言えばよかったのだと思った。
 エキュゼのこれ以上にないくらい必死な想いが通じたのか、カラカラは「ああ! あの二人組ね!」とようやく理解を示した。

「……てことはあの二人がもっていた石が君の宝物、ってこと?」
「そうそう! そうなのよ! ……って知ってるじゃない!!」

 衝撃の事実。今まで説明した努力を無下にされ、エキュゼは大きく落胆した。むしろこれで平常心を保っていられる人がいるのだろうか。むしろこういった分野においてはこのカラカラは天才的なのかもしれない。
 当のカラカラは悪びれる様子もなく、再びエヘヘと頭を掻くのだった。

「ゴメン、あの時ボーっとしてて……って、宝物奪われてるぢゃん!」
「だから最初に取り返すって言ったじゃない! ああああああああ…………!!

 理不尽でこそあったが、言葉が通じる分小悪党二匹の方がまだマシだったのではないか、とエキュゼは思い始めていた。そして、彼を擁護していた数分前の自分の行いをひどく後悔した。

「あの石の模様を見てたら頭に記憶が流れ込んできてね。少しだけ思い出せたんだ、自分のこと」
「え……そうなの……?」
「名前だけ!」
「名前……だけ……」

 このカラカラの発言の一言一言で感情を乱され、一時間もしないうちにエキュゼの精神は疲れ切ってしまった。何が「名前だけ!」だ。何をそんな嬉々として堂々と言っているのだろう。
 だがその反面、石の模様で記憶が戻ったというのだから、あれはただの石ころではなく、宝物相応の物である可能性が高いとも思えた。エキュゼは助けを求める意味も兼ねて、この事実を伝えるためにアベルを呼んだ。

「ねえアベル! 聞いてた? あの石はやっぱり……やっぱり、なにかの宝物なんだよ! 取り戻さないと……」
「そうだな……うん、そうした方が良さそうだ」

 乗り気ではなかったアベルもこれには賛同した。奪われた物が価値のある物だとわかったからというのもあったが、先ほどのやりとりでコミュニケーションが苦手なエキュゼがこれだけ話せたことに成長を感じられたことが大きかった。それだけで大丈夫かと聞かれたらそうでもないのだが、アベルは一種の妥協として承諾した。

「えーっとそれで……名前思い出したって言ってたよね? 一応だけど教えてくれる?」

 本当に一応、ではあったが、最初に思い出したのが十分以上前だったということもあり、流石に聞かないままで協力しろというわけにもいかないので、今更ながらエキュゼがカラカラの名前を聞いた。

「僕の名前はネイト! 『ネイト・アクセラ』です! 多分」

「た、多分……? あ、えーと、私は『エキュゼ・ライトアーレ』。あっちのキモリはアベルね。『アベル・ラージェン』」

 「エキュゼとアベルね!」とカラカラ改めネイトが確認する。彼はポケモンの名前を把握できるのか、という重大な問題があったのだが、この様子を見ると余計な心配だったようだ。エキュゼとアベルは安堵した。

「じゃあ改めて……よろしくね、ネイト」
「うんよろしく! あーでも、協力する前にこの被り物外してくれる? よく見えないし、蒸し蒸しするし」

 ネイトが『被り物』と称して指したのは、あろうことかカラカラという種族のシンボルでもある骨のヘルメットのことだった。新たな問題提起の予感にエキュゼは早くも背筋がぞっとしたが、これに対してはアベルが恐る恐る聞いてみた。

「……お前まさか、自分がカラカラだということも忘れたのか?」
「カラカラって? 僕人間なんだけど……あり?」

 ネイト自身も薄々違和感には感づいていたが、本人の鈍感さ故か大した問題とは思わなかったらしく、アベルに指摘されてからようやく自分の体を凝視する。
 まず、本来五本あるはずの指は、親指を除いた四本の指が手袋のように一本にまとめられており、数えれば片手で二本、両手で四本になっていた。
 手より下に目をやると、お腹は愛嬌のある柔らかそうな膨らみ方をしているが、縦長のクリーム色の模様が付いていた。ちょこんとした短い足にはもはや指自体がなく、武器にならなさそうな爪が一本生えているのみだった。
 武器である骨を持っていないことを除いては既に十分すぎるものだったが、半分パニックになっていたネイトは鏡の代わりになるものを探し、海面を除いた。

 そこに映っていたのは紛れもなく、孤独ポケモン、カラカラの姿だった。

 ネイトは「ヴェアアアアアアアア」と某アニメキャラクターの断末魔のような悲鳴を上げ、その体勢のまま固まって動かなくなった。




 今になって思い返してみると、目が覚めた時から既に思い当たる節はあった。目線がロコンと同じ高さにある、視界が悪い、そもそも言ってしまえばポケモンと話せること自体もおかしな話だったが、これについてネイトは何故か当たり前のように感じられた。

「……エキュゼ、ちょっとこっち来い」

 アベルは何故かネイトと露骨に距離を取り、ひそひそ話でもするつもりか、エキュゼをそばに呼び寄せた。
 ネイトに背を向け、アベルは声を抑え気味にして話し始めた。

「なあ、あれ大丈夫なのか? 協力するかしないか以前に、一匹のポケモンとして関わらない方がいい気もするが」
「ええっ!? だからって今から断るわけにもいかないし……それに彼は」

 「信頼できる気がした」、そうは言ったが、根も葉もない直感だった。故にアベルがネイトに不信感を抱くのは当然のことであり、これを聞いては尚顔を曇らせ、正反対の至極真っ当な意見を出した。

「信頼できるってな……記憶がない上自称人間を名乗るポケモンだぞ? 何考えているのか見当もつかない」
「何を考えているかって………むしろ何も考えていないと思うけど」

 『にゃんにゃん♪』の件といい、あの状況下でボーっとしていたことも考慮すると、変に裏を探らずとも『バカ』とか『アホ』といった簡単な言葉で片付けても問題ないだろう。
 この一言で、考えるのが『バカ』らしくなったのか、アベルは額に手を当てながらも面倒そうに頷いた。

「もういい、わかった。さっさと終わらそう」
「うん。ちょっと変かもしれないけど……きっと大丈夫」

 エキュゼがアベルを逆に説得することで意見が一致し、これでようやく『三匹』で協力して不思議な模様の石を取り戻しに行く準備が整った。

 はずだった。

「ごめんねネイト。待たせ」

 エキュゼのセリフはここで途切れた。振り返った先に、いるはずのネイトがいない。先ほどまで彼がいたところには足跡のみが残っており、それは洞窟へと続いていた。


  え? 嘘でしょ?


  あれだけ協力しようって言ったのに、勝手に?


  一人で?




  バカなの?


「……行くぞ」

 呆然としたエキュゼを現実へと連れ戻し、アベルは一足先に洞窟の入り口を潜っていった。
 エキュゼはもう、何も言おうとはしなかった。


■筆者メッセージ
 書いた文がちょっとしたミスで、一度消えてしまいました……。二度同じ文を書くのは大変でした……。
 わかっている人もいるかもしれませんが、探検隊ではカラカラは主人公になりません。なるのは救助隊だけです。

※2017 7.5 改稿
アマヨシ ( 2013/08/26(月) 16:09 )