Y 悪魔とキューピット
「どこまで進んだ? 」
予測通りだった。なぜ、ふたり揃ってる状態でそれが言えるのだろうか。こちらの気持ちも少しは考えて欲しいのだが。
「あの……クリーニング 」
「どこまで進んだ? 」
話すまでは返してくれなさそうだ。
「ええっと、キス? だよな? 」
「なんで疑問系なのサトシ君 」
「いや、キスっていったって、アルトマーレにはじめてきた時にも一回されてるし 」
「それを平然と言わないの/// 」
その会話を聞いて店長は言う。
「ふーん。もう付き合ってるみたいだけど、告白はどっちから? 」
「どっちから? 」
サトシはカノンに聞いた。
「私に聞かないで/// 」
「だ、そうです 」
サトシは店長に言う。
「彼氏の意見は? 」
「まあ、あの質問をしたのは俺だし、俺の方なのかな? 」
「だから私に聞かないで/// 」
「だ、そうです 」
「相手のどんなところが好き? 」
だんだん話はそちらの方へとそれて行く。
「店長さん…… 」
「はい? 」
「その、そろそろクリーニングを……正直私かなり恥ずかしいので///」
カノンの顔はすでにマトマの実のように赤い。
「恥ずかしいって彼女さんはまだ何も答えてないじゃない? 」
「うぐぅ…… 」
図星。
「で? 」
「うーん。そうだな。俺はカノンの全てが好きだな 」
胸を張ってサトシは言う。
「サトシ君///……その台詞はカッコいいと思うけどもう少し自分の立場を考えて欲しいよ/// 」
「さあ、彼女さんは? 」
少し戸惑いながらも、カノンは勇気を振り絞り、小声で言った。
「……私は、誰にでも優しいところとか、ポケモンへの愛情がすごいところとか、自分の身に変えても誰かを護ろうとするところとか、ちょっと……いやかなり鈍感なところとか、そんなところが大好きです/////// 」
「はい良く出来ました! 」
店長とケイトは拍手をする。
一体この人たちはなんなんだろう。
「ありがとな! カノン 」
「ハァ/// 蒸発してしまいそう/// 」
「カノンって水だったのか? 」
「ものの例えだよ!! 」
「え……そうなの? 」
「本当デリカシーがないんだから/// 」
「“デリカシー”? なんだ!? 新しいポケモンか? 技か? 」
「もう/// 恥ずかしいってレベルを超えたわよ 」
「? 」
「はい、景品の服です 」
ふたりの会話に区切りを入れ、ケイトは洗っておいた服を渡す。
「勝手に景品にしないでください…… 」
「いやぁ、一夜開けただけでもうこんな仲とは、どうなってんのやら 」
「私に聞かないでください/// 」
「だ、そうです 」
サトシがケイトに言う。
「だ、そうです 」
ケイトが店長に言う。
「だ、そうです 」
店長がカノンに言う。
「私まで回さないでください 」
「あれ? 怒ってるか? 」
カノンの様子を見てサトシが言った。
「怒ってないもん/// 」
「あらら彼氏、こりゃ別れなきゃね 」
「えぇ!! 」
「いやそこまでいかないで!! 」
「“そこまで”ってことは怒ってたんだぁ♪ 」
店長の不敵な笑み。
「だってサトシ君があまりに鈍感だから/// 」
「凄いだろ! 」とサトシはまた胸を張る。
「だから褒めてないよ 」
「でもそこも好きなんでしょ? 」
店長は問う。
「うぅ……そうですけど 」
「やっぱり。あなたはツンデレ系ね 」
「ふぇ!? 」
「ツンドラ? 」
「違うよ 」
「じゃあ、ココドラか!? 」
「いやもっと違うよ 」
「要するに彼女さんは──♪ 」
「あーあー!! 言わなくていいです店長さん/// 」
「ふふっ、そう? 」
「(ここの店長……やっぱり悪魔だ )」
そう心の中で密かに思う。
「そうだ。あなたたち明日予定はあるの? 」
カノンは話題が変わって、少しばかり安心した。
「ないですけど……なんでですか?
」
「いやぁ、明日ここの通り夏祭りがあるからね。良ければ来ないかなぁ、と 」
「カノン! 夏祭りだってさ! 」
「うん///(店長さん、悪魔だけどある意味キューピットだよ )」
断る理由など絶対ない。
「なら、浴衣貰っていきな 」
「貰っていく? 俺たちがですか? 」
「もちろん。私たちは店を開いとかないといけないからね。彼氏と彼女で楽しんできなさい 」
「サトシさん、カノンさん。これを 」
ケイトは、店のおくから二着浴衣を持ってきた。
「ありがとうケイト。それに店長さんも 」
「ありがとうごさいます 」
「良いってことよ! もちろん金は取らないから、存分に楽しみなさい。朝から準備はしているから、その時にぶらぶらするのもきっと楽しいわよ 」
「はい! 」
「はい(何気にこの人には救われてばかりだ。私とサトシ君が付き合うきっかけを作ってくれたのもこの人だし、今回だって……返しきれない恩だよ )」
「とりあえず、帰って昼飯だな! 」
「うん/// 」
ふたりで店を出ていった。
その背中は、店長にはどう写っていたのだろうか。