第一章. 誰の絵にも映らない
X プレゼント

「気遣いありがとう。サトシ君 」
「当たり前だろ? 昨日まで病人だった人に料理任せるわけにはいかないし。でも意外だったなぁ。カノンが朝に弱いなんて 」
「いつも夜まで気の入った絵を描いてるから、朝はなかなか起きれないの 」
「まあ、今日は急げよ。俺がレースに間に合わないから 」
「そういえば、水ポケモンも転送してもらわないといけなかったよね 」
「ああ。それはボンゴレさんを見送ったついでにしといたぜ 」
「何にしたの? 」
「その時のお楽しみさ。さあ、これ食べ終わったら受付にいくぞ 」
「焦らさないでよ 」
「ご飯はゆっくり食えばいいって 」
「ではお構いなく 」
「そこは少しは気を遣って欲しいところだなぁ 」
「もぐもぐもぐ」
「お構いなくと言ったわりには食べるの早いのな…… 」



「ティ 」
「ティ 」
「ティ 」
「ヨォー 」
ネイティオの翼が開きレースが始まる!!
「いくぜワニノコ!! 」
「ワニャッ!! 」
サトシとワニノコはスタートを思いっきり振り切って一位に乗り出た。
橋に群がる人混みから少し外れたところで、カノンはその様子をスケッチブックに描いていた。
『おい見ろよ、あれカノンじゃね? 』
『本当だ。あいつがこんな人の集まるところに出てくるなんて何かあんのかねぇ 』
「いいぞワニノコ!! そのまま頼む 」
「ワニャッ!! ワニャッ!! 」
ワニノコはレースを楽しんでいた。その姿を見れたのがサトシにとってはとても嬉しかった。
『サトシ選手、二位をはるかに突き放して、ずっと一位をキープしている!! 』
「サトシ君……/// 」
カノンの前をサトシは通った。サトシはカノンに手を振る。対してカノンは笑顔で返した。
『ゴーーーーーール!!! サトシ選手、ぶっち切りの一位です!! 』

「なんか今日は手応えなかったな? ワニノコ 」
「ワニ 」
サトシ、ピカチュウ、ワニノコでカノンの元へと歩く。
「あ、いた。カノン!! っ? 」
『ようカノン。珍しいじゃねぇかお前がこんなところに来るなんてよ 』
「……あなた達には関係ないでしょ? 」
『ったくいちいちムカつく奴だっがぁ! 』
男が思いっきり拳を引いた時、突風が男たちをおそった。
『ちくしょう。お前に声かけただけでいつも変な風が吹きやがる。今日はただじゃおかねぇぞ!! 』
男たちはラグラージとエンペルトを繰り出した。
「えっ!? 」
『ラグラージ、こいつの周りに〈ハイドロポンプ〉』
『エンペルト、お前もやれ! 』
「(まずい、このままじゃラティアスの存在がばれてしまう )」
「ピカチュウ〈10まんボルト〉」
ピカチュウの電流がカノンとラティアスを守った。サトシはカノンの前で仁王立ちした。
『っ、誰だてめぇ 』
「誰だっていい、暴力にポケモンを使うのは許さない。それも女の子に 」
「サトシ君/// 」
『ふ、カッコつけやがって。ぶちのめしてやる!! ラグラージ、もう一度〈ハイドロポンプ〉だ 』
「ピカチュウ、カウンターシールド! 」
回転しながら電流を放つ。さすがにこのテクニックには敵も驚いた。
『なっ!? 』
「できればこっちもこういうバトルはしたくないんだけど? 」
『うろたえるな〈アームハンマー〉 』
「っ〈アイアンテール〉」
敵の拳をしっぽで軽々しく受け止めるピカチュウ。
『な、なんなんだよこいつ!! 』
「いくぞカノン! ピカチュウも! 」
サトシは、これ以上は闘いたくないと思いカノンを連れて逃げた。
「えっ、ちょ! 」
「ピィカ! 」



「ありがとね。サトシ君 」
とりあえずひと段落済み、今はゴンドラの上だ。
「……いつもああなのか? 」
「うん。私、愛想がなく見えるのよ 」
「…………そう、か 」
その言葉を受け止めたくなかったが、それを否定したところで、きっとカノンは心をより痛めてしまうのだろう。
「──そうだ! サトシ君、絵を描いたのよ! 見てみて? 」
「──おう! すげぇじゃん! 良かったなワニノコ! お前も描いてもらえてるぞ! 」
「ワニャニャ!! 」
ワニノコは無邪気に笑う。この空気の読めないはしゃぎっぷりは、サトシ達を元気づけた。
「そうだカノン。これ俺からのプレゼント 」
「でもこれって 」
渡されたのは水の都の護神の姿が刻まれたペンダントだった。これは水上レースの優勝の景品である。
「いいんだよ。水上レースに出たのは優勝したかっただけだし、俺は絵を貰ったから、カノンはそれ貰って 」
「あ、ありがと 」
カノンはペンダントを受け取り、首に下げた。
「──うん。似合ってるぞ 」
「そう……かな/// 」
「ああ! そうだ。この後はどうするんだ? 」
「──あ! あの服屋さんに行きましょ 」
「ああ。そういやクリーニングしてもらってたな! 傘も借りてる事だし、よし行こう! 」
ゴンドラを降り、いざ店に向かおうと一歩踏み出した。が、その後ふたりの動きはピタリと止まった。
「(いざ行くとなると覚悟が必要だなぁ/// )」
あの店員や店長さんなら絶対に──どこまで進んだ? とか聞くに違いない。
それでもふたりは恐る恐る店へと向かった。


■筆者メッセージ
この小説がシリアスだとだれが思うでしょうか。いや、息抜きなのにシリアスする僕が悪いのかなぁ? とりあえず、今はほのぼのですが、いつかどん底に落ちると思います。
月光雅 ( 2015/08/16(日) 15:28 )